ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2009年8月号 - P.02



--毎回、参加企業は何社くらいあったんですか?

30から40社はあったんじゃないのかな? 年間二回くらいやりましたしね。で、どこがコマソンを制作するんだってことになった時に、朝日放送は昔からの付き合いもあって、当然、鶏郎さんの三芸(※2)に大量に委託するんです。でもって、三芸は三芸で、詞の書き手がいっぱい必要なわけ。結果、作曲も鶏郎さんだけじゃ間に合わないから、桜井(順)さんも書いたし、越部(信義)さんも書いた。作家たちにしてみれば、単価が安くても、まとまって仕事になるのは魅力だから、みんなやったんです。それを受けることが、ある種のトレーニングにもなったわけですよ。

--素晴らしいシステムじゃないですか。

そうそう。

--その流れを作ったのはどなたなんですか? 局のディレクターなんでしょうか。それとも民放開局と同時に自然に出来た流れですか?

誰というでなく、自然の流れでしょうね。民放が出来て、各局のスポンサーが、CMってものを流さなきゃいけないと。それには歌が必要だっていうのはさ。局が要求したのか、鶏郎さんが売り込んだのか判らないけど、とにかくスポンサーは、どこも歌を用意したわけ。そうやって、いつしかコマソンが浸透していったんですよ。

--ここで伊藤さんの仕事に話を戻しますが、最初に作詞された作品ってどんなものですか。

覚えてないなぁ。とにかく並行して色々書いたから、どれが最初か判らないです。特にミュージカル・スポットは、一回につき何本も書いたから。

--ちなみに、当時、鶏郎さんから学んだことを端的に挙げるとすれば?

「コマソンとは"キャッチフレーズ・ウィズ・ ミュージック"である」ってことです。実際、学んだことはそれだけなんですよ。しかも、それは一回目の講義で聞いた話なんです。あの人、お父さんは弁護士だし、自分も法学部だから、何でも定義から入るのね。一回目の講義で「今日はコマソンの話をする。コマソンとは何か。定義から入ろう」なんて言ってさ。黒板に「コマソンとは"キャッチフレーズ・ウィズ・ ミュージック"」と書いて「これだ!」なんて言ってね。正直、それしか教わらなかったんだけど、私の場合、それで一生やってきちゃったってとこがあるんだよね。だからおそらく、今回まとまった作品集を聴いて頂いても、ほとんどの作品は"キャッチフレーズ・ウィズ・ ミュージック"になってると思いますよ。CM音楽の宿命として、歌つきの作品の場合は15秒になり、30秒になり、60秒にもなる。で、その15秒のフレーズは30秒、60秒どちらにも出てくるわけです。つまり、基本となる15秒型は"キャッチフレーズ・ウィズ・ ミュージック"の部分なんですよ。

--なるほど。

しかし、鶏郎さんから学んだのが最初の講義で聞いた、"キャッチフレーズ・ウィズ・ ミュージック"ただそれだけだってのもすごい話なんだけど、定義ってのはそういうことなんだよね。全てに当てはまるからこそ定義なんです。

--鶏郎さんとのお付き合いはいかがでしょう。実際に仕事をされるわけですが、仕事の進め方はどんな感じでしたか?

鶏郎さんはもう雲の上の人ですからね。その教室っていうか、凡天寮の講義の時に会えるかどうかってだけのお付き合いですよ。あとは原稿を出しに行った時に、向こうのほうにいるのを見かけたとかその程度です。

--ご本人としてはいかがですか。こうして、ご自身が書かれたCMソングの作品集が世に出ることについて。

最初はね、そんなものありえないだろうと思いましたよ。これが、作曲家が自分の作品集をまとめるっていうことであれば、音の世界の一貫性みたいなものがあって、全曲聴いた時にそれが判るって仕掛けが作れるんでしょうけど、詞の場合は果たして一貫性があるんだろうかと。でも、実際、こうやってまとめてみると、毎回違う切り口で書くことををモットーとしてやってきたので、全然バラバラな仕事をしてきたつもりが、通して聴くとなにやら「伊藤アキラ、その詞の世界」みたいなものが見えてきそうだなって気がしてきました。そもそもCM音楽って、その瞬間のものじゃないですか。その瞬間に生きることを心して書いてきたんだけど「あれ? これって今使ってもいけるんじゃない?」って作品がいくつかあるようなんですよね。

