インタビュー中に、多少謙遜しつつ発した「他にいないでしょ?」という言葉こそ、今のシーンにおける自身フルカワミキの存在感を現しているのではないか。ロックでありつつエレクトロであり、打ち込みを多用しているのに生音の感触が残り、実験性にあふれているのに、十分に大衆ポップでもある。それは彼女の元々のセンスのよさやキュートなキャラクターに拠るところも大きいのかもしれないが、前作からの約2年の間に、急成長したあとがこの『Very』にうかがえる。そして、このアルバムこそ今この時代に聴かれるにふさわしい新しいポップ・ミュージックだ。
-- このアルバムは前のソロアルバム2枚に比べるとエレクトロの要素が強い内容だと思います。この経緯から教えてもらえますか。
前作はわたしを取り巻く環境や製作期間のこともあって、バンド・サウンドに志向を絞ったかたちで、短期集中でレコーディングしたんです。レコーディングしてからすぐにリリースしたかったのもありましたし。そういうのもあって、3枚目を作るときは2枚目と同じものを作るよりは、今まで自分がやってきた音楽を詰め込んでいろいろにぎやかな感じにしたいと思ったんです。元々の発想の中で、このアルバムはなんとなくエレクトロの要素は強くしたいとは思っていましたね。そこを決めてから、作曲してレコーディング作業に入っていったんです。
--昨年リリースしたシングル「サイハテ」の存在はいかがでしたか。
「サイハテ」はあくまでもアルバム制作の過程のなかでの企画だったので、「サイハテ」があったからエレクトロに向かったということではないですね。レコーディング作業の後半に、レコード会社移籍の話があったりして、次のアルバムが移籍第一弾になって、環境やスタッフも新しくなることも考えて、今までやってきた作業プラス新しい気持ちを入れていこうと思ったやさきに「サイハテ」という曲に出会ったんですね。 このアルバムのリード・シングルを出すタイミングがなかったし、アルバムの前に出したシングルは「サイハテ」しかなかったので、アルバムに入れることにしたんです。でもアルバムの中に「サイハテ」が入っても違和感がないどころか、むしろいい感じなので。
-- 振り返れば、フルカワさんのソロ・デビュー・シングルの「Coffee & SingingGirl!!!」はエレクトロな感じだったし、ソロになってからのフルカワさんの音楽性はエレクトロとロックの融合を果敢に行ってきた印象がありますね。言い換えれば、コンピュータと生楽器の融合ということでもありますが。
その手法は前からいろいろなミュージシャンがやられているし、今世界の音楽を聴いても、そういう音楽が主流になってきていますよね。わたしもバンドのときからそういう音楽をやってきたし、そういう音楽が今でも好きだし。あと、今回のアルバムはレコーディングが一時中断することがあったんですね。そのときにクラブでDJをやらせていただく機会があって、そのときはロックものよりもみんなを踊らせるような4つ打ちの曲をセレクトしてかけていたんです。わたしが既存の曲をセレクトして流して、その場のお客さんが盛り上がるということを体感したことが今までなかったので、そういうクラブの現場を見たこともこのアルバムに影響していると思います。レコーディング後半に作った曲はそういうタイプのものが多かったです。
--そうなんですよね。MGMTを代表例として、今世界的に80年代風のエレクトロ・サウンドが話題になっていますよね。そういったクラブ・ミュージックをチル・ウェイヴなんていう言葉で表現されているらしいですが、そういうところへの具体的な関心はいかがですか。
音色の使い方がとても面白いなと思っていて。どちらかというと、今話題になっているアーティストはバンドをやっている人のテクノ感というよりも、打ち込みをやっている人たちのロックやパンクの要素っていう雰囲気を感じますよね。だからなんとなくスタンダードなロックをやっている人は保守的な感じがしてしまうんですよね。あと今の時代は、シンセの音色も当たり前にいろいろありますからね。レコーディング環境的にも昔とはずいぶん進歩しているから、そういう音を取り入れやすくなっているんだと思いますね。バンドを見ても最近は、メンバーの担当はギターだけみたいな役割は少なくなっていますし。あとは、バンドをやりつつ他のプロジェクトもやってみたいな、そういうフレキシブルなアクションが作る音楽に反映されているんじゃないですかね。そう考えると、私もソロだし、バンド・サウンドに縛られることもないし、純粋に今好きな音を音楽に反映させていきたいなと思ったんです。
