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Feel the Music vol.XX

芸術と商品、文学と音楽、衝動と哲学とは…… 2010年代のロック・シーンをリードする期待のバンド - サカナクション

■インタビュー/文:竹部吉晃 ■コーディング:Astrograph 掲載日:2010.1.8

 2009年発売のサード・アルバム『シンシロ』で一躍日本のロック・シーンのメインストリームに躍り出たサカナクション。2010年の新年早々、それ以来となる新曲「アルクアラウンド」をリリースする。この曲は、以前からのバンドのテーマである「芸術であり商品である音楽」に本格的に取り組んだ大作となっており、日本のロックのみならず、日本の音楽シーンに存在感をアピールしうるインパクト大のポップ・チューンになっている。今後の活動に益々の期待がかかるサカナクションのリーダー、山口一郎にロング・インタビューを敢行。音楽への熱い思いが込められた渾身のメッセージを聞け!

サカナクション 山口一郎--新曲「アルクラウンド」聞かせていただきました。純粋にいい曲だと思いました。純粋にいい曲という反応がいちばん的確なような気がしたのですが。

 それについては、2つの感情をもちますね。まず、僕がこの曲を作ったときに「みんなにいい曲だと思ってもらえたらいいな」と思っていたのでうれしく思います。もうひとつは戦略どおり。

--というのは?

 前作のアルバム『シンシロ』を出した後、次に僕らに必要なのは何だろ? と考えた際に、サカナクションとしてのスタンダードを作らなければならない、そして世の中にサカナクションという存在を浸透させていかなければならないと思ったんです。そういう曲を作るタイミングだろうと。まだサカナクションを知らない、一般の人に受け入れられるような曲を作る必要があって、やっておかなければいけないと思ったんです。

--振り返って、『シンシロ』というアルバムでの達成感はどのようなものでしたか。

 『シンシロ』がどのくらいのセールスを記録して、どのくらい評価されたのか、僕らがどのポジションにいるのか、自分たちではまだ消化できていないですけど、『シンシロ』を作った感覚は絶大でしたね。昔、北海道でライブをやっていた頃は、お客さんが100人か150人しかいなかったのに、今は自分が見る側だったフェスに出て5000人以上のお客さんが盛り上がっている光景を見ることができた。それは『シンシロ』を出したからこそ、できた体験だと思うんです。だから今、次に何をしたらいいのかという道筋を考えることができるんです。

--なぜ、『シンシロ』で自分たちが受けたか、自己分析するとどんな答えが出てきますか。

 新しい表現方法を手に入れられたからかなぁと思っています。今人気のギター・ロック・バンドは2000年代初期に起きたギター・ロック・ブームから生まれて、勝ち残ってきた人たちが多い。ほかは、その枠組みから少し外れてプログレッシブなサウンドで内面的なことを歌っているバンド。今は、みんなが新しいものを求めていると思うんです。昔、80年代くらいにスターボというテクノ・アイドルがいましたよね。松本隆さん作詞、細野晴臣さん作曲でデビューした3人組。そのときは受けなかったんだけど、今それがパフュームみたいな形で受け入れられているじゃないですか。新しいものを受け入れる時代になっていると思うんです。だから僕らもロック・バンドでありながら、ライブハウスをフロアにする。そういう曲をリリースしたうえでライブもそうしていることが他のバンドにはない部分で評価されたのではないかと思います。

--自分の音楽の好みと時代が合ったということ? それは戦略的なところではなく?

 基本的には自分が好きな音楽だからですよね。自分がリスナーとして音楽に接するなかで、こんな音楽があったらいいのに、とずっと思っていましたから。そこから始めているんです。

--その今回の勝負曲ともいうべき「アルクアラウンド」は、アレンジで表情が変わっていると思うんですけど、山口さんがギター一本で歌っても感動的できる気がします。最初に思い描いたイメージはどんなものでしたか。

 基本、僕が作りたいものはギター一本で人前に立って歌っても感動できるものなんです。それをクラブ・ミュージックに仕上げていくというのは、ずっと前から変わらないところで、それを目指すことでいろんな音楽が作れていくと思うんですが、この曲に関しては、ギター一本で成立するし、メロディに普遍性があるという自信もあったし、シングルになるところも決まっていたので、歌詞に文学を感じるクラブロックが出来たらいいなと思っていたんです。それは寺山修司などのサイケデリックな感じの日本に通じていくんじゃないかと。それがけして古くならない新しいものになっていくと思ってアレンジを始めていったんです。デリケートになったのはそこだけですね。

--途中のブリッジと最後に出てくるプログレ的展開。あそこの意外な展開がカッコいい。耳に残りますね。

 そこがあの曲の毒になっています。ストーリーのブリッジというのか、あそこでひとつの物語が終わって、また始まって、最後に終わるみたいな。ループしていくタイプの曲の中ではああいう区切りが必要になっていくんです。あれはイエスっぽく弾いたフレーズなんですけど、それをコラージュすることで遊び心もアピールできるし、時代性を表すこともできる。そうすることによって背景が見えて、曲を肉厚に見せることができるんです。