--以前、ON・アソシエイツの大森(昭男)さんがこんなことをおっしゃってました。「伊藤さんは商品になりきれる人」だって。商品がサイダーだったらサイダーになりきって書ける人だと。「その商品の特性をうまく伝えることが出来るのが、伊藤さんのすごいところです」って。

私のCMソングの詞の世界を自分なりに考えてみるとね。「あ、これか!」と思える特徴がひとつある。それは、抽象度なんです。書く時に抽象度が一番低いと対象に対してベタついていけないんだけど、そこから抽象度の目盛をちょっと上げてやるんです。すると、どんな絵(映像)がきてもはまるんですよ。私の場合、そうやって抽象度をある程度高めたところで表現するっていう訓練をずっとやってきた気がしますね。それは、遡ると初期の鶏郎時代のコマソン作りで培ったものだと思います。あの頃はコマソンひとつ作ると、それに対して絵を次々と変える時代だったから。つまり、歌が絵を規制してはいけない、ということです。なぜなら、映像が困っちゃうから。ところが、ちょっと高い抽象度で作詞すると、絵は自由に動けるんです。結局は、私は知らず知らずのうちに 鶏郎さんのDNAを受け継いだんだなって気がしますね。凡天寮での「コマソンとは...」の講義から始まって、いいところはみんな頂いた気がしますよ。

--ところで、伊藤さんは作詞に時間をかけるタイプですか?

締め切り前には必ず出るようになってます。それは自分を躾けるんです。身に付くまでに長い時間かかりましたけどね。締め切りの二時間前に取り掛かって、上がったらそのまま持って行ったりします。二時間前に取り掛かれば二時間後には出来上がる。それも三案は出来上がる。そうやらないと仕事を一日に複数取れないんだよね。生産の見込みが立たないから。

--多い時はどのくらい書かれましたか。

以前、事務所を引っ越す時に古い手帳が出てきたので見返したら、一日に締め切りが三つ四つ重なってることがありました。

--では、最後に今回発売される「伊藤アキラCMソング傑作選」について伺います。完成したCDをお聴きになっていかがですか。今回は自薦という形で選曲が絞り込まれましたが、その際に基準は? また、今回漏れた作品のなかで「これはいずれCD化して欲しい!」というものがあればその作品名を教えて下さい。

選曲の際に何度も聴いたわけですが、1曲目から50曲目まで通して聴くと、またちがった感慨があります。よくもまあ、あの手この手で書き続けたというか(笑)。それはまた、CMソングという表現分野の奥の深さなんでしょうね。コレと定まった様式がない。なんでもありの楽しい世界だとあらためて感じます。そのことが選曲の基準にもなりました。できるだけ巾の広さを聴く人に感じてもらいたい、これがひとつ。そしてもうひとつが、自分でも「うまくできたな」と思える作品を収録しました。
 今回収録したかったのにできなかった、という作品はほとんどが音源行方不明のものです。入れたくても音源がない。例えば、弘田三枝子さんが歌った「ハウス印度カレー」、これは鶏郎さんの「三芸」時代に作詞したものですが、どこを探してもみつからない。

--最後の質問です。伊藤さんにとってコマソンとは?

「おもしろい」のひとこと。私はレコードやCDの詞を書いても、子どもの歌を書いても、童話を書いても、いつもそこに「おもしろさ」をみつけようとしてきました。早い時点でおもしろさに気付いたのがコマソン、50年たってもおもしろいと思えるのがコマソン、そういう存在ですね。



(本稿は、「レコードコレクターズ」誌2008年9月号~11月号掲載記事に、新規取材での証言を加えて再構成したものです)

※1 1957年11月1日に「第1回 シンギング・コマーシャル・コンクール」としてスタート。翌年の「開局7周年記念 シンギング・コマーシャル・コンクール」を経て、1959年11月1日には「ミュージカル・スポット・コンクール」と改題された。

※2「冗談工房」と「音楽工房」、「TV工房」の三つの部門を統合経営した有限会社。
 
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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

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