ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE スペシャル - P.01



 テレビドラマのサントラ盤は、作品のファンにとっては物語を反芻するための格好のアイテムで、さらに、台詞に被って聴き取れなかったメロディや場面転換のために寸断された演奏のその先を改めて音楽作品として楽しめる魅力的なものだ。
従来はコアなファンによって支持されてきたテレビドラマのサントラ盤も、90年代以降は確固たる人気を確立し、そこからは数々のヒットチャートを賑わす人気タイトルが生まれている。しかも、収録曲はドラマを離れて、バラエティやドキュメンタリー、ニュースなど別の分野の番組で使用され、いつしか耳馴染みとなるケースが多い。ドラマの付帯音楽、いわゆる〈劇伴〉と呼ばれる本来の役割から解き放たれ、楽曲そのものが様々な用途に合わせて使用されるためである。
そんななか、手掛けた作品の大半が音盤化され、常に聴き手を魅了しているのが、作曲家・吉俣良による諸作品だ。彼の作品も前述のように様々な分野で紹介され、いつしか視聴者の耳に届き、その心を掴んでいる。ドラマ本編は未見でも、彼の音楽には馴染みがあるという人は多いのではないだろうか。
自身の色を出しにくい劇音楽の世界で、一度耳にしただけでそれと判る個性を放ち、作品のイメージを倍加させる美しくも印象的なメロディを生み出す彼は、今や日本のドラマ界になくてはならない存在と言っていい。それは先頃発売された作品集『Best Soundtracks~篤姫BEST and more~』収録のラインナップを見れば明らかだ。古くは『おいしい関係』(96年)、『眠れる森』(98年)から『Dr.コトー診療所2006』(06年)、『薔薇のない花屋』(08年)、そしてサントラ界では異例の10万枚のセールスを記録した代表作『篤姫』(08年)まで。まさに名曲・名演が揃っている。
同作は『篤姫』の既発盤未収録曲を含むベスト盤と、既発サントラから厳選されたベスト盤、さらに昨年7月に行なわれた自身の初のソロコンサート『Premium meets Premium2008 吉俣良 Colorless~ドラマ空間~』の映像を収録したDVDの3枚を同梱したもので、入門者はもとよりコアなファンをも満足させる文字通りのベスト盤だ。吉俣良の作風を知るには最適の作品集である。そんな吉俣氏に創作時の逸話や作品に傾ける思いを聞いた。


--『Best Soundtracks〜篤姫BEST and more〜』は、どのような基準で選曲されたのですか。

今回、基本的に選曲は全部スタッフに委ねてみました。というのも、そのほうがリスナーの方々に、より馴染みやすい楽曲になるんじゃないかと思って。僕が選ぶと間違いなくマニアックな選曲になりますから(笑)。前のベスト盤(『Colorless』)は1作品1曲と決めて選曲したんですけど、今回はそういった縛りも含めて全てお任せしました。

--てっきり自薦ベストかと思っていました。しかし、全編通して聴いた際、アルバムとしての構成が見事でした。緩急の付け方は勿論のこと、各作品からこれぞという印象的な楽曲が選ばれています。実際、ご自身で聴かれてみての感想はいかがですか。

いやぁ…。「俺って一生懸命に頑張ってたんだなぁ」と思いました(笑)。普段は自分のCDを聴かないんですけどね。というのも、作っている最中に、世界で一番自分の音楽を聴いてるわけですから、わざわざ出来上がってきたCDを感慨深げに聴くことなんてないんです。でも、今回はベスト盤ということもあって、何度か聴き返して「あぁ、あの時はこんなふうにやってたんだ」とか「これはこういうふうに言われて作った曲だ」とか思いながら、昔の吉俣良に出会った気分ですね。それに今回は曲の並びを気にするよりは、選ばれた曲に感心しました。「へー、この曲選ぶんだ」みたいな。

