上原ひろみ -

掲載日:2011.03.11

このインタビューの数日後、グラミー賞の吉報がもたらされるとは! そう、今回登場していただくのは、ピアニスト上原ひろみである。彼女は、スタンリー・クラークのアルバム『スタンリー・クラーク・バンド』にフィーチャリングアーティストとして参加。その作品が第53回グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞したのだ。
その話題に負けずとも劣らない自身のリーダーアルバムが完成した。『ヴォイス』である。ベースにアンソニー・ジャクソン、ドラムスにサイモン・フィリップスという強力無比なメンバーを迎えたトリオ作である。デビュー以来、天才の名を欲しいままにする彼女の新しいプロジェクトが始動した。圧倒的な演奏力がもたらす広大なスケールを感じて欲しい。

-- ジャズは多くの場合インストゥルメンタルですから、楽曲のタイトルとその内容の関係について、よく尋ねたくなるんです。新作『ヴォイス』の各曲名は、「Voice」や「Flashback」「Temptation」をはじめとしてワンワードのものがほとんどですが、それは何かを意識したことですか?

いえ、特にワンワードにこだわったわけではありません。感情をテーマにしたら結果的にそれが多くなりました。

-- 作曲の方法はどのようなものですか? タイトルを先に考えたり、不意に浮かんだメロディーを書き留めたり、さまざまだとは思うんですが。

まず、タイトルというよりも、その曲のイメージワードがあって、たとえば今回ライナーノートにあるような文章を先にノートに書き留めておくんです。(例えば、「Voice」:目を閉じる。聞こえて来るたくさんのヴォイス。溢れ出す感情、感情は心の声。こうしたフレーズが全曲に対して付されている。必読!)。それに対してピアノでメロディーを付けながら、譜面にして膨らませていきます。

-- どういったタイミングでそうした曲は生まれてくるんですか?

タイミングは特に決まっていません。ただ、何かに強く心を揺さぶられたときは、生まれやすいですね。

-- では、例えば「今日は作曲しよう」と思ってピアノに向かうことはありますか?

よくありますね。特にオフの日です。オフじゃない日は、練習時間を確保するのに精一杯なのでなかなか難しいんですよ。

-- 上原さんの活動や演奏のスタイルに接すると、常に音楽の神様が降りてきているように思うんです。だから、いつも新しい音楽が頭の中に鳴っていて、それで曲ができ上がるんだと思っていました。

いつもそうだといいんですけど。「作曲するぞ」と思っても、必ずしもできるとは限りません。どっちみち、音楽の神様が燃えてくれないとできません。だから、「作曲するぞ」という姿勢で、神様にお伺いを立てている感じですね(笑)。

-- 今回収録されたオリジナル曲の他にも、録音された曲はあるんですか?

楽曲自体はたくさんあるんですけど、このアルバムに収録しようと思って録音したのは、これらが全てです。この考え方は、毎回同じです。アルバムにこういう曲を入れたいなと思って曲を書いているので。

-- アルバムタイトル『ヴォイス』の意味を教えていただけますか?

人間の心の、真の声という意味です。内に秘めているものや、言いたくても言えないことなど、言葉では表すことができない、感情そのものをテーマにしたいと思ったからです。本当の声は、実は言葉にして発しないことの方が多いんじゃないか、って。インストの音楽だからこそ、そんなヴォイスが伝えられると思いました。

-- 声にならない声、それが音に込められているんですね。さて、今回の大きなトピックにひとつに、豪華なメンバーが挙げられます。二人とは競演歴があったのですか?

アンソニーとは、デビューとその次のアルバムにゲストとして参加していただいています。そのころから「いつかはトリオで演奏してみたいね」という話はしていました。だから、アンソニーを含めたトリオで創りたい、というのが念頭にありました。それで曲作りを始めたところ、自分の中で求めているドラムサウンドが明確になっていきました。そうした音のイメージにあてはまったのがサイモンだったんです。

-- そうした強力なメンバーに、トリオのリーダーとしてディレクションするわけですよね。その際、キャリア豊富な先輩たちに対して気後れすることはありませんでした?

それは全くなかったです。そこで重要なのは、最初の面接なんです。そのミュージシャンがどういう人なのか、ではなく、自分の音楽に共感してくれるかどうか。「レコーディングがあります、仕事です」というような関係ではなく、この音楽を演奏したいという部分が大切なんです。音楽に対してお互いが相思相愛でないと、同じ気持ちで創れません。アンソニーとは元々そうした信頼関係がありました。サイモンにドラムをお願いしたいと思って、曲を送ったり、このプロジェクトの話をしたりした時に、彼のやる気を非常に感じました。元々私のことを知ってくれていて、オファーに対しても喜んでくれていました。そばから観たら、二人に対して無礼だと映ったかもしれませんが、根本にはそうした信頼関係があります。

-- なるほど。そうしたリスペクトし合える関係が、ジャズの場合は特に重要だと思います。

彼らは長年第一線で活躍している、絶対的なアーティストです。だから絶対的な尊敬があります。その気持ちはとても大事だと思います。その気持ちを持った上で、自分が真剣に音楽を演奏しているから、「こういうイメージの曲なんだ」ということをはっきり伝えるべきなんです。伝えない方が逆に失礼だと思っています。

-- スタジオでのセッションや、言葉のやりとりの様子を観てみたかった…。

この2人に関しては、大物ミュージシャン独特のレイドバック(のんびりした)感はゼロでした。常にやる気満々でしたね。それが彼らがいつも第一線でいられる理由だと思います。音楽に対して貪欲で、情熱的で。1曲ピアノソロを録ったんですね。自分が参加していないその曲に対しても、どのテイクが良いかなど、みんなで議論するんです。レコーディングの3日間、集中力が全く途切れないことにも驚きました。最後まで「疲れた」って言わなかったし。「チャレンジング!」や「ディフィカルト!」とは言ってたけど(笑)。私がピアノで何を弾いても、かっこ良く聴こえるんじゃないかと思うほど、とにかくグルーヴ感のあるリズムセクションでした。私が本当に活かされたんだと思います。ミックスの際に、ドラムだけ、ベースだけのチャンネルを聴いてみたんです。それもかっこよくて。こんなCDあったら欲しいぐらい(笑)。

-- ピアノの音に関しては、今回どのようなものを望んでいましたか?

