Nada Surfのメンバー2人が緊急来日を果たした。新しくリリースしたカバー・アルバム『if i had a hi-fi』のプロモーションのためなのだが、昨年夏に『NANO-MUGEN FES.2009』で念願の初来日が実現して以降、彼らを取り巻く状況は一変、身辺が騒がしくなってきたことは間違いない。デビュー以来の熱心なファンはもちろん、それまで彼らを知らなかった、いわゆるアジカン・ファンが加わり、かつてないほどの衆目を集めることとなっているのだ。いいバンドが多くの音楽ファンの耳に届くのは嬉しい限り。というわけで、マシューとアイラの2人に、昨年の来日の思い出とアジカンの親交、そのアジカンの名曲「ムスタング」をカバーしたアルバム『if i had a hi-fi』や目前に控えるSummer Sonic '10についての展望を聞きました。
-- 少し古い話で恐縮ですが、昨年の『NANO-MUGEN FES.2009』でのステージは本当に素晴らしかったです。今思い返してみて、どんな思い出になっていますか。
マシュー:いい経験をさせてもらったね。それまでずっと日本に来てライブをやりたいと思っていたんだけど、なかなか実現しなくて、僕らを呼んでくれたASIAN KUNG-FU GENERATIONには感謝しているよ。長年の夢がかなって嬉しかったのと同時に、あんなに大きな会場でライブができたってことに驚いたよね。来場者の温かい気持ちに感動したよ。来日を待ち続けてくれたファンの熱い気持ちも伝わってきたし、僕らの音楽を聴いたことがない人も熱心に耳を傾けてくれていたね。今思い返してもすごくいいライブだったよ。
-- 去年NANO-MUGEN FES.2009が行われた会場は横浜アリーナでしたが、あなたたちはあの規模の会場でライブをやることは珍しいのですか。
マシュー:僕らは野外のロック・フェスティバルにはよく出ているから、大観衆の前で演奏することは多いんだけど、屋内であれだけ大きな会場でやったのは初めてかもしれない。野外フェスと屋内では音の鳴り方が違うから新鮮だったよ。でも去年のステージはサウンドもよかったと思う。僕らは最初のほうの出番だったこともあるのか、時間ギリギリまでサウンドチェックが出来たんだ。それに僕らのライブ・スタッフのエンジニアは優秀なんだよ。
-- その通り、その日の会場はとてもいい雰囲気になっていましたね。
マシュー:何年か前にマジソン・スクエア・ガーデンでニール・ヤングのライブを観にいったことがあって、そのときの前座がソニック・ユースだったんだけど、ニューヨークのお客はせっかくソニック・ユースが演奏しているのに全然聞こうとしていないんだ。ずっと売店でコーラかなんかを飲んでいて、席に着こうとしないんだよね。僕らもソニック・ユースみたいになるのかな、って心配していたんだけど、そんなことなくてみんながアリーナにいてくれてうれしかったよ。ホントすごく盛り上がったよね。
-- ASIAN KUNG-FU GENERATIONに感謝ですね。彼らは心からあなた方のファンのようですからね。
マシュー:嬉しいね。彼らにはとても感謝しているよ。昨日もタワーレコードでインストア・ライブをやったんだけど、アジカンのギターの喜多(建介)さんが参加してくれて、「ムスタング」を演奏したんだ。ほかにも彼らのラジオ番組にも出演させてもらったりね。いつも彼らのファンに僕らを紹介してもらっているんだ。僕らも同じようにアメリカをツアーで回るときは、僕らが気に入っている新しいバンドに声をかけるんだけど、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのほうが全然規模が大きいね(笑)。
-- 今回のカバー・アルバム『if i had a hi-fi』ではASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ムスタング」をカバーしていますね。いかがでしたか。
