ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE スペシャル - P.02



--歌といえば、それこそモリコーネには、コーラスやスキャットをフィーチャーした楽曲がたくさんありますが、ああいったタイプの曲についてはいかがですか。

モリコーネが書いた60年代や70年代のラウンジ系の音ってすごく好きなんです。バカラックっぽくなる寸前で間違ってこうなった、みたいな曲とか(笑)。 あのコーラスの感じも大好きですね。僕も今までにいくつかそういった曲を書いてるんですけど、やっぱりスキャットやコーラスものって、テレビの連続ドラマだとちょっとしつこいかな? っていう感じがして、若干抵抗があります。もちろん、いずれどこかでチャレンジしてみたいとは思ってます。結局、最終的には今の形に落ち着きましたけど、実は今回の『救命病棟24時 2009』のオープニングも最初はボーカルを入れようと思っていたんです。。

--そうですか。じゃ、また別の機会に是非とも。もっとも、モリコーネに理想のヴォーカリスト、エッダ(・デロッソ)がいるように、楽曲に相応しい声の持ち主がいるかどうかが問題ですけどね。

そうですね。ボーカルは難しいですよ。なかなかその都度そのドラマにマッチする声の持ち主を探すのは大変でしょうね。それに、うまくやらないと演歌っぽく仕上がってしまうんじゃないか、とか(笑)。そこはもう戦いですよ。

--しかし、モリコーネへの憧憬は相当強そうですね。

憧れというよりも、僕にとっては神様のような存在ですね。『ニュー・シネマパラダイス』(88年)のあと、『海の上のピアニスト』(98年)を観た時にも、「さすがモリコーネ!」って思いましたけど、『マレーナ』(00年)を観た時に、憧れを越えました(笑)。もう圧倒されちゃって。だから、僕が影響を受けたのは、間違いなく『ニュー・シネマパラダイス』ですけど、ショックを受けたのは『マレーナ』なんです。

--今回のベスト盤には『太陽は沈まない』(00年)のなかから「直」(Nao)という曲が収録されていますが、これがまさにモリコーネのような曲で。この曲はやはりモリコーネを意識されていますよね。

ええ。確かにこの曲が僕の作品のなかで一番モリコーネを意識している作品かも知れませんね。当時、『ニュー・シネマパラダイス』(88年)の音色というか、あの質感ってどうやって出してるんだろう? と思って色々探ったところ、辿り着いたのが、ノンリバーブでやるってことだったんですけど、でもやっぱりちょっと違うんですよね(笑)。

--この「直」(Nao)って曲は最高ですね。アルバムのなかでもちょっと異彩を放っています。以前、編まれたベスト盤にも収録されていますし、ご自身もお気に入りの曲ということですね。

この曲を聴いたNHKのスタッフから朝の連続ドラマ『こころ』(03年)の音楽の話を頂いたんです。当初は主題曲を「直」(Nao)と同じ質感でやりたかったんですけど、『こころ』のオープニングって、写真の静止画だったので、そこにこの音色をアテるとちょっとイメージに合わなかったようで、結果的には普通の質感にすることになりました。

--朝から厳かで幽玄な音色だと確かに印象が強いですからね。

そう、ノンリバーブでやると恐かったんです(笑)。朝の爽やかなイメージがなくなるからってことで、残念ながら企画倒れに終わりました(笑)。

--吉俣さんは多作で、多様なジャンルの作品を手掛けられていますが、いずれも吉俣節というか、ちゃんとした個性が刻印されている気がします。

今回の『救命病棟24時2009』も変わったリズムを取り入れたり、色んなことに挑戦してるんです。根本に流れているメロディに自分らしさが絶対あって、それは周りのスタッフからも言われますね。

--『救命病棟24時』は今回が第4シーズンですが、従来のイメージを踏襲しながらもやっぱり吉俣さんの色合いが出ています。今回はどれくらいの曲数を書かれたんですか。

今回、18のメロディの中から、各曲のパターンをいっぱい作りました。パーカッションを鳴らしたり。おそらく従来のシリーズの音っぽく聴こえるのはそういった曲なんじゃないかな。

