自分の世界を開く。そこからこの物語は始まった。 新たな表現を模索し、湧き上がる感情に蓋をせず、遠回りとも思える自問自答を繰り返しながら、メジャー初アルバム『深まる日々に、微笑みを。』が遂に完成した。ほとばしる激烈サウンドにまみれながらも決して埋もれることのない歌とメロディ。そこに映し出される、不器用なダメ人間だけがもつ美しさ。大海原に放ったアルバムならではの勢いと蒼さに、如何様にも転がっていきそうなバンドのこれからを否が応でも期待してしまう。
再びフロントマンである松尾昭彦に会った。時折浮かべる自嘲の笑みと、しっかりと地に着けている足と、明日があるという希望がそこにはあった。
--メジャー・デビュー後、初のツアー“GENERAL HEAD MOUNTAIN TOUR2009 「晩秋編」”はいかがでした?
よかったですよ。ずっと今回のアルバムに向けたテンションに切り替えながらやってたんですけど。
--前回の取材ではシングル「羽」のお話を伺ったんですが、そのときにはもうアルバムは出来ていたんですね?
そうです!出来てました。
--デビュー1発目のシングルからあまり間隔を開けずにアルバムを出してしまおうと?
それもありますし、結局はこいつ(アルバム『深まる日々に、微笑みを。』)のために2009年全部使ったので。だからシングル云々ということではないんですけど。
--ということは、シングル「羽」と同様、すべて書き下ろし。
そうです。ストックゼロでメジャーに来たんで。
--この1年間の松尾さんの思いやバンドの成長が凝縮されてるアルバムといっていいですよね。
ですかね。僕としてはすごくよかったと思ってるんですよ、そんなもう何年も前に書いた曲が混ざってるとかじゃないんで。
--インディーズでもそれなりの結果を残してきた。にもかかわらず、そういう、まっさらな姿勢でアルバムに臨もうと思ったのはなぜだったんですか。
インディーズ時代の作品はインディーズ時代の作品として、それは納得して世の中に出してきたし、別にメジャーで改めて出しなおさなくてもいいと思うんですけどね、僕は。また書けばいいんじゃないかっていう(笑)。
--そうですよね(笑)。とはいえ、何もないところから作品を生む、その苦しみや葛藤もあったでしょうね。
そうそう、最初はもう何もなくて。去年の初めくらいまでは全然何も。それで「どうしよう・・・」っていう状態からのスタートでしたね。前作の『月かなしブルー』というアルバムは、若さゆえの、とか、若気の至り的なもので成立しちゃったので・・・でも歳を重ねるものじゃないですか、人って。じゃあ新しいものを探さなきゃっていう。そこからこのアルバムは始まります。
--オープニング曲「花にカルテット」からすでにその気持ちが漲ってますね。
そうです。でもこの曲には2つの意味があるんです。この曲から始まって、最後の曲「深まる日々に、微笑みを。」がフェイドアウトするまで、僕の中では“花が咲く”ってイメージなんですよね。花が咲いた状態でまた1曲目に戻る、2周目に繋がるっていう。だからジャケットも花満開なんですけど。前回に引き続き、画家の筒井はじめさんに描いてもらいました。ジャケットを広げるとね、また花がブワーッと。
--花なんだけど、ただ綺麗なだけじゃない。そういう絵ですね。
ああ・・・「僕はこれだけ書いたから、俺の音楽の世界に花を咲かせてくれよ、筒井さん」って言ってお願いしたんですけど。これ、絵だから・・・枯れないですよねえ・・・・?
--そうですね。枯れない花。
ですよね。
--松尾さんの中で“花が咲いた”っていうのは具体的にはどういうことなんでしょうね。達成感?