--スーパーカーの『Futurama』からすでに10年。エレクトロをやる上でのスタジオ・テクノロジーの進化みたいなものは実感したりしますか。
わたしの時代はスタジオにプロトゥールスが入り始めた時期で、というかまだ入っていないスタジオもありましたからね。その転換期には、アナログ・マスターの横では画面上で音を編集していたり。アナログからデジタルに移行するスタジオ・テクノロジーのプロセスを見てきているんですね。今は自宅でロジックやプロトゥールスが使えるし、コンピュータ上でソフトシンセを使ってバーチャルに音を選べるし、という感じですごく簡単になりましたよね。でもわたしはそれも使うけどアナログの機材も好きなので、両方をミックスさせていますね。それが私の好きなバランスなんです。あえて生音を打ち込みっぽく聴かせたりしていますし。
--このアルバムは、曲によっていろんな音色が入っていて、しかも曲によって楽器の置き方が全然違って、耳が楽しいですね。シンセのコードやリフ、リズムの音色やリズム入り方が刺激に充ちています。
それはレコーディングしていて自分自身の楽しみたい部分だったし、発見したい部分でもしたね。音って同じ機材を使っていても、使う人の好みによる素材の組み合わせ方やで個性や存在感が全然違ってきますよね。王道のバンド・サウンドで成立する曲なんだけど、それを一度自分の頭の中でリミックスの感覚で解体して構築しなおして、構成したり。一瞬聴いたときはバンド・サウンドに聴こえて、ドラムも生音なんだけど、そこに違う音色を入れたいなと思って、金属音を入れてみたり。よく聴くと「あれっ?」って思うような音楽にしたいと思ったんですよ。
--プロデューサー的センスの見せ所といいますか。
ダンス・ミュージックならダンス・ミュージックに特化したやり方があると思うんですが、私が音楽を出させてもらってるポップフィールドは決してそこだけで収まるものではなく、いろいろな音楽があって、その中に提案していきたいんです。せっかく自分の音楽を作るのなら、なるべく多くの人に聴いてもらいたいという気持ちがあるんです。だから、今街で流れている音楽のテンションと自分がやれるかぎりの音楽のバランス感覚をいかに自分のアルバムに落とし込むことができるかをテーマとしてやっているんですね。バンド・サウンドが好きな人にもひっかかって気に入ってもらえて、打ち込みのサウンドが好きな人にも「このアルバム好きなんだよね」と言ってもらいたいですね。1枚のアルバムだけど、いろんな要素が含まれているものにしたくて、にぎやかな感じを目指したんですよ。
--エレクトロだけではなく「Bridge To Heaven」のようにバンド・サウンドのものもありますよね。
あれはバンドで録りました。だから、あえて変えなくてもいいところは変えていないんですね。この曲はギターとボーカルを重ねて作った曲で、やり方が2~3パターンくらいあったんですけど、バンド・サウンドがいちばんはまりがいいなと思って、あまり手を加えなかったですね。
--「リメンバー」はベースのエッジ感がたまらないですし、ベーシストとしても音へのこだわりを聴かせてくれますね。
「リメンバー」は元々ギターで作った曲なんですが、そこからベースのフレーズが浮かんできて。あとでリズムを立たせたいと思ったんで、ギターのコード感を消して、そこにベースを入れていく感じにしたんですね。あと「チェイン・リアクション」は生ベースでもとっていたんですけど、途中であえてシンセベースに差し替えましたね。
--ポップ・アルバムとしてすごくよく出来ていて、聞きやすい一方で十分刺激的という。昔風の言い方だと全曲シングル向きみたいな。「金魚」「NEW DAYS」「DAY SLEEP」とか、普通にいい曲ですね。
