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特集 泉谷しげる

■インタビュー/文:内本順一 ■コーディング:Astrograph 掲載日:2009.6.12

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命。そして愛と憎しみ。
今、歌うべきテーマを語る

 昨年、還暦を迎えるとともに、再び音楽活動を活発化させた泉谷しげる。7年ぶりのオリジナル・アルバム『すべて時代のせいにして』を発表し、“ロードオブライヴ”と題して日本各地のさまざまな風景と共に歌を発して回り、10月にはZepp東京で62曲を歌いきるオールナイト・ライヴ「泉谷展覧会60×60」を敢行。2009年に入ってからもその勢いとパワーを少しも落とさず、5月10日に恵比寿ガーデンホールで行なわれたライヴ「生まれ落ちた者たちへの生誕祭」ではクラシック的な編成で新曲を披露するなど、新境地を見せたところだ。そして6月17日には、アニメ映画『宮本武蔵―双剣に馳せる夢―』主題歌となる新曲「生まれ落ちた者へ」を、「BIG BOY!!」とのダブルAサイドシングルという形でリリース。今回はこのシングル曲について話を伺うつもりで会いに行ったのだが、後半では早くも次のアルバムのテーマについて話が及び……。今、泉谷しげるは何を歌い、何を伝えんとしているのか。そのことがわかるインタビューになった。

--泉谷さんには、かつて2度ほどインタビューさせていただいてまして。

 だいぶ前じゃないですか?

--だいぶ前ですね。前回は98年の『私には夢がある』というアルバムのときで。さらにその前は91年の『叫ぶ人囁く』のときですね。

 どっちも比較的、中途半端なアルバムですねぇ。不出来でしたね。ちょうど中途半端な頃ばかりで(苦笑)

--いやいや(苦笑) 今回のシングルは中途半端じゃないですから。

 今回は中途半端じゃありません! まあ、あの頃はあれだね。なんか血の巡りが悪かったね。描いたものがなかなか作れなかったときでしたねぇ。なんかアレンジャーとか、そういう音楽の側に合わせて作ってるようなところがあって。なかなか厳しいよね。30枚くらいアルバム作ってきてたからネタもなくなってたしさ。ちょっと10年くらい休ませてよ、ってのもあって。で、7年間休んだっていう。

--7年間、役者業に専念されて。その間はライヴもほとんどやってなかったですもんね。

 そう。ポリドールで『IRA』(2000年)っていうチョー駄作を作っちゃって、あれで、「ダメだこりゃ」と。だから1回忘れてもらおうと思って。1回忘れてもらって、「泉谷って音楽もやってた人なの?」ってくらいまでいかないと、再デビュー出来ないかなっていうのがあって。

--その7年間は、音楽に対するモチベーションが持てなくなってたんですか?

 わかんなくなってたんだろうね。うん。わかんなかった。「何をオマエは歌いたいわけ?」っていう。今思えばね。それはアルバムの出来具合でわかりますよね。『IRA』とか、どーだよこの駄作ぶりはっていう(笑)

泉谷しげる--でも、いい曲も入ってたじゃないですか?!

 1、2曲あったってダメじゃないですか?! アルバムである必要がないでしょ? やっぱりアルバムとして絶対的に醸し出すものがないと。テーマがないと。「何をオマエは歌いたいわけ?」っていうのにちゃんと答えられないと、アーティストとは言えないでしょ、それは。だから、リセットですよ。1回こう、完全に過去の評価に頼らない状態にしようと。やっぱり、なんでも1からやれるのが楽しいわけだからね。まあ、泉谷しげるって名前までは消せないけど、若い子から「え? 歌ってる人なの?」って言われることをひとつの励みにするぐらいじゃないと。

--7年もあくと、歌っていることを知らない世代も増えてきますよね。

 当然です。だから1からですよ。それがやる気に繋がる。「よし、だいぶ忘れられたな」と。「だいぶ整理されたから、そろそろ行くか」と。

--そろそろ行けるぞ、また歌うぞっていうモードになったきっかけはあったんですか?