そうですね。達成した、っていうイメージに近いですね。これまでこんなに自分自身を書くことがなかったし。新しい表現に辿り着いたよっていう。その感じです。
--自分をまず出していこう、ってところからすべてが始まったんですね。
そう、元々はそういう考えで曲を書いてたわけじゃなかったから。最初は何も見えなかったから、だから最初は叫んで、その次は何だろうって考えたら、“刺さる”ことだと。「刺さなきゃ」って思ったんですよね。刺さる音楽。刺さらなきゃ意味がないっていう。それで刺すだけの音楽を追求した挙句、『木漏れ日にツキル』って作品を作って。それでツアー回ったんですけど、1度もアンコールに応えなかったんですよ。呼ばれてるのに出ていかなかったんです。それは“突き刺さる音楽”を追求するがゆえのアンコールへの不信感というか、「お約束だろ?」みたいな気持ちがあって。でもお客さんはそんなこと知らないから拍手してくれるわけですよ、僕らが出てくるのを待っててくれるんですよね。「出てこいよ~」って。それがなんか切なくて。そこでお客さんのありがたみがわかったし、「ああ、お約束じゃないのか」っていうのもわかって・・・僕、バカだから自分の目で確かめないとダメなんですよ。
--大切なことだと思いますよ。
そう、ですかね。それで、そのツアーでは刺すだけ刺してみたんですけど、何が残ったかっていったら、何も残らなかったんですよね。作りきった、やりきったっていう達成感と、「刺さったな」っていう手応えはあったんですけど、そこから広がるものが何もなかった。そこから、そこに何かを足さなきゃいけないんだってことを考えだして。刺したら染み込ませていこうっていうところに行き着いた。じゃあ何を染み込ませるんだ?って考えたとき、“人肌の体温”が気持ちいいなあって思って。そこから、「それを注入するには・・・・どうしようどうしようどうしよう・・・」ってなって。それで「あ、僕が音楽の中にいればいいのか」っていう、当たり前のことにやっと気付くんですよ。それで書いたのが「羽」です。
--なるほど。
でも「羽」だけじゃまだ実感が湧いてなかったというか、中途半端な刺し加減だなって思ってたところに「傘」という曲を書いて、そこで完全に開ききりましたね。それが<素晴らしい答えだ>っていう言葉とも繋がってるんですけど、そこからようやく今回のアルバムが始まるんです。
--人肌の体温・・・でも相変わらず共感は求めない?
はい。でも“共鳴”っていう言葉はいいなって。同じものを見ているっていう感覚に近いですかね。お互いがブルブルブルって震える感じというか、お互いが思い描けるっていうのが音楽の醍醐味だと思うから。まあ、そう思えるようになったのも最近なんですけど。
--音楽の中に自分を存在させるっていうのは当たり前のことのようですが、松尾さんにとっては?
いや、葛藤はありましたよ。自分のことなんだから書けるし、歌詞書く時間も半分で済むんだけど、「お前、これで大丈夫か?」「ホントに大丈夫か?」っていうのを何度も(笑)。
--自問自答しながら。出来上がった作品は聴いてます?
ずっと聴いてます。僕は今までずっと自分が聴きたい音楽を作ってきたので。いや、イイですよ(笑)。「2枚目のアルバムでこうきたか!」って。いや、でも僕がいちばんこのアルバムに詳しいんですけどね(笑)。
--確かに(笑)。でも“刺して染み込ませる”ためには言葉だけでなく、やっぱりメロディの存在感も大きいですね。
今回は自分で歌ってて気持ちいい曲ばっかり選びましたね。
--エモーショナルっていう形容をよくされると思うんですけど、個人的にはこのバンドで最も重要なのは歌とメロディだと思ってるんですね。
そう、僕らは“歌ものバンド”です。別にパンクでもないし、ロックもよくわかんないし。ただ音楽をやってるだけっていう。
--なるほど。11曲で40分っていうのも潔いですね。
そのくらいが飽きなくていいんじゃないですかね、集中力も続くし。ただ、やっぱりリピートして聴いて欲しいっていうのがあったし、曲間も考えました。テーマとして“繰り返すこと、受け入れること”。“受け入れたがゆえの未来”っていうのもあったし。
--なるほど。そのテーマは聴くほどに実感していくのがわかりました。でも“繰り返す”はともかく、“受け入れる”っていうのは。
すごく簡単なことです。自分に「うん」って言うっていう。それだけですね。これまであんまりそういうことをしてなかったんで。「ダルイ」って思ってたから(笑)。
--受け入れなければならなかったこと、というのはあります?