聴きやすくて、聴いていて楽しい気持ちになってくれるような、多くの人に受け入れやすいポップなものを作りたいと考えているし、もっと言えば何がシングルになってもいいようなつもりで作っているんです。、いろんな曲を出していかなければならないと思っているんですね。そこからどれを選んでもらっても構わないですよ、という姿勢を見せたいと思っているんです。
--全体的にポップですからね。それこそ、パフュームを聴いている中学生からクラブに通っている人までにアピールする音楽でありつつ、さらには国境を越えて支持されそうな気もします。
そうなってくれたらうれしいですね。海外の人に聴いてもらえる手段はあるので、考えていないことはないですけど、これは日本のフィールド寄りで作っているので、できれば今までヒットチャートものしか聴いたことがなくて、わたしのことを知らないような人にも聴いてもらえたら嬉しいですね。今わたしが挑戦しているところはそこだと思います。一般的なイメージとしてわたしがやっていることは、難しいと思われている部分もあるらしいんですが、全然そんなことはないんですよね。聴いてもらえれば分かると思うんです。1枚目からずっと「はじめまして」の気持ちをもって作っていますし。だから、そういうふうにちゃんと聴いてもらっているとやりがいもあるんですよね(笑)。
--大衆性と実験性のバランスがいい具合で、理想的なポップ・アルバムだと思います。フルカワさんにとっても手ごたえがあるんじゃないですか。
他にいないでしょ? って(笑)。あんまり他とかぶってない音楽っていうのを意識して出させてもらっているんですけどね。でもそれは今まで私がいたラッキーな環境も大きかったと思うんです。バンド形態のロックも知っていて、打ち込みをやらせていただく環境もあって、ほかにも以前にはまりん(砂原良徳)さんや、リミックスで田中フミヤさんなど、テクノをやっている人たちの考え方ややり方を垣間みたり感じたりする機会もあったりして、表現方法は違いますが、少しずつ勉強させていただいたことも大きかったです。
--そういえば、昨年5月に出た『Bondage Heart-Remixes』というリミックスアルバムは、どういう経緯で作られたものなんですか。
自分の音の素材を自分の好きなアーティストがどう解釈して、どう料理というか、音遊びしてくれるんだろうというっていう好奇心がありましたね。ただあれは自分が聴きたいがためだけに、音を貯めていって、いつかいいタイミングが来たら出そうと思っていたんです。思ったよりも早くたまってきたので、このタイミングで出さないと出すタイミングを逃してしまうと思って、去年出させてもらったんです。さっきの話にも通じるんですけど、私は自分の声もひとつの音にさせたいという欲求があるんですね。私はこういう音を使って、この曲を作りましたけど、同じ音を使って、加工、ピックアップしてリミックスした場合、どういう音楽になるんだろう? というところにアーティストのセンスを垣間見ることができて面白かったですね。
--『Bondage Heart-Remixes』は今回のアルバムに何かしら影響を与えていますか。
あると思いますね。今回のアルバムにも頭の中で一度曲を作ったものを解体して組み合わせてというようなリミックスの手法を用いたものがありましたからね。
--あと、ボーカリストとしてもいつも以上にすごく伸びやかに歌っているような気がします。自作自演の方って、自分の声域を知っていて曲を作ると思うんですけど、ここでのフルカワさんは、それを考えず作っているような印象があります(笑)。
基本的にそうなんですよ(笑)。デモだと歌えるのに日本語が入ると歌いづらくなることが結構あるんですよね(笑)。わたしはいつも曲を先に作って歌詞は後で考えるので、最初は鼻歌デタラメ英語で歌っていて、そこに入り込んできた単語を仮タイトルにすることが多いんですね。
--そのためか、言葉とメロディ、サウンドとの相性もいいですよね。自然と無理なく言葉が乗っていて、説明的ではないのにちゃんと言葉が頭に残って、イメージを喚起させてくれるみたいな。
