切っ先鋭い高音ラップのラップで、活動母体のNITRO MICHROPHONE UNDERGROUND(以下ニトロ)では特攻隊長の異名を持つDELI。彼がキリストの降誕祭の前々日(12/23)にデリバリーする4年ぶりのニューアルバム『THE BIBLE 4 SURVIVAL』は、これまでのイメージを大きく覆す興味深い一枚だ。DELIといえば独特のハイトーンボイスやガナリ声がまず耳に飛び込んできて、威圧的or攻撃的な印象を受けることが多かったが、今回はオートチューンなどのエフェクトを多用し、楽曲はよりメロディアス&キャッチーに。メロウでマイルドな質感が前面に出たアルバムとなった。また「ブログなどに書かずに自分の中で思いを発酵させた」という歌詞も、ピースフルでハートウォームなテーマが増え、より一般性のあるものへと変化。「各曲の練り具合は過去ダントツ」と本人が語る意欲作。「ヒップホップってこういうものでしょ」と思ってる人にこそ聴いてもらいたい、“目から鱗”な作品だ。
--(まずは本人に勧められて完成したばかりの「今夜はバースデーバッシュ Feat. AI, DABO」のPVを鑑賞)これ、明るい雰囲気のビデオですね。
そうっすね(笑)。内容が内容なんで。
--新作を聴いてパッと思ったのも、明るさやハートウォームな方向への作風の変化でした。
まあ、無理に明るくしようと思ってないんですけど。でも、いいことがないじゃないですか、世の中が。自分の周りも含めてね。で、現実をそのまま吐き出すだけだったら別に俺じゃなくていいのかなと思うし、そもそも音楽でなくてもいいのかなと思うんですよ。嘘になっちゃいけないけど、そこには願望だったり、希望だったりがあってファンタジーになってた方がいいと思うんです。そうじゃないと音楽にする必要がないかなって。だから、周りにいいことがないときほど、逆に楽しみたいなっていう気持ちが表れると思うんですよ。
--前作『24』から4年も空いたのはなぜなんですか?
前もそれくらい空いてるんですよね、ソロは(笑)。けど、今回は時間かかってもしょうがなかったかなっていう感じはありますね。作り方が結構凝ってたから。実はニトロの『SPECIAL FORCE』を出した日に、今回の最初の曲のプリプロを録ったんですよ。それが「LAST CALL」で。
--『SPECIAL FORCE』は07年11月リリースだから、確かに時間がかかってますね。
俺ってリリックに自信がある曲でも、ライブでやるとだいたいいつも「やっぱDELIさん、声、やばいっすね」って言われて、リリックのことを言われたことがなくて(苦笑)。リリックをどうやったら聴いてらえるんだろう?って、ずっと考えていたんですね。で、「LAST CALL」ができたときに、こういうストーリーっぽいものにしたらリリックに注意してもらえるかなと思って。ただ、ストーリーものにしても、俺、オチのない曲が好きじゃないんですよ。ただの与太話だと、たとえ面白くてもあとに残らないと思うし。
--起承転結がついてたり、メッセージが含まれていたりとか。
そう。となると、今までみたいに頭から歌詞を書き出してたんじゃなかなか難しいんで、今回は「LAST CALL」を除いて、まずそのストーリーを先に考えたんですよ。どういう部屋で、どういう人間が、どういうことをして、どういうことを考えてっていうのをリリックとしてではなく、字コンテみたいな感じで書いていって。そうやって物語の叩き台みたいなのを出してから、“じゃあ、この物語を歌にする場合は、どこをつまみ出して、どこを省略するか”って考えていったんです。
--なるほど。今回はシチュエーションが思い浮かぶ歌詞が多いなって思ってたんですけど、そんなことが背景にあったからなんですね。
逆にビジュアルから作ってますからね(笑)。逆算プレイ(笑)。
--そのほかに今までのアルバム作りと違うところはあります?