 まあ、テーマですよね。テーマが出てきた。「一体オレは誰のせいにしてるんだ?」って考えて、「自分だろ、それは」っていうところから始まって、で、“すべて時代のせいにして”って出たときに、これは行けたなって思いましたね。

--じゃあ、そろそろライヴをやろうってことよりも、まず歌いたいものが出来たから再開したっていう。

 そりゃあ、そうじゃなきゃダメだし、やる気にならないでしょ、それがなきゃ。財産に頼って「懐かしのメロディー」をやってもしょうがないんだからさ。「かつてはこんなに凄かったんですよ」ってやってもさ、「なんの自慢だよそれ」って話じゃないですか?! 新しい曲がなきゃダメだし、なんの支えにも力にもならないですよ。ま、ライヴをやりゃあ、お客さんは集まるだろうよ。でも、「懐かしい」とか言ってるお客を前にして歌ってどうすんだって話で。

--今、自分の伝えたいことがあってこそっていう。

 そう。作詞作曲って言葉がクレジットされた作品を出してる以上は、その責任もとらにゃいかんだろうしな。また、その頃はカヴァーの時代でさ。どいつもこいつもカヴァーを歌ってたんだけど、「オリジナルやらせろコノヤロー」って言ってたら、ポニキャンがOKしてくれて。

--泉谷さんがカヴァー集やってもねぇ。だって、今の泉谷さんが何をどう考えてどう生きざまを見せて…っていうところで男のファンはついていってるわけですから。

 そうなんだよな。だから、そういう世代の男の気分をオレは満足させなきゃいかんなと。それはオレの役割だな~っていう。若いネエちゃんはどーでもいいっていうような。

--昔からそうですもんね。

 そうそう。どうでもいい。それはあるな。男のもんだしな。オレが聴いて育ったロックもそうだったしな。ネエちゃんのもんじゃねぇし。慰めもんじゃねえからな。生き方だから。

--生きる力強さ。

 そうなんですよ。だから自分はヒット曲を作りたいわけじゃなくて、メッセージ・ソングを作りたいんだから。そういうもので興奮したいんだから。人の心の襞にひっかかるような音楽。それは大ヒットするもんとは違うんだよ。ひとりでもいいんだよ。ガッとひっかかってくれれば。男のそういう気分のためにやるやつも、ひとりかふたりいないとつまんないでしょ?

--ですね。泉谷さんには、そこを全うしていただかないと。

 全うしますよ、それは。だから苦しんでるわけで。まあ、ときどきオレも怠けるとこあるからな(苦笑) 怠けるとダメなんだなって思うよ。自分ともちゃんと戦わないとダメだな。

--今回の(「生まれ落ちた者へ」の)歌詞にも、“自分を敵にみたてて戦おう”ってありますもんね。

泉谷しげる うん。じゃないと、出来るもんじゃないんだなって。胡坐をかいてやれるもんじゃないんだなっていうのは思うよね。まあ、責任も感じますよ。だって、いいオヤジがライヴで目の前で夢中になって騒いでるわけだからな。泣きながら、こんなんなって騒いでるの見ると、「こいつのために何をしてやりゃいいんだ?!」みたいな。思うよ、そりゃ。「こんなに嬉しそうな顔しやがってコノヤロー」みたいなさ。いいオヤジがだぜ。で、あとで聞いたら、そいつ、どっかの会社の重役だったりしてさぁ(笑) 90のジジイまで無理やりジャンプさせたこともあるんだけどさ。なんか嬉しそうなのよ。そうやって歳とっても元気を作れるんだってことを、なんとかオレ自身が証明しねぇと。やっぱ音楽ってのは、基本的に励ましだからな。

--還暦迎えてもオールナイトで60曲歌うんだっていうのも、まさにそうですよね?! で、去年のあの「60×60」(10月に行なわれた全62曲のオールナイト・ライヴ)が、歌手としてのひとつのこう……。

 まあ頂点だね。

--歌手としての頂点だとしたら、じゃあその次に何をやるのか。で、そのひとつの答えが、5月の恵比寿ガーデンホールのライヴの第1部(ピアノと4人のヴァイオリン奏者を迎えてシャンソンふうの新曲などを披露した)にあったんじゃないかと思ってまして。つまり、ソングライターとして、今まで表現していなかったところに踏み込もうという。