--そういうところも含めて、サカナクションは洋楽ファンと邦楽ファンの架け橋になる存在だと思うんです。

 そういうポジションのバンドになれればという願望はありますけどね、大衆に受けつつ、洋楽ファンにも受け入れられる曲を作っていくことが僕らの勝負ポイントだと思っているんです。批判も賛辞も両方受け入れる存在というのか……。例えば、コーネリアスのアルバムは凄い完成度で芸術だと思うんですけど、僕らはああいう作品がヒットチャートの1位を獲るような時代になるための架け橋になりたいんです。

--歌詞に関して聞きたいのですが。いつも思うけど、日本語がとてもキレイ。俳句か古文かというくらいです。

サカナクション 山口一郎 目指すところは俳句なんです。俳句は多くの言葉の中から短い言葉を選んでいて、読んだ人にはその前後を想像するわけですよね。それで情景を思い浮かべる。曲の歌詞も同じだと思うんですよね。曲は、Aメロがあって、Bメロがあって、サビがあって、サビの最後にはオチを付けなければならないという、ある程度ルールがあって文字数も決まっている。あくまでもそれは僕の中のルールだけど、それをやっていくことで歌詞に情感をもらせることになると思うんです。あと、僕は日本の曲の歌詞に影響されてこなかったんです。子供の頃から日本の曲をたくさん聴いてきたのにあまり心に残ったものがなかった。洋楽を聴いても歌詞を100%理解できるわけでもないですしね。ボブ・ディランを聴いて、彼の言葉に影響を受けたんじゃないんです。あのダルそうに歌うボーカル・スタイルと声質から流れてくる雰囲気なんですよ。子供の頃ディランを聴いたとき、勝手に歌詞の内容をイメージして「こんな内容かな?」と思って想像していたものが、大人になって歌詞カードを見たとき「こんな内容だったの?」って驚いたことがあった。でも、音に対するイメージは明確にあって、そのうえで僕は昔から読書が好きで、いろんな本を読んできたなかで自分が使える言葉はこれしかできない感じになってきたんです。その中で僕が表現していくのであれば、必然的にこれしかできない、という感じなんです。例えば、僕は「愛している」と思っても言葉で言わないタイプで、歌ではなおさら歌詞にする必要もないと思っているんです。

--散文だけど、抽象的ではない。それで、言葉がちゃんと耳に入ってきて情景が浮かぶ。

 映画を見ていてもセリフが多い映画は嫌なんです。北野武さんの映画のようにセリフが少ない映画が好きなんです。言葉が少ないから自分のイメージを膨らませることが出来る。それは音楽でも大事なことだと思っていて、説明が多いとイメージが限定されるんですよ。

--具体的にどういう作家に影響されたのでしょうか。

 有名なところだと、宮沢賢治。僕はあの人は日本人じゃなかったら世界的な作家になっていたと思う。あと寺山修司や阿部公房、それに山口瞳や向田邦子にも影響を受けましたね。その時々によって好きな作家は違ってくるんだけど、僕は基本的に俳人が好きですね。種田山頭火や石川啄木とか。石川啄木なんて、子供の頃読んだときは暗い人だし、だらしない男だなと思っていたんですけど、今読むと理解できるんですよね。自分の弱い部分をダイレクトに俳句にしているだけなんだなと。

--例えば、そういう大家の書いた詩や俳句にメロディを付けてみたいと思ったことはありますか。

 種田山頭火の「分け入っても 分け入っても 青い山」(笑)。あの人は旅に出て、その途中で見た風景を俳句にしているだけで、「分け入っても 分け入っても 青い山」と言われたときに、種田山頭火という人間の背景を見ることもできるけど、自分に置き換えて、「自分の人生はいつまでたっても険しさはなくならない」というようにも受け取ることができる。すごく影響を受けていますね。

--「アルクアラウンド」の歌詞はどういうイメージですか。

 シングルを出すということになったとき、絶対にアルバムを売るためのプロモーション・ツールにはしたくない、ちゃんとしたひとつの作品にしたいと思ったんです。それで、シングルを出す意味を考えたとき、フィクションではなくノンフィクションにしなければならないと思ったんです。僕らは北海道から東京に出てきて音楽をやって、音楽で生活しようとしていて、現に音楽でご飯を食べられるようになったけど、東京が果たして自分のホームなのか? 自分はここで将来結婚して子供を作って家を建てて生活をしていくのか? そういうことが曖昧なまま『シンシロ』を作り、ツアーを終えて、「アルクアラウンド」の制作に入ってしまったんですが、そこをはっきりさせておくことがノンフィクションだし、このシングルを出す意味のひとつだと思ったんです。ここは自分のホームだと言っておきたいと思ったんです。

