ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2009年5月号 - P.01

 日本を代表するポップス・シンガー大橋純子が、今年デビュー35周年を迎える。それを記念して、これまで作品を発表してきた三社から、オリジナル・アルバムの復刻盤と、新たに編まれたシングル・コレクション「コンプリート・シングル・ベスト」、そして待望のニュー・アルバム「Terra 2」が同時発売されることとなった。
 デビュー以来、常に第一線で活動を続けてきた彼女、過去にアルバムが復刻されることはあったが、ここまで大掛かりなものはおそらくこれが初めてだろう。時系列に聴き進めることで、そのヴォーカル・スタイルとアルバムごとのサウンドの変遷が存分に楽しめる趣向だ。ここでは、各アルバムの聴き所を順に紹介しておこう。

 ユニバーサル ミュージックからはフィリップス時代に発表されたアルバム11枚と全レコード会社で発売した大橋純子名義のシングルA面を中心に編まれたシングル・ベストが発売。再発アルバムには、アナログ盤発売時に付けられた帯や歌詞カードまでを忠実に再現し、加えてアルバム未収録の楽曲がボーナストラックとして追加収録されている。

 デビュー・アルバム『フィーリング・ナウ』(1974年6月発売)はニュー・ミュージックと呼ばれるジャンルを作った先駆け的な作品で、オリジナル・フォーマットではこれが初CD化となる。ジャケットも初回に発表されたオリジナル・ジャケットを採用。フィリップス時代のほぼ全ての作品でディレクションを務めたのは、フィリップスの看板アーティストだった森山良子やザ・スパイダースらを手掛けた本城和治。後年、彼は大橋がデビュー前に録音したデモテープを聴いた際、大きな衝撃を受けたと述懐しており、とりわけメルバ・ムーアの歌唱で知られる「He Ain't Heavy, He's My Brother」を彼女と同じキーで楽に歌いこなす大橋の歌声にすぐさま魅了されたと語っている。その声質と音域に惚れ込んだ本城は、このデビュー・アルバムでポップスにリファインされたソウル・ミュージックの実現を目指し、洋楽カヴァーとオリジナル曲を織り交ぜた構成を提案、大橋はその期待に見事に応えている。ちなみに、大橋とは公私共にパートナーとなる作・編曲家の佐藤 健も本作から録音に参加している。

 続くセカンド・アルバム『PAPER MOON』(1976年5月発売)は2年の間隔を経て、前作とは打って変わって、全曲日本語によるアルバムである。シングル・カットされて人気を博した表題曲のほか「やさしい人」や「キャシーの噂」など今も人気の楽曲が多数収録されているのも聴き所のひとつ。発売当時は、山口百恵が雑誌の取材などで本作をフェイバリット・アルバムに挙げていたそうで、ほかにも小柳ルミ子や天地真理、梓みちよら多くの歌手に愛されたアルバムだ。
作家陣に目を向けると、作曲に筒美京平、林哲司、ミッキー吉野、佐藤 健、樋口康雄ら、作詞に松本 隆、竜真知子、伊藤アキラといった布陣を迎え、現在なお色褪せない名曲が満載である。大橋によれば、「それまで誰も歌っていない全くの手つかずの曲を自分が歌って色を付けるという点がとても難しかった」という。

 サード・アルバム『RAINBOW』(77年4月発売)からは大橋純子&美乃家セントラル・ステイション名義での活動をスタート。収録曲は佐藤 健をはじめ土屋昌巳ら同グループのメンバーが中心となって書かれており、大橋にとってはかねてから念願のバンド活動をスタートさせる記念すべきアルバムとなった。なお、本作にはマジョルカ世界音楽祭3位、東京音楽祭のシルバー・カナリー賞、外国審査員団賞を受賞し、大ヒットとなった「シンプル・ラブ」も収録。

 『CRYSTAL CITY』(77年11月発売)、『沙浪夢 SHALOM』(78年6月発売)は短期間に集中して制作されたアルバムで、前者は、近年、SoulJaのプロデュースを手掛けた川添象郎によるもの。いずれのアルバムもよりバンド色が濃厚になり、サウンドにはバンド・メンバーの指向が如実に表れている。特に後者はコンセプチュアルな広がりのあるトータル・アルバムを目指し、全体のイメージとして、アース・ウィンド&ファイアーからの影響が色濃く反映された。大橋によれば、「デビュー前から思い描いていた"バンドのなかのリード・ヴォーカリスト"という意識をもっと強く出したかった」ようで、その意志が全編に反映され、よりバンドとの一体感が図られている。

 『FLUSH』(1978年12月発売)は「たそがれマイ・ラブ」のヒット後に発表されたアルバムで、その流れを受けてか同曲を手掛けた筒美京平が半数の楽曲を書き下ろし、さながらバンド・サイドと筒美サイドの二つの世界が同居した異色作となった。一方、『FULL HOUSE』(1979年6月発売)は、バンド・メンバーの異動もあり、ややマイルドに変化した新たなサウンドが楽しめる。そしてその流れを受けて制作されたのが『HOT LIFE』(1980年4月発売)。前作で出来上がったバンド・サウンドを引き継ぐ形でバンドの一体感に重きを置いて作られたのが特長だ。ただし残念なことに本作をもってバンドによるアルバム制作は一旦休止、続く『Tea For Tears』(1981年5月発売)では全ての編曲が萩田光雄に委ねられた。

 『黄昏』(1982年6月発売)は大橋にとって念願だった初の海外レコーディングが実現したアルバム。ホーン・セクションにアース・ウィンド&ファイヤーのTom Tom 84らを迎えロサンゼルスのスタジオにてレコーディングされた。収録曲の大半が佐藤によるもので、大橋にとって新たな一歩を踏み出した記念碑的アルバムといえるだろう。

 そしてフィリップス時代の最後のアルバムとなったのが『POINT ZERO』(1983年7月発売)。前作に続く海外レコーディングで、今回は大橋にとって憧れのニューヨークでデヴィッド・サンボーンら辣腕ミュージシャンを迎えてのレコーディングが行なわれた。そして、この時の刺激的な体験がきっかけとなり、大橋は彼の地に移り住み、一時活動を休止することになる。
フィーリング・ナウ PAPER MOON RAINBOW CRYSTAL CITY 沙浪夢 SHALOM FLUSH FULL HOUSE HOT LIFE Tea For Tears 黄昏 POINT ZERO




【音楽職人トピックス】



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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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