
--今回のアルバム『100%RAP』は、1曲目から高田渡さんの「ごあいさつ」をカバーというか再構築した、飛び道具的な曲から始まりますね。しかも、息子の高田漣さんプロデュースという。
とりあえずこのアルバムは、親に聞かせられるヒップホップを作りたいっていう気持ちがあったのと、あとは"2008年と2009年の俺の感じ"だと思ってるんです。その中で象徴的だったのが、アルバムを作り始めるってなったときに、お父さんの高田渡さんのファーストアルバム『ごあいさつ』を聴いて、ほんっとに食らったんですよね。
--たまたま耳にしたの?
HAGURETICのSABOが持ってて貸してもらったんです。それがお正月で、静かな午後にコーヒー飲みながら聴いてたら、「なんだコレ!!!」みたいな。「全感情入ってんなぁー!」って。美しい部分もあるし、日常の感じもあるし、こういう表現がヒップホップでもできたらいいなぁって食らっちゃって。で、その中の「ごあいさつ」を聴いて、これ、ヒップホップのフックっぽくもなるなぁと思って。それで漣さんとはエンジニアが共通だったんで、その伝手でお願いしたんです。
--EVISBEATSプロデュースのリード曲「MOGU MOGU」はどんなイメージで作ったんですか?
EVISBEATSさんに"ハイブリッド「みんなのうた」を作りたいんですけど"って。♪何か美味いもんでも食おう♪っていうサビの一小節だけは持ってたんで、それを彼に歌ってトラックを作っていったんです。ただ、そこから3曲ぶんくらい、この曲は書き直すんですけど(笑)。サビだけはそのまんまで。
--「みんなのうた」と言うように、「MOGU MOGU」は曲調も明るいし、歌詞も良い意味で子どもっぽい言葉遣いになってますよね。だから、一聴、メッセージソングっぽくないんだけど、送り手としては何か言いたいことがあって書いたと思うんです。
不満言ってるよりも、とりあえず何か美味いもんでも食って忘れとけって感じですかね、メッセージ的には。愚痴言うくらいだったら何か食ってた方がいい、みたいな。料理は一番のドラッグですからね、口に入れてテンションが上がるものっていう。
--ところで、本作で核になったなと思ってる曲は?
「MOGU MOGU」とDJ YASさんの「HIP HOP IS...」が、BPM80でまったくアプローチが違うから、この2つを僕的には核としてますね。そこから他の曲は派生していった感じ。
--じゃあ、すっげえ難産だった曲は?
「MOGU MOGU」です。「MOGU MOGU」と「HIP HOP IS...」は、やっぱ気負ってましたから、全然リリックが出てこなかったですね。
--反対にチョッパヤで出来たのは?
「オラハラッパー」「OS」「ドンスタ」とか。そのへんは全部一日で作りました。とりあえず全部「パ」で(韻を)踏みたいなとか(「おらはラッパー」)、全部「す」でやりてぇなって(「OS」)、もともと構想はあったんだけど手を付けてなかった曲だったから。で、それを依頼したのが19-tっていうグループに所属してたSKYFISHとCOW-Pなんですけど。この二人には俺が全部「パ」とか「す」でできるんだぞってことをやりたいんですけど、みたいな感じで伝えて。それで返ってきたのがあの音なんです。
--アルバムには一口にジャンルを形容できないビートが並んでいます。トラックメイカーの顔触れを見る限り、ヒップホップを逸脱した音を作る人に興味を持つところがあるんですか?
