ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2010年2月号・清浦夏実 - P.02

本項では、アーティスト・清浦夏実をデビューから見守り続けてきたフライングドッグのディレクターである福田正夫氏によるアルバム『十九色』制作秘話をご紹介する。アーティスト・インタビューと併せてご覧頂きたい。

 

--福田さんにお会いした際、まず最初にお聞きしたかったのが、これまでの清浦さんのシングル曲について。既発の4枚それぞれが、多彩ではあるものの、いわゆる派手さとは無縁のどちらかといえば地味な部類に入るしっとりした楽曲が多いですよね。おそらく福田さんの狙いでそういった楽曲が選ばれているんだと思いますが、その意図は何でしょう。特に深夜枠アニメのタイアップという縛りのなかで、従来ならアッパーでアップテンポな曲で勝負するところを敢えて外しています。

 

おそらく最近のアニメ・ユーザーは主題歌にある種のカタルシスを求めているんですよね。それを聴くことによって自分の精神が高揚したり快感を得たりということにものすごく重きを置いていると思います。でも、清浦がやってきたタイアップのシングルって、基本的には〈じっくり聴いて心に染みる〉という音楽なので、ある意味でユーザーが求めているものとは真逆なんです。正直、そうしたアッパーな曲をやらせればセールスは上がると思うんですけど、そんなことって、清浦夏実というアーティストにとってはあまり意味のないことなんです。ですから、真逆の方法論で本当の実力をつけていくことは出来ないだろうかと考えながら作っている節があります。例えば坂本真綾というアーティストも、売れるという方法論とは真逆のスタイルでどんどん上昇していったアーティストなので、同じような軌跡が辿れればと思っているんです。勿論、誰もが坂本真綾になれるわけではないんですが。

 

--なるほど。実際、ただ消費される主題歌とは一線を画す楽曲が揃っていると思います。それを踏まえてアルバム『十九色』について伺います。「アノネデモネ」という菅野さんの曲は詞先だったとか。

 

「アノネデモネ」は、実際には菅野さんのほうで早い段階から曲は出来ていたんですけど、しばらく清浦には聴かせなかったんですよ。というのは、曲を先に聴かせて文字数通りに言葉をはめていっちゃうと、そこで制約が生まれて限界が出来てしまうので、敢えて聴かせなかったということなんです。

 

--これまでの清浦さんの作品にはないスタイルで新鮮でした。彼女の歌声って、感情過多になりがちなところがそうならずに、言葉がまっすぐ入ってくる印象なんですが、そのあたりディレクションする際に意識されていますか。

 

彼女って元々は、2007年に開催された〈Victor Vocal&Voice Audition〉っていうオーディションに応募してきた子なんです。それは何かというと、アニメ『マクロスF』(08年)のヒロイン、ランカ・リー役を選ぶためのオーディションだったんですね。応募資格は一般でも事務所に所属している人でもOKというもので、結果的に中島愛という女の子が賞を取って、清浦は準グランプリ的な評価だったんです。で、ランカ・リー役ということでいえば、中島愛が選ばれて良かったと思うんですけど、その時の清浦は、課題曲の「愛・おぼえていますか」という曲を、自分なりに解釈して自分なりに歌っているなと感じたんです。ほかの応募者の大半は、オリジナルの飯島真理の歌声を真似た歌い方だったんですけど、彼女だけは全く違う解釈で歌っていました。僕はシンガーにとって最も大事なのは曲を解釈する力だと思うんですけど、そういった意味では彼女は最初からそれが出来ていたので、面白いなと感じたんです。しかもその時は咄嗟に〈この子が泥臭いカントリーとかフォークソングなんかを歌ったらすごくうまいんだろうな〉と思ったんですよ。

 

--独自の楽曲解釈、理解力という点でやはり天性のものなんですね。

 

ええ。でも、アニメーションの曲でそういったカントリーソングを主題歌に使うなんてことはまずないわけです。だからうち(フライングドッグ)でどう売っていくかというのは、正直言って最初から悩みました。そんななか、『スケッチブック~full color’s~』(08年)という非常にひなびた素朴なアニメがあって、この作品でなら無理せずこの子の持ち味が出せると思ったんです。

 

--それが「風さがし」なんですね。

 

そうなんですよ。アニメのタイアップがついたシングルを出すというのがうちのレーベル(フライングドッグ)のルールなんですけど、実は僕自身はあまりタイアップを意識していなくて、結局、〈この作品って清浦夏実には合わないんだけど、今タイアップが欲しいから無理矢理やらせる〉なんてことは絶対にしないようにしてきたんです。清浦夏実が無理なく、しかも彼女に似合った音楽をやってもタイアップが成立する仕事がくるまで待つわけです。つまり、シングル曲をアルバムに入れてはいるんですけど、実はシングルを作る段階から〈アルバムに入れるにはこういう音楽だな〉ということを常に考えながら作ってきたということです。ですから、最終的にタイアップ曲がずらっと並んだとしても、どこかコンセプチュアルに見える作りになっているはずなんです。

 

--実際、シングル単体で聴く時とはまた違った聴こえ方ですし、アルバム用に作られたといっても違和感のない曲が揃っていますね。それこそアルバム用に発注した曲が然るべき場所に配置されていると言われれば合点がいくような仕上がりです。

 

そう言っていただけると嬉しいです(笑)。

 

--ただ「Midnight Love Call」、これは意外でした。どうして今またこの曲をカヴァーされたんですか。

 

この曲、僕が初めて聴いