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Feel the Music vol.77

身近な生活の延長上にある宇宙観というか、その感じが重要だと思うんです - 坂本真綾

坂本真綾

■インタビュー/文:濱田高志 ■コーディング:Astrograph 掲載日:2008.1.9

 1月14日に3年3ヵ月ぶりのオリジナル・フル・アルバム『かぜよみ』をリリースする坂本真綾。同作には、菅野よう子との久々のコラボ曲として話題を呼んだヒット・ナンバー「トライアングラー」や「蒼のエーテル」のセルフ・カヴァーをはじめ、鈴木祥子、かの香織、ACO、斎藤ネコ、窪田ミナ、横田はるな、渡辺善太郎ら多彩な制作陣を迎えた全14曲が収録される。14曲中11曲が自作詞ということで、これまで以上に彼女自身の明確な意志と裡なる思いが感じられる作品に仕上がっており、アルバム発売後には、初のホール・ライヴ・ツアー「坂本真綾LIVE TOUR 2009“かぜよみ”」の開催も控えている。アルバム制作を終えた彼女に作品に傾ける思いや制作秘話を聞いた。

--今回、複数の作家の方々が参加されていますが、それにも関わらずアルバム全体に統一感があるように感じました。

 私のなかでは、何かをすごく計算して組み立てたって意識はないんです。ただ、今回は最初から何の根拠もないんだけれども〈絶対にいいアルバムが出来上がる!〉という明確なイメージがありました。

--アルバムの構成についてはいかがでしょうか。

 これまでシングルで出してきたタイアップ曲については、必ずしもオリジナル・アルバムに入れるとは限らないというスタンスでやってきたんです。アニメのタイアップだと、その作品の世界観に合わせて作ることが最優先ですから、オリジナルアルバムのテーマに合うかどうかはまた別だと。それに私自身ただシングル曲を並べるよりも、アルバム一枚を作り込んでいくほうが好きなので、もしその流れにシングル曲が合わなければ、入れる必要はないって考えをずっと持ってきたんですね。でも今回は、今ならそうじゃない方法で、自分が作りたいものと人から求められて作るものとをひとつのアルバムにまとめることができるっていう自信があったんです。シングル曲を網羅した上でひとつの世界観を作ることが絶対に出来るはずだという気持ちがありました。そうした本当に全く根拠のない確信めいたものが最初から私のなかにあったのは、すごく良かったと思いますし、アルバムを作る上でその力が全てを引っ張ってくれたような気がします。

--複数の作家の方々と組んでみての印象はいかがですか。

 ひとつひとつが濃かったですね。しかも、たくさんの人が参加してくれているのに、どれも全く壁がないんです。全部バリアフリーだったって感じで(笑)。〈初めまして〉の方もいれば、二度目の方、それに菅野(よう子)さんや、ちょっと久し振りな感じのTim(Jensen)とか、色んな人が関わっているのに、温度差が一切なかったんです。

--初めて組まれた方の一人に横田はるなさんがいますね。

 彼女が作ってくれた「カザミドリ」という曲は、アルバムのメインテーマになった曲でもあるんですが、これは制作に入る初期段階には出来上がっていました。今回アルバムを作るために、たくさんの方の曲を集めて聴かせて頂いたんですけど、そのなかでもこの曲を聴いた時には、聴きながらにして同時進行で歌詞が出来ちゃったくらいで、瞬間的に何かが生まれたような、まさに電撃的な出会いを感じました。この曲が出来上がったことで、それが全体の核になるという予感があったので、ほかの曲の自由度が増しましたね。
デモテープは、その曲をどなたが作ったという先入観を持たないために、ランダムにもらったのを聴いたんですけど、そこには彼女が作ったほかの曲もいくつか入っていて、どれも好きだったんです。だからきっと相性が良いんだと思います。最初に曲を聴いた時は、勝手に年上のイメージでいましたが、実は私よりも年下でびっくりしました。

--いずれも曲先で作られたんですか。

 「蒼のエーテル」意外は基本的に曲先です。

--その「蒼のエーテル」ですが、これは『マクロスF』のために書かれた、坂本さんにとって初の提供曲のセルフ・カヴァーにあたりますが。

 菅野さんからのオーダーで中島愛さんに書いた曲です。これはアニメの挿入歌のために作った曲なんですけど、私自身の思い入れが深い歌詞だったので、書いた時から菅野さんに〈いずれは私も歌いたいんだけど、いいかな?〉みたいな話をしていたんです。ところが実際歌ってみて、カヴァーというものの難しさが判りました。いくら自分で作詞したとはいえ、本来ほかの人に書いたものを自分で歌うということは、言葉では説明し難いむずかしさがありました。これは菅野さんのピアノと一緒に録っているのですが、1テイク目はもう本当に、〈人んちに一泊しちゃった〉みたいな馴染まない感じがあって。最初、どうしてかな? と不思議に思ったんです。でも何度かやるうちにそれは解決しました。ただ、カヴァーは本当に難しい(笑)。

--作詞についてはいかがでしょう。作品ごとにより深みが増している印象を受けるんですが、着想の源などあれば教えて下さい。

 作詞については十代の頃から好きで書いているので、今回、特別に何かが大きく変わったわけではないんですが、やっぱり歌詞を自分で書くのは面白いですね。私はいつもすごく時間がかかるタイプで、これまでは歌入れに間に合わないことも多く、周りのスタッフも覚悟しないといけない感じだったんですけど、今回は全部早かったんですよ。多分、私のなかで詞で表現することに恐れがなくなって、昔よりもっと自由になったからだと思うんです。先に曲がある場合が多いんですけど、その曲と出会う前から、常に今の自分が考えていることやアルバムのなかでテーマにしたいことがあって、曲と出会った時に、この曲にはあのテーマ、といった感じで漠然としたところから入るんです。今回も割とタイアップになっている作品が多いんですけど、それによって私と楽曲だけの関係じゃなく、さらにもうひとつ、主題歌に使って頂く作品のストーリーに沿ったものに仕上げるというルールがあるんですね。以前はそれが難しいと感じていたんですけど、今はそれがある種の客観性を持たせてくれる重要な要素になっています。私の思いをただ歌うっていう主観から少し客観性を持たせてくれるので、それによって鍛えてもらったのかも知れないですね。表現って、アーティスティックになればなるほど、一般的に判りにくくなってしまう可能性もあるので、ポップであることがすごく大切だっていうことを意識してます。歳を重ねるごとに言葉はずっとシンプルになったと思うし、表現する際に以前ほど何かに包まなくなりました。最初はそれが恥ずかしくて少し照れがあったんですけど、今はそのバランスがとてもいいような気がします。

--フルアルバムとしての前作『夕凪LOOP』(05年10月発売)は、楽曲を個別に聴いた際とアルバム全体で聴いた際では、随分と違った印象を受けました。バラエティに富んだ楽曲が揃った反面、やや統一感に欠けるようにも感じられたんですが、今回はそれが完全に払拭された気がします。ご自身ではその点いかがですか。

 それ、よく判ります。私、実は今回のアルバムは『夕凪LOOP』の時からずっと作ってきたんだと感じてるんです。それまでは、ずっとひとりの人と組んで作ってきた時間というのがあって、『夕凪LOOP』では、そこから離れて初めて出会う人たちと、一からコミュニケーションするということがどういうことかも判らないままにやっていたんですね。でも、あれから時間を経て、今ようやく全てのことがここで繋がったんだなって思うんです。だからこそ久し振りに菅野さんやTimみたいにデビューの時からお世話になっている人たちに参加してもらっても馴染んだんだと思うし、それでいて初めての人たちも当たり前のようにいてくれるんだと。ということは、何が変わったかというと、多分、私自身が変わったんだと思うんです。きっとどこかの段階で腹がくくれたんですね。それは音楽をやっていく責任というんでしょうか。誰かが引っ張ってくれるわけでもないし、誰かをコントロールするわけでもなくて、私自身の立場や意識が明確になったんだと思うんです。実は今回〈風通しがいいアルバム〉っていうのがひとつのテーマだったんですけど、レコーディングの最中とっても普通でいられたんですよ。初めての人に対して〈こういうところをもっと判って欲しい〉とか、〈そういうの私っぽくないんですよ〉とかそういうのが一切なくて。むしろ〈何でも来い!〉って感じで。私自身が今ならどんなことをやっても、私は私というラインから絶対に外れない自信があって。きっとこの十何年の足取りが、自分の歩幅を与えてくれたんだと思うんです。歳を重ねることはこんなに素敵なことなのかと感じるレコーディングでした。若い時は若い時の良さがあるし、でも、歳を取ると出会う人の数も経験も自然に増えて、それが必ず自分にプラスになっていると感じられるんです。人生においては、悲しいことや〈こんなこと起らなければ良かった〉っていうこともあるんだろうけど、それすらもいずれ何か力になってくれる日が来ると感じるんです。今回「Remedy」っていう曲を書いている時にそう実感しましたね。