マシュー:すごく気に入っているよ。僕はゴッチ(後藤正文)の書く歌詞の世界観が好きなんだ。ちょうど昨日、出来上がったばかりのASIAN KUNG-FU GENERATIONの新しいアルバムを聞かせてもらって、新曲の歌詞の内容も教えてもらったんだけど、そのアルバムで書かれている歌詞の世界観は「ムスタング」と共通するものがあるって思ったんだ。彼の作風は一貫しているんだって感心したよ。日常の中で起こる出来事の断片、例えば悲しい気持ちや辛い気持ちや後悔の気持ちって誰もが持っていると思うんだけど、そのネガティブ感情と希望というポジティブな感情の同居のさせ方が見事なんだよね。「ムスタング」は、雨を象徴的事例として出して、ネガティブのことをポジティブに転換させているよね。素晴らしい詩人だと思うよ。
-- 「ムスタング」では日本語詞を英語にして歌っていますが。
マシュー:すごく思い白い作業だったよ。「ムスタング」は抽象的な歌詞だから、行間を読むような部分を自分なりに解釈して、言葉で埋めていったんだ。この曲はとにかくメロディにフックがあってキャッチーだから、頭にこびりついて夜眠れないくらいだったよ(笑)。それはスピッツの「空も飛べるはず」も同様。とにかく日本語曲のレコーディングは楽しかったよ。
-- 日本語曲の特徴とか、感じたことはありますか。
マシュー:語れるほど日本の曲については知らないけど、今回いくつか歌ってみたうえでの感想を言うと、日本の曲はメロディ重視だということは分かったね。それはやはり日本語という言葉との関係性が強いんだろうな。ポップ・ミュージックって言語に影響されるものだからね。僕はフランス語も出来るんだけど、フランス語は子音が重要で、フランス語の曲では、英語の曲のように母音を伸ばすことが出来ないんだ。フランス語のロックバンドが少ないのはフランス語はロックに似合わないからなんだろうな。君は日本語ポップスの特徴をどう思うの?
-- リフ重視の洋楽に比べると、日本語のポップスはメロディの構成がきっちり決まったものが多いですよね。
マシュー:そうかもしれないね。昨日、後藤さんと対談していて面白かったのは、彼は最近ヒップホップをよく聞くと言っていたんだ。ヒップホップのほうが、形式にとらわれずに自由にやっているからという理由だった。ヒップホップを聞くと曲を書くときにいい刺激になるって言っていたんだけど、それは僕も同じで、僕がロックの曲を作るときはバースの1番、2番いってからサビみたいにきっちりとその法則に従っているんだけど、ヒップホップを聞くとそういう法則を全然考えていないことが分かるよね。ヒップホップは、とにかく自由でサビにフックのあるメロディを置けばOKって感じだよね。後藤さんが言っていたように、僕も今後はヒップホップの自由さに刺激を受けて、作風の幅を広げていきたいと思っているんだ。でも家でラップをやってみたらあまりにも下手だったんで、僕らのアルバムの中で分かりやすいかたちでヒップホップの要素を入れることはないと思う(笑)。まあ、フレージングということだよね。
-- 『if i had a hi-fi』はあまり一般的に知られていない曲が選ばれていますね。普通のカバー・アルバムは、とりあえず名曲が収録されていると思うのですが。
アイラ:それは僕らが常に有名ではない曲を聴いているからだと思う。自分の知らない曲で心に刺さる曲はないか、というのをいつも探しているからね。それがこのアルバムに出たんだよ。もうひとつは、それのほうが作っていて面白いと思ったんだ。名曲って神聖なものだから、それを汚す心配もないし、先にその曲をカバーした誰かと比較されることもない。でもデペッシュ・モードの「Enjoy The Silence」に関しては、「最高だね」という意見と「ありえない」っていう意見と両方あったんだ。でも、その反応は面白くて、やってみた価値があったと思うところなんだ。
マシュー:自分たちが影響受けたロックの名曲を本気でカバーしたアルバムを作ってしまうと、ファンもあまり驚かないだろうし、僕らも課題に取り組まなければいけない感じになって、あまり楽しめないだろうって思ったんだ。メジャーにいたらこの選曲では作るのは難しかっただろうな。もっと有名な曲を入れろって言われていたはずだよ。
-- 有名曲ではないぶん、オリジナル・アルバムのようでさえありますよね。しかもすごく丁寧に作っている印象があるので。
