たとえば、エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイ、アレサ・フランクリンらに〈ディーヴァ〉などの既成の肩書きが無用なように、沖縄発のナチュラル・ボーンなシンガー、多和田えみもまた、デビュー1年半というニューカマーにして、安易な形容を寄せつけない存在感を放っている。沖縄の太陽を思わせるはつらつとした生命力と、ブルーズやジャズ、ソウルなどのブラック・ミュージックが持つ哀感を内包したメロウな味わい──その両方をごく自然に吸収し、体現してみせる彼女の歌は、聴き手の心をダイレクトに揺さぶり、刺激する。そんな多和田えみの今をギュッと凝縮した初のフル・アルバム『SINGS』が、リード・シングル「涙ノ音」と共に、ついにリリース! CDはもちろん、アルバムの初回盤にはこれまでの軌跡を詰め込んだヒストリーDVDも付属と、彼女の魅力を知るにはもってこいの作品。聴く者の心を動かし、魂にまでも手を伸ばす本物の歌に出逢いたい人、必聴です。
--デビューから1年半が過ぎたので、多和田さんが小学校のブラスバンドで音楽に目覚めたことや、それを機にジャズやブルーズなども聴き始めたこと、音楽好きのご両親から影響を受けたことなどは知る人も多いと思うんですが、個人的に、歌に目覚めたあたりのことを、もう少しお伺いしたいんです。新作の話の前に…いいですか?
もちろんです。何でも訊いてください~(笑)。
--人前で歌ったのは、高校卒業後、カナダに留学した際にストリート・ジャズ・バンドに飛び入り参加したのが最初でしたよね?
そうです。その時が初めてでした。
--それ以前にバンドを組んだりしなかったのは、なぜですか?
そもそも自分の声がイヤで、友だちとカラオケに行ったりしても、じっくり聴かれるのはイヤだったんです。だからバンドも恥ずかしくてできなくて、人前で歌うのはちゃんと勉強して、自分に自信と確信を持ってからでいいやと思ってて。40歳くらいで歌手になりたいなあって、最初はずっと思ってたんですよ。それが夢で(笑)。
--ところが、思いがけずカナダでハジケちゃったと。
知ってる人もいないし、留学の思い出にって(笑)。で、いざ歌ってみたら、めちゃめちゃ楽しくて。うまいとか下手とか、自分の声がヘンだとか、そういうことを全部忘れて、ただ楽しかったんですね。みんなが音楽だけでひとつの時を過ごしている感じに感動して、そこから自分のなかで何かが変わりました。
--目からウロコが3枚くらい……。
もう、5枚くらい落ちました(笑)。
--ということは、歌手になりたいと本気で思ったのは、カナダ以降なんですか?
それが漠然となんですけど、ちっちゃいころから歌手になりたいという夢はずっとあったんですよ。その夢のなかで、ブラスバンドをやったりマーチングバンドをやったりして、音楽というものに参加していったという。でも、プレイヤーになりたいとかオーケストラに入って…とは一切思わなかったですね。歌手になりたいって、そのひとつだけを夢見てて。
--自分の声になじめずにいた頃も、夢はあくまで歌手。
そう思ってました。いつか絶対に歌う人になる!って。自分のなかで決めてるものがありましたね。
--その思いをついに行動に移したのがカナダでの経験であり、帰国後の、沖縄のナンクル・ミュージックへの入学だったんですね。
とにかくライヴをすごくやりたかったんですよ。カナダでやったみたいに、もっと誰かと一緒に音楽を楽しみたくて。自分がたくさんの音楽に支えられていたから、自分もいつかそういうふうに音楽で誰かを支えられるようになりたいと思って、とにかく修行を積みたかったんです。沖縄は音楽がさかんで、ハコバンをやってる人も多かったんで、そういうのをすごくやりたくて。
--目標はデビューじゃなく、ハコバン。
そうなんです(笑)。それでナンクル・ミュージックの先生に「できればハコバンでライヴをやりたい。将来はお店でジャズを歌ったりしたい」って相談したら、「それは大変だから、まずは全国デビューをしていろんな人との繋がりを持ったほうがいい」って言われて。そこで初めて意識したんですよね。そういう(デビューしてプロになる)世界を。
--ハコバンで歌いたいって、昔のバンドマンっぽいですよねぇ。シブい。
あはは、そうですよね(笑)。
--で、デビューを目指しつつ、ディナー・クルーズやホテルのラウンジでも歌っていたんですよね。1年間で200本も演ったとか。
そうですね。1日5ステージとか。
--5ステージ!?
