07年3月の日本武道館公演をもって、一旦、グループとしての制作活動を停止。昨年10月にその沈黙を破り「ONCE AGAIN」で高々と復活宣言をしたライムスター。彼らのオリジナルとしては4年ぶりとなるニューアルバム『マニフェスト』が実に素晴らしい内容だ。本作ではMummy-Dが(トラックを作らず)総監督役を担い、(DJ JIN制作の2曲を除き)すべての音作りを新旧の外部プロデューサーが担当したことが大きなトピック。そうすることで新鮮な外気の採り入れに成功しつつ、グループ内の志向にはズレやブレが一切ない、高密度・高強度な一枚に仕上がった。また、ラップの旨味や妙味をパックしたとてもヒップホップ愛を感じる作品になっていることもポイント。ただ、彼らが得意とする弱者からの視点で切り取られた言葉は、一般社会にも通じるメッセージへと昇華されていて、そういった意味ではとても普遍性のある一枚になっている。日本語ラップをまたひとつ次のレベルへと押し上げた金字塔的作品。ここに詰まった情熱は、普段ヒップホップを聴かない人の涙すら誘うはずだ。
--いやー、名作の誕生ですね。
全員:あざーっす!
--もう感動巨編ですよ、今回は。とか言いつつ、ちょっと本題とはズレた質問から入るんだけど。このジャケ写のケンタウルスは何ですか?(笑)
Mummy-D:あはは! そっから来た?
DJ JIN:それ、最初から聞いてきた人はいない(笑)。
宇多丸:でも、そうだよね。フツー、そこ気になるよね。
Mummy-D:みんな怖くて聞けなかったのかな。それね、このアルバム一番の謎です(笑)。
--謎って(苦笑)。今回は内容がすごくストレートなアルバムだと思ったんです。なのに、このジャケットの異質感は何だ?と思ってね(笑)。
Mummy-D:今回はマボロシをやってもらってたデザイナーさんなんだけど、EXILEとかもやってる人でさ。で、内容をそのまま追うようなデザインをあまりしないというか、『マニフェスト』っていうタイトルから彼なりに膨らませてくれた結果がコレっていう。で、俺らは出てきたものが面白かったから……なんていうかレボリューション感があったので、逆にそれくらいのズレは良しにしようって楽しんだ感じなんだ。
DJ JIN:デザイナーの中城くんはケンタウルスっていうアイデアは昔からあったんだけど、それを受け容れられるだけの器の大きなアーティストに今まで出会わなかったって言ってくれたしね(笑)。
宇多丸:うん。でもかっこいいなと思ってるんだよ、すごい。フツーにかっこよくね?っていう。まあ、笑ってもらっても全然構わないんだけどね。「ゲラゲラゲラ」「いや、かっこいいしょ、でも」「うん、かっこいいっすね」。そんな感じだよ(笑)。
--じゃあ、次は直球の質問。今回のタイトル『マニフェスト』の意味合いは?
Mummy-D:マニフェストというタイトルは、実は結構前から付けようと思ってたの。最初、もうちょっと社会的なトピックを扱うコンシャスめなアルバムになりそうかな?っていう気配があってさ。でも意外とそうならなかったんだけど、結果、タイトルのことを忘れてて。で、もう一回、タイトル案を考えようってときにこれが出てきたんだ。今回は英語表記の最後に「O」を付けてるんだけど、今、政治用語で使われてるマニフェスト、公約とか声明みたいな意味だと「O」が付くの。で、「O」がないMANIFESTだと、自分の意志・意見を表に出す、みたいな意味もあって、それが「口に出して何かを言う=ラップ」みたいなところがあるなって。で、今回は二度目のファーストアルバムみたいなものだから、『俺に言わせりゃ』現代版っていう意味も当てはまるなと思って。再始動にあたっての所信表明みたいな意味も込められるなって。
--今回は外部プロデューサーの起用というのがトピックですが、人選はどのように?
Mummy-D:最初にみんなで好きなプロデューサーを挙げていったのね。そのときはヒップホップ畑だけじゃなくて、いろんなジャンルの人にヒップホップトラックを作ってもらうっていう意見があって。けど、途中から考え直して、やっぱり復活一作目は「Hip Hop Is Back」な方がいいかなって。それでヒップホップ寄りで日本を代表する人で、あとはカラーがはっきりしてる人、ライムスターをプロデュースするのが初めての人。そんな選び方をしていったんだ。
--集まったトラック群は、ソウルフルでファンキーで、サンプリング感が強いですよね。それは偶然?
