MUSICSHELF GO TO DMC! DMC 音楽プロデューサー 北原京子氏が語るDMC音楽制作秘話「イメージを壊さず、同時に新たな驚きを与えたい。歌詞が英語なら洋楽的に響くもの」

■インタビュー:竹部吉晃 ■制作:Astrograph

北原京子's PLAYLIST 「私の中の根岸くんとクラウザーさん」

話題の映画『デトロイト・メタル・シティ』に関連し、「私の中の根岸くんとクラウザーさん」というテーマで、根岸的選曲5曲+クラウザ的選曲5曲のギャップの大きなMyルーツプレイリストをご紹介いただきました。
かつて、「ロンドン・ナイト」に足しげく通い、「自分の身は自分で守るべし」と学んだという北原さん、UKパンク/ニューウェイヴとデスメタルのプレイリストになりました。...more

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 「DMC」が映画化されると発表されたとき、多くのファンがまず、「誰がクラウザーさんを演じるのか」と同様に、「どんな音楽になるのか」を考えたと思う。あのデスメタルが劇中でどう再生されるのか、にファンの誰もが興味をもったに違いない。そんなファンの期待と不安を一手に背負う重責を担ったのが、音楽プロデューサーを務めた北原京子氏。
多くの映画音楽をプロデュースしてきたキャリアと、自ら熱心な音楽リスナーという鋭い耳で、「DMC」に付随する異なる要素--コミックと映画、サブカルとエンターテインメント、大衆的スピードとクオリティ、デスメタルと渋谷系--のすべてに折り合いをつけて、素晴らしい音楽に仕上げてみせた。

--「DMC」は音楽が肝ですから、音楽制作に関して、かなり気を使われたのではないですか。

 映画は製作自体が大きなプロジェクトで、大変な作業を強いられるのに、「DMC」のように音楽という異分子が入って、物語の動機が音楽になる側面も多いとさらにハードルが上がるわけです。しかも「DMC」は、ストーリー自体イベントだらけなので、とても大変でしたね。

--最初に描いたコンセプトはあるのですか。

 私が最初に原作を読んだ印象はとても愛くるしい作品だと思ったんです。音楽をやっている人間が読めば、大体の方はそう感じると思うのですが、表現こそ奇天烈で強烈にデフォルメしているけど、すごくチャーミングに映ったんですね。ですからそこをうまく音楽で表現できればと思いましたね。

デトロイト・メタル・シティ--具体的に苦労した点はどこになりますか。

 映画は製作が決まると、非常にタイトなスケジュールで物事を進めなければならないんですが、特に「DMC」はライブ・シーンが重要なハイライトにもなるので、撮影時には、テンポはフィックス、アレンジの骨子が出来上がった音楽が必要でした。それに合わせて、役者が演技をつけていくわけです。また、「DMC」は同時にアニメの製作もスタートすることになったので、そうなると、リリースのタイミングから見て、映画よりもアニメのほうが早い進行で。しかもアニメの制作を担当したスタジオ4℃は、独特の方法を用いて本作は臨むということだったので、音楽が先にないと制作に入れないということになった。アニメの打ち合わせをしたのは去年の春で、「来月までに欲しい」と言われて、そこから急ピッチで音楽制作が始まったわけです。結局、2ヵ月弱でラフとして使えるデモを約20曲近く作りました。

--スピードはもちろん、クオリティも追求しなければなりませんよね。

 我々もプロとして仕事をしているので、無茶やれば作れる。けれど「DMC」はアニメの後に映画があって、プロジェクト全体で大きなヒットを仕掛けなければならないことを考えると、音楽で手抜きはできない。時間はないけど、いいアーティストに発注して、こだわって作らなければならない。助かったのは、ミュージシャンにDMCファンが多かったことですね。声をかけた方はみんな、ノリ気でした。なので、こちらも「でしたら来週までにあげてもらえますか?」と、かなり乱暴なオファーをしたことも。

