Saigenji -

掲載日:2012.12.13

ブラジル音楽を吸収し、咀嚼し、自身の音楽として歌とギターでアウトプットするSaigenji。言い方を変えれば、スタンスはあくまでシンガーソングライター。そのコアにあるのがブラジル音楽のエッセンスなのである。そんな彼がアルバムデビュー10周年というタイミングで取り組んだのは、これまで見せてこなかったルーツに光を当てることだった。長らくのSaigenjiファンにとっては「ついに!」と拍手を持って受け入れられる、キャリア初の弾き語りアルバム。また、Saigenjiやブラジル音楽に触れてこなかった読者には「なるほど!」と、この音楽の楽しさを感じられる入門編的な作品だとも言えるだろう。

-- アルバムデビュー10周年おめでとうございます。そんな節目に生まれたのが新譜『ONE VOICE,ONE GUITAR』。歌とギターだけのアルバムというのは、キャリアの中でもエポックメイキングな作品ですね。

ありがとうございます。最初は今までの流れを踏襲した、シンガーソングライターとしてのアルバムを作ろうと思っていたんですが、いろいろとお話をいただいて、このような、今考えられる最良のかたちでリリースすることができました。ありがたいことだと思っています。

-- 後で録音のお話も訊かせていただこうと思っていますが、音が生々しくて、声はもちろんのこと、ギターのボディの鳴りまで良く録れていて感心しました。

そう、それがないと成立しないアルバムだと思っています。


-- 今回はセルフカヴァーが3曲あり、ブラジル音楽やジャズのスタンダードもあり、さらにオリジナルの未発表曲もありますね。「Vals no.1」や「月と砂」といった、二十歳の頃に書かれた曲もあって。ということは、今から20年近く前?

そうですね。大学を卒業するかしないかのころに手がけた曲だと思います。当時、今や中島美嘉さんなどに楽曲を提供している川口大輔と一緒にユニットを組んでいたんですよ。彼はキーボードとコーラスで、基本的に僕がギターを弾いて歌っていました。そのときに、このアルバムにも収めた「Corrida de jangada」やトニーニョ・オルタの「Vento」、または、ミルトン・ナシメントやイヴァン・リンス、エディ・ロボなどの曲をディープにカヴァーしていたんです。また、同時に自分もギタリストとして活動を開始しました。その頃に作曲を始めました。たくさん曲は作っていたんですが、これらはそのころの代表曲かな。


-- じゃあ、それを長い間弾いていなかった、と。


そう、つい1年ほどまえに久しぶりに引っ張り出して弾いてみたら意外と良かった。なので、ライヴで演奏できる形にアレンジし直して、最近のライヴで何回かは演奏していましたね。


-- 譜面として残してあったってことですか?

いえいえ、その頃は書いた曲を徹底かつ執拗にいじって演奏していたので、覚えているんです。僕には何年かに一回、過去に作った曲を引っ張り出して点検するという時期があります。いずれも熟考に熟考を重ねていたので、意外に覚えているものなんです。

-- いまでこそブラジル音楽はポピュラーになりつつありますが、当時はそこまで突き詰めて演奏している人はいなかったんじゃないですか?

僕らの世代ではそうですね。ただ、所属していたサークルが、早稲田大学のラテン音楽サークルでした。ショーロクラブの笹子重治さんや、パーカッショニストの岡部洋一さんといった先輩たちがいらして、資料としてCDがあったり、譜面が置いてあったりしたんですよ。そうしたアーカイヴが充実していました。また、雑誌『ラティーナ』や『中南米音楽』を通して様々な音楽と出会いました。だから、当時流行っていたレアグルーヴや渋谷系、クラブでかかる音楽等とは無縁でしたね。クラブにも行ったことはなかったし。

-- 面白いですね。当時はちょうど、ブラジル音楽がおしゃれなものとして紹介され始めた時期だったと思いますが、それとは別のディープな世界が入り口だったとは。

そうそう。僕は中学からフォルクローレをやっていたから、ラテノ→(ラテン)音楽のサークルに入ろうとは思っていたんです。ただ、大学に入る少し前くらいから、ブラジル音楽にも興味を持ち始めて。フォルクローレからブラジル音楽を眺めていたので、たとえば、ジョアン・ジルベルトは洗練されすぎていて、その良さが当時はピンとこなかった。だから、ミルトンやセルジオ・メンデス、そしてバーデン・パウエルのようなアーシーなサウンドに惹かれていたんです。だから、このインスト作品は、もろバーデンに影響をうけています。

-- あ、その感じよく聴き取れました。特に「月と砂」。


そうですね。スタイルはバーデンでコードはミルトンですね。


-- だから、今回の録音は自身のこれまでを振り返る良い機会にもなったのでは?