Mummy-D:やっぱ、みんなこういうものを当ててくるんだよね。それぞれのプロデューサーのライムスター感がこうっていうか。
宇多丸:あと、俺らが結局、そういうものを選んだっていうのもあるよね。今回はものすごいたくさんの中から選んでて、もっとバッキバキのUSヒップホップぽいトラックとかR&Bっぽいトラックもあったんだけど、3人共通して「これがいい」っていう風になるのはこの辺だったんだよね。
DJ JIN:でも、当初、飲み会(アルバム制作会議)のときに、やっぱ90年代ヒップホップの良さはあるよね、って言ってたよね。
宇多丸:そうそう。そういうムードはあるかもね。90年代ヒップホップは間違いなくまた来そうだ、じゃないけど、日本人が一番好きなヒップホップは90年代ヒップホップだっていうのがもともと持論であって。
DJ JIN:90年代は来るらしいっすよ。
--現場でDJやっててもそういう流れを肌で感じる?
DJ JIN:うーん、まあ、全体的に。ヒップホップっていうより音楽的に。ぽつぽつと感じてる。
宇多丸:でも、そういう「もうすぐ来る」ていう邪心はともかくとして。本当に3人の中で人気ある順、出会った順っていう感じです。
Mummy-D:たぶんね、トラックにわびさびを求めるんだよね。そこじゃないかな。歌いたいこととのマッチングもあるんだけど、わびさびのあるトラックが一番惹かれるっていう。
--「ONCE AGAIN」リリース時にアルバムはMummy-Dが制作総監督という役回りを行うと言ってましたが、結果、そうなったんですか?
Mummy-D:うん、そうなった。
--制作総指揮監督として、今回はどんなアルバムにしようと思ってた?
Mummy-D:まずはクオリティの高いもの……ヒップホップ的にクオリティの高いものっていうよりは、もっとでっかい音楽としてクオリティの高いものにしたかったんだよね。たとえば自分の趣味じゃないジャンルの映画を観ても、その良さは伝わってくる、みたいな、そういうところ。たとえば今回のジャケのデザインひとつとってもさ、これってぶっちゃけ、ジャンルがなんだかわかんないと思うの(笑)。ジャンルなんだかわかんないけど、でもなんかすごいじゃん。なんかすごいし、これは一流のデザイナーが手を抜かずに作ったものだっていうことはわかるじゃん。そういう有無を言わさない何か。そこを目指していかないと、自分が今までやってきたことの外側の音楽家だったりとか、別のジャンルの作品にかなわない。でも、そこに勝負していけるようなクオリティを求めたんだ。
--ここからは具体的にいくつかの曲に絞って話を訊いていきますが、「K.U.F.U.」はのっけからすごいラインですよね。《KとUとFとU わりとフツーに言うと「工夫」と言う》」って(笑)。普通に言わなくても工夫だろっていう。
Mummy-D:そうなんだよね-。K.U.F.U.っていうことで、工夫というより長くなってるっていうね(笑)。K.U.F.U.っていう間に、工夫が二回言えるじゃないかって。
--どういう着想で作った曲なの?
宇多丸:これはトピックが先ですね。K.U.F.U.って最初は身内だけのギャグだったんだけど、(工夫を)K.U.F.U.ってあちこちで言うとウケるから、これ絶対ウケるぜって(笑)。で、やるんだったらこれはJINじゃないのって。というのは、工夫が(ライムスターの)KING OF STAGEたるゆえんっていうか。ライブの練習をしてるときに出てきた言葉なのね。
DJ JIN:ここをこうして、ここをこうして、とか、そういう細かいキメがいっぱいあってね。
宇多丸:それを指して、「これですよ、K.U.F.U.ですよ」みたいなことを言ってたから。完全にK.U.F.U.の概念を理解してる男だから、もうJINに作ってもらうしかないだろって。
--これはファンクバンドのMOUNTAIN MOCHA KIRIMANJAROが参加してるんだよね。
DJ JIN:これはバンド演奏からBボーイが絶対好きなブレイクビーツのエッセンスをいろいろ抜き取って、俺の中でいろいろいじって作ったんですよ。バンドとスタジオに何回か入ってプリプロをやって、本チャンをレコーディングして、それをエディットさせてもらう……バンド演奏を素材にしてヒップホップのトラックを作るっていう、俺のひとつの挑戦ができたところはありますね。
Mummy-D:でも、「道徳」的な歌だよね。“努力しよう、練習しよう、工夫しよう”っていうのをこんな形で歌うなんて(笑)。
--確かにね。「道徳」の授業っぽい(笑)。
Mummy-D:(胸を張って)「努力!」っていう(笑)。
宇多丸:いや、でもそうなんだよ。俺たち最初から全然才能はないんだけどね、努力したんだよっていう。まだまだな俺たちがなんでキングなんて自称してうまくいってるのかっていう話は、実はこれまでしてないんだよね。で、そういうところを他のラッパーもちゃんと言ってないでしょ。あと、ラップに限らず、工夫は人間で一番大事な考え方だっていうのが前からあって。人間の努力の力ってナメてちゃいけないよって。ナメてちゃいけないどころか、それの結晶なんだからさ。いきなりテレビがあって暖房があって、って暮らしてると忘れがちだけど、最初はそれなかったんだからっていう。