かなり歌いまくってた時期がありました(笑)。でも楽しかったんです。むしろ夜になって荷物を積んで帰るときが寂しいくらいで。今でもそうなんですけど、ライヴが終わった時、めちゃめちゃ寂しくなるんです。
--それだけステージが好きになったのは、やっぱりカナダのストリート・ライヴが原点?
そうですね。音楽を通して誰かが楽しそうにしている姿が見られたり、ひとつの音楽を通して何かを感じあうのが、すごく好きなんですよね。気持ちよくて。人間に生まれて良かった~!って思う(笑)。
--歌っている時は、どんな気分ですか?
そうですね……とにかく夢中で、細かいことはよく覚えていないことが多い(笑)。ライヴもレコーディングも、あとから聴き直して「ああ、こんなだったんだ!?」と思うことが多いです。音楽に興奮させられているというか、そこに溺れてるというか…そういう感じなのかなあと思います。
--なるほど。そんな〈歌うたい〉ないっぽうで、詞や曲作りもなさってますよね。いずれはすべて自作したいですか?
いえ、私の感性では届かない部分もあると思うんですよね。それに音楽ってホントに様々で、誰かから出てきたものに刺激されたり成長させられたりするものなので、他の方が作った作品を歌うことはとても大事だと思ってます。もちろん自分から出てくるものは大事にしたいし、自分で作ったりもしていきたいんですけど、最終的には「とにかく歌いたい!」というところに戻るんです。作家としてというより、自分はシンガーとしてやりたいんだなっていうのは、何かあるごとに実感するというか。歳をとって、ヨボヨボのおばあになっても歌ってるかもしれない…って、そういうシーンが浮かんでくるんですよね。
--そもそもの夢が「40歳で歌手に」でしたもんね。
あははは(笑)。そうなんですよね~。
--多和田さんと歌との絆が、だいぶんわかってきました。では、そろそろ新作の話に移りましょうか。アルバム『SINGS』からのシングル・カットでもある「涙ノ音」。ジワ~ッとくる、いい曲ですね。
実は、私が上京した頃に葛谷(葉子)さんからデモ音源をいただいて、「ああ、すごいいい曲!」と思って、わりとすぐに制作を始めて昨年の春頃には完成してたんですけど、ここまでリリースするタイミングを見計らっていたんです。寒い時に心があったまるような優しいメッセージが詰まった曲なので、ぜひ秋から冬の季節に聴いてほしいなあと思っていて、今、この時期に発表することにしました。
--じゃあ、歌も当時のものですか?
そうなんです。バンドと一緒にブースに入って、感情がすごく…高ぶりながら歌ったんですね。なので、あらためて録り直すと安定するかもしれないけど、情熱とか生々しさが欠けてしまうんじゃないかと思って、当時のままにしました。
--ストリングスをバックに歌うPVもとても素敵なので、ぜひみんなに見てほしいですね。そして「涙ノ音」も収められた初のフル・アルバム『SINGS』は、なんと全16曲の特大ボリューム。これまで発表してきた曲もたくさん入りましたね。
メジャーデビューしてから1年半、沖縄時代も入れると約3年くらい活動してきて、生まれて初めてファースト・フルアルバムを出すということで、今までの歴史を大事にしたかったんです。これまでのすべての作品、すべての出会いがあったからこそ、今がある…。そのことにすごく感謝しているので、自分にとって何かのきっかけになった楽曲を基本に選びました。もちろん、収め切れなかったものもあるんですけどね。
--そのなかには、一緒にライヴをやってきたThe Soul Infinityによるバージョンで新録されたものもありますね。
ライヴという場で、バンドのみんなで音楽を紡ぎ出すことにも、たくさん刺激されてきたんですよね。そういう、みんなと奏でた音楽も収めたいなあと思って、ライヴでアレンジを詰めてきた楽曲たちはバンドサウンドのまま収録しました。
--そしてもちろん新曲も。詞曲ともに多和田さん自作のオープニング曲「Overture - theme of SINGS - 」は、まさにプロローグ的なナンバーですが、英語で何かを囁いてますよね?