--切ないけど、どこかポジティブな歌詞ですね。

 スタートはネガティヴなところから書き始めて、オチがないんです。オチがない中で救いがある。そこは聴いてもらう人に判断してもらえれば、というところですね。

--今のヒット曲の歌詞とは真逆といいますか。

 今主流な音楽は、聴いただけでわかる直接的な歌詞だと思うんですよ。でも僕らがやろうとしているのは、ちょっと深く入ってもらえると理解してもらえるという、そのギリギリをサウンド面と歌詞を目指しているんです。だから、僕らの音楽は入り込んでくれないと理解してもらえないんです。難しいところですよね。

--サカナクションを語る人って、ベテランの域に入ったライターさんや評論家さんが熱いじゃないですか。それはファンの言葉の代弁でもあると思うんですが、そういうところから自分たちにかかる期待は感じますか。

 僕らは別に評論家の方々に受けるために音楽をやっているわけではないですが、そういってもらえるのはうれしいですね。でも、逆に批判的意見のほうが気になるんです。僕自身、評論家的なところがあって、いやらしい話、こういうものを作ったらこういうふうに受けてくれるだろう、こういうことを言ったらこう返されるだろうというある種の計算があるんですね。でもそういう計算は無駄なことで、重要なことはサカナクションというバンドを知らない人が初めて僕らの音楽を聴いたらどう思うんだろう、というところで、そこしか計算しないようにしているんです。今ファンになってくれている人が、新曲をどう思うかはあまり重要ではなくて、今10代や20代前半のヒット・チャートのトップ10しか知らない人を意識して、勝負していかなければならないと思うんです。

--『GO TO THE FUTURE』でデビューしてから2年半近くがたった今、遠くへ来た感じはしますか。

サカナクション 山口一郎 まだ2年半か、という気持ちですね。僕らは最初の2枚のアルバムは北海道でレコーディングしたんです。東京でやったのはマスタリングだけでした。初めて、東京でレコーディングしたのは前作の『シンシロ』からだったんですが、機材面、人材の面で一気にスキルアップしました。自分たちが普通だと思っていたラインが全然違っていたんですね。ひとつのことをやるまでの時間も短くて、ミックスも違えば、レコーディングした曲の音質も違うし、一気に変わって、僕らの中での革命だったわけです。だからより昔のことが懐かしくなるというのか。まあ、初期の作品はこのときにしか出来ない古さもあって、レコード的な感じでいいんですけど、できれば今の機材で録り直したくなりますね(笑)。

--創作についてお聞きしたいんですが。芸術って基本的に直感や衝動で作るものだと思うんですけど、その裏にある作品の意味や哲学って重要ですよね。サカナクションを聴いていると、直感の閃きも感じつつ、実はすごく思想や哲学や意味は練りこまれている気がします。

 ものを作るとき、衝動以外で作ることは不誠実だと思いますね。衝動の中に哲学は意識的には出てこないと思うんです。そういうものは内面から出なければならない。それは普段自分がどういう気持ちで物事を考えていて、何をどう表現したいのかがにじみ出てくるものだと思う。それがクリエイターのアイデンティティなんですよね。今の僕はサカナクションを主流にしていきたいという願望。それが衝動となってサカナクションのサウンドににじみ出てきている。だから受け入れられてきているんじゃないかと思いますね。これを戦略性だけでやってしまうと、ヒットチャートに下ることになって、僕ららしくなくなってしまうと思うんです。

--次のアルバムとても楽しみです。

 今レコーディング中なので、まだ輪郭は見えていませんが、きっとみんなが驚く作品になると思いますね。そしていい意味で、期待を裏切る作品になると思うし。

「アルクアラウンド」のCDジャケットのこだわりポイントについて

アルクアラウンド / サカナクションハトスというデザイングループがあって、いつも彼らにイメージとテーマを伝えて作ってもらうんです。僕らのジャケットの根底にあるのはインテリジェンスですね。僕はジャケットにメンバーの写真を使っているのが嫌なんですよね。音に余分な情報は必要ないんです。「アルクアラウンド」は、日本独自の文学性をもったサイケデリック感とエイティーズ感というオーダーを出して出来てきたのがこれなんです。諸事情によって、プロモーションの際にはジャケットの上に歌詞を乗せられないんで、こうなっていますけど、実際の製品盤はここに歌詞が印刷されます。ジャケットのデザイン、ライブのときの照明やPAもサカナクションの音楽があって派生していくものですよね。理想を言えば、ジャケットなどすべてにおいて自分が関わっていたほうがいいとは思うけど、僕は彼ら全てをサカナクションのメンバーだと思っているんです。バンドのメンバーと同じように、ほかのスタッフにも接していて、どこがよくてどこがいい悪いのか、いろいろリクエストをしているんです。