70~80年代の洋楽の有名曲をジャズ・フレイヴァーのアレンジとボーカルでカバーして、話題になっている樹里からん。デビュー・アルバムが台湾で火がつき、先ごろ行われた公演も盛況、逆輸入のかたちで日本でも認知が拡大している彼女のセカンド・アルバアムが10月末にリリースされた。誰もが聞いたことがある名曲をスウィートなボーカルで聴かせてくれる。
--取材の前にいただいたプレイリストを見ると、洋楽が多いですね。
邦楽より洋楽を中心に聴いてきたので、最近の日本の音楽事情には、あまりついていけないんですよ(笑)。友達とカラオケに行っても、歌っている曲が全然分からないんです。iPodの中に入れているお気に入りの洋楽ばかりを繰り返し聴いているんです(笑)。憧れる対象がおのずと洋楽の方になるので、私の歌う音楽には自然にそういうテイストが入ってきてしまいますね。
--前作は海外でも高い評価を収めましたが、実感はいかがですか。
レコーディングしていた時点では、具体的に視野に入れてたわけではないんですが、英語で歌ってるし、有名な曲のカバーをしているんで、海外でも聴いてほしいという願望はありましたね。
--特に台湾では大人気だそうですが。
最初はiTunesに出て、ヨーロッパで私の名前が出ているということを訊いたときはびっくりしましたね。でもあまり実感はありなくて、その後に台湾でコンサートを開催したり、現地でCDがリリースされるようになると、強く実感できるようになりましたね。
--台湾での反応は、具体的にはどんなものだったんでしょうか。
台湾で行ったコンサートでは、アンコールで指笛が鳴ったり、歓声をたくさんいただきました。台湾の方は純粋で、いい音には反応してくれるんですね。あと、サイン会でも多くの方が列を作ってくれたり、ホテルの入り口でサインを求められたり。スター気分を味わいました(笑)。言葉の通じない国でのライブなので最初は緊張したんですが、逆に自分を解放するのにいいシチュエーションだったかなって、今振り返ると感じますね。
--現地での取材等もかなり受けられたんですか。日本と台湾で取材の違いのようなものはありますか。
今年の夏に台湾に行ったときにラジオやテレビを回らせていただいたんですが、台湾の方はすごくフレンドリーで、話していると昔からの友達のような雰囲気で接してくれるんです。
--さて、新しいアルバムの話をしたいんですが、今回のアルバムも、前作同様に洋楽のカバーが中心です。前作との違いは、どのようなところでしょうか。
前作は男性ボーカルものを中心にセレクトしたんですが、今回は女性ボーカルも入れようということになり、さらに映画音楽を中心にしています。私は「フォー・ザ・ラブ・オブ・ユー 」や「オールウェイズ・ラブ・ユー」とか、あえて挑戦してみたい曲を選びました。
--有名な曲ばかりですが、カバーする際の心構えはありますか。
ファースト・アルバムのとき「原曲の方がいい」と思われたらどうしようというプレッシャーがあったんですけど、2作目に関しては、自分の色に染めても全然いいんだなあって思い切りましたね。例えば、私の歌を聞いてセリーヌ・ディオンを思い描いたりすることはないんだろうなと思って。
--それは前作の自信から来るものなんでしょうか。
というか、肩の力が抜けたというか。自分らしく歌えばいいっていうスタンスになりました。
--人気曲を歌ってみて改めて感じることはどういうことですか。
メロディラインはシンプルで、聴いているだけだとあまり思わないんですが、実際に自分で歌ってみると、難しかったり……。なので、自分のテイストに持っていくしかないと開き直りましたね。逆に、オリジナルと違ったイメージのアレンジから入って、その曲に乗っていって、原曲をまったく想像させず、自分の曲みたいな意識で歌った曲もありました。なかには、原曲をあまり聞いてない曲もあるんです。周りの方にすすめてもらった曲の場合は、あえて原曲を意識せずに歌ってみようというものもありました。
--アレンジについては、ご自分の意見を反映させたりしましたか。
具体的に意見を出したというわけではないんですけど、アレンジのレコーディングには最初から立ち合わせてもらったので、ブラッシュアップの段階で参考音源を持ってきて、「こんな感じでしたいんですけど」と言ったりしてジョイントさせてもらいました。
--原曲だと高音を張り上げるタイプの歌も、しっとり歌われていますね。ジャズというジャンルには、どんな思いを持っていますか。
父がジャズ・ファンだったので、幼いころは隣に座らされて、半ば無理やり聴かされていた感じでした。そのあと、ゴスペルやファンクなどの黒人音楽が好きになっていって、独特のリズムや音選びの感覚に刺激を受けるようになったんです。私は結構雑食なので、カッコいいと思ったものをつまみ食いするって言う聴き方をしてました。ジャズだからってそんなに深く入り込む必要はなく、自分のフィーリングでやればジャズじゃないかと思いますね。だから 私もジャズとポップスの境界線を意識したことがないんです。「樹里からんの歌だ」と思ってもらえれば、それで幸せですね。
--レコーディングで、印象に残ったエピソードはありますか。
楽しい方が集まった中でワイワイとリラックスしてレコーディングしましたね。特にエンジニアが面白い人で、スタジオの照明をわざと消して、私にスポットライトを当てて、ステージのような雰囲気の中でレコーディングしたりしました。あと、私は、レコーディングのときに、歌詞カードに思いついたことを書き込むんです。周りの人がそれを見て「暗号みたい」「どういう意味?」って笑っていました。
--どんなことを書き込むんですか?
フェイクの部分は、結構自分のアドリブで歌うんです。その場で出てきたメロディの方がいい場合もあるんですが、事前にいいメロディが浮かんだときには、自分にしか分からない記号で書き込んじゃうんです。
--歌詞については意識されましたか?
今までは、好きな曲でもあまり歌詞をじっくり見ることはなかったんです。でも今回、「フォー・ザ・ラブ・オブ・ユー 」を歌ってみて、大人っぽい曲なのかなと思っていたら、すごくピュアな歌詞で、「こういう曲だったんだ」っていう発見もありました。昔はラブ・ソングを歌うときには好きな人を具体的に思い浮かべて、その人のために歌うっていうクローズドした世界を歌っていたんです。でも、前作の『LOVERS JAZZ』でジョン・レノンの「ラブ」を歌って痛感したのは、愛情は恋人だけのものじゃなくて、この世にいる人たち全員への繋がりなんだなと。それを感じて歌うことが最近になってできるようになりました。
--このアルバムをリリースした後の目標はありますか。
今年は台湾でコンサートをやらせていただいたので、その経験を生かして、今度は日本でホール・コンサートをたくさんやりたいなと思っています。もちろん、世界で知ってもらうチャンスがあったら嬉しいとは思っています。今のライブのメンバーは、すごいキャリアをもった方ばかりなのに気さくで、仲良くしていただいていて、だからこそ台湾でのライブを乗り切れたと思うんです。今後もその意気込みでやりたいと思ってます。
--今後、日本語で歌うことは考えていますか。
それもいいですね。英語でも日本語でも、ジャズであってもポップスであっても、私は私の歌しか歌えないので、それを多くの方に聴いてもらいたいですね。
<インタビュー・文 / 竹部吉晃>