マシュー:最初は気楽に「カバーでもやるか」ってノリだったんだけど、レコーディングに入ったら、気合が入ってしまってね。僕らはONかOFFしかないんだと思う。それに本当に好きな曲は手を抜いてカバーは出来ないんだよね。結果的に、いいアルバムになったし、反響もあったし、このアルバムでツアーまで出来ることになったんだ。素晴らしいことだよ。
-- いいミュージシャンはミュージシャンである前にいいリスナーであるということが言えると思います。音楽を聴きこまないで名曲を作れる人は本当に天才ですよね。
マシュー:そうだよね。最近、インディーっていう言葉は曖昧になってきているけど、インディーやオルタナティブのロックをやっている人たちは、けして音楽的なテクニックがあるわけではなく、センスや多くの音楽を聴いてきた音楽への愛情の強さで活動しているわけだからね。いろんな音楽に興味をもつという姿勢だけは持っていたいと思うよ。
-- 12曲目に収録されているTHE SILLY PILLOWSの「I Remembered What I Was Going To Say」ってアマチュア・ミュージシャンの曲なんですよね。このアルバムを象徴する曲だと思います。
マシュー:2、3年前に、僕らの周りにいる優れたアマチュア・ミュージシャンの曲をカバーしたアルバムを作ろうという話があったんだ。その流れでカバーした曲なんだけど、このTHE SILLY PILLOWSは僕の姉の夫がやっているバンドなんだ。彼はずっとアマチュアで音楽をやっていて、曲を作ってはカセットに入れて、20曲入りのアルバムみたいにしていたんだ。それを知ったのは僕が17歳のときだったんだけど、すごく驚いたんだよね。何せそれまではメジャーな曲しか知らなかったわけだからさ。4チャンネルのMTRを使って、全然弦を張り替えていないようなギターで歌っているんだから、まさに手作りの音楽。世の中にはこういう風に音楽が楽しめるんだって教えてもらったよ。今ではTHE SILLY PILLOWSの音は各国のインディーから出ているんで、CDを入手することができるはずだよ。よかったら聞いてみてよ。
-- 8月にはSummer Sonic '10への出演が決まっています。心意気を聞かせてください。
マシュー:今僕らは4人編成でライブをやっていて、演奏の幅が広がっているんだ。それに、この間ニューヨークで今までのアルバムを完全再現したライブをやってセットリストのバリエーションも豊富になってきているから、ライブバンドとしてもいい感じで出来ているんだよね。いい状況でサマソニに臨めると思うからいいライブが見せられると思うよ。楽しみにしていてよ。
アイラ:それが終わると、9月から本格的にニューアルバムのレコーディングに取り掛かろうと思うよ。せっかく、日本での状況ができているわけだから、なるべく早く出せるように努力するよ。
<インタビュー・文 / 竹部吉晃>
リリース情報
『if i had a hi-fi』
NOW ON SALE!
Ki/oon
KSCP-935 / ¥2,520(tax in)
ライブ情報
単独来日公演決定!
8.5(木) 東京 代官山UNIT
『SUMMER SONIC 2010』
8.7(土)千葉マリンスタジアム&幕張メッセ
詳しくはこちらへ
Creativeman
http://www.summersonic.com/2010
プロフィール
Nada Surf(ナダ・サーフ)
マシュー・カーズ(G/Vo)、ダニエル・ロルカ(B/Vo)、アイラ・エリオット(Dr)
NYの高校の同級生だったマシューとダニエルが1993年に結成。その後、アイラが加入して1996年、リック・オケイセックを迎えてデビュー・アルバム 『High/Low』リリース。“ポストWeezer”と賞されメディアの注目を浴びた。2枚目のアルバム以降、紆余曲折ありつつも『Let Go』や『The Weight Is A Gift』をリリース。質の高い音楽性と精力的かつ誠実な活動展開で評価の気運が高まるなか、5作目「lucky」をリリース。昨年は“NANO- MUGEN FES.2009”で待望の初来日。







