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Feel the Music vol.101

Five Years Anniversary, What A Surprise!カエラのココロ - 木村カエラ

■インタビュー/文:竹部吉晃 ■撮影:本多元 ■メイク:足立真利子 ■スタイリスト:丸山佑香 ■コーディング:Astrograph
掲載日:2009.6.19

 自分に正直に、わが道を行く自由奔放なアプローチで音楽活動を続けてきた木村カエラがデビュー5周年を迎えた。初心に返り、今までの感謝の気持ちを込めて作られたという5枚目のアルバム『HOCUS POCUS』は、今の木村カエラの魅力が真に開花した傑作になった。

自分の音楽に責任を持たなければならないって思うようになった

--アルバムの1曲目「Dear Jazzmaster '84」のバグパイプの音色が印象的ですね。これはカエラさんのアイデアですか。

 元々私はバグパイプの音色が大好きで、前からバグパイプが入った曲を歌いたいと思っていたんです。これまではそういう曲を歌う機会がなかったんですが、今回、「Dear Jazzmaster '84」を作ってくれたようちゃん(4106氏)が、「この曲はバグパイプを入れよう」と言ってくれて、ようやく念願が叶いました。『HOCUS POCUS』は5周年のお祝いとみんなへの感謝の気持ちを込めたアルバムだったので、アルバムの最初を大好きなバグパイプの音色で始めたかったし、バグパイプは昔、戦いに行く前に吹く楽器という意味もあるので、そういうこともあって1曲目に持ってきました。

木村カエラ--この曲の勢いは何となくファースト・アルバム『KAELA』の1曲目「untie」みたいな雰囲気がありますね。

 そうですね。意識的にそうしたわけではないのですが、出来上がった「Dear Jazzmaster '84」を聴いて、歌詞や歌い方を含めて『KAELA』のように感じました。というのも、今回のアルバムは歌詞の書き方や言葉のチョイスを『KAELA』のときのようにやってみたんです。私は妄想の世界で歌詞を作るのが得意なんですが、そのやり方だと、私の世界観の中だけで収まってしまうので、多くの人に言葉を伝えようとする場合、今ひとつ伝わっていないんじゃないかって思っていたんです。今までの5年間、音楽をやってこられたのは応援してくれたみんなのおかげなので、お世話になった人への感謝の気持ちを私なりのやり方でお返ししたいと思ったんです。その気持ちが、自分を初心に向かわせて、「Level42」や「happiness!!!」の頃のように、誰もが日常で思うことを分かりやすい言葉で書いてみようと思ったんです。妄想の世界だけではなく、今までの経験を活かしつつ、現実の世界で歌詞を書きたかったんです。

--この5年間、アーティストとしてすごく成長しているし、アーティストとしての完成度は『KAELA』の頃から比べると別人のようですよね。それゆえに、この5年間で、物事に対する考え方が変わっていったのでしょうか。

 今24で今年25になるんです。最初の頃は、周りへの不満や大人への怒り、根拠のない自信といった自分の心に抱えたものを吐き出して歌詞を書いていたんですが、いろんな経験をしていくうちに、私の音楽で人のために何ができるかという意識に変わっていったんです。自分の歌いたいことを歌って、大好きな音楽をやって、みんなに応援してもらっていると、自分の存在意義や価値みたいなものを考えるようになっていったんです。自分の音楽に責任を持たなければならないって。自然と大人になっているのかなって思いますね。

木村カエラ--音楽的なところではいかがですか。この5年間、カエラさんはいろんなジャンルの音楽に挑戦してきましたよね。そういうところで、もう一度初心に帰ろうというのはありましたか。

 そうですね。自分の中に知識が増えれば増えるほど、カッコいいものが明確になっていくから、徐々に普通の感覚から離れていって、難しい方向に行きがちです。そういう時期は前作『+1』でピークを迎えた気がしていて、『+1』のツアーが終わったときに、今度はマイナスしていくことを目標にしたんです。音を重ねればいいというものでもないし、歌詞も妄想の世界だけに浸って難しい言葉を使えばカッコいいというわけでもないと考えるようになったんです。

--今回の参加メンバーのセレクションについてはいかがですか。新しい人の名前もありますね。

 いつも一緒にやらせてもらっているお馴染みのメンバーのほかに、アルバムでは毎回新しい人とやってバランスを取ろうとしているんです。今回もスタッフの推薦などで、いろいろな方の名前が挙がってきたんですが、私も前から一緒に仕事をしてみたい人ばかりだったんです。面白いなと思うのは、レコーディングのとき、彼らとあまり音楽の話をしないんです。曲を書いてくれた人も、私に対して「こんな歌詞を書いて」ということを言わないんです。あとで、「ここはこう変えたらリズムがよくなるんじゃない?」みたいなことはあるけど、基本的に私に任せてくれている。みんなが自分の役割をわかっていて、それぞれの感覚を信頼しきっているからレコーディングはいつも楽しくて、その勢いが音に現れている気がします。

--適材適所でいい感じですが、そういう新しい才能には、いつもアンテナを張っているんですか。

 自分の気になるアーティストはCDを買ってチェックしていますね。私は声と曲とジャケットの感性がすべて一致しているアーティストが好きなんです。Perfumeがいい例ですが、彼女たちってサウンド、ボーカル、ジャケット、ミュージックビデオといったイメージがすべて一致していますよね。頭の中で描いたイメージや意思がしっかりと作品にできているアーティストが好きなんです。

--でも、カエラさんと一緒に音楽をやることで脚光を浴びる新しい才能もあるでしょうからね。今回『HOCUS POCUS』では末光君(SUEMITSU & THE SUEMITH)とやっている「Butterfly」が印象的です。カエラさんの新境地がうかがえますね。

