AOKI takamasa Special Interview

AOKI takamasa Special Interview

AOKI takamasaの『FRACTALIZED -remixes -』が1/27にリリースされる。これは彼が2003年から2009年にかけて、手がけたリミックス集である。素材は、坂本龍一やSKETCH SHOW、HASYMO、半野喜弘といった日本を代表するアーティストの楽曲。また3曲のセルフリミックス、さらに新曲も収録。リミックスという手法を用いて、ここで浮き彫りになるのは、AOKI takamasaというフレッシュで揺るぎない感性を持つアーティストの佇まいだ。そして根底に流れる究極の想いも訊くことができた。


--現在、活動の拠点はベルリンですよね。多くの人に訊かれると思うのですが、なぜベルリンを選んだのですか?

家賃の割に部屋も広く住みやすいからですね。それと、いろんな状況がベルリンに流れるように自然となっていった感じです。その流れに逆らうことなく、日常の心地良い方を選択したら自ずとそうなりました。2001年にアルバム『SILICOM』を出させてもらってからヨーロッパでのライヴが多くなり、2004年にはパリに引っ越したんです。ヨーロッパに行きたかった理由は、僕が作っているような音楽のオリジンは、やっぱり向こうにあるからです。例えば、これはよく話をするのですが、能について言えば、ドイツで習うより日本で習ったほうが本質を理解できますよね。また、音楽だけじゃなくて、現地のご飯を食べたり、友人と遊んだり、美術館に行ったりと、その土地の文化や風俗や習慣を体験することで、その音楽が生まれた背景や言語化できない何かを汲み取って音楽に落とし込んでいくことができると思うからです。

--ブロードバンドが張り巡らされた現在、東京に居ながらにして海外に住む人たちと音楽データだけをやり取りすることも可能になりました。しかし、そこを敢えて現地で製作に取り組むというのは、やはり音楽以外の要因があるからでしょうね。

そうですね。ヨーロッパに引っ越す前、聴こえてくる言葉や見えるものが全部頭に入って来るような感覚になりました。それが、しんどくてしんどくて、街に居られない状態だったんです。また、当時よく日本とヨーロッパを行き来してわかったんですが、ヨーロッパに人たちは、国籍や人種に関わらず、良いと思ったことを素直に表現してくれるんです。ところが、日本では概念だけで物事を判断する傾向にあったように思います。それにしんどくなったことも理由です。さらに、ヨーロッパは、今地球を覆っている、戦争金融システムが発祥した場です。その本質を感じ取り、今後、それを無くし、人間が戦争をしない、人間が人間を殺さない社会を作るためには、何が必要かということを、やはり本場で感じたかったということもあります。そんな風に8年ほどヨーロッパで過ごして、逆にやっと日本の良さがわかってきました。だから、自分の母国の文化にもっと自信を持ってもらいたい。ヨーロッパで得た視点を、みんなに無理矢理じゃなく、言語化するのでもなく、音楽と写真という目に見えないものと、僕の視点を通したものとで伝えたいと思います。それは、より人間を自由にする、より戦争のない世界にするためのひとつの活動だと考えています。

--外からの視点で、AOKIさんが捉えたものを、僕らに伝えてくれているんですね。

共有したいんです。ヨーロッパの文化はテレビや雑誌では表面的で良い部分しか伝わってきません。だから憧れが強くなっていくのは当たり前だし、それをばっちり植え付けられたら、それと違うものと出会ったときに排除するのも当たり前になってしまいます。そうではなくて、みんながみんなをリスペクトして、新しいものでも、それが人間をハッピーにするものであれば受け入れてくれるような社会が、ストレスのない健全なことだと思います。

--そうした根源的なものへのアプローチがアーティストとしての揺るぎないスタンスを形作っているんですね。

言語を超越した何かを大事にしています。例えば、ドラムのキックやハイハットを音楽上でどのように配置するか、どんな質感で作るかは、言語化されていないけれど、全て僕の考えの結晶です。そうした音楽や写真をどう受け止めるのかは、その人の自由。だけど、それがきっかけで普段、嫌だけど選んでいたものを選ばなくなるとか、習慣として選んでいたけど、他のものが良いかもと思えるようになる、そんなきっかけになればいいと思います。

--そうしたAOKIさんの心の底に流れている想いは、音楽製作にどのように結びついていったのですか?