そんなことないっちゃあ、ないです。ソロをやるときにはEVISBEATSさんと、あとはDJ YASさんにお願いしようと思ってたんです。他、DJ KIYOさんと高田漣さん以外は、自分のリリックの世界をまんべんなく表現するのに、音楽以外の部分でも知ってる面々を集めた。でも、基本、ヒップホップに対してフラットな人が好きかな。ちょっと俯瞰で見れてるっていうか。リスナーの方たちは「こういうのがヒップホップだ」とかって考え方が固まってると思うんですけど、やってる方はみんなフラットだと思うんですよね。
--鎮座DOPENESSの特徴は、そのユニークなフロウだと思うんですが、江戸弁というか、べらんめぇ口調のラップをしますよね。そもそもグループ名に「コチトラ」なんて付けてるわけだし(笑)。
そうっすね(笑)。それは江戸弁の音の感じが好きなんですよ。だから夏目漱石もそうだし、町田康とか。あの人の書く文章のリズムとか好きなんです。で、江戸弁だと表現が直接的にならないし、いいなって。まず遊びがあって、メッセージがあるっていう方が好きなんですよね。あんまり言い切りたくないんですよ。
--言い切らないリリックが多いのも特徴ですよね。メッセージがなさそうでありそうで、やっぱりないとか(笑)。
逆に、なさそうである、とかね。そこは、今のヒップホップを聴いてる人って、何か言って欲しい病気になってる気がするんですよね。みんな、何か言うときもあれば、何も言わないときもあるわけで。それを"ヒップホップのアーティストだけが救ってくれるんじゃねぇか"みたいに考えるのは止した方がいいと思うんですよ。
--その上、アーティスト自身も「何かメッセージをしなきゃ」っていう強迫観念に捕らわれちゃってたり。
そうそう、そうなっちゃう。で、そこに疑問をずっと持ってたから。みんながみんな偉そうに言えるわけがないっていう(笑)。こんなにインターネットが普及してる時代、いくらでも揚げ足がとれるし、ひょっとしたらリスナーの方がラッパーになれるんじゃねぇか、くらいのところもあるわけだから。だから表現としては、言い切るときもあるけど、言い切らないときもある。まさに喜怒哀楽、感情のバランスは人間としてあるだろ?っていう。普通に生きてればテンションは上がったり下がったりするわけだし、そういうのを全部一曲に追い込みたいなと思うんです。そういう表現をヒップホップで僕はあんまり聞いたことがなかったから、それがやりてぇなっていうのがあるんです。
--あと、鎮座さんは、フロウも言葉のイントネーションで乗せてく印象があるんですよね。自然に喋ってる感じがそのままラップになってるというか。
ラップうまくなりてぇなぁと思って、一時期いろんなビートでフリースタイルしてたことがあって。その頃、MCバトルでもKREVAさんのスタイルが流行ったり、漢くんが出てきたりしたんですけど、漢くんでもないし、KREVAさんでもないし、そもそも韻って何なんだろう?って考え始めて。韻だけを強調して、その単語を語尾に持ってくるっていうだけのスタイルは違うんじゃねぇのかなぁと思って、言葉をアタックの音と流れていく音に分けて、それで全部韻を踏まないでやるとか、そういうのをやってた時期があるんです。とにかく自然にラップをやりたかったんですよね。喋ってるときもラップするときもテンションは変わらない。同じ調子でスーッとラップできる、みたいな。それは今でもそう思ってますね。
--それと、歌詞に口語が多いのも持ち味ですよね。極端に言うと、「ありゃりゃ、どうした?」みたいな言葉もラップに使っちゃう、みたいな。
たとえば「チェケラッチョ」って言いたくないとか、昔はラップに似合う言葉を選ぶっていうのが全体的な風潮としてあったと思うんです。でも、言葉を選ぶんじゃなくて、ダサイ言葉でもどうやったらかっこよくできるか。それがすっごい重要な気がするんです。
--なるほど、そのスタンスが鎮座DOPENESSのユニークな作風の基盤になってるんですね。
そう。だって「マブイ」って言葉で曲も作れるだろうし。その言葉がダサイんじゃなくて、その言葉を言えないのがダサイっていう。そういう捉え方をし始めたときに、すごいいっぱいアイデアが出てきたんです。とにもかくにも、ヒップホップは「これはダメ、アレがいい」っていうのが常々あって、それで衰退したような気がするんですよ。でも「アレはいい、これはダメ」じゃなくて「アレもいい、コレもいい」。それをどういうセンスで料理していくかってことがカギだから。そこは常々意識してますね。