--作曲時に心掛けていることや、具体的に実行していることはありますか。

僕がよくやるのは、音に向かって台詞を言うことですね。例えば『救命病棟24時』だと、「何があったんだ、お前!」とか叫ぶんです。実際、そんな台詞はないですよ(笑)。だけど、それっぽい台詞回しで登場人物になりきって叫ぶんです、音に向かって。しかも、その時々によって、僕の頭のなかでは、それが江口洋介さんの声だったり、松嶋菜々子さんの声だったりするんですよ。で、自分の耳で確認して、違和感がなければ「おっ、合ってる!」って感じでOKなんですね(笑)。それが自分のなかでの曲をOKにする基準だったりします。それこそ『篤姫』の時も城中の武士が「斉彬さまーっ!」とか叫んでる時にかかってるといいなと思うと、そうやって音に合わせて叫んでいました。

--最近、ドラマを観ていて感じることですが、劇中で終始音楽が鳴りっぱなしの場合があって、あれには興醒めしてしまいます。やっぱり、いい曲って、ここぞっていう使いどころがあると思うんですね。そこで鳴ってこそ、より効果を上げるというポイントがあるはずなんです。そのあたり音楽家の立場でご覧になっていかがですか。

僕が音楽を担当した作品でも、そういう場合があると思うんですけど、逆に最近の作品のなかで秀逸だったのが『薔薇のない花屋』(08年)ですね。あれは我慢に我慢を重ねて、ここぞという場面で音楽が流れてました。実際、音楽家として希望する使いどころってなんとなくあったりするんですよ。「ここであの曲使ってくれると嬉しいなぁ」ってところが。反対に「そこは音楽黙ってて!」って感じるところもありますしね(笑)。そういった意味で『薔薇のない花屋』は僕の理想に合った作品でした。ただ、あれは僕の音楽が良かったというよりは、音楽の使い方が良かったのだと思います。だからきっと皆さんの印象により残ったと思うんですよね。

--過去にアニメは一作『真・女神転生デビチル』(00年)という作品を手掛けられていますが、アニメとドラマでは、取り組み方が違うものですか。

僕の持論ですが、アニメと大河ドラマのような時代劇はスタンス的に一緒なんです。というのは、どちらも視聴者は最初からフィクションだと思って観てるんですよ。『篤姫』ぐらいの時代設定だと、視聴者も「昔はこんなこともあったんだろうなぁ…」くらいの捉え方になりますよね。だから音楽もなるべくデフォルメした方が視聴者を惹き付けることが出来ると思うんです。悲しいシーンはより悲しく観せないといけないと思うんですね。対してトレンディドラマで必要以上に悲しい音楽を鳴らすと、かえって白けちゃう気がするんです。醒めちゃうというか。というのも、トレンディドラマみたいな現代劇の場合、視聴者の方はそれがどこかで現実に繋がっていると信じてると思うんです。実際に行なわれていることを、ドキュメンタリーの再現として俳優さんが演じて伝えてくれているんだみたいな、そんな感覚が残ってるんじゃないでしょうか。そういった意味でジャンルによって取り組み方は違いますね。案外アニメの音楽をやるとなったら徹底的にやってみたいという興味はありますね。

--吉俣さんは、作曲される際、メロディが絶え間なく湧いてくるタイプですか。それともかなり考えながら捻り出すタイプでしょうか。

昔は湯水のごとく次々と湧いてきました(笑)。でも、今は湧いてきても「あれ? これ昔湧いたやつじゃない?」って思うことがあって、すごく不安にあることがあります(笑)。

--何しろ沢山書かれてますからね。では、最後に今まで作られた作品のなかでご自身で気に入っている作品を教えて下さい。

自分の音楽を含めて気に入っているという意味では、『太陽は沈まない』です。ドラマとしても好きな作品ですね。最後、ちょっと泣いたし(笑)。観ていて、うっすら涙が浮かんだんですよ。あとは『Dr.コトー診療所』。この2つは番組に関われて良かったと心底感じた作品です。
そして、僕自身の音楽はともかく、作品として一番好きなのは、『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』(05年)です。あの作品を手掛けた時は、僕は初めて監督に「音楽をつけないでほしい」とお願いしたシーンもあるくらい。これは連続ドラマじゃなく、2時間半ぐらいの尺の単発ドラマだったので、事前に「このシーンに音を付けて欲しい」というオーダーをいただいたんです。それで、資料として映像が事前に届いたので、僕、夜中にひとりでそれを観たんですけど、見ながら号泣してましたね。まだ整音される前の素材だったんですけど。本当に自分が関わったドラマのなかで、一番良かったです。正直、自分の音楽には納得しないところもあったりするんですけど、それでも是非多くの人に観て欲しいと思いますね。あの作品に関わられたことは僕にとっての財産です。

[2009年8月 (株)ポニーキャニオンにて取材]

 

 

 

 

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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
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