実は大学時代はあまり音楽には興味なかったんですよ。聴くのは好きだったのですが、周囲の友人たちのようにレコードやCDをたくさん収集するほうではなかったですね。今でもそうです。当時は機材のデザインや配線などの方が好きだったですね(笑)。あとは「現象」が好きなんです。レースはあまり観ないのですが、F1のエンジン音には興味がありましたね。時速300キロでコーナーを曲がるとか、空力がおかしくなったらこけてしまうとか、そうした過激なバランスで、現象として何かが起きていることに非常に興味がありました。そんな時、クラブで初めてミニマルテクノを聴いたんです。それはすごくシンプルで、音楽ではなくて、人を動かす現象だと捉えたんです。真っ暗の中、爆音で音楽が流れている状況がアートだと感じたんです。言語を超越して、知らない人同士がやみくもに踊っていて、みんな楽しそうで。人が踊っているときって「死にたい」とか「あいつムカつく」とは思わないはずです。じゃあ、人が踊りたくなる現象を起こすことさえできれば、無意識のうちに自分の考えも踊りを通じて入っていき、それを共有できる人は共有してもらって、これまでにない別のものを選択する良いきっかけになるんじゃないか、と。

--その意味で、ライヴパフォーマンスでは当然、聴衆を踊らせることに主眼が置かれていると思います。ですが、ことCDやレコード用に音楽を製作されるときは、ダンスミュージックであることを、どの程度意識されているのでしょうか? これは以前から伺いたかったことなんですが…

100%ですね。それしか作りたくない、というかそれしかできないと言っていいと思います。なぜ自分が音楽を作るようになったかを正直に突き詰めていくと、結局は人が踊る現象を作りたかったから。例えば、会議室でみんなが喧嘩している時、僕の音楽が鳴りだしたら「まあ、ええやないか」という雰囲気ができちゃうとか(笑)。そういうのも現象だと思うんですよ。人が人を殺さない状況を作るための布石を作りたい。究極はそこです。人間の次の進化は、人間同士がいがみ合わず、殺し合わなくなることだと思っています。

--アルバムジャケットの写真もAOKIさんの作品ですが、普段、草の上にいるものだと思っている羊が屋根の上にいる。まさにこれまでの概念を解き放ってくれるような象徴的なショットです。

今まで羊は犬に追い回されてコントロールされる存在だったけど、そんな羊が屋根の上から人間を見下している(笑)。戦争をやっている資本家は、一般人を羊として見立てて、戦争を行う国を羊犬として、羊飼いとしての国際的な巨大銀行群が犬にエサを与え、戦争をさせて羊をコントロールするというのが、この社会のシステム。そんな状況や今まで羊飼いとして動いてた人たちを羊が見下しているという。そういう時代が来るぞ、ということです。

 

 


--ニューアルバムの大半は他アーティストに提供したリミックスですね。もととなる素材も非常に…

豪華!ラッキーです。これまでリミックスさせていただいた中で、非常に気に入ったものがたくさんあったんです。しかし、それらはコンピレーションの中の1曲だったりと、どうしても埋もれてしまいがちで。今回はそれらを1枚のアルバムとしてコンパイルして「僕の仕事です」と提示できたら最高だと思ったんです。素晴らしいチャンスをくれたことに感謝しています。

--中でも特に印象深いトラックはどれでしょうか?

全部、自分の子供みたいなものなので、一人を選ぶのは難しいですね。今回は他のアーティストの楽曲をブースターとして背負って、普段行けないところまで行かせてもらったという感じです。僕だけの力だと、違った方向に行ったり、低いままでしか飛べなかったりするところを、音楽的に確立された素晴らしいアーティストの曲のおかげで高いところまで飛ばせてもらいました。

--素材となるアーティストも違えば、リミックスされた時期も違います。なのに、アルバム全体に統一感があることに驚きました。

ありがとうございます。一番古いものが2003年のリミックスです。今回選んだ曲は、現在の自分の視点でふるいにかけて残ったものだけです。SKETCH SHOWの「MARS」のリミックスでは、これを手がけたおかげで新しいアイデアが得られました。だから転機になった作品です。「WAR AND PEACE」にしてもそうです。それまでの路線から変わるきっかけとなったリミックスばかりです。

--音色や音の響きや奥行きにも一貫性を感じました。

それは昔から、やりたいことが変わっていないからだと思います。つまり、人が踊る現象を起こしたいと、ずっと考えてきたからです。アンプやスピーカーを介して音が鳴っているというのではなく、まさにエンジンがその場で鳴っているような迫力をいつもコンセプトとしています。

--そうして考えてみると、音楽を聴くためのソフトにしろ、ハードにしろ、それらの再生能力に限界を感じることはありませんか?

与えられたもので最大限のものを引き出すのが、僕のもう一つの基本概念です。全ての家庭に3D音響が導入できるかといえば、そうじゃないし、与えられた環境、例えば、コンピューターで聴いても、iPodで聴いても、最大限鳴るということを常に意識していますね。将来的に、脳に直接オーディオ信号を流せるようになったとしても、MP3で再生されることだけを想定した曲は、恐らく聴けないと思う。痛くて。でも、太鼓の音に近いとか、爆発音に近いとか、実際の現象に近ければ、直接脳に入ってきたとしても、それは体感になるから受け入れられると思うんです。だから50年後、100年後、そんな時代がきたとしても僕の音楽は聴いてもらえるかな、と(笑)。

--製作時のマシンはPCがメインですか?

