藤本一馬 -

掲載日:2011.07.13

静謐でありながら、豊潤なイメージが聴く者の前に出現する。付け加えるなら、そのジャケットデザインやアーティスト写真とも、しっかりとリンクする、大平原を疾走するかの如きサウンド。orange pekoeのギタリストで作曲家、藤本一馬がリリースした『SUN DANCE』は、ファーストアルバムにして、すでにそんな世界観が確立されている。しかも、藤本のギターと、ベース、パーカッションのトリオ編成で、だ。ジャズ的でもあり、そうでなくもあり。音楽がジャンルで分類される以前の、どこかプリミティブな響きがここには充満している。

 

 

-- まず、トリオというシンプルな構成に至った経緯を教えてください。

 

以前から、ソロアルバムを作りたいとは思っていたんです。orange pekoeで2009年に『CRYSTALISMO』を発表した後、その想いはさらに強くなりました。そのレコーディングやツアーに参加してくださったのが、パーカッションの岡部洋一さんやベースの工藤精くんです。そんな素晴らしいミュージシャン二人と一緒にソロアルバムを作ることにしました。 

 

-- 特に岡部さんは、ROVOなどでの活躍や、多様なセッションにも参加している、いわば大御所です。ソロ作で改めて共演してみていかがでしたか?

 

僕は岡部さんのことを師匠と呼んでいます。パーカッションだけでなく、音楽全体が素晴らしいんです。僕の音楽を膨らませてくれます。工藤くんは、いろんな引き出しがあるベーシストです。発想も自由で、とても触発されました。 

 

-- とても3人で演奏しているとは思えない、音の広がりや音色の豊かさがあります。ソロ第一作でありながら、3人だけの演奏というのは、チャレンジングな試みですね。でも、逆を言えば、ギタリストとしての個性をいちばん出しやすいフォーマットなのかも知れません。

 

そうですね。orange pekoeでは音をたくさん使いますし、そもそも、全体のサウンドをみながら弾いたり、歌を引き立たせたりするのがギターの立ち位置です。そういう活動をしてきたので、ソロを作るときは、存分にギターサウンドを聴かせるものでありたいな、と思って。それに最適だったのがトリオという編成なんです。 

 

-- このアルバムを作るにあたって参考にした作品はありますか?

 

実を言うと、アルバム作りにあたっては、他のアーティストの曲を敢えて聴かないようにしていました。できるだけ、自分の中にあるイマジネーションだけで作りたかったんです。ただ、ミックスダウンやマスタリングの際、ギターの音色についてだけは、何か参考になるサンプルはないかな、とCDを探したこともありました。でも、なかなかイメージに合うものがなくて。ちなみに、レコーディングのときに唯一聴いていたのはジェイムス・テイラーでした。アコースティックギターの音も良いし、声も良いし、もちろん楽曲も良いし。父親はギター弾きなんですが、ジェイムス・テイラーがすごく好きで。その影響も大きいですね。さらに、父親の弟はジャズが好きでした。それで僕もジャズを聴くようになったんです。だから、そのふたつの感覚がドッキングしているような気がしています。 

 

-- まさにハイブリッド(笑)。そうして小さい頃から聴いていた音楽が、年月を経て表に現れるのが面白いですね。それに、いくつになっても落ち着く音ってあるんでしょうね。

 

何かある気がするんです。アコースティックギターはもちろんですが、エレキでも、70年代風のサウンドに惹かれたりしますから。 

 

-- 今回のアルバムでは、そんな音づくりにも興味を持ちました。ギターの音がとてもまろやかで、それでいながら、他の音に埋もれていない。僕はオーディオ機器の評論も行っているんですが、プレーヤーやスピーカーなどをチェックする際に『SUN DANCE』を使わせていただいています。ギターの音を中心として、濃密な空気が漂っていますね。そんなふうに、音づくりの面で工夫された部分はありますか?

 

録音エンジニアの広兼輝彦さんによるところが大きいと思います。今回のサウンドイメージや世界観もよくわかっていただきました。それにミックスダウンにもかなりの時間を割きました。マスタリングは巨匠の小鐵徹さんにお願いしています。 

 

 

-- さて、収録曲のタイトルですが、「海への祈り」「空のように」「山の神様」といった、自然に関するもの多いですね。サーフィンを楽しんだり、ネイティヴ・アメリカンの考え方に興味を持たれたりといった藤本さんのライフスタイルや思想が反映されたものでしょうか?