木村カエラ スタッフから推薦される前から、私も末光さんは気になっていたんです。私はディズニー音楽の大ファンなんですが、クラシカルでポップな末光さんの音楽にディズニー的なものを感じていたんです。だから前から一緒にやってみたら、いいものができるんじゃないかって思っていたんです。それで、この曲をやってみて「私にもこういう歌詞が書けるんだ?」って驚いたんですよ。この曲は、結婚することになった友人に「結婚式で歌を歌ってほしい」って頼まれて、そのためのサプライズで書いた歌詞なんです。本当は「Butterfly」を中心人物にして妄想の中で物語っぽく書くこともできたんですが、結婚式に参加しているすべての人に伝わる歌詞ってどういうものなんだろう? って考えていたら、まるで手紙を書くように素直な言葉が浮かんできたんです。書いた後はすごく恥ずかしかったんですが、早くレコーディングして結婚式で歌いたいという気持ちになりました。

--それは感動的な結婚式だったでしょうね。以前、BEAT CRUSADERSのヒダカトオルさんにインタビューしたとき、「カエラさんに提供した「Snowdome」はいい曲ですね」と言ったら、「あれは80年代の大滝詠一さんが松田聖子さんに曲を提供するイメージで書いた」と言っていたんです。そのレコーディング・エピソードとして、ヒダカさんがカエラさんに「私をアイドルにする気なの!」って言われて、すかさずヒダカさんが「たまにはいいだろ!」って返したって。そのくだりがすごく好きなんなんです(笑)。「Butterfly」のポップさって「Snowdome」にも通じる感じがありますが、そのようなメロディアスなポップスを歌うことについてはいかがですか。

 みなさんに「Butterfly」のカエラは別人みたい、って言われるんです(笑)。いつも私の曲の中にあるトゲのようなものがないからでしょうね。だから自分の中でも慣れていない感覚はありますよね。でも、私自身も歌っていて心地よさを感じます。一方で歌って難しいなとも思いましたね。「Snowdome」も「Butterfly」も、歌詞を書いた段階で自分の曲になるので、出来上がったあとは、あまり深いことは考えないんですよ。

--その歌詞についてですが、今までカエラさんってわりとすらすらと言葉が出てきたようなイメージがあったのですが、先日刊行された書籍「音楽とことば」でのカエラさんのインタビューを読むと、歌詞を書くことはいつも苦労するとおっしゃられていて、ちょっと意外な感じがしました。今回はいかがでしたか。

木村カエラ 今回は難産でしたね。もう書きたくないと思うくらいでした。これまではひとつのテーマや文章が浮かんできたら、「楽しい!」っていう感じで書いてしまうんです。数十分のときもあれば、何日かかかることもあるけど、基本的に楽しい作業なんです。でも今回は初めて辛い気持ちになりました。それは意識的に、日常のふとしたことを外へ向けた素直な気持ちで書きたいと思っていたからなんでしょうね。強制的に妄想をストップさせて、日常的な言葉が出てくるまで待ちつづけていたんです。それと今回のアルバムは初めてテーマを決めずに作り出したんです。1曲ごとに題材を探しながら歌詞を書いていたので、自分のことを書いている感じではなかったんです。全然言葉が浮かんでこないから、自分をどんどん奥のほうへ追い込んで、暗い人間になっていくわけですよね。それでも、ネガティヴな言葉は一切使わないようにしていたんです。言葉は出てくるのに自分が書きたいテンションとは違っていたり、書き終えてから、歌詞を見直して、「なんでこんなに明るい言葉が出てきたんだろう?」って思ったり、そういう悩みは尽きませんでした。

--カエラさんの歌詞って、単純な頑張れソングでもないし、甘いラブソングでもない。他にないタイプですよね。そう思っていたところに、「音楽とことば」を読んだら、「歌詞のテーマは死生観」と言われていて驚いたわけですが。

 言葉の使い方にはすごく気を使います。例えば、傷ついて、心の弱っている人がこの言葉をかけられたらどう思うんだろう? ということをいつも心配してしまうんです。軽々しく何もかも言いたくないし、簡単に「頑張れ」とも言えない気がするんです。普段の生活の中でまわりから「頑張って」と言われたら、私も「頑張ります!」って感じにはなるけれど、人によってはそれが苦痛になる場合もありますよね。それだったら私は「大丈夫」って言葉を選ぶんです。そういう歌詞の言葉の選び方にはいつも気を遣っていますね。だから、意味のない言葉の歌詞も必要だと思うんです。例えば「BANZAI」の「おちゃのこさいさい」というフレーズのように、少しカッコ悪くても人を面白くさせたり、元気付けられたりする言葉もあるんです。

--最後にこの5年を振り返ってみていかがですか。モデルから歌手になったこと。そして「Level42」からこのアルバムまで作ってみたところまで、すべてある程度想定内のことでしたか。

 こうなると思っていました……と言いたいですけど、本当にそう思っていました(笑)。私は小さいときから本当に自分が有名になるって思い込んでいたんですよ。

--なるほど! なかなかそういい切れる人はいないと思うんですが(笑)。では、ファースト・アルバム『KAELA』の1曲目「untie」で歌っている「未完成の私」「形にはないけどやりたいことを表わしたい」っていうことに関しては、この5年である程度達成できたというか、いい感じで目標に進んでいると思いますか。

 うん! もちろん!! 「untie」って「ネクタイをはずす」という意味があって、この曲は「すべてはここからスタートする」という思いを込めて作ったんです。だから、あの曲で歌手のキャリアが始まったことはとても大きかった気がしますね。「untie」の気持ちはこのアルバム『HOCUS POCUS』につながっていると思います。