GSへのすべての愛情と思いのたけを詰め込んだGSワンダーランド - 本田隆一

■インタビュー/文:竹部吉晃 ■制作:Astrograph
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 60年代の音楽やファッションを多く取り入れ、ナンセンスかつシュールな笑いがあふれる作風で注目されていた本田隆一監督が、かねてから念願であったGSを題材にした映画を作り上げた。この「GSワンダーランド」は本田監督が以前から企画を温め、ゼロから取り組んだオリジナル作品だ。どのような経緯で映画化が実現したのか、苦労した点はどこなのか。そして、栗山千明の男装はそういうところから思い浮かんだのか?「GSワンダーランド」全体にあふれるGS愛の思いのたけを語ってもらった。

映画のアイデアはずっと温めてきたものですが大野ミクのキャラクターは苦し紛れに出てきたものなんですよ(笑)

--本田監督は熱烈なGSファンということで、今回の映画は画面からその愛情が伝わってきます。そもそもなぜ本田監督はGSに興味を持ち始めたのでしょうか。74年生まれということだから、全然リアルタイムではないですよね。

本田隆一 高校三年の頃からGSを聴き始めて、聴けば聴くほどはまっていったんです。僕は元々洋楽が好きで比較的昔のものを好む、ちょっとマニアなリスナーだったんです。いろんなものを聴いていくうちに、どれを聴いても物足りなくなって、古いものでまだ知らないものを模索しているときに、ちょうど「カルトGSコレクション」というCDが発売になったんです。高校三年の夏でした。それまではGSというもの自体全然知らなくて、有名なバンドも聴いたことがなかったんです。「カルトGSコレクション」を聴いて、日本にもこんなにカッコいい音楽があったんだとすごく驚いて、はまったんです。懐メロとしてのGSではなく、いきなりカルトGSを聴いたので、歪んだファンになっていったのでしょう。

--でも、具体的にどんなところに惹かれたのでしょうか。

 洋楽が日本に入ってきておかしくアレンジされる代表といいますか、GSもそもそもビートルズに影響されて始まったものに違いないのに、日本独自のアレンジがなされていて世界観がおかしくなっているところですかね。お城に住んでいる女の子が題材の歌詞だったり、衣装がフリフリだったり。やっている人はファズとか使って、一生懸命ロックぽいものをやろうとしているのに、いかんせんレコード会社から渡された曲は歌謡曲だったり(笑)。いろんなものがごった煮風に詰まっている感じが好きなんです。

--確かにGSは日本の音楽の歴史の中でも珍しいムーブメントですよね。

 後にも先にもああいうムーブメントってないですよね。3年の間に100近くバンドが出てきて、いなくなってしまう。だからこそドラマにしやすいし、映画にしたら面白いんじゃないかと思ったんです。

--今回、GSを題材にした映画を撮ることになったのは、自身の中で機が熟したということなんでしょうか。

 大学の卒業制作でもGSを題材にした映画を作ったことがありました。それくらいGSが好きでした(笑)。大学を卒業するとともに、映画の道に進むことになって、その後もホラーとかいろいろな映画を作ってきまして、卒業制作から10年近く経って、今回改めてGSを題材にした映画を撮ってみたいなという気持ちになったんです。趣味としてはずっとGSは聴き続けていたので、仕事としてGSの世界観を撮ってみたいということですね。「そんなにGS好きならGSを題材にした映画の脚本を書いてみたら」と言われてチャンスをもらったということで、たまたまこのタイミングだっただけです。

--映画を見させていただき思ったのは、脚本、テンポ、演出も素晴らしくて、娯楽でありつつ、細かい部分もとても丁寧にこだわれているなと、感心しました。

GSワンダーランド 最初に僕が考えていたのは「アメリカン・グラフィティ」みたいな青春映画でした。主役がGSバンドを結成して、時代の波に乗ってブレイクして、ブームが廃れて解散していくという単純な展開だったんです。それをプロデューサーに出したら、「映画にするなら、もっといろんな要素を入れる必要があるし、当時のレコード会社の事情や追っかけの女の子からの視点があったり、多角的にGSを描いたほうが面白いんじゃない?」って言われて、そういうアイデアのキャッチボールを続けるうちに、GSバンドのメンバーが女の子だったというキャラクターが出来たりとか、肉付けができて、今のプロットになっていったんです。

