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特集 上原ひろみ

■インタビュー/文:内本順一 ■製作:Astrograph 掲載日:2012.9.4

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上原ひろみが、アンソニー・ジャクソン(ベース)、サイモン・フィリップス(ドラムス)という世界最高峰クラスのプレイヤーふたりと結成した「ザ・トリオ・プロジェクト」。その第1弾作品として昨年発表された『VOICE』は、上原の最高傑作という高い評価をものにした作品だったが、それから1年と数ヶ月。ライブを重ね、バンドとしても成熟したいま、ここにトリオ表現における無限の可能性を追求したかのような新作『MOVE』を完成させた。 今作のテーマは「時の流れとともに動いていく感情の流れ」。かつて『Time Control』でも"時間の流れ"を音にしていた上原だったが、そこに自らの感情の流れを重ねあわせることで、よりエモーショナルな部分の際立った表現を獲得。冷静と情熱の間を行き来しながら、音風景の移り変わりと広がりを色鮮やかに表してみせている。 この夏はフジロックやライジング・サンといったロック・フェスにも出演した彼女。新作の話の前に、まずはフェス出演の感想から聞いてみた。

--この夏はフジロックでの「ザ・トリオ・プロジェクト」とライジングでの矢野(顕子)さんとのデュオの両方を観まして。

あ、そうなんですかぁ。ありがとうございます。

--フジはもう3度目ですよね? 熱心な音楽好きが集まるフジロックのなかでも、オレンジコートの上原さんのライブに集まる人たちはとりわけ集中して音を聴いているのを感じるんですよ。やってる側としてはいかがですか?

うん。そうですね。お客さんの集中力の高さは確かに感じます。ほかのステージのお客さんを観てないので比べようがないですけど、演奏していても、みんなすごく音楽というものを欲して集まってくださってるんだなぁって。音楽への飢えを感じますね、いい意味で。まあ、あそこまで観に来てくださるんですからね。奥地のあのステージまで足を運んでくださってる時点で、よっぽど音楽に飢えているってことなんでしょうけど(笑)

--海外でもいろんなフェスに出演されていますが、ここはいつもいいお客さんが集まってくるなっていうところとかあります?

音楽に対する飢えというか、聴き方がすごいなと毎回思うのは、トロントのジャズ・フェスティバルですね。カナダのお客さんは本当に音楽の受け止め方とか返し方がドンピシャで。集中するときはすごい集中して聴いてくれて、盛り上げるとわあっと盛り上がってくれて、いつも素晴らしいお客さんだなって思います。あとは世界中から音楽好きが集まってくるという意味でノース・シー(・ジャズフェスティバル)ですね。ヨーロッパ中の音楽ファンがロッテルダムに集結するので、盛り上がり方が異常なんですよ。

--やはり観客の反応でライブの善し悪しが決まるところって大きいですよね。矢野さんと一緒にやられたライジングはいかがでした?

夕焼けがキレイでしたし、雨も降らなくて。すごく集中できました。お客さんも、前のほうを見渡しただけでもいろんな年齢層の方がいらっしゃって。ライジングって年齢層高いのかしら?

--ほかの日本のフェスに比べて、年齢層の幅が広いんですよ。若い人だけでなく、子供からお年寄りまで観に来てる。北海道のお祭り的な感じで参加してる人もたくさんいますし。

確かに年齢層が広くて、それが面白かったですね。お茶の間で家族揃って同じテレビを観るみたいな感じもあって(笑)

--矢野さんは別のステージから漏れ聴こえてくるロックの轟音に対して少し苛立っているようでしたが、上原さんは……。

野外ってほかのステージの音もそうだけど、自然の音であったり景色であったり、飛び込んでくるいろんな要素が多いので、やっぱりホールのほうが集中しやすいことは確かなんですけど。でも私はすごく集中できましたね。まわりの音もまったく気にならなかった。別のステージで叫んでる声も、矢野さんがおっしゃって初めて気付いたくらいで。すごくいいライブができました。同録をあとで見直したんですけど、ああ、いいライブだったなぁと。今回はホント、フジロックもライジングもすごくよかったですよ。

--ですよね。あ、あと、これはぼくは観られなかったんですが、ライジングでは深夜のレキシのライブに飛び入りされたそうで。

はい(笑)。やっぱり深夜だけあってそっちは若い人がほとんどでしたけど、でもすごい人の数でビックリしましたね。楽しかったですよ、飛び入り。飛び入りしたはずなのに、"乱入"って書かれて(笑)

--ハハハ。あれは当日、楽屋で決まったんですか?

