伊藤ゴロー Page.1 -

掲載日:2012.04.25

伊藤ゴロー Page.1

この日を待ちわびていた。ミュージックシェルフに幾度となく登場してくれているギタリストで、作編曲家、プロデューサーでもある伊藤ゴローが新譜を発表したのだ。以前から、どうやらブラジルでレコーディングしているらしいと、彼のTwitterのタイムラインから読み取ることはできた。ゆえに、果たしてどんな作品に仕上がっているのか、どんな世界が描かれているのか、その完成が楽しみで仕方なかった。そして届けられた『GLASHAUS』には、静謐かつ豊穣な音の粒子が詰まっていたのだった。全曲インストゥルメンタルで、彼のつま弾くアコースティックギターに、ピアノやベース、そしてチェロが響き合い、やがて溶け合ってゆく。音を重ねれば重ねるほど、音楽が透き通る、そんな目眩のするようなサウンドスケープである。また、アートワークも秀逸で(詳細は後述する)、音楽を中心とした総合(複合)芸術として愛でることもできよう。このアルバムに興味がないと言う人とは、僕は一生わかり合えないだろう、そんなことさえ想起させる。多くの大人に聴かれるべきマスターピースの誕生だ。というわけで、うかがいたい内容が多く、いつもよりもロングインタビューになってしまったのであった…。


-- 2年ほど前にリリースされた『Cloud Happiness』は、ロック的なアプローチの作品でした。それと比べると今回の『GLASHAUS』は、全編にわたって静かな作品ですね。最初聴いたときは、その振り幅の大きさに驚きました。

前回は自分のひとつのルーツであるロックを表現したようなアルバムでした。今回の内容は、自分がずっとやりたかったことだけど、できなかったことなんです。踏み込めなかった、というか。

-- チェロのジャキス・モレレンバウムを始めとする、ブラジルの実力派ミュージシャンたちとのセッションによって作り上げられたアルバムですが、始めからそうしようと考えていたんですか?

そうですね。あれよあれよという間に、ジャキスまで参加してくれることになって。ありがたいことです。メンバーは、naomi & goroの『passagem』、『Bossa Nova Songbook 2』のレコーディングでブラジルに行ったときに知り合った人たちです。ジャキスはもともと教授(坂本龍一)に紹介していただいたんですが、そのnaomi & goroのアルバムでも演奏してくれています。ところが、今回は急遽、1曲だけアレンジもお願いできることになって。タイトなスケジュールの中、やっていただきました。

-- 東京である程度仕上げたサウンドを、ブラジルに持っていったんですか?

そうです。「Glashaus」と「November」はアンドレ(・メマーリ)が昨年の11月に来日していた際に、東京のスタジオ(パストラルサウンド)で録音しました。「Glashaus」は彼とのデュオで、「November」は2人で録音したものにジャキスのチェロをリオでダビングしています。この曲は、最初からチェロをイメージして作っていたので。他の曲はすべてリオで録音しています。

-- 曲作りはどんなふうに?

今回は、わりとすんなりできましたね。2、3曲はすぐできちゃったんですよ。

-- では、曲を作る段階から、チェロやピアノ、ベースといった楽器を想定していたんですか?

そうです。なんとなく見えていて。でも、ギター一本でも成立する曲を作ろうと思っていましたね。いつもよりかっちりと日本で作っておいて、リオに向かいました。が、何曲かはスケッチだけ持っていって、向こうで完成させました。
 

-- ギターはレコーディングの際、何本か使い分けました?

いいえ、今回使ったのは1本だけです。最近レコーディングでずっと使っているヤマハのギターで、カスタムオーダーできるタイプ、GC71です。それをブラジルにも持っていきました。ただ、ブラジルの空気に慣らすまで時間がかかりました。

-- ブラジルでのレコーディングは、やはり日本とは違うんでしょうね。

全然違いますね。まず、朝が早い(笑)。日本だとだいたい午後からゆるゆるとスタートするのが普通ですが、向こうは8時、9時ごろから始まるんですよ。で、夕方には終わってしまう。リオに行ったのは今年の1月でしたから、ちょうど夏が始まったころでした。でも、今年の夏はあまり暑くないそうで、気温が上がっても40℃くらい。雨が降って、25℃にもならない日もあったので、過ごしやすかったですよ。