--こだわりの面での苦労点はありますか。

 アニメは原作に忠実に作っていて、映画とは作風を変えているのですが、使っている楽曲は同じなんです。アニメでは声優さんが歌っています。アニメはOAVで、コア・ファン向けだから、音楽もノイジーでも問題ないのですが、映画は、大きなパイに対してアピールしていかなければなりません。確かに「DMC」の魅力はエッジでサブカルな要素があって、「僕らのコミック」としてファンが増えていったのは事実です。でも映画は、エンターテインメントとして大衆に向けて作らなければならない。しかも2時間弱という限られた時間、劇場という空間の中ですので、分かりやすく見せていかなければなりません。普遍的なテーマもはらみ、感動させるという点を心がけて作った映画でもあるんです。とはいえ、音楽はとても重要なもので、下手なものは作れない。そのバランスに苦労しました。

--作家さんへはどのように依頼されたのですか。

 すべての作家さんに対して、どのシーンで使われるから、どういう曲が欲しいということを、かなり細かくお願いしました。デスメタルのコア・ファンだけに理解されるものにもしたくなかったし、一般的なイメージのヘヴィなメタルにもしたくなかったんです。デスメタルの基本は押さえつつ、デジタルやパンク、ロックの要素を入れたいわゆるミクチャー系のものにしたかったんです。なかなか言葉で伝えるのも難しいので、失礼ながら具体的にこんな感じの曲といって、既存曲を提示したんですね。私は長年、映画の音楽制作の仕事をしているのですが、例えば映画監督が「ここで悲しい曲が欲しい」と求めるのは、画や演出トータルで「悲しく」感じたいということ。マイナー調の曲を書いたからってそう響くとは限らない。そういう経験を何度もしてきているので、今回は作品が作品ですし、原作サイドも音楽にこだわりをもっているので、私がすべての立場を理解したうえで、より分かりやすい形で作家にオファーしようと臨みました。

--音楽が題材の原作を映画化する際、いかにイメージを壊さないかが重要になると思いますが。

 もちろんイメージを壊さないことも重要ですが、同時に新たな驚きを与えたいと思いました。実は私自身、今回の制作にあたり、デスメタルの曲を400曲くらい聴きました。元々はモッズ、パンク、ニューウェイヴを通ってきた、基本UKロックの人間なので、デスメタルにはそれほど詳しくなかったのですが、聴くうちにどんどんはまってしまいまして、聴けば聴くほどアドレナリンが出て行く、興味深い音楽だなと理解していきました。いろんな流派はあるんだけど、元をたどっていくと、ハードロックの美学を引き継いだ上での発展系なんだなと。絶対にカッコいい音楽を作ろうと躍起になりました。そこで生まれた基本テーマが、歌詞が英語なら洋楽的に響くもの。歌詞はあの通り、いじることができないので…(笑)。バンドの名前を出すとすると、スリップノットのミクスチャーの要素とマリリン・マンソンの邪悪。ここはみんなのズレがないようにしました。「SATSUGAI」を作ってくれたのはKAZさん。ドライでアグレッシブ、かつニューウェイヴ的なアティテュードをもった方なので、こちらの意図をすぐ理解してくれて作ってくれました。「魔王」「メス豚交響曲」を作ってくれた石田ショーキチさんも、“クダらないんだけれどカッコいい曲“を作ってくれました。また、曲のイメージはもちろんですが、映画の中で松山ケンイチ君がどのようにクラウザーを表現するのかを想像しないと、こちらで作った音楽とのイメージにギャップが出てきてしまいますので、そこもかなり悩みました。音楽は事前に進行していたので、彼がどういう芝居になるのか分からない段階でしたから。松山君演ずるクラウザーさん像を想像して、彼がこういう芝居をするだろうから、こういう曲が必要で、監督はこう演出したがるだろうとか。で、最終行程のDB(※映画の最終仕上げ行程)では、5.1の音響でこう響かせて……と、私の中は毎日妄想ばかりでした(笑)。

