アコースティック・ギターとラップトップを自在に操るイギリスの新鋭エレクトロ・ポップ・マエストロが昨年末に初来日を果たし、恒例のイベント「ブリティッシュ・アンセムズ」でライブを披露した。Yシャツにネクタイ、メガネに七三といういでたちで現れた姿は、どこか学者か研究生を思わせるものでしたが、ステージ上では、エレクトロを全面に出したアグレッシヴなパフォーマンスを見せてくれました。日本でのあまりの歓迎ぶりに驚き、ライヴでは心臓が出そうなほど緊張したということですが、とにかく、大感激の初来日だったそうです。
--今回が初来日だそうですね。
初めての日本だというのに、予想以上に、みんながよくしてくれて、嬉しい驚きという感じだね。多くの人が僕のことを知ってくれているし、サインもお願いされてしまったからね。イギリスじゃ、ありえないよ(笑)。
--以前のインタビューで、日本の音楽や映画に興味があるとおっしゃっていましたが。
姉の影響で昔から日本のホラー映画をよく観ているんだ。三池崇史「オーディション」と「殺し屋1」が好きだな。今では日本映画は世界的なもので、ハリウッドでもリメイクされるくらいだから、それほど変わった趣味ではないよ。リメイクされた映画のクオリティに関しては、あまりコメントできないけどね。日本の音楽はコーネリアスが好きだね。『ポイント』のアルバムにはかなり影響されていると思う。新しいところではアンカーソングがいいね。才能あるよ。でも、僕がなぜ日本の音楽に詳しいかというと、ミュージシャンになる前、コマーシャルなどで使う音楽を探す仕事をしていたんだ。日本の音楽はイギリスではメインストリームではないから、いい音楽を探して聴くのは大変なんだ。僕は仕事柄いろんな音楽を聴く機会があったので、日本の音楽に興味をもつことができたんだよ。
--あなたの音楽は日本人に好まれそうな気がします。切ないメロディとエレクトロがいい具合にミックスされていて、そういう音楽は日本人の琴線に触れやすいんです。
僕が好きな音楽をやっているだけなんだけど、それが日本の音楽ファンに気に入ってもらえたなら嬉しいな。僕が目指しているのは未来的なエレクトロなんだけど、それだけじゃなくて、作りこまれた曲を大切にしているんだ。メロディにこだわっているんだよ。
--それはすごく感じますね。日本でライブをやってみた感想は?
日本の音楽ファンはイギリスの音楽に対して好意的ということを知っていたから、日本に来て僕の音楽を披露できたのは光栄だったよ。どこの国でも自分の音楽を聴いてくれる人がいることは嬉しいんだけど、地球の反対側ともいえる日本で、これだけ歓迎されたのはただただ「嬉しい」の一言だよ。
--今回はブリティッシュ・アンセムズというイベントへの出演でしたが、あなたは音楽を作るとき、特別イギリス人ということを意識していますか。
自分の話す言葉はイギリスのアクセントだし、歌詞の内容もイギリス的だとは思うけど、いちばんの特徴はフォークというところじゃないかな? そういう作風は自分でも大切にしたいと思っているしね。他にも僕のようなアコースティックな音楽をやっているアーティスト、例えばADEMやTUNNGがいるんだけど、逆に彼らはエレクトロやダンスの要素は僕ほど多くないんだ。でも彼らのフォーク寄りの音楽にはシンパシーを感じるよ。
--昨日のステージを観ると、基本的にラップトップのスタイルだけど、フォーク・ギターを抱えた姿がとても印象的で、しかもギターが上手い。
僕はニルヴァーナやメタリカが好きで、そこから音楽に目覚めたから最初はロック・ギターを弾いていたよ。大学時代にニック・ドレイクを聴いてフォークに目覚めたんだ。ギターに興味を持って、フィンガー・ピッキングや変則チューニングなんかも覚えてね。だから好きなギタリストもニック・ドレイクだよ。今後僕はいくら頑張っても彼を超えるアーティストにはなれないとは思うけど、彼を目標にしているんだ。
--以前のインタビューではレディオヘッドからも影響を受けたと言っていましたが。
レディオヘッドはギターよりもソングライティングやプロダクションに影響を受けているんだ。彼らの音楽はいろんな要素が複雑に絡み合っていて、最初に普通に聴いただけだとどこがどうなっているのか、分からないことが多くて、でも何度も聴くと理解できる。そういうふうに何度も繰り返して聞かせてしまうところに感心してしまうんだ。僕も同じようなアプローチをしたいんだよね。
--あなたの曲に「No Surprise」というタイトルがありますが、これは偶然ですか。
偶然だよ(笑)。彼らは「No Surprises」だしね。Sがひとつ付くだけで混乱は避けられるでしょ(笑)?
--ライブのときはいつも緊張されるそうですが、日本でのライブは緊張しましたか。
ドキドキだったよ。遠くからこのために日本に来て、初めてのパフォーマンスだったわけだからね。プレッシャーはあったよ。僕はライブのときはいつも緊張するんだけど、これはもう僕の性格でね。強度の心配性なんだ。
--コンピュータを使っているから機材トラブルもあるかもしれませんしね。
まさにその通り。前にベルギーでライブをやったときがあってさ。まあ、ベルギーは近い国だから日帰りで行くことになったんだけど、そのときに、コンピュータがオーバーヒートしてしまって使い物にならなくなってしまったんだ。仕方なくギター1本で弾き語りしたんだけど、やはりそれは僕が理想とする本来の音楽ではなく、お客さんも機材トラブルを知ってしまったわけで、帰ってしまった人も多くてね。まあ、残って聴いてくれた人もいたことはいたんだけどさ。
--昨日のライブを見て思ったのは、予想以上にエレクトロの要素が強いことでした。
両方とも僕にとっては重要な要素だから、両方を目指しているところではあるよ。でも君の言うとおり、ライブだとダンサブルでエレクトロの要素が強いかもね。それには大きな理由があるんだ。実はこのアルバム『ターニング・ダウン・ウォーター・フォー・エアー』をレコーディングしたあと、僕のコンピュータが何者かに盗まれてしまったんだ。そこにデータが全て入っていてね…。すごくショックでね。それでもう一度作り直すことになったとき、そのとき聴いていた音楽が以前のものよりも少しハードなエレクトロが多かったからその影響もあって、新しく録り直したものは少しダンサブルになっているんだ。それに、結構他のアーティストのリミックスも手がけたし。
--それはショックでしたね。
うん。それに、今聴いているのはさらにハードなエレクトロだから、ライブもそうなっているんだ。今後僕の音楽はそういう方向性に行くと思う。
--ライブでは新曲も披露していましたが、ポップでいい曲だと思いました。次のアルバムを示唆するものですか。
「新曲です」と言って演奏した曲はポップを目指したんだ。フォークとエレクトロニカの両極端をミックスさせているという意味では、前のアルバムをさらに発展させたものになると思う。プロダクション方面においても勉強したから、いいアルバムになるはずだよ。
--では最後の質問です。ライブの衣装はYシャツにネクタイで、研究者か銀行員か、という固い感じでしたが(笑)。
いつもフォーマルなスタイルでステージに出ているんだ。白衣も持っているんだけど、それはやりすぎだろうと(笑)。ネクタイを締めることで、気持ちが引き締まってくるし、「これからやってやるぞ!」って高揚してくるんだよね。だから、普段の生活との気持ちの切り替えということでは、効果があるんだ。緊張してしまうことには変わりないんだけどね(笑)。
<インタビュー・文 / 竹部吉晃>