--聴き手としては、勿論、選曲の良し悪しも気になりますが、曲順がよく練れていると感じました。とにかくアルバムとしてとても聴きやすいです。

僕自身、選曲・構成を含め仕上がりにはとても満足しています。僕は最初のサントラを作る時から、一枚のCDとしてきちんと鑑賞できる作品にしようと思って作ってきましたから。僕の場合は、元々がレコード会社(ポニーキャニオン)と組んでサントラの仕事を引き受けてきたんです。

--それもあって活動の初期から着実にサントラ盤が制作されているんですね。しかし、相当な数を手掛けられています。

ええ。何しろ1クールに複数の番組で音楽を担当させて頂いたこともありましたからね。そんなこともあって、毎回名前を出すわけにいかなくて、“オリジナル・サウンドトラック(ポニーキャニオン)”とか “Project R” といったクレジットにしていたときもありました。

--なるほど。そもそも90年代に入るまでは、テレビドラマのサントラがアルバム単体で発売されるのは珍しくて、それこそ70年代の作品なんて、よほどの人気番組以外は、番組テーマ曲集といった企画盤に主題曲が入ればいいほうでした。現在のように単発や朝ドラ、昼ドラのサントラが放送から間を置かずに出ることはありませんでしたから。ところが90年代半ばから、いわゆるフジテレビの月9ドラマ、『ロング・バケーション』(96年)や『ラブジェネレーション』(97年)などのサントラが大ヒットするようになって、以降、コンスタントにサントラ盤が発売されるようになっています。
そんななか、僕は吉俣さんが音楽を担当された『危険な関係』(99年)を聴いてちょっと驚いたんです。サウンドが豪華で、しかもアルバムとしての構成も充分に満足させるものでした。


あの頃のサントラってすごく贅沢にレコーディング出来たんですよね。通常のアーティストのアルバムと同じくらいの制作費をかけて作っていました。

--そこはやはりレコード会社との共同企画という点が功を奏していたんでしょうか。それにしても、吉俣さんが手掛けられた番組は、音楽はもちろんのこと、作品自体が良作ばかりですね。

もともとドラマの音楽の仕事を始めた頃のプロデューサーが、山口(雅俊)さんという方で、演出家は今回『救命病棟24時』でもご一緒させて頂いている河毛(俊作)さん、それに中江(功)さん、このお二人なんです。皆さんとても有名な監督さんだということもあって、担当する作品が、たまたま月9(月曜日午後9時)か木10(木曜日午後10時)という枠になる事が多かったんです。なので、皆さんが僕を使い続けてくれたので、結果的に印象的なドラマの音楽を担当させてもらうことが出来たんです。だから、今おっしゃったように、周りからも「吉俣さん、良い作品ばかり担当されてますよね」なんて言われるんですけど、良い作品に恵まれて、運が良かっただけなんです(笑)。

--実際、吉俣さんが手掛けられた作品の音楽は、どれも数小節聴いただけでシーンが想起されるものばかりで、もはやそれぞれの作品に不可欠な重要な要素になっていると思います。やはり、そうしたスタッフの方々とは綿密な打ち合せをされるんですか。

基本的に、僕はいつも、ポニーキャニオンのディレクターが音楽プロデューサーにたって、僕の代わりに彼がドラマの制作スタッフの方と密に打合せをする場合が多いですね。

--えっ? それは意外ですね。では、脚本家の方ともお会いする機会はないんですか。

ええ。今までお会いしたことがあるのは、『篤姫』の脚本を書かれた田渕久美子さんだけですね。あとは『マチベン』(06年)が向田邦子賞を獲った時に、その授賞式の会場で井上由美子さんにお会いした程度。あ、それと『Dr.コトー診療所』の脚本を書かれている吉田紀子さんは、プライベートで何度かお会いしていますね。ちなみに、その『マチベン』のチームが『篤姫』を撮ったんですよ。

