ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2009年1月号 - P.02



ミシェル・ルグランが語る『シェルブールの雨傘』&『ロシュフォールの恋人たち』

『シェルブールの雨傘』


 ジャックは歌が完全に話し言葉に取って代るような、大々的なミュージカル映画を作りたがっていました。ですが、我々は日常生活に近く、現実的な次元のものにしたいと思っていたのです。そのため、オペラのように、過度に叙情的になるのを避ける必要がありました。話し言葉に出来るだけ近いテンポで歌い、日常の言葉と同じような緩急のあるものを考えていたのです。最終的に映画は話し言葉と歌の境界線上にあって、この二極の間でバランスを保ったものになりました。とはいえ、求めていたスタイルに辿り着くまでには、かなりの試行錯誤がありました。

 最初の試作は作り込み過ぎて、素朴さや判りやすさに欠けていたのです。何ヶ月経っても妙案が見付かりませんでした。ところが、11月11日の週末、ノワルムティエにいる時に閃いたんです。宝石店のシークエンスの「困っているのです。ジュヌヴィエーヴは大人になって出来る限り手伝ってはくれているのですが...」の部分です。それからはあっという間でした。糸巻きと同じで、糸口が見つかった後は引っ張るだけでした。

 ポスト・パリジャンでのレコーディングは、私にとって忘れられないひとときです。リズムのはっきりした部分があるため、姉のクリスチャンヌやジョゼ・バルテル、ダニエル・リカーリなど、ジャズに慣れた歌手を選びました。歌のレコ―ディングの時、俳優たちはミキサー室で立ち会っていました。カトリーヌ・ドヌーヴは自分の役を歌うダニエル・リカーリを見て、演技指導していました。「私ならたぶんその台詞はもっと無関心な感じに言うのではないかしら。そちらはもっと心配そうな感じで...」というふうに、撮影が効率良く進むようにしたのです。

 1964年2月の公開後、『シェルブールの雨傘』は、次第に成功の階段を上っていきました。ルイ・デリュック賞、カンヌ映画祭パルムドール、そして、国際的に認められ、メイン・テーマが次々とカヴァーされ...あまりの大騒動に我々は驚き、呆然としました。このプロジェクトが資金面で対面した困難に比例するような騒ぎだったのです。大成功というのは、しばしば物事に逆行して得られるものなんですね。


『ロシュフォールの恋人たち』


 『シェルブールの雨傘』に続いて、ジャックが最初に思いついたのは、会話や歌、踊りのシークエンスを織り交ぜて、アメリカのミュージカルに対するオマージュとなるような映画を作りたいということでした。ジャックは、ナントとシェルブールの次に、別の港町、ロシュフォールから夢を生み出したのです。彼はこの作品の音楽を"歓喜がつむじ風のように吹き渡り、常に幸福感が漂うもの"になることを望んでいました。ところが、私の作る音楽は、リリカルでロマンティック、かつドラマティックな点が特徴なので、ジャックが期待するような躍動感に溢れた主題や、ジャズふうのワルツを生み出すのに苦労しました。もうひとつ難しかったのは、歌詞がアレクサンドラン(強弱格6脚からなる、16世紀フランスの古典ドラマの伝統的なスタイル)で韻を踏んでいることでした。あのように一定のリズムが続くのは全く非音楽的に思えたのです。ですから、ジャックの書いたアレクサンドランを崩して私の旋律に合わせられないかと何時間もかけて試してみました。

 撮影期間中、私は定期的にロシュフォールを訪れました。撮影フロアの技術や機材の規模を見て、ジャックの置かれている立場が変わったことが判りました。初めの3本の映画を経済的な理由から少人数で撮影していたのに対し、『ロシュフォールの恋人たち』は、見るからに制作面で楽になっていました。群集のシークエンスやクレーンの使用、ジーン・ケリーやジョージ・チャキリス、振付師ノーマン・メーンや英国人ダンサーたちがいることからも、一気にジャックが別の次元で仕事をしていることが明らかでした。『ロシュフォールの恋人たち』は、ジャックの映画のなかにダンスが入るきっかけとなった映画でもあるのです。ジャックと私が、互いに無視し合っている恋人たちを、ひとつの同じテーマで、まるで目に見えない糸で繋いだかのような映画です。そもそも作曲の段階で、我々は次のような方針を立てていたのです「登場人物の物理的な状態を必ず音楽にも反映させなければならない!」と。

 『ロシュフォールの恋人たち』は、我々の創造的な兄弟愛から生まれた作品のなかでも、とりわけ明るく最も楽観的な作品です。


『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』
デジタルリマスター版 日本先行上映!


2009年1/31(土)シネセゾン渋谷より
全国順次ロードショー

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http://demy.jp/




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2012年3月17日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[2]』

第2回は「シェルブールの雨傘」を中心に貴重なデモや関連楽曲を映像と共に紹介。

池袋コミュニティ・カレッジ
(豊島区南池袋 1-28-1
西武池袋本店別館 8・9階)

●受講お申し込みに関する詳細は、 池袋コミュニティ・カレッジHPをご覧ください。
また、お電話でのお問い合わせは、03-5949-5486まで。
濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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