ティル・ブレナー -

掲載日:2013.03.06

僕の中では、若手男性トランぺッターという認識だったティル・ブレナー。彼の活動をつぶさに追いかけていたわけではなかったが、常にメインストリームで活躍する姿は、折に触れて気にかけて来たつもりだ。しかし、時の経つのは早いもの。アルバムデビューが1993年だから、今年で20周年となる。それだけみれば、もう中堅どころかベテランの領域に入るアーティストだ。そのキャリアを振り返ると、彼がクリエイトして来た音楽は実にカラフルである。自身のヴォーカルも押し出したチェット・ベイカーへのトリビュート、ブラジル音楽への接近、ヒップホップ的アプローチなど。そして今年届けられたサウンドは抑制の効いたストイックとも言えるほどの、ひりりとした空気に満ちている。アルバムタイトルはずばり彼の名を冠したものだ。そこに込められたのは、様々な経験から導き出した自身の音楽への回答とも解釈できないだろうか。

-- 今回はブルーノート東京で、ニコラ・コンテのフィーチャリングアーティストとしてステージに立たれました。あなたとニコラは、共にジャズを土台にしながら、表現の方法は違えど、ジャズを進化させたり、拡大させたりするという点で非常に共通点は多いですね。ティルさんの場合は、ブラジルミュージックやヒップホップを積極的に取り入れた作品もあって、非常に興味深く感じていました。


まさに、そのとおりだね。実は何年か前に、自分の音楽の発展は公衆の面前で行っていることだと気がついたんだ。ある程度、自分の中で音楽を進化させてから、人前で演奏する方法もあると思う。でも、僕はそうじゃなかった。考えてみれば、アーティストというのは得てしてそういうものだし、他のジャンルでもそうだと思う。作品を残し、手に取ってもらうことによって、あとで振り返ったときに自分が成長したことに気づくんだ。時代とともに、様々なプロジェクトに参加してゆくのはとても楽しいこと。なぜかというと、ボサノヴァだろうと、ソウルであろうと中心にあるのは自分と、そしてトランペットだからなんだ。それを通じて、自分自身を探求してゆくことに面白みを感じるね。そして、僕が一番目標としているのは、5年後にアルバムを聴いたときにやっぱり良いサウンドだ、この作品を残して良かったと思えること。

-- とても興味深い話ですね。というのも、今年でCDデビュー20周年なんですね。その経験のなかで蓄積された想いだと感じました。では、20年前と現在では、音楽に関わる気持ちの部分で変化したことはありますか?

ジャズはユニバーサルランゲージだと思う気持ちに変わりはないよ。自分が話す延長線上にあるのが演奏だと感じているんだ。たとえ、話しても話しても通じないことが、音楽だとわかり合えることがある。それがとても不思議なんだ。音楽は人々をつなげる大きな力なんだと思う。

-- 20年前にリリースしたデビューアルバム『ジェネレーション・オブ・ジャズ』の録音時のことは覚えていますか?

もちろん完全に覚えてるよ。ベースのゴッドファーザーである、レイ・ブラウンと一緒に仕事ができるなんて夢のようだった。でも、こうした大御所とセッションできたという喜びを自分だけのものに留めておきたくなかったんだ。というのも、僕らの世代(1971年生)は、彼のようなジャズを生み出したアーティストと直接関わり合えた最後のミュージシャンだから。それを次の世代に運ぶ、メッセンジャーのような役割を担っていると思うんだ。ジャズはどうやって生まれて来たのか、どんなふうに演奏されてきたのかを知ることができたんだ。20年の活動を振り返ってみると、半分は演奏をしたり、プロデュースをしたりする時間だったと思う。残りの半分は、そんなふうに人の話を聞くことに費やしてきたような気がするよ。それらの成果が今、実を結び始めていると感じてるんだ。

-- 音楽、そしてジャズに対する真摯な取り組みが良く伝わってきます。

ありがとう。

-- さきほどから、これまでのキャリアを振り返るような話ばかりを尋ねたのは、今回のアルバムの印象と結びついているからです。それは、トランぺッターのアルバムは往々にして、「俺が俺が」的な、演奏面でもサウンド面でも前面に出る作品が多いですよね。でも、新作ではそれの部分が上手くコントロールされている。20年間、多くの人たちの話や演奏に耳を傾けてきたのと同じスタンスが現れているような気がします。バンドのメンバーの演奏を聴き、尊重しながら、トランペットのメロディーや音色と融合させているようです。そこにキャリアの集成を感じました。

アルバムを全体として、大きなものとして捉えるようにしたつもりだよ。自分の演奏を、バンドがいるにも関わらず、見せつけるようなことは絶対したくない。せっかくバンドがいるんだから、彼らとともに、より大きな音楽を作ろうと考えたんだ。もし、音楽が主(マスター)で、一番上に存在するものとして尊く思うなら、曲のどの部分で音を鳴らせばよいか、どんなサウンドにすべきかは自ずとわかってくると思っているんだ。音楽に対して奉仕することを常に考えているよ。僕は確かにトランペットに関しては職人かも知れない。ただ、それは技術があるということ。つまり誰でも学べることなんだ。だから、大切なのは、学んだことをどんなふうに表現してゆくか。だから、僕は自分の技術を見せびらかしたりはしない。それは音楽に対して敬意を払っているからなんだ。