ただ、振り返るというよりは、今までたくさんCDを出してきたんだけど、こうした側面は封印してきたに近かった。だけど、このタイミングで自身のルーツを出しておくことは、自分にとっても良いことだと思えるようになったんです。自分のアーカイヴとして、ひとつの完結でもあるし、逆にこれを新たなスタートとして捉えてもよいと思っています。これまでは自分のコアな部分を敢えて見せてこなかったけど、今回だけは、逆にフォーカスしたつもりです。

-- これまでは、ブラジル音楽をベースにしたシンガーソングライターという個性で前面に出して活動してこられました。その意味で、ブラジル音楽を単にカヴァーするほかのアーティストとは一線を画してきました。それを貫かれてきた。もちろん、誰でもできるということではないと思っています。ただ今回はそれを一息おいて、ルーツを再確認した、そんなイメージでしょうか?

おそらくそうですね。このスタイルのアルバムになったのは、エンジニアの渡辺省二郎さんからお話をいただいたのがきっかけです。彼のスタジオで、マイクの前に立って演奏し、プレイバックを聴いてみたときに、このサウンドであれば、はっきり言ってなんでも大丈夫だなと。この音の空気感さえあれば、何でもできそうだなと感じたんです。じゃあ、割と渋いことをやっても成立するな、と思えたんです。

-- そういったサウンド面が重要だったんですね。

始めから明確なコンセプトはなくて、そのプレイバックを聴いてから、今回のコンセプトが思い浮かんだんです。この音だからこそ成立する作品を作るべきだと考えるようになった。だから弾き語りやインストを選んだんです。この音との出会いありきなんです。また、これまでのシンガーソングライター的な作品は実はたくさん用意してあったんです。ところが、震災があったことも影響し、僕の中で価値観が変わってしまった。新しく作っていた自作曲に、グッとこなくなってしまって。だからみんなが聴いていて気持ちいいと思ってくれる音楽が今は、フィットするのかなって。

-- そこで弾き語りというスタイルにたどり着いたんですね。では、選曲はどうされたんですか?


この曲順は実はほぼ録音した順番なんです。ある1曲をレコーディングしたら、その後にはこの曲が合うな、と思いながら録音していきました。


-- ということは、ほぼライヴ録音に近い?

そうですね。6曲目までは録音初日に、7曲目からは2日目、とそんな感じです。でも、でき上がったものを聴いてみると、とてもコンセプチュアルに聴こえる、そこが面白いんですよ。

-- 先ほども触れた「Corrida de jangada」は現代ブラジル音楽のクラシックとも言うべきもので実に多くのアーティストがカヴァーしています。それをSaigenjiがどう料理してくれるのか、楽しみにして聴きました。

大学の頃から演奏している曲で、最近またちょっとアレンジを変えています。イントロのところのギターの弾き方とか。これはブラジル北東部の海をイメージしています。

-- それから「Green dolphin street」はジョン・コルトレーンとジョアンをイメージされてアレンジしたとか?

YouTubeでコルトレーンのヴァージョンを観たら、それがすごく良くて。低音でドローンがずっと鳴っているところは、コルトレーンの呪術的なサウンドを意識しています。それにジョアンの『三月の水』というアルバムの空気を醸しながら、この曲が演奏できたらいいな、と。

-- コルトレーンと、ジョアン、一見、相容れそうにないですけどね…。


でも、深いところでは結構通じるものがあるのかも。


-- 「ハミングバードワルツ」では口笛が聴けます。僕が言うのもなんですが、録音が生々しくてエロチック(笑)。

ですよね(笑)。ブレスのニュアンスも伝わってきますよね。


-- もちろん、これも一発録りです。歌とギター、口笛。それらを演奏し切るテクニックはさすがです。これも10年以上のキャリアが成せる技ですね。ステージで培ったものとも言えるでしょう。そんなライヴの最中に、テクニックでもフィーリングでもいいのですが、自分がワンランクアップしたと感じる瞬間ってありますか?

ああー、ありますね。成功したポイントよりも、失敗した時のことのほうが、そう思うことが多いですね。ライヴがつつがなく進むということは、普通のことなので、そこから得ることは少ない。でも、失敗した時のことは良く覚えています。あとは、自分の気持ちがバーンと開ける瞬間があって、それが持続するときは、すごいなと思うし、自分が演奏していることがまるで他人事のようにも感じる。でも、そういったことは気持ち良いほど忘れてしまうんです(笑)。おそらくライヴという流れの中にいるので、それを意識しすぎると流れが止まっちゃう。逆に今日はイマイチかなと思って演奏していても、突如として開ける場合がある。全く開かないときもあるし。


-- 開くっていうのはどんな感じ? ステージから客席が見渡せるような?


