Sweet Children O'Mine~知らなかった自分を引き出せた“ロック”カヴァー集
“まるで妖精のような……”といった言葉だけでは言い尽くせないほど滋味豊かな歌声と、音楽に対する独自の感性、探求心で、革新的かつ普遍的な作品を送り続けてきた湯川潮音。そんな彼女が昨年夏のアルバム『灰色とわたし』に続いて届けてくれたのは、メジャーデビュー後初となる全編カヴァー・アルバム『Sweet Children O'Mine』。カヴァーされている楽曲は、彼女が長らく親しんできたもの……ではなく、むしろあまり通って来なかった、洋楽ロック・バンドのヒット曲が中心。オアシス、MR.BIG、レディオヘッド、ガンズ・アンド・ローゼズなどなど、前作に引き続いてクマ原田をプロデューサーに迎えてのイギリス・レコーディングによって彼女流に調理された本作は、湯川潮音が表現者としての器量をぐっと広げて見せた作品なのである。
--そもそもカヴァー・アルバムを作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?
カヴァー集を作ろうっていうアイディアはずっとあって。いろんな方からカヴァー集を出してほしいっていう声もありましたし。でも、タイミングがずっとみつからなくって。で、今回このタイミングだったらいいんじゃないかって思ったんですね。前作の『灰色とわたし』でひとつ突き抜けることができた感じがしたので、今ならできるんじゃないかって。
--突き抜けることができた、というのは?
作り込みすぎないというか、自分の世界を守ろうとしすぎない、風通しのいい感じ……っていうのかな、そういう音楽の作り方、レコーディングを『灰色とわたし』でできたので、そうなってくると、カヴァーであれオリジナルであれ、それもべつに関係ないかな?っていうぐらい、すごく自由になれて。で、せっかくやるんだったら、本当に手放しで向き合えるラインナップがいいなあって。
--選曲はどんな感じで?
ほぼ他薦で、ファンの方からも募りましたし、CDショップの方とか、スタッフにも。ロック・バンドの曲をやってみたいっていうのはあって……50曲ぐらい候補があったんですけど、どうせだったらみんなが知っているようなものがいいなって思ったんです。逆にそういうものは、私が知らなかったりということもあったんですが…。日本語の曲も候補の中にあったんですけど、『灰色とわたし』のチームで録りたい、イギリスで録りたいと思っていたので、今回はみんなが理解できる言葉にしてみました。わからないでやるのも面白いんですが。
--とはいえ、今回カヴァーした楽曲の歌詞は、ほとんどが男性の視点ですよね。そことどう組み合うかも大きな課題だったんじゃないかと思うんですが。
そうですね。大抵は男の人が女の人に向けて書いている曲だから、それをどうやって自分風に変換して、自分の言葉として放つかっていうのはすごく考えました。歌詞はかなり読み込みましたね。「Don't Get Me Wrong」とか詞の描写がすごく綺麗で……勉強になりました。
--で、今回もイギリスでレコーディング。
そうですね。これを調理できるのはあのチーム――クマさん(クマ原田。『灰色とわたし』に続いて今作もプロデュース)たちしかないだろうなって。とにかく楽しんでやれるのがいちばんだし、家でパーティーをやっている音そのままを録っちゃったぐらいのアルバムにしたかったので。
--レコーディングの環境ということでは、日本でやるのとどういったところが大きく違います?