--なるほど。もっと番組スタッフと密に話されているんだとばかり思っていました。ということは、やはりレコード会社との制作スタイルがよほどきっちり確立されているんですね。ところで、最近では韓国ドラマ『イルジメ』の音楽も手掛けられています。韓国では、吉俣さんが音楽を手掛けられた映画『冷静と情熱のあいだ』(01年)も相当な人気のようですね。

あれは僕からエンニオ・モリコーネへの「拝啓、モリコーネ様」だったりもします(笑)。曲は、言ってみれば、和風モリコーネなんですよ。モリコーネが大好きな人が日本人の頭でメロディを書いたらどうなるか、と思って書いたんです。

--日本には、ほかにもモリコーネの影響をモロに受けている作曲家がいますが、いずれも、どこかパロディ的な仕上がりで、残念な結果に終わっているケースが多いと思います。その点、吉俣さんの曲は確かにモリコーネ風ではあるんですけど、似て非なるものというか、しっかり吉俣節になっていますね。

僕にはやっぱりヨーロッパの匂いを出す力がないんですよ。もっとヨーロッパチックにやりたい気持ちがあるんですけど、どうしても日本人なので日本人メロが入っちゃうんです。実際、モリコーネって、サックスを使っても、なんでこんなにクサくならないんだろう? と思いますから。僕がサックスを使うと、絶対に和風になっちゃって、夜の匂いがしちゃうんだろうな、とか。

--でも、そこがいいんだと思いますよ。その泣きが日本人の聴き手の胸を打つんだと思いますね。

実際、『冷静と情熱のあいだ』のサウンドトラックはアジアの方にとってはド真ん中のストライクだと言って頂きました。最初、なんでそこまで反響があるのか判らなくて、韓国の方に聞いたところ、胸を押さえて「ここにくるんだ」と。どうも彼らにはストライクな泣きのメロディみたいです。

--おそらく韓国の連続ドラマ『イルジメ』の挿入歌「花信」もそうだと思います。

あの曲は、韓国の配信チャートで一位をとったという話を聞きました。実は、あの曲を書く時には韓流ものを相当聴き込んだんです。普段、僕は歌メロを書く機会があまりないんですよ。だから韓国の作品を取り寄せて、とにかく沢山聴きましたね。韓国ドラマや映画のサントラって、必ず何曲か歌が入ってるんですよね。

 

 

 

 

【音楽職人トピックス】



濱田高志による
<マンスリー公開講座>のお知らせ。


TV AGEシリーズ監修・濱田高志が、2010年1月より、池袋コミュニティ・カレッジに於いてマンスリー公開講座を開催しています。
詳しくは、こちら

<公開講座>
『ヒットメーカーが語る作品誕生秘話』

テレビ・映画音楽からアニソン、歌謡曲にCMソングまで、職業作家が様々な分野で発表した作品を、作家自身の証言と共に検証する特別講座。テーマに沿ったゲストを交え、名曲誕生の瞬間に迫ります。
【講師:濱田高志】

2012年1月28日(土)18:30~20:30
『孤高の作曲家・平岡精二』
作編曲家にしてヴィブラフォン奏者の平岡精二の活動を網羅的に辿る特別講座。未CD化曲を中心に自作自演、提供曲、映画音楽などをたっぷり紹介します。

2012年2月25日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[1[』

2012年に生誕80周年を迎える作曲家ミシェル・ルグランの活動をジャズ、映画音楽、提供曲など全てのジャンルを網羅しながら時系列に沿って辿る集中講座(全5回)。第1回はデビューから60年代初頭までの活動を振り返ります。

2012年3月17日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[2]』

第2回は「シェルブールの雨傘」を中心に貴重なデモや関連楽曲を映像と共に紹介。

池袋コミュニティ・カレッジ
(豊島区南池袋 1-28-1
西武池袋本店別館 8・9階)

●受講お申し込みに関する詳細は、 池袋コミュニティ・カレッジHPをご覧ください。
また、お電話でのお問い合わせは、03-5949-5486まで。
濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

詳しいプロフィールはコチラ


濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


ARTISAN de la MUSIQUE