そうやってある程度内容ができてたぶん、トラックの選び方が違いましたね。前はトラックから触発されてたところがあるけど、今回はこのトピックにどのトラックが合うかな?っていう選び方をしていて。トラックがいくら格好良かろうが、トピックに合わなければ使えないわけじゃないですか。そこは結構苦労したかもしれないですね。
--今回はオートチューンや他のエフェクトを使ってのボーカルの加工が目立ちます。それも新しい取り組みですよね。
そこは自分のラップが映えるのってどういうやり方がいいかなって考えてのことなんです。俺のあの高いテンションでずーっとラップしてるのって、俺も疲れるけど、聴いてる方も同じくらい疲れると思うんですよ(苦笑)。そういう意識が潜在的にあって、今まではフィーチャリングものを増やしてたんだと思うんです。でも、なるたけ自分一人でやるとなると、それなりに手を替え品を替えやっていった方がいいように感じて、それで今回はオートチューンとかを多用したんですよ。
--そうすると、自分のラップと声質の対比が生まれて、自分のラップがいきるんじゃないかと。
はい。俺、自分のラップは唐辛子っぽいと思ってるんで。唐辛子好きな人でも唐辛子だけで食べないでしょ?っていう。あと、今回はジャケットにもメッセージを込めてるんですよ。裏ジャケで聖書を持ってるんですけど、聖書を持ちながらリンゴに手をかけようとしてるってことなんです。
--リンゴ=禁断のものってこと?
そうです。タブーを犯そうとしてるっていう。
--タブー? オートチューンが?
オートチューンっていうか、俺的にはテクノロジー全般なんですけど。酸いも甘いもあるじゃないですか、テクノロジーって。便利だけど、それが使えなくなったときに、もともと人間ができてたものが何もできなくなっちゃう。昔は電話番号も覚えてたのに今は覚えようとしないし、ナビがないと友達んちまで行けなかったり。だから、ただ手放しにいいと思って使ってないし、そういうリスクもわかった上で(テクノロジーに)乗っかりたいっていうところなんです。
--なるほど。でも今回って、サンプリングソースにソウル系のものが多いから、曲の質感が以前に比べてメロウですよね。歌詞を見てもピースフルなものやラブなものが多いし、デジタルな感じとヒューマンな感じが同居してる一枚だなって思ったんです。デジタル感とアナログ感が絶妙なバランスで共存してるなって。
そうですね。B-MONEYにも言われたのが、サンプリングでこんなにオートチューン使ってる人はあんまりいないって(笑)。ま、格好良く言えば、それが俺のフレイバーになればいいんじゃないですか。
--自分でもその辺は意識して作ってたんですか?
うーん……最近はあんまり周りと比べないようにしてるんですよ。人と比べて新しいとかかっこいいとかってやっていっちゃうと作る上で支障を来すから。できあがったものが人と違うとかどうこうっていうのはいいと思うけど、作っていくときにそういう思考回路はいらないかなって。っていうか、そうやって考えて作ってる人ほど、他人と似たものを作っちゃうんじゃないかなって思うんですよね。
--さて、1曲目「もしかしたら世界も笑う」とラストの「ボクのために笑って Feat. ADELITA」は同じトラックで、歌詞とボーカルが異なる曲ですね。2曲とも2008年10月にYouTubeにPVをアップしていた曲ですが、これはどんなきっかけで作ったんですか?
「もしかしたら世界も笑う」は、子ども……ヒップホップの子どもっていう意味も含めて、自分の次の世代の人たちへのメッセージを込めた曲なんです。これって曲もPVも自分のMacBookでひとりで作ったんですよ。そこで言いたかったのは、東京だからじゃないし、DELIだからじゃないし、ニトロだからじゃないしってこと。種子島にいようが沖縄にいようがMacBook一台とやる気さえあればできたことなわけですよ。結局、環境じゃねえぞ、お前次第だからっていうメッセージ。親や生まれる場所は決められないけど、どういう人生を生きるかはお前にしか決められないっていうメッセージなんですよね。
--「ボクのために笑って」は?
こっちは最初作ろうと思ってなかったんですけど、「もしかしたら〜」のPVをアップしようと思ってるときに、福岡でお母さんが自分の子どもを公園のトイレで殺しちゃう事件があったんですよ。そのあとも生後二ヶ月の赤ちゃんがお母さんの顔にミルクをかけたから床に叩き付けて殺しちゃった事件もあって。子育てってストレスが溜まるものだってことはわかるけど、俺はそのニュースを見て「やめて欲しい」って思ったし、それって本人も本望じゃないと思うんです。それで「もしかしたら〜」のアンサーソングを作ろうと。だから「ボクのため〜」は子どもの代弁者になったつもりで書いたんです。もしあなたが手をかけようとしている、あるいは手をかけた子どもがこんな風に思ってたら、あなたはそれができますか?って。
--ちなみに、この2曲をアルバムの最初と最後に置いたのには理由があるんですか?
次に出す作品の最後にもこの曲のリミックスみたいなのを入れてるんですよ。あと、楽しいから笑ってるというより、笑ってるから楽しくなると思うんです。それがその質問の答え、すべてですね。