 

6年ほどまえから、ネイティヴ・アメリカンだけでなく、アボリジニやアイヌの人たちの考え方に興味を持つようになりました。生きていくためのヒントをもらったような気がしたんです。今の世界は客観的に見ても良い方向に向かっているとは思えません。その中でどう生きるべきかと考えたときに、ネイティヴの人々の発想にヒントがあったんです。インドの思想やヨガの本を読んだりもしました。これにはorange pekoeのナガシマトモコからの影響も大きいんですが。 

 

-- アルバムタイトルにもなっている『SUN DANCE』はネイティヴ・アメリカンの儀式の名称だそうですね。

 

そうなんです。北山耕平さんが翻訳された『インディアン魂』という本で知ったんです。ざっくり言うと、神さまとひとつになるために、自分の身体を捧げるというような壮絶な儀式です。そうした目に見えないもの大きなものと一体化しようとすることは、昔から行われていたはずです。でも、僕らには馴染みのないものになっています。だから今、そういうものの中にヒントがあるような気がしているんです。崇高な儀式なので、これをタイトルにするのはおこがましいような気はしたのですが…。 

 

-- この曲はなんと25分を超える熱演です。しかし、起伏に富んでいて、あっという間に時間が過ぎて行きます。また、今のお話を伺うと藤本さんの音楽への理解がさらに深まりますね。

 

この曲はセクションごとに、太陽が昇ってくるところ、日が沈むところなどといったイメージをメンバーと共有して演奏をしました。すると、何テイク演奏しても25分になるんです。 

 

-- 「やじろべえ」といったタイトルも気になるところです。

 

さきほどの「SUN DANCE」のほかに、「山の神様」という曲もあります。これも北山耕平さんの言葉である「ネイティヴ・ジャパニーズ」から発想したものです。太古の昔に、この土地で、インディアンと呼ばれる方たちと同じような生活をしていたであろうネイティヴ・ジャパニーズの人たちに思いを馳せました。そんな曲がある一方で、「やじろべえ」は振り子のおもちゃのイメージで、長い人生、右に行ったり、左に行ったりすることも、ときには良いじゃないかという、少し気楽な想いを込めて作ってみました。 

 

-- レコーディングに使われたギターは何種類ですか?

 

2本ですね。ひとつはスチール弦でラリヴィー社のものです。今でこそ一大工房ですが、僕が使っているのは、70年代のもので、まだラリヴィーさんが手作りしていた時のものです。CDのブックレットのレコーディング風景に写っています。貝を使ったインレイがきれいなモデルです。もうひとつは、ナイロン弦で、日本の福岡ギターのものです。 

 

-- ところで、ジャケットには馬が登場していますが、これはひょっとしてお名前から…

 

一馬だから馬を使った、という噂が蔓延していますが(笑)、実はそうじゃないんです。デザイナーであるsollaの吉永祐介くんが、僕の音楽からイメージして選んだ写真です。本人は指摘されるまで気が付かなかったそうですよ。 

 

<インタビュー・文 / 中林直樹

 

 

 

リリース情報
 

New Album

『SUN DANCE』

NOW ON SALE

 

【通常盤】
DDCB-13018 / ¥2,800 (tax in)

 

ライブ情報

藤本一馬 ソロLive
8月14日(日) 鎌倉 Cafe Vivement Dimanche

Orange Pekoe ワンマンライブ

7月13日(水) 音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2011

 

男女デュオのじゃない方の会(HKG09)~夏休み~
7月23日(土) 恵比寿 LIQUID LOFT


Kalancolon Summer Fes 2011
8月11日(木) 静岡 Villa Hamanako

 

Montyacc Presents Tres Elementos
8月20日(土) 渋谷 JZ Brat

 

SUKIYAKI TOKYO
8月22日(月) 渋谷クラブクアトロ

 

Afrontier 「真夏の夜のアフロンティア Vol.3」
8月28日(日) Motion Blue Yokohama

 

詳しくはこちらへ

http://kazumafujimoto.com/schedule.html

 

藤本一馬 プロフィール

ギタリスト、作曲家、サウンドクリエイター。
1979年7月13日産まれ。兵庫県出身。フォーク、ブエウースギタリスト&シンガーソングライターの父親の影響でギターを弾き始める。その後ジャズピアニストであった叔父の影響でジャズに傾倒する。ギター演奏はすべて独学で習得。1998年ヴォーカルのナガシマトモコとorange pekoeを結成。ジャズ、ラテン、ブラジル、ソウルなど様々な音楽を独自に昇華した自作自演のスタイルで、現在までに6枚のオリジナルアルバムを発表。韓国やニューヨークのライブなど海外にも活動の幅を広げ、日本のオーガニックミュージックシーンを常にリードする存在として注目を集めている。2010年より並行して、ギタリストとしてのその活動を開始。日々の生活や自然からのインスピレーションをもとにした独創的なオリジナル曲と、ジャズ、ワールドミュージックのエッセンスを滲ませつつ、オープンチューニングなども使用した型破りな演奏で既に話題に。

 

オフィシャルサイト

http://kazumafujimoto.com/index.html

 

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