そうですねえ、なにが大きく違うかっていうと難しいけど、リラックスした雰囲気がすごく自分に合っているんだと思います。「さあ、レコーディングしましょう!」っていう切迫した感じがあまり得意じゃないし、そういった環境の中でレコーディングをしていると、どこに向かってモノを発しているかっていうのがわかりづらくなってしまうこともあるんですね。その点、イギリスでのレコーディングはそういったストレスがないですし、やっぱり、自然がいっぱいあるところでやれるのはいちばんですね。
--今回レコーディングした場所は、『灰色とわたし』の時とは違いますね。
前回はロンドンから東に、今回は西に同じくらい離れたところで。近くにテムズ川が流れていて、そのあたりに住んでいる人たちは、一家に一艇、ボートを持っているんですね。川沿いにぽつぽつと家があって、ボートに乗って街まで移動するっていう。ミュージシャンもいっぱい住んでいて、ジョージ・ハリスンのお家があったり、ピンク・フロイドやディープ・パープルのメンバーのお家があったり。今回のスタジオも、ジェスロ・タルのメンバーだったバリー(バリーモア・バーロウ)のスタジオで、泊まるところも併設されているので、メンバーと共同生活しながらの作業でしたね。全員、国も違うし、習慣も違うから、それを知るのもおもしろかったですよ。
--メンバーはどこの国の出身?
アイルランド、オランダ、ポーランド、フランスなどに今は住んでいますね。習慣だけでなく、耳も違うから、その価値観が音楽にミックスされていく感じもおもしろかったですよ。「えっ、それをここに入れるの?」って思うようなものが実はいい効果になっていたりとか、自分にない発想やアプローチが一個一個積み重なってひとつの画になるみたいな。なにしろ、現場のムードはすごく良かったし、そういうものをみんな大切にしていますね。朝起きて、その日の気分を訊かれて、今日はなにをやりたいかやりたくないか、やりたくなければやらなくてもいいし……そういう感じで。
--現地ならではのエピソードはありました?
作業で煮詰まったらボートに乗って川を下ってみたりとかっていう、贅沢な気分転換をしたり(笑)。「Angel」の歌入れに苦労していた時、天気がよかったから外でならうまく歌えそうって思って、外にマイクを出して歌ったり。
--基本、レコーディングは順調だった?
順調でしたね、すごく。クマさんは、普段歌っているキーやテンポ感を“あえて”変えることで新しい面を引き出す、っていうやり方をするので、「Angel」とか「No Surprises」とかギリギリのキーの音を歌う時はちょっとたいへんでした。でも、それによって自分の知らなかった一面が見えるから不思議だなあって思って。
--これまでの湯川潮音にはありえなかった曲ばかりカヴァーしてるので、そういった点でもいろんな発見があったんじゃないですか?
そうですね。これだけ有名で、みんなから好かれている曲っていうのは、やっぱ理由があるんだなって。自分が好きか嫌いかを置いといても、やっぱりムダなものはないし、単純なコード使いだし、歌詞もそんなに難しいことを言っているわけではないし、フレーズも複雑じゃない……なのに、“強い”んですよね。やっぱり、いい曲はどうアレンジしたって変わらないなにかがありますね。
--曲のこともそうですけど、何を歌っても湯川潮音のチャームが引き立つことを実証したアルバムじゃないかと思います。
そうだといいですね。ある意味、自信にもなりましたし。
--それこそ、いまは早くオリジナルを作りたいぐらいの気持ち?
そうですね、もう頭の中では考えていて。このアルバムを作ったことで、またさらに視野が広がったから、いまのテンションをうまくオリジナルに繋げていきたいなって思ってます。
<インタビュー/文 : 久保田泰平>
ジャケットのこだわりについて教えてください
バラの画は、ガンズ・アンド・ローゼズのイメージではなくて(笑)、誰でもかわいいと思って手に取ってもらえるようなキャッチさがほしいなあってデザイナーに相談したら、このテクスチャーを持ってきてくれたんです。ジャケットへのこだわりは、まず、音の内容が見えてくるようなものにするっていうのが大前提ですね。ジャケットや歌詞カードは、物体として世界観を伝えるものだから、いつも細かいところまで作り上げるようにしていますね。あとは、10年経っても20年経っても古くならないというか、偏らないものにしたいなっていうのはいつも思っていて、顔もなるべくメイクをしすぎてないというか、素のままっていうので統一していますね。