音のジェネレーションに関しては、自然現象である電圧を純粋な形で、音としてどう落とし込めるかと考えた場合に、ハンドメイドのアナログシンセが理想的だと思っています。ハンドメイドだからケアが多く入っているし、コストダウンのための技術は使われてないし、好きで作っているから情熱が入っている、まさに生き物です。その生き物を通して、同じく生き物である電圧をできる限りピュアな状態で録音するという発想です。デジタルノイズにしても、それはエラー、つまり計算された結果ではありません。だからある意味自然現象に近いピュアさがあると思っています。だから自分はノイズやサイン波、またできる限り電圧に近い音を使っています。ツールは何であれ、自分の欲しい素材感と質感、周波数が出るなら何でも使う、それが僕の製作方法です。

--そうしたツールはどのように捉えていますか? 楽器ですか?

完璧におもちゃです(笑)!

--その発想がAOKIさんを自由にさせているのでしょうね。

音楽も僕にとっては、音の振動と捉えれば、お香と一緒なんですね。インテリアや家具と一緒だとも言えます。ずっと置いておける家具かどうか、という判断で音楽を聴いてますね。

--最近では写真家としての活動も積極的ですが、写真を始めたきっかけは?

中学生の頃、父親がオートフォーカスのEOSを買ってきて。でも父親が使わないから僕がバシバシ撮っていたんです。それが楽しくて。それともともと映画が好きで、写真を撮る瞬間も「あ、映画のワンシーンみたい」という想いでシャッターを押していました。今でもその感覚はあります。この写真(ジャケット裏面。テーブルの上にアナログレコードの白いスリーブが置かれている)も、たまたまDJがポンと投げた瞬間を撮ったものです。それがすごく美しい配置に見えるんですよ。

--わざと並べようと思っても、なかなかそうできないような。

そうなんです。実は宇宙に存在するものは全てが美しくて、観る人の視点と心境によって見え方が変わるということを、こうした作品で表現していきたいと思っています。

--写真はその瞬間を捉えたもので時間はそこで止まっている。音楽はもっと流動的で時間を感じさせるものですね。

そうですね。僕もそれはずっと思っていたんですが、そもそも時間の概念は人間が作り出したものですよね。太陽と地球の距離感でできた尺度であって、そこを無視したら時間なんてなくなってしまう。つまり永遠の今しかない。それをどうやって音楽で表現するかと考えた時、最初も終わりもないようなループ、つまり永久機関として機能するものを作りたいと思っています。それがインテリアとしての音楽であり、現象としての音楽であると思います。永久機関としての音楽を作ることで、時間の概念を飛び越えることができるし、写真に近づくこともできるのではないでしょうか。

 

<インタビュー・文 / 中林直樹

 

FRACTALIZED
『FRACTALIZED』
2009.1.27 ON SALE!
commmons
RZCM-46434 / ¥2,800(tax in.)


収録曲
1.RESCUE - AOKI takamasa remix / HASYMO
2.ASCARI_dry_condition - self remix / AOKI takamasa
3.MARS - AOKI takamasa remix / SKETCH SHOW
4.FRACTALIZED / AOKI takamasa
5.War&Peace - AOKI takamasa remix / Ryuichi Sakamoto
6.LOVE BITES - self remix / AOKI takamasa
7.Music for Sweet Room on the Orbit of the Earth - self remix / AOKI takamasa
8.composition 0919 - AOKI takamasa remix / Ryuichi Sakamoto
9.re-platform - AOKI takamasa remix / Yoshihiro HANNO

AOKI takamasa(アオキタカマサ)
1976 年大阪府出身。現在はベルリン在住。地球上で起こる物理的なものや人間そのものを含めた自然現象を 、音や写真という媒体を通じて透徹した視点で写し出すアーティスト。 音楽家としてのAOKI は、2001 年にファースト・ アルバム「SILICOM」をPROGRESSIVE FOrM よりリリースして 以来、日本とヨーロッパを中心に活動を続けている。アルバム制作と同様に不可分なものとして重きを置き精 力的に展開しているそのライヴ・パフォーマンスは国内外でかねてから高い評価を得ている。 2008 年、その才能を認められ7 作目となるアルバム”Private Party” が坂本龍一主宰のcommmons より発売 。2009年にはドイツの電子音響レーベルraster-noton からアナログ盤を発売。そして2010 年1月に、 commmons からの第2 作目、坂本龍一やHASYMO、自身の楽曲のリミックスを纏めた、既存の“ リミックス” という概念すら塗り替えてしまう、鮮烈な視点と音楽性にあらためて驚かされるアルバム「FRACTALIZED」を 発売。常にイノヴェイティヴかつユニークなその才能を各方面で発揮し続けている。 写真家としては、写真雑誌の「Photographica」にてポートレートを撮影、また『装苑』ではmina perphonen の撮影にも参加。昨年10 月、坂本龍一 Playing the Piano 2009 EUROPE のドイツ公演のライブを撮影をする など、写真家としても注目を浴びている。

オフィシャルHP
http://www.aokitakamasa.com/

AOKI takamasa Special Interview