-- 今回のアルバムを聴くと、クールでストイック、そして静かなファンクネスを感じます。まるで、1970年代のエレクトリックジャズが進化したような。

そうだね。その頃はロックがジャズに大きな影響を与えていた。特にビート面でね。それまでのスゥイングじゃなくて、8ビートなどを始めとして、それまでのジャズとは大きく変わっていったんだ。当時のジャズミュージシャンはそんなリズムパートを極めて慎重に作っていったんだと思う。

-- なるほど、だから新譜でもその辺りを丁寧に作っていったと。


できるだけ音を少なく、厳選された要素だけで構築したんだ。エレキベースに関しても指使いが感じられるようにしたかった。70年代のリズミックスタイルのようにね。フェンダーローズとアナログシンセが一緒になった際の雰囲気もとても良いものになったよ。

-- 僕は最初聴いたとき、マイルズ・デイヴィズの『イン・ア・サイレント・ウェイ』と通じる世界観があると思いました。トランペットを中心として、様々な楽器の音色が重なり合って大きな空間を作っているからです。

 

マイルズはジャズのイノヴェーターであることはもちろん間違いないことだね。僕は彼のシークレットレコーディングを所有していて、時折聴くんだけど、『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ビッチズ・ブルー』のころは混沌としていて、何を表現したいのか、わからないこともある。僕はそうした世界よりももっと、透明感のある音楽を求めているんだ。空間のあるサウンドと言ってもいいと思う。だから、今回はミュージシャン同士がぶつかり合って、爆発を起こすのではなく、必要最低限の空間を作りたかったんだ。みんなで音楽に対して奉仕をしてゆく、そこから新しいものを築いてゆく。そんなスタンスで取り組んでいったんだ。音楽に奉仕する一員としてね。アルバムタイトルは、そんな一員としての自分をも指しているんだよ。



-- では、その一員として、トランペット奏者の立場から気を配ったことはありますか? 音色とか奏法とかに関して。

今までと変わりはないと思う。僕が気をつけているのは、トランペットやフリューゲルホーンの音色をできるだけ、人の声に近づけることなんだ。それに、どんなプロジェクトに参加しても、僕のトランペットだとすぐにわかってもらえることも重要だね。また、ジャズ以外のミュージシャン、たとえばセルジオ・メンデスやアニー・レノックスたちからも声がかかるんだ。それはとてもチャレンジングなことだよ。でも、そこで一番大事にしているのは、やはり音楽への奉仕なんだ。音楽はとてつもなく重要なもの。それに対して奉仕をする、つまり自分よりも尊いものがそこにあるんだ、という感覚を忘れないようにしているんだよ。

-- 音楽への奉仕。これはあなたの活動の中でも大切なキーワードですね。


そうだね。音楽よりも偉大なミュージシャンは、一人たりとも地球上に存在しないからね。

 

 

<インタビュー・文 /  中林直樹

リリース情報

 

ドイツ・ベルリンのジャズ貴公子、堂々帰還。

New Album

『ティル・ブレナー』

NOW ON SALE!
Verve
UCCM-1219 / ¥2,600 (tax in)

 

<収録曲>
01. ウィル・オブ・ネイチャー
02. F.F.H.
03. リターン・トゥ・ザ・フォールド
04. ジブラルタル
05. ペガサス
06. レッド・ストリート
07. コンドル
08. レイジー・アフターヌーン
09. ワッキー・ウェス
10. ザ・ゲイト
11. ハーフ・ストーリー
12. ワンス・アポン・ア・サマータイム
13. トリスチ (ボーナス・トラック)
14. ティルズ・ブルース (ボーナス・トラック)

 

 

プロフィール

Till Brönner
(ティル・ブレナー)
1971年5月6日ドイツ生まれ。由緒ある音楽一家に生まれ、9歳の時にトランペットを始める。クラシックの訓練を積み、さまざまなコンテストで優勝。15歳の時にはジャズのコンテストでも優勝し、以降、連邦ジャズ・オーケストラに最年少メンバーとして参加。一方、ケルン音楽大学でトランペットを専攻し、弱冠20歳でベルリンを拠点に活動するホルスト・ヤンコフスキー・オーケストラのビッグバンドのメンバーとなる。1993年に伝説的ベーシストのレイ・ブラウンが参加した初リーダー作『ジェネレーション・オブ・ジャズ』を発表。さらに『マイ・シークレット・ラヴ』(1995/同)、『ジャーマン・ソングス』(1996/同)と立て続けにリーダー作を発表。 『ジャーマン・ソングス』では、旧ドイツの古い映画音楽を新鮮なアレンジによって蘇らせ、ドイツ国内で絶賛を浴びた。続く『ミッドナイト』 (1997/BMG)では、マイケル・ブレッカー(ts)をはじめとするNYジャズ界の実力派を迎え、グルーヴィーな作品を完成させた。1999年5月にヴァーヴ移籍第一弾作『love』が日本発売。スイングジャーナル誌選定に選ばれ、その年の同誌主催のジャズ・ディスク大賞で< ニュー・スター賞>も獲得。2001年、写真家ウィリアム・クラクストンのドキュメンタリー映画『JAZZ SEEN/カメラが聴いたジャズ』のサウンドトラックを担当。2002年発表の『ブルー・アイド・ソウル』では、ファンクやDJの要素を絶妙に取り入れた、アーバンでスタイリッシュな新世代のジャズ・サウンドを表現し、絶賛を浴びた。最近ではニコラ・コンテの『アザー・ディレクションズ』(Blue Note)や、トゥーツ・シールマンスの新作『ワン・モア・フォー・ザ・ロード』(Verve)にゲスト参加するなど、ヨーロッパを中心にますます注目度をUPさせている。

【LINK】
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