-- 『GLASHAUS』は全10曲約41分ですが、あっという間に終わってしまう、もっと聴きたいという気にさせるアルバムです。また、10曲で1曲のようなイメージさえ浮かびます。まるで組曲のような。

すべてギターを中心とした曲です。ギターで自分の世界を創るというのを基本にしています。また、ブラジルで録音するから、ボサノヴァっぽいものを、とは一切考えずに作曲しています。

-- 確かにおっしゃるとおりですね。ブラジル音楽っぽさを前面に出したものではありませんね。それに非常に現代音楽的な要素もあって、ECMのカタログの中に並んでいても違和感がないと思います。

そうですね。逆にそこを意識したかもしれません。とはいえ、やはり「Glashaus」には(アントニオ・カルロス・)ジョビンの曲作りに影響を受けています。

-- なるほど。でも何の予備知識もなく聴くと、いったいどの時代に作曲されたものなのかさえ、見当がつかなくなりそうです。19世紀末や20世紀初頭の音楽家の作品といわれても納得してしまいそうな。かといって、今現在生まれた音とも言えそうで、まさに、時間と空間を超えているようです。それと、さきほどおっしゃったように今回はギターを中心とした音楽ですが、ギタリストとして気を配ったポイントはありますか?

編成がシンプルなので、レコーディングの際のマイクの種類や位置について神経を注ぎました。ブラジルでもエンジニアと、どのマイクが良いのか吟味したんです。

-- ギターの音色がきちんと録れるものとか。

それと空間ですね。ギターのアンビエンスというか。それを上手く録りたいと思っていろいろ試しました。リオのスタジオは山の手にある古い民家を改装したところでした。ジャルジン・ボタニコという植物園があるんですが、そこはジョビンが生前、良く訪れたことで知られています。今ではそこにジョビンの記念館が建っています。その隣にスタジオがあるんですよ。その辺りはブラジルの古い家並が残っているところで、クラシックなものが好きな、意識が高い人たちが、家を改装して住んでいるんです。スタジオは2階部分を取り払って、天井を高くしていました。そこの空気感がよく録れていると思います。ちなみに、そこは(ブラジルの大作曲家、エイトル・)ヴィラ=ロボスのお孫さんと、今回のレコーディングエンジニアのデューダが所有しているんです。

-- そういった歴史も空気としてCDに詰まっているようです。そんな空気感も含めてCD以上のハイレゾリューションで聴いてみたいです。

実は、OTOTOYからDSDで配信されますよ。

-- それはすばらしい。そちらもぜひ聴いてみたいです。しかし、配信だと、このすばらしいアートワークが伝わりにくいかも…。

 

 

 

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リリース情報

itogoro_glashaus.jpg

伊藤ゴローのキャリアの集成。
『GLASHAUS』

2012.4.25 ON SALE!
XQAW-1102 / ¥3,000(tax in)

 

ジャズ~クラシック~ブラジル音楽を基調に書き下ろしをし、クラシック・ギターの演奏を軸としてのぞんだ、ジャンルを越境するインストゥルメンタル作品。リオ、東京にて録音。

これぞ浪漫的かつ抒情的な、
真の無国籍音楽です。
-坂本龍一

 

プロフィール

伊藤ゴロー
作曲家、編曲家、ギタリスト、プロデューサー。ソロユニットMOOSE HILL、ボサノヴァデュオnaomi & goroとして国内外でのアルバムリリース、ライブ等で活動する傍ら、映画、ドラマ、CM音楽も手掛ける。原田知世の直近のアルバム2作、ペンギンカフェオーケストラのトリビュートアルバム等プロデュースワークも行う。2011年にnaomi & goro & 菊地成孔名義で、坂本龍一のレーベル「commmons」から『calendula』をリリースしヒットを記録。
また、サウンドインスタレーション「TONE_POEM」(青森県立美術館)の発表や、原田知世との朗読会「on-doc.(オンドク)」も行う。 2012年は原田知世デビュー30周年を記念し本格的にスタートする「on-doc.(オンドク)」を各地で行なう。また7月21日~9月17日に開催される青森県立美術館の夏の企画展《Art and Air ~空と飛行機をめぐる、芸術と科学の物語》のサウンドトラックも担当する。

オフィシャルサイト
http://itogoro.jp/
アルバム特設サイト
http://www.spiral.co.jp/shop_restaurant/spiral_records/original_label/glashaus/

 

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