根岸崇一--松山君の演技は最高でしたね。

 イメージ以上に素晴らしかったです。松山君は、他の作品でも仕事をしたこともあり今まで多くの奇蹟を見せてくれましたけど、今回も彼はロックを歌う人でも、楽器を弾く人でもないのに、去年からいろいろ勉強して、共にリハスタに入り音楽の作動を身に着けて、素晴らしい演技をしてくれました。監督が最後に映画を仕上げながら言っていたのは、「予想以上に、奇天烈で、面白いけどカッコよくて美しくなった」って。まさにそういう音楽シーンですね。

--大満足の仕上がりだったわけですね。

 あまりにうまく行ったので、もっとカッコよく、リアルに見せたいと思ったんで、実は画の編集後に、音を差し替えた部分もあるんですよ。クラウザーさん、実際にはあんなに激しくギターを弾きながら歌うことは不可能ですよね。映画の世界に入ってしまえばそんな細かいことは気にならないのでしょうけど、こだわって作ったものだから気になる箇所も出てきてしまい、編集が終わったあとも、クラウザーの細かい所作に対するギターの音を録り直すなど、かなりたちが悪いくらいこだわりました。

--根岸君の渋谷系ポップの音楽制作に関してはいかがですか。

 根岸君は表現が下手なだけであって、音楽の才能があってテクニックもある。だけどダメ出しされる。これを劇中に、楽曲で表現するのはとても難しいことなんです。それで、カジさんに曲をお願いすることになって、最初に言ったのが、根岸君になりきって曲を書いてくださいということでした。なりきるもなにも、根岸君の憧れ音楽を体現しているのがカジさんなんですけどね(笑)。で、すぐに曲があがってきたのですが、それがとてもいい曲で、涙が出るくらいの名曲なんですが、私が欲しかったのはいい曲じゃダメだったんです。「いい曲だけどバカにされる曲を作ってください」とダメ出しして、例えば、コード進行やサビのおき場所など、素人が曲を作ったら、必ずこうやるはずというイメージを伝えて作ってもらったんです。完成されているカジヒデキでは絶対に書かない根岸君の歌をお願いしました。何度かやり取りをしているなかで、「本家がそう思って作ったものに対してNGを出す」ってどうかなとか思いましたが(笑)、結局4バージョンくらい作ってもらいました。カジさんの作業で感心したのは、今回すべて歌詞が先にあって、それに対してメロディをつけてもらったのですが、ほぼ歌詞の詞の修正がなく、完璧に仕上げてもらい、それをカジ君さんが歌うとすごくいい曲になっていることなんです。若杉さんの歌詞はすごくユニークなのに、それをちゃんと歌に昇華させているカジさんの才能に驚きました。もうカジ・マジックでした。

--デスメタルと同様に渋谷系ポップも、映画の大事な要素ですよね。

 最終的に映画は「SATSUGAI」と「甘い恋人」のダブル主題歌になっていますが、当初の予定では「SATSUGAI」で終わるはずだったんです。最後に、根岸がDMCのクラウザーとして歌っていくと決意して「SATSUGAI」が流れて、大団円ということだったんですが、私はちょっと違和感がありました。「甘い恋人」は根岸君の中で絶対になくならない、一生響いていく大事な曲だと感じていました。しかもカジさんが作ってくれた曲はいろんな段階を踏んでいいメロディがついて、タンバリン・スタジオでレコーディングして、とてもいい曲になった。これを最後に「SATSUGAI」の後に流したらどうかと、プロデューサーや監督に提案したら、みんな共感してくれたわけです。

--北原さんのこだわりとバランス感覚があふれた作品なんですね。

 私がイメージしたのは最近の映画だと「ドリーム・ガールズ」です。モータウンの時代を描いた映画ですが、劇中で流れていたものがそうだったかというと実際は違って、今の手法で作られた曲が流れていました。でも映画の世界に入ってしまえば我々は全然違和感がなく聴いて、あの時代の世界観に引き込まれる。今回の「DMC」も冷静に聴くと、「全然デスメタルではない」という人もいるでしょう。でも、劇中の音楽をまんまデスメタルにしてしまうと、緩急もつかない平凡な音楽になってしまいます。だから非常に分かりやすいアグレッシブな「SATSUGAI」もあれば、商業主義のように聞こえる「魔王」のような曲もある。やはり根岸の気持ちの変化とともに曲も変えなければならないんですよね。この映画の中で、クラウザーさんがファンを洗脳するようにこの世界に入ってしまえば、成り立つような音楽にしたいなと思いましたね。