とにかく、輪郭のはっきりした音が欲しいと録音エンジニアにお願いしました。2002年からずっと同じ方にお願いしているので、私が求めている音を阿吽の呼吸でわかってくれるんです。曲によってマイクの位置を少し替えたりはしています。ただ、彼に対しても絶対的な信頼があるので、安心してレコーディングできましたね。

-- ところで、この連載では、ジャズを基本におきながら、そこから飛び出そう、あるいは新しいことにチャレンジしようとしているアーティストだけを紹介しています。上原さんの活動は、まさにその最たるものだと感じています。『ヴォイス』ではロック的な要素もふんだんにありますし。だから、ジャズという枠組みさえナンセンスになるような…。

枠については考えていませんね。ジャズという枠を越えたいと思ったことはないし、ジャズをやっているというつもりもありません。音楽の枠というものを意識していないので。私、フランク・ザッパがすごく好きなんです。

-- はい。よく存じ上げております(笑)。上原さんのザッパフリークは有名ですね。

ザッパって何って訊かれたら…。

-- それはザッパでしかない…。

まさにそういうことなんですよ。彼はストラヴィンスキーに影響を受けていることもよくわかります。でもクラシックではありません。だから、ジャンル分けすること自体、考えたことはありません。音楽は、何かを感じるか、感じないかだと思っています。共鳴すれば聴くし、そうでなければ聴かない、それだけです。

-- では、ジャズのアーティストと呼ばれることは、本意ではない?

いや、全然。私、何と呼ばれてもいいんです。ジャズピアニストでもいいし、ファンの中には「僕の中ではロックなんですよ」っておっしゃる人もいます。その方にはそれでいいと思います、その人の琴線に触れたのであれば。

-- 『ヴォイス』の最後に収められているのは、ベートーヴェンの「悲愴」です。こういう解釈があるのか、と驚かされました。とてもブルージーですよね。この曲があることでアルバムが引き締まるような印象さえ受けます。

ありがとうございます。アルバム自体は、すごくエモーショナルで、聴く方にもエネルギーがいる作品です。だから、最後にこの曲で「大丈夫ですよ」とぎゅっと抱きしめてあげるような感じですね。

 

 

<インタビュー・文 / 中林直樹

リリース情報
 

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New Album
『ヴォイス』
2011.3.16 ON SALE


【初回限定盤】
UCCT-9015 / ¥3,000 (tax in)

 

【通常盤】
UCCT-1227 / ¥2,500 (tax in)

 

 

uehara_bluenote.jpg

New DVD
『ライヴ・アット・ブルーノート・ニューヨーク』

2011.3.16 ON SALE

UCBT-1002 / ¥4,700(tax in)

 

 

ライブ情報

「ヴォイス」発売記念

CD購入者限定イベント
3月20日(日) 渋谷WWW

「ロックの学園」
3月19日(土)

三崎ロック学園・旧神奈川県立三崎高校
詳しくはこちらへ
http://blog.excite.co.jp/rocknogakuen2011/

 

上原ひろみ プロフィール

1979年静岡県浜松市生まれ。6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。
国内外の「ユニセフチャリティコンサート」「ジュニアオリジナルコンサート」等に多数出演。 17歳の時にチック・コリアと共演し、1999年にはボストンのバークリー音楽院に入学。在学中にジャズの名門テラーク・レーベルと契約。2003年にアルバム「Another Mind」で世界デビューし、欧米でのライブ活動をスタート。日本では、TBS系「情熱大陸」に出演し話題となり、2003年度「日本ゴールドディスク大賞」<ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー>を受賞。2004年春にはセカンドアルバム「Brain」をリリースし、アメリカの「サラウンド・ミュージック・アワード<ニュースター賞>」を受賞。2005年、活動の拠点をボストンからニューヨークに移す。2006年はサードアルバム「Spiral」を発売。オリコン20位のヒットをはじめ、「ボストン・ミュージック・アワード<ベスト・ジャズ・アクト賞>」を受賞するなど活躍。2007年は新たにギターを加えたプロジェクトとして「HIROMI'S SONICBLOOM」を結成し、アルバム「Time Control」を発売。世界最大のフェスティバル英「グラストンベリー・フェスティバル」に出演するなど、全米・ヨーロッパ・中東などの各国でのツアーを行った。そして2008年新作「Beyond Standard」を6月に発売。ジャズ作品として異例のオリコンチャートTOP10を記録し、「第50回日本レコード大賞優秀アルバム賞」、「第42回ジャズディスク大賞<金賞>」を受賞。第23回日本ゴールドディスク大賞にてジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー<洋楽部門>を獲得。ニューヨーク・ブルーノートでの4年連続一週間公演や、ハリウッドボウルでの「PLAYBOY JAZZ FESTIVAL」などに出演するとともに、北欧からアフリカまで世界中をツアーし成功を収める。国内でもドリームズ・カム・トゥルーとのライブ共演や矢野顕子のアルバムへのレコーディング参加、共演ライブなど活動は多岐に渡る。

 

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