自意識みないなものが少し減る感覚。自分が歌っているんだぞ、弾いているんだぞ、あるいは、観られているという感覚がちょっと緩む。楽になるというか。

-- それが10年以上やってきて到達した境地。


最近、足を組んでギターを弾くのをやめたり、ヨガを始めたりして身体をケアして心も身体も楽になったからかも知れない。そのおかげで次第に気持ちの部分でも刺々しさが取れてきたのかもしないですね。

--面白いですね、その変化。

ジョアンは東洋哲学に興味があるみたいだし。結局は気持ちの波をどう一定に保つかを考えているんだとおもいます。

--そういえば、ヨガを始めて二日酔いしなくなったとか(笑)。

そう、すごいよね。これは声を大にしてみんなにいいたいもん。僕が二日酔いしないんだよって(笑)。


--それと、Saigenjiという個性は唯一無二で、もっとフォロワーが音楽シーンに登場してもいいと思うんです。ところが、いまのところ、僕はそうした人たちを知りません。

そうですね。フォロワーもそうですが、自分自身がミュージシャンとしてどんなポジションにあるのかなど全く興味がありません。確かに今やっていることは特殊技能がなければできないことだと思います。ただ、特殊技能をもった市井の人という立場でずっといたいと思います。普通の生活をして、普通に生きるのが一番だと思っています。

--先ほども述べられましたが、渡辺さんとの出会いが今回は大きかったんですね。


そう、渡辺さんはUAさんとか、佐野元春さんとか、電気グルーヴや東京スカパラダイスオーケストラも手がける超一流のエンジニアさんです。僕も以前、ミックスをお願いしたことがありました。今回は、彼の中でアナログ録音がブームのようで、じゃあ、Saigenji、一度取ってみない? と誘われたのがそもそものきっかけ。そこには、アナログハーフインチのレコーダーがあって。マイクなどにもこだわっていただきました。ただ、レコーダーはすぐに調子が悪くなってしまうので、正常に動作する時間に集中してレコーディングし、その後は「じゃあ、本会場にいきますか」ってことで、飲み屋に移動するという(笑)。

--素のSaigenjiが感じられるすばらしい録音ですね。

声とギターがとても近くで聴こえると思います。マイクもすごくオン(近く)で、それだからこそ、声を張ると音が割れてしまう。本当に自宅で歌っているくらいのレベルの小さな音量で録音しました。

-- Saigenjiの家に招かれたみたいな感覚。そうそう、ハイレゾ配信もされるんですよね。

はい。e-onkyo musicさんからダウンロードできます。CDのクオリティを越える48kHz/24bitです。実際にオンキヨーさんの試聴室にお邪魔して聴いたんですが、とにかく良い音でした。ぜひ、聴いてみてください。

 

 

<インタビュー・文 /  中林直樹

リリース情報

 

New Album

『ONE VOICE, ONE GUITAR』

NOW ON SALE!
Happiness Records / disco la puerta
XQJT-1005 / ¥2,100(tax in)

 

<収録曲>
01. サルガッソーの海
(Sargaço Mar)(Dorival Caymmi)
02. 海のそばに
03. Green dolphin street
(Jazz cover)
04. ハミングバードワルツ
05. 月と砂
06. Vals No.1
07. Corrida de jangada
(Elis Regina)
08. Deep sea landscape
09. Kalimba
10. Vento (Toninho Horta)
11. But beautiful (Jazz cover)
12. Lua nova
13. acalanto

All songs Arranged by Saigenji
Recorded & Mixed by 渡辺省二郎
Mastered by
森崎雅人(サイデラマスタリング)

 

プロフィール

Saigenji
(サイゲンジ)
1975年広島生まれ。沖縄~香港~沖縄~東京育ち。
9才の時に「コンドルは飛んでいく」に感銘を受けケーナを始める。南米の民族音楽フォルクロ-レやブラジル音楽を中心にSOULやJAZZなどを吸収した、ギタリスト、シンガーソングライタ-。エネルギ-に満ち溢れたパフォーマンス、卓越した技術とセンスに裏付けられた存在感で評価を受ける。また独自の観点から生み出される作詞作曲も多方面で高い評価を受けりと同時に、ギタリスト、コーラスとしての100曲以上のレコーディングに参加している。現在までに7枚のオリジナルアルバムとベスト盤、Live盤を1枚づつリリース。

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