--そのGSバンドのメンバーに女の子を入れるという発想が物語にふくらみを持たせている気がします。この発想はどこから来たのでしょうか。

 結構苦しんだ末のアイデアでした(笑)。最初は先ほど言ったとおりの割と平坦なストーリーだったので、プロデューサーから、もっと仕掛けが必要と言われて、「仕掛けって何?」と思って悩み始めて筆が止まってしまいまして……。いろいろ考えるうちに、最初は主人公のマサオは伊賀の里出身の忍者で、ステージで演奏しているうちに急に忍術で消えたりするという設定にしようとしたんですけど、「いや、待て待て」と思ったり(笑)。そうやって紆余曲折するうちに、たまたまオックスの赤松愛の写真を見ていたら、めちゃめちゃ可愛らしかったので、「これが実は女の子だったら?」と思いついて、そのアイデアをプロデューサーに出したら、「面白いじゃん」ということになったんです。GS映画のアイデアはずっと暖めてきたんですけど、そのキャラクターは本当に苦し紛れに出てきたものなんですよ(笑)。

--栗山さんも熱演ですね。最初から栗山さんの名前は挙がっていたのですか。

GSワンダーランド ミク そうですね。栗山さんの名前は最初の段階から出ていました。雰囲気や顔立ちから、男装したら可愛らしい男の子になるんじゃないかと勝手に思っていたんです。あと、ミクのやさぐれたキャラクターにぴったりだろうと思って、早い段階でオファーさせていただきました。

--栗山さんの起用もそうですが、全体的に、今まで本田さんが撮られたものと比較すると、制作費も多くなっていますよね。

 今までとは全然、規模が違っていました。脚本を書いている段階で何となく制作費は聞いてはいたのですが、そんな規模で撮ったことがないから、その額で何が出来るのかがいまひとつわからなくて。制限なしで脚本を書いて、後で、予算の中で出来る出来ないの判断をしていきました。それで、ストーリー上どうしても欠かせないシーンを予算内でどう撮るか、無理やりやるならどうするかを考えていきました。だから、事前に僕がロケ場所まで考えて書いたのではなく、書いた後にスタッフがいろいろ60年代の面影が残る場所を探してくれたんです。

--東京にはまだ60年代の面影を残す場所があるんですね。だからCGを大胆に使っているシーンって冒頭の日劇のところだけですよね。

 60年代の町並みを再現するところがこの映画の見所ではないんで、CGは最小限でいいのかなと思いました。細かい部分ではCGは使っているんですけどね。

--娯楽でありつつ、本田監督独特のマニアな視線というのもうかがえますが、そのバランスには気を配られましたか。

 僕は、誰が見ても楽しめる分かりやすい映画が好きだし、自分が映画を撮るときもそれを念頭に置いているんですね。僕は昔の日本映画が好きで、特に石井輝男監督が好きなんですが、石井監督の映画のように、エンターテインメントなんだけど、扱っている題材はマニアックという作品が好きなんです。今回も最初はカルトなGSバンドを描こうと思ってシナリオを考えていて、どうしてもマニアックなものになりがちだったので、せめて演出は分かりやすいものにしたいと思っていました。

--60年代の雰囲気をうまく再現していますね。どうやって時代を考証したのでしょう。

 絶対に嘘は入れたくないと思いました。GS好きとはいえ、僕はまだ生まれていない時代のものなので、楽器、衣装、街並みなどは知らないわけです。なので、時代考証は高護さんや黒沢進さんにアドバイスを得て、間違いのないように注意を払いました。楽器に関してもサリー久保田さんや制作部の方が方々からかき集めてきてくれましたし、エキストラの女の子の衣装や髪型も、スタイリストやメイクさんには苦労をかけました。残念だったのはシナリオを見てもらった黒沢さんが亡くなられたことです。完成した作品を見ていただけなかったのは非常に残念ですね。

--黒沢さんが亡くなったのは去年の4月、それ以前に脚本を見ていただいていたと。

 そうですね。脚本自体は早めに進行して、あがっていました。

--そのほかで苦労した点、こだわった点はどのあたりですか。

 GSの映画を撮る以上、GSバンドの衣装にはこだわりたかったですね。そこをちゃんとしていないと笑われるだろうと思いました。例えば、GSバンドのズボンはすそが短くてパツパツでブーツじゃなければおかしいので。そこにこだわりだすと、調達できないものもあるから、全部衣装を作っていくのかという話になるわけです。でも予算の都合上、それは無理だから、別の衣装をアレンジして使おうとかいうことになって。僕と衣装デザイナーの方と二人で、衣装を一つひとつ、それがGS的か否かを判断していきました。

--検証していくうちに分かった事実などはありましたか。

GSワンダーランド これもまたズボンに関してなんですが、あの頃のGSの人たちがはいているズボンって妙にスリムでぴんと張っているんです。どうしたらああいうシルエットが出るのか不思議だったんですが、あれは実は中学生のときの体育の授業で着るジャージのように、ズボンの下に紐がでているタイプのものだったんです。そうだったらしいという話を聞いて驚きました。あとは連絡が着かないGSバンドがたくさんいるということですかね。映画の中で当時のGSバンドのレコードをたくさん使うシーンがあるんです。あれは音楽監督をしていただいたサリー久保田さんや、その他色々な方の私物なのですが。映画で使用するので一応実際のGSの方達に連絡を取ろうと、事務所なりレコード会社に問い合わせようとしても、連絡が取れなかった人が多くいたようです。