--渋谷系に関しても同様ですか。

 この映画のメイン・ターゲットは松山ケンイチ君の世代です。松山君は、世代的にも渋谷系を知らないし、音楽マニアでもない。私が彼に当時の渋谷系についてレクチャーしていった中で言いたかったのは、渋谷系は音楽のジャンルではなくてムーブメントであったということ。劇中、松山君演じる根岸君は過剰に体をクネクネさせる気持ち悪い動きをしていて、彼が好きだとする渋谷系音楽を、あたかも軟弱な音楽のように感じさせるかもしれません。監督の意図としても、やりすぎるくらいではないと大衆には伝わらないということでしたから、映画での根岸君はかなりクネクネしています。そこで、私が松山君に言ったのは、「あくまでも根岸君がその渋谷系音楽の解釈と表現を誤っていただけなんだよ」と。クラウザーさんと同じことが言えるのは、歌詞は奇天烈だけど、音楽はいいものにしようということでした。どちらもギャグぽいものにしたら、単なるコミックソングにしかなりませんからね。

--ジーン・シモンズの話もうかがいたいのですが。

デトロイト・ロック・シティ vs デトロイト・メタル・シティ ジーン・シモンズが来日したのは撮影前日でした。その前がニュージーランドでマイアミで、その後がまた海外という具合に、今もタイトなスケジュールで活動しているんですね。だから、直接打ち合わせできたのは撮影前日の夜。決まっていない事項がたくさんあったのですが、ジーンは嫌な顔ひとつせず、スムーズにミーティングが進んでいきました。幸いだったのが、ジーンがアメリカのリアリティ・ショーのクルーを連れていたことなんです。ずっとカメラが回っているわけだから、嫌な顔ひとつできなかったわけですよね(笑)。ジーンは、根本はとてもクレバーな人なのでしょうが、撮影になると、我々が言ったことをすぐに忘れてしまうんです。高齢で、あれだけの物量に囲まれて、タイトなスケジュールをこなすわけだから、仕方ないですよね。だから、我々は要点をしぼり、いちばん重要なことだけをひとつリクエストして撮影しました。

--そのジーンの曲をアイゴンさんが作っていますね。これも北原さんのアイデアですか。

 ハードロックに原体験があり、今現役で活動している人にジーンの曲を依頼したかったので、そういう意味でもアイゴンさんはジャストでした。10年以上前の映画でキャロル・キングを題材にした「グレイス・オブ・マイ・ハート」という作品があるんですが、そのなかでダイナソーJrのJ・マスシスが出ていて、60年代のブライアン・ウィルソンみたいな曲をやっているのですが、当時のイメージをなぞりつつ今風な感じにまとめているのが好きだったんです。アイゴンさんにそういうものを頼めればと思ったのと、女の子のプロデュースに長けている人は、こういうものにうまく対応してくれるのではないかと思ったんです。

北原京子 プロフィール

北原京子

北原京子(キタハラ キョウコ)

東宝ミュージック所属。
音楽プロデューサーとして数多くの作品に携わる。主な作品に、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04/行定勲)、『いま、会いにゆきます』(04/土井裕泰)、『ゴジラ FINAL WARS』 (04/北 村龍平)、『オペレッタ狸御殿』(04/鈴木清順)、『サイレン』 (05/堤幸彦)、『春の雪』(05/行定勲)、『リンダ リンダリンダ』(05/山下敦弘)、『ラフ』(06/大谷健太郎)、『眉山』(07/犬童一心)、『神童』(07/萩生田宏治)など。今年公開作に『ぐるりのこと。』(橋口亮輔)、『陰日向に咲く』(平川雄一朗)、『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(樋口真嗣)、『コドモのコドモ』(萩生田宏治) などがある。

東宝ミュージックオフィシャルサイト:
http://www.toho-m.co.jp/

北原京子’s PLAYLIST: 「私の中の根岸くんとクラウザーさん」
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