ああ・・・僕は本当にクズみたいな人生を過ごしてきたので。いや、だいぶいろいろクズでしたよ(笑)。誇れることは何にもなかったですから。
--でも、生きてて満たされなかったものを満たしてくれたのが音楽だったんじゃないんですか。
いや、本当のことを言うと最初は暇つぶしで音楽やってたんですよ。その状態のままインディーズ・デビューが決まって、とりあえず仕事を辞めたっていう。だからそれまで何も考える時間がなかったっていうのが正直なところなんですね。でもツアー回ったらいつの間にかライヴハウスがパンパンになってて、じゃあ次の作品はどうしようか?って考えたことが、結局は今に繋がってるんだと思うんですけど。
--これまでの人生をリセットしたい、という気持ちはありました?
いや、過去は思い出さないようにしてました。でも思い出しちゃう。だから自分に「うん」なんですよ・・・あ、僕、「うん」しか言ってないですね(笑)。
--自分に「うん」。それがすべてなんだなってわかりますよ。でもそれが人に聴かせるための音楽になるわけですよね。そこに対してはどうですか。
いや、そこはもう全然、好きにしてください、好きに聴いてください、好きにこの曲を解釈してくださいって感じです。そのために曲に余白も作ってるので。
--もうひとつ気になったのが「死」というキーワードなんですけど。
死ぬこと・・・別にそこに対しては何も抵抗はないです。いつか死ぬなあ、っていうくらいで。僕は運命ってすでに決まってるものだと思って生きてるので。だから何も怖くないです。僕が成功する運命をもっているなら男なら何やっても成功するだろうし、ダメだったら才能がなかったんだろうっていう。
--でも作品に対しての自信は当然あって。
ああ、だからまだ音楽やってていいんじゃないですかね。メジャーにはそれを試しにきたので。
--なるほど。今の段階ではこの作品が松尾昭彦という人の全部だと思っていいんですか。
はい、もう全裸です。その上で未来を見てます。
--全裸になる、未来へ続く、その最たる曲が長い間あたためていたという「深まる日々に、微笑みを。」なんでしょうね。
そうです。これ、タイトルだけで泣けてくるんですよね。いや、いい歌だなと思うけど、だから出したくなかったんです。僕だけの楽しみにしときたかった(笑)。でも、もう出しちゃったから。出すならこれが作品の肝だなと思って。
--松尾昭彦という人があからさまになった曲ですよね。
ああ・・・はい、それでいいです(笑)。
--(笑)。でも、この曲を世の中に出すことはある意味、冒険だったんじゃないかなとも思うんですけどね。
ああ、ただのフォークソングですからね。僕、フォークソングが日本でいちばん素晴らしい音楽だと思ってるので。
--この曲を作ることで、松尾さんの中に気付きもあったんじゃないですか。
そう、だから最初、この曲は続きがない結末だったんですけど、でも「続く」に変えたんです。
--歌詞しかり曲調しかり、松尾さんの中には元々こういった思いなり、引き出しなりは潜んでいる?
僕、出す曲と出さない曲っていうのがあって、その出さない曲の筆頭だったという。それはその、<今、歌うべき曲じゃない>とか、<これは50歳になったら歌えるな>とか、そういう基準で出す、出さないっていうのを決めていくんですけど。この曲は今だから出せたと思うし、今だから歌えたんじゃないですかね。
--なるほど。そのアルバムが完結するであろうツアーが決まっていますね。GENERAL HEAD MOUNTAIN TOUR2010 「花笑み編」。いいタイトルですね。
それが偶然、見つけたんですよ。「花笑み」って素晴らしい言葉だなと思って。春の季語を探してて、そこで見つけたんです。バッチリだ!と思って、もうビビッときた(笑)。アルバムと繋がった!と思ったんですよ。
--どんなツアーになるでしょうね。
答え探しです、アルバムの。まだ今の段階ではレコーディングしただけなんで、僕自身、こいつらがどんな子たちなのかわかってないところもあるし、まだモヤモヤしてたりもするんです。それがツアーでやってみて全部わかるんだろうなって。でもいいツアーになると思いますよ。そこでみんなで答え合わせしたいですね。
<インタビュー・文 / 篠原美江>