あ、でも、何度かやってるんですよ、オフで(笑)。池ちゃん(池田貴史)とはホントに仲良しで。池ちゃん繋がりでバンドのみんなともよく会ってて。それで、去年のライジングは出る日が違ったんですけど、今年決まったときに、「フフフ。日にちが一緒だね~」って言ったら、「ちょっとやめてよ~。なに考えてんの?」って(笑)

--じゃあ、上原さんのほうから一緒にやりたいと。

いつも私が乱入する感じなんですよ。お願いされたことはないんです(笑)。私がレキシを大好きで、遊んでもらってる感じ。今年はみんなで初詣にも行ったんですけど、初詣に一緒に行った人とはご縁があるって言うでしょ? で、やっぱりご縁があったという。

--へえ~。それにしてもいろんな形で柔軟に演奏されてますよねぇ。フジではトリオでやって、ライジングではデュオでやって、レキシに乱入もして(笑)。もちろんソロでやられるときもあるし。それぞれ醍醐味が違うんでしょうね。

そうですね。やっぱりトリオは回を重ねれば重ねるほど面白いし、3人の成熟度も上がっていくので、本当に音楽って面白いなっていうことをヒシと感じる毎日です。いまはトリオが私の軸となっているプロジェクトですけど、この3人でステージに立てるのが本当に幸せだし、毎回いろんな発見があって。やっぱり数をやっただけのことはあるなって、毎ライブで感じてますね。

--ソロ・アルバムを出されたときの(MUSICSHELFの)インタビューを読んだら、スポーツに譬えるとソロは柔道で、バンドはサッカーだとおっしゃってましたよね。

うん。3人でやってるときは、相手のパスまわしであるとか、どう出てくるかに対して自分はどう返すかっていうような楽しみがあるので。ソロは全ての責任が自分に乗っているという、その重圧感が醍醐味ですね。だからこそ「技あり」の瞬間がつかめたときに、「よしっ!」ってなる。ソロで一番学んだことは、自由というのは最も不自由だってことですね。不自由って言っちゃうとアレですけど、自由を楽しむのはなんて難しいんだろっていう。なんでもやっていい状態で、それを引きとめる人もいないし、それを客観的に見るのも自分じゃなきゃいけない。曲の長さもキーもコードも自由なだけに、それをコントロールするのは本当に難しいんですよ。ソロは自分との闘いですね。

--じゃあ、デュオはスポーツに譬えるとなんでしょうね?

あー、なんでしょうねぇ。えーっと、デュオはダブルスってことでいいと思います(笑)

--はい(笑)。では新作の話を。現在のトリオになっての2作目ですが、さっきおっしゃったように、レコーディングでもやはり成熟してきてるなと感じました?

すごく感じました。それって同じメンバーで2枚目を作るときのご褒美だと私は思ってるんですけど。スタジオに入る前に新しい曲をライブで演奏できてたっていうのはすごく大きいですね。スタジオに入るときにはもう、自分たちのなかで曲ができあがっているわけですから。

--そこは『VOICE』との決定的な違いですね。

はい。

--ところで『VOICE』はものすごく評価の高かったアルバムで、いろんな方が「最高傑作」と書かれているのを読んだんですよ。

あ、そうですか?

--はい。ご自身としてはそのへん、いかがですか?

いや、私はいつも自画自賛していて。世の中に出すものですからね、いつも最高傑作だと思いながら作ってるし、そういう姿勢であるべきだと思ってるんですよ。そうじゃなかったら売るほうが失礼でしょ? まぁ難しいですよね、「最高傑作です」って自分で言うと驕りに捉えられることもあるわけで。でも、農家の人がトマトを作って、これが一番美味いトマトだよって言えないんだったら、そのトマトは売っちゃいけないし、買うほうもちょっと…って気持ちになりますよね? 売るからには自分が一番美味しいと思えるトマトを出さないと。っていうことなんですよ。だから品種改良を加えながら、いまの自分に出せる最高傑作を毎回作っていかなきゃと思っていて。まぁ、もちろんみなさんそれぞれの好みもおありでしょうし、そのときに聴きたい音楽は変わりますからね。音楽って体調とか置かれてる状況とかにすごく左右されるものなので。そこがドンピシャで合った方にはドンピシャで来るはずだと思ってますけど。

--じゃあ前作の評価がすごく高かったからといって次がプレッシャーになるというようなこともないですね。

まったくないです(笑)。作りたいものがある限り、そこに向かっていくだけなので。あ、でも、喜んでいただけるのはもちろんすごく嬉しいですよ。曲を知ってくださっている方がいて、その曲を好きだと思ってくれている人がいるというのは、すごく嬉しい。今年はいろんな新しい街に行くことが多かったんですけど、イントロを弾いた瞬間に「おおおお」ってなるあの感じは、演奏家としてというより、コンポーザーとして、曲が人に届いてるという喜びを感じますね。「待ってましたぁ」みたいな反応とか、本当に嬉しいです。

--ピアニストとしての喜びとコンポーザーとしての喜びのふたつがあるわけですね。

そうなんですよ。オーストラリアで「ヴォイス」のイントロを弾いた瞬間、すごい拍手が起こったりとか。中国で「サマー・レイン」をやったときにもやっぱりすごい拍手が起こったりとか。そういうのがあると、ああ、やってきてよかったなぁって思いますね。

--お国柄っていうのもあるんですかね? この曲はこっち方面の国で特に受けがいいとか。

ありますね。イタリアの方は「プレイス・トゥ・ビー」ですごく喜ぶし。「プレイス・トゥ・ビー」みたいにお題がハッキリした曲だと特にありますよね。なんとなく気分じゃなくて「プレイス・トゥ・ビー」を弾かなかった日に、「あなたにとって今日のこの場所はプレイス・トゥ・ビーじゃないの?」なんて言われちゃったりとか(笑)。日本は「ヘイズ」が好きな方が多いですね。なんかやっぱり感情がリンクするところが国によってそれぞれ違ってるみたいで、面白いですよ。

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