それは自分が音楽を作る上で気にしているところですね。あまり歌詞を説明的にしたくないんです。聴き手の方がどうにでも受け取れるような歌詞にしようと思っているんです。例えば、ひとつの言葉を聞いたとき、その人の状況や体調によって、ポジティブにもネガティブにも取れるような感じ。シチュエーションに関しても、一見恋愛のことのように見えるけれども、違うシチュエーションにも想像できるような歌詞にしたいんです。あとは音の中の景色をその人の頭の想像できる程度の言葉をピックアップしたいんですね。私はオケに歌が気持ちよく乗ることを優先させているんで、そういうバランスを考えて言葉を選んでいるんです。だから、私は歌詞で何かを伝えたいとはあまり思っていないんです。でも、ファンの人に感想をもらったりすると、その感想に驚いたり、うれしく思ったりしますね。
--アーティスト=フルカワミキを見るプロデューサー=フルカワミキという視線は意識されますか。
離れたところから自分を見てみたいということくらいで、それはそんなに考えていないんですね。それをやるにはいい加減なところを残しておきたいと思います。わたしはすべてが自分のやりたい方向に行ってしまうことを面白いと思わないタイプで、やはり一緒に仕事をする周囲のスタッフとの化学反応を楽しみたいんですね。自分の作った音が他人にはこう聞こえるんだ、みたいに他人の解釈が入ることが面白いんですよ。遊びを作るための適当さみたいなところは考えますね。
--このアルバムを携えたライブはどのような形態で行うのですか。
5月に渋谷のクアトロでやることが決まっているんですが、そこではバンドを基本にして打ち込みを出せるようにマニピュレートを入れてやると思いますね。まだ試行錯誤中なんですけど、ワンマンまでに調整していかないと……。
--これを作ったことで、今後のフルカワさんはどんな音楽を志向していきそうな感じですか。作り終えたばかりで、まだ冷静になれていないかもしれませんが。
これから先、自分がどう変わるかというのはちょっと分からないんですけど、今やれることはやっていますって感じですね。だから本当にいろんな人に聴いてみてほしいんですね。
--最後にアルバム・タイトル『Very』について教えてください。
今回は「とてもとても」の気持ちを込めているんです。とても時間をかけているのもあるし、嬉しいとか楽しいとか、素敵とか、いろいろな状況や感情を伝えたいときに、そのまま言うよりも『Very』を付けるとものにリボンをかけるような気持ちになりますよね。音楽にリボンを付けて届けたい気持ちをタイトルにしました。
これは人間じゃない変わった生き物なんです。獣みたいで、よくなまはげに間違えられるんですが……(笑)。獣シリーズは前から続いていて、シングルでも登場させているんですけど、このVery君は私の側近で、人前に出て行く前の私を世話してくれたり、よく私を守ってくれる存在なんです。ジャケットはVery君に化粧をしてもらって、身支度のお手伝いをしてもらっているというイメージですね。意味合いとしては私を取り囲む環境や要素を現していて、私はひとりだけど、音楽は周りの人を含めてやっていて、ひとつのチームだと思っているんです。それを生き物に置き換えた場合、人間じゃないよなということで、違う生き物として登場させたんです。私のことをよく知らない人に「フルカワミキってどういう人?」と説明するときに、「なんか妖怪みたいな人らしいよ」みたいな感じでいいみたいな……。「人間だと思ってもらわなくていいや」という気持ちもありますね(笑)。人間になりきれていないみたいな……。フルカワミキはこういうスタンスでやらせてもらっているんですって感じなんですよね。
わたしは絵を描くことが好きで、よく描いているんですけど、なぜか怪物だとか獣を書いてしまうんです。それがなんとなく落ち着くんですね。これが私を守ってくれているんだろうなという気もしたし、そんなニュアンスを表せたらと思ったんです。
<インタビュー・文 / 竹部吉晃>