--曲順については悩まれましたか。

 「vento」、「トライアングラー」の順で始まって、最後「ギター弾きになりたいな」で終わるっていうのは最初から決めてました。特に「トライアングラー」は、〈最初に聴いといてっ!〉って感じですね。逆にこの曲はここにしか入れようがないというか(笑)。

--「トライアングラー」はシングルとして発表された当初、新しさに少し戸惑いました。

 私自身、正直言って、あまりにもインパクトの強い楽曲なので最初はどうなのかな? と思ってたんです。でも次第に考えが変わってきました。長年やってきて、自分のイメージと違うものをやるのって恐いことなんだけど、それをやらせてくれる菅野さんもすごいと思うし、それを受け入れちゃった自分も勇気あるなと思って(笑)。だから、今までだったらこれはアルバムに入れないっていう判断だったと思うんですけど「トライアングラー」を歌ったことによって、こんな私も確かにいるっていうことが判って、却ってそれがすごく嬉しくて。〈これ、やっぱり私じゃなきゃ歌えなかったかも〉みたいなところもあるんです。

--レコーディング中に苦労したエピソードがあれば教えて下さい。

 アルバムの一曲目に入っている「Vento」はエスペラント語なんですけど、初めて歌う言語だからか、脳みそのいつも使わない部分を使っていたみたいで、ある時、そこが途中でぱったりと閉じちゃったんですよ(笑)。瞬間的に何かが終わって、声が自分でコントロール出来なくなってしまったんです。初めて耳にする響き、初めて発する言葉ということで想像以上に大変でした。

--〈Vento〉というのはイタリア語の〈風〉と同じ意味ですよね。

 言語として開発した人がラテン語をもとにしているそうなので、イタリア語に近いんですね。人工言語なので、何語という国籍のない言葉らしいんですけど、おっしゃる通りイタリア語と同じ〈風〉という意味です。

--以前、シングルとして発表された「風待ちジェット」(06年6月発売)が新たなアレンジで収録されていますね。

 シングルの時は、番組のタイアップということで、作品の世界観に合わせてキラキラしたアレンジにしていたんですけど、今回はもうちょっと生っぽい音にしたいっていうのが何となくあって、せっかくだから(鈴木)祥子さんにお願いしようと思ったんです。ヴァイオリンが入っていたりして、どこかアイリッシュバンドみたいな雰囲気ですけど、かと思えば途中で急にスペイシーな音が入ってきたりするところが何とも祥子さんらしい。可愛いけどロック、みたいな(笑)。コーラスも祥子さんと同じブースで歌ったりして楽しかったですね。

--ちなみにアルバム・タイトルの由来は?

 アルバムが半分くらい出来た時に、これまで自分が書いてきた歌詞を振り返ったんですね。すると、今回のアルバムに限らず、無意識のうちに〈風〉が登場する率が高くて、私自身のなかに〈風〉という言葉がキーワードとしてあって、それが私のパーソナリティを示しているような気がしたんです。だからといって、私自身が〈風になりたい〉とか、〈風のように生きていきたい〉とか、そういう意味じゃなく、むしろ私は、自分の足が地に着いてるかどうかをいつも意識していたいタイプなんです。俯瞰した物の見方や客観性をもって大きなテーマを歌うということは好きなんですけど、意識が自分の体を離れちゃうのはすごく嫌。身近な生活の延長上にある宇宙観というか、その感じが重要だと思ってるんです。だから自分自身の足で歩いていく道の上に吹く風について、心地良い風もあれば、いつまで続くんだろうっていう激しい風もあったり、または自分をどこかに連れていってくれる追い風があったり、今自分がどういった風のなかにいるのかということを確かめながら歩いていくような、そんなイメージでつけました。

--では、最後にツアーについて一言お願いします。

 ツアータイトルが「かぜよみ」とついているように、今回のアルバムからの曲が多くなるんですが、久し振りのツアーなので、あまりそこに捕らわれずに昔の曲も歌うつもりでいます。ホールでのライヴが初めてなので、私自身どうなるんだろうといういい意味での緊張感と未知な部分があるんですけど、自分自身でもどうなるか楽しみですね。

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