 う~ん、まあ、そうかな。音楽的にも歌詞の面でも、まだまだやってないことがいっぱいあったなって。それを『すべて時代のせいにして』を出したときに気づいちゃってね。ある時期は、自分はもうやりきったような気になってたんだけど、「ちょっと待てよ」と。「世の中ちっとも変わってねーじゃねぇか!」っていうのもあるし。つまんない事件は起きるし、つまんない殺し合いはしてるし、憎しみはなくなんないし、なんじゃこりゃっていうね。ニュース見ながら、これはなんとかせなあかんなって気にもなったんでね。だから、時代と一緒に行くんじゃなくて、「時代をいじろう!」っていうふうにしていかないとって思って。時代から逃げるわけじゃなく、時代と一緒に歩くんでもなく、「オレが時代をいじるぞ!」みたいなね。そうしていかないと。って考えたら、ゴロゴロ題材が出てきちゃって。

--歌いたいことに溢れてる感じがするんですよね。で、その題材のひとつとして、アルバムの中にも「生と死の間に」と「回想」という曲があったように、死生観というか、死をしっかり見つめた上で「でも生きるんだ」っていうことが大きくある気がしていて。

 うんうん。そうですね。テーマですね。で、次のアルバムは“愛と憎しみ”っていうのがテーマなんですけど。だからああいう曲(恵比寿ガーデンホールで初披露された新曲「愛と憎しみのバラッド」)も作ったんだけど。愛情の変形、愛情のあり方といったことをテーマに作る。まあ、“愛”なんて今までいくらでもあったテーマだけど、そうじゃなくて、“愛”から始まれよって言いたいわけ。例えばさ、最近のハリウッド映画とか観てても、さんざん金かけてアクション・シーンとかでドカンドカンやって、そんで結局最後は「愛が大事だ」ってぇのが多いじゃない? 「ざけんな!」っていうさぁ。「なんだその結論は?!」っていう。「そんなことオマエに言われんでも」ってなるじゃない?! 「2時間半観させて、結論はそこかよ?!」っていう。安易すぎるでしょ?! 「そっから始まれよ」ってオレは言いたいわけ。「スタートだろ、それ」って。だから、愛とか野望というところから始めてみて、それがどう変形していくのかっていうところを描かないとって思っててね。その過程には、自分の意識や精神の変革があって、命のやりとりがあって……。

--まさしく最近泉谷さんが書かれてる曲って、命のやりとりを含めた上での愛ってことだなと思っていて。

 そうそうそう。そういうところで切り開いていかないと。

--今回の「生まれ落ちた者へ」が、まさにそういう曲ですよね?!

 そうですね。

--もう一回、生きる意味みたいなことを考えさせられるというか。つきつけられる。

 うん。だから……まあ、忌野さんのこともね、いろいろみんな思うこともあると思うけど、オレはオレなりに、あいつは全うしてると思ってるからね。だから、悲しんでりゃいいってもんじゃねーんだっていう。あいつを生かし続けてやることが本来のやることだろうと。「泣いてりゃいいのかコノヤロー」っていうところはあります。そりゃオレだって「チクショー」って折れそうになるよ、あいつの曲歌えば。あたりまえだ、そんなものは。だけど、「泣いてんじゃねぇコノヤロー」と自分に言い聞かせなきゃいけないし。それが自覚ですよ、好きな者に対しての。

--そういったことが全部重なってくる曲です、「生まれ落ちた者へ」は。

 そうですね。うん。まあ、たまたまここ1~2年、そういう状態にあっちゃったものだから。だから、自分の死に向き合うことを話すというよりは、もしかしたら“世代の生死”ってことなのかもしれないな。自分の死を考えてこの曲を作ったとか、そういうんではないんですよ。「みんなが言いづらいことを言っちゃおうかな~」みたいな感覚だよね。

--アレンジにしても、イントロでパイプオルガンの音が入ったりしていて、やはり生死みたいなところとリンクしますが。

 うん。ちょっと宗教がかってるところもあるかもしれないけど。まあ無宗教な人間だから、ああやっていじれるんだろな。どれだけ脅威的なもの……神みたいなものに対して、ちょっかいを出せるかってことかもしれないし。「どーなの、神様?!」みたいなね。「こんな僕だけどさぁ」っていう。

--まさに「頭上の脅威」(これも恵比寿ガーデンホールで披露された新曲)、ですね。

 そうそう。その頭上の脅威にちょっかいを出すみたいな。そこの挑戦かな。

--そのへんが次作のテーマになるだろうと。

 まあ、基本的には“愛と憎しみ”をテーマにして、そこに“命の度合い”とか、そういうことが入ってくるっていう。とにかく、やりたいことは普遍的なものですね。一過性のものじゃなくて、普遍的なもの。それは間違いない。

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