これは『SINGS』のなかに込めたもの…たとえば〈愛〉とか〈平和〉とか、日々不変で大切なものについて、ぽろぽろっと囁いてます。
--ふむふむ。しっかりと聴き取ってみます。それから、スウィンギーな「愛音色」も自作。これはどんなふうにできたんですか?
これは……恋に破れてできました(苦笑)。
--おっと。そのわりに曲調が明るいのは、自分を励ます意味で?
もしかしたら無意識にそうなのかもしれないですね(笑)。
なぜなんだか、あまり暗いメロディーは思い浮かばなくて…。
--なるほど。多くは聞きますまい。シンガー・ソングライターの川口大輔さんによる書き下ろし曲も2曲入りましたね。「月のうた」は多和田さんの作詞。
この曲の歌詞について考えていたときに、友だちが大親友を亡くしたという話を聞いて、すごくショックで、何て言葉をかけたらいいのかわからなかったんです。それで、言葉では何も伝えられないけど、歌で少しでも支えになることができたらと思って…。時の流れと共に、少しずつ元気になれるような感じで届けばと思って、自分なりに言葉を紡いで書きました。
--じわっと沁みる曲だなあと感じました。そしてもう1曲、アルバムのラストを飾る「ONE LOVE」は、詞曲ともに川口さん。これは我が子に対する眼差し…ですよね?
そういうふうにも捉えられるし、大事な恋人とか、ペットに対する思いっていう場合もあると思うんです。いつも隣にいてくれてありがとうね、っていう。あらゆる人たちに、壁なく入っていくラヴソング……これこそ本当のラヴソングっていう気がしてます。
--こうやってフル・アルバムを聴くと、ブラック・ミュージックに強くインスパイアされながらも、サウンド的にはジャンルレスだなあと改めて感じますが、〈歌〉という意味で、多和田さんが歌いたい/歌っていきたいと思うのは、どんな歌ですか?
誰かの支えになったり、誰かの時間を楽しくする…いい気持ちをもたらす曲を歌いたいなあって思いますね。
--たとえば、自分をフッた相手をちょっと憎んだりとかって、ありますよね。
そうですね。だいぶんあります(苦笑)。
--そういう感情を歌にするのはNGですか?
いえ、歌いたいです。ある程度の歳の人なら、憎しみだとか、何とも言えない気持ちっていうのは誰でも経験していて、共感できると思うんですよね。なので、そこも表現していきたいです。だからブルースも歌うし…。
--うんうん。じゃあ、フラれちゃって「バカヤロ~!」みたいな歌もアリですね? 個人的には、喜怒哀楽の〈怒〉や〈哀〉などがモロに出た本音ソングも好きなんです。
わかります! 私もそうなんですよ~。そういう歌で、また元気になれたりして(笑)。一見、負の感情を出しているものでも、結果的に陽のエネルギーを与えられるものであれば、どんどん歌っていきたいです。
--ああ、良かった。多和田さんの歌、これからも楽しみにしてます。もちろん来年1~2月のワンマン・ツアーも。
あ~、ありがとうございます。ぜひぜひ来てくださいね!
<インタビュー・文 / 河野アミ>