--今回の映画にあたり、当時のGS映画に影響を受けた部分はありますか。

 元々GS映画が好きで、よく見ていました。いちばん参考にしたのは日活の「青春ア・ゴー・ゴー」という映画です。日活の役者さんだけで組んだヤング&フレッシュというバンドが主人公で、彼らがエレキブームのなか結成して解散していくという映画なんです。当時のその他のGS映画は基本的にアイドル映画なので、本人たちが出て演奏シーンがあればOKみたいな感じなんですよね。それはそれで面白いのですが、今、僕が一本の映画として成立させるにはそれではマズイなと。

映画を撮り終えてGSがますます好きになりました(笑)本当にGSって幅が広いんです

本田隆一--あと肝心なところで言えば使われている音楽です。ここに流れるすべての曲が素晴らしいです。

 最初にこの映画をやろうと決めたとき、音楽プロデューサーを高さんにお願いしたところ、音楽監督はサリー久保田さんを推薦していただき、お二人に関わっていただくことが決まった段階で、僕が言うまでもなく完璧にいいものを作ってくれるだろうという信頼はありました。

--何と言っても、橋本淳、筒美京平コンビの新曲というのも驚きました。これは本田さんのアイデアですか。

 脚本を書いている段階からそのコンビに書いていただけたら最高だなと密かに思ってはいたんです。恐る恐る高さんに「橋本淳、筒美京平コンビに曲を書いてもらいたいんですけど」と言ったら、「では聞いてみましょう」ということになり、実現したんです。最初に聞いたとき、本当にいい曲になっていて感動しましたね。もっとGSぽい曲になってくるのかなと思っていたら、現代っぽい感じの曲で上がってきたので、サリーさんに少しGSっぽくアレンジをお願いして、タイツメンに歌わせました。

--最後の驚きは栗山さんのソロのシーン。栗山さんがあれだけ歌えることは知っていたのですか。

 分からなかったです。脚本上、最後に栗山さんがソロ歌手になって歌って終わることになっていたので、大丈夫かな? と心配していたのですがそんな必要はありませんでした。上手くて驚きました。実は最後の栗山さんのシーンは撮影初日に撮ったものなんです。「栗山さん、本日初日でよろしくお願いします。では歌ってください!」みたいな感じだったんです。ロケ場所の都合などで、どうしてもあれを初日に撮らなければならなくなって。撮影初日のスタッフとはほぼ初対面の中、本人は緊張していたといいつつもあの振り付けを見せ付けられて、この人だったらこの映画は大丈夫だなと、初日に安心しました。歌はあとでレコーディングしたんですけど、あのシーンの栗山さんの歌唱力には本当に驚きましたね。

--岸部さんの出演も念願でしたか。

 役者として大好きな方ですし、レコード会社の社長は岸部さんしかいないと思っていました。ですから脚本の段階で、岸部さんを想定して書いていましたね。

本田隆一--今回の映画を撮り終えて、自身のGS観に何か変化はありましたか。

 ますます好きになりました(笑)。映画の中でも様々なジャンルのGSが流れますが、本当にGSって幅が広いんです。ロックっぽい激しい曲も好きだし、もちろんヒットしたGSも好きですが、この映画の冒頭で流れるライオンズのような曲とかも、ついつい何回も聴いてしまうんですよね。こういうGSもいいなって。どんどん好きになっている感じです。

本田隆一’s PLAYLIST: 極私的GS遍歴

本田隆一 プロフィール

本田隆一本田隆一

1974年、神奈川県生まれ。
大阪芸術大学映像学科を経て、日本大学大学院芸術学研究科に入学し映像芸術を専攻。
卒業制作として監督した16ミリ長編『東京ハレンチ天国 さよならのブルース』が、2001年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門でグランプリを受賞。トリノ国際映画祭、チョンファンタスティック映画祭等、海外の映画祭でも絶賛を浴び、同年暮れに中野武蔵野ホールでロードショー公開された後、全国五カ所で劇場公開された。02年には佐藤佐吉脚本『神様のくれた酒・セクシードリンク大作戦』で商業映画を初監督する。以後、劇場用作品、オリジナルビデオなどで幅広いジャンルの作品を撮り続けている。05年ドイツのハンブルグ映画祭および、第30回湯布院映画祭で『脱皮ワイフ』が絶賛を受けるなど、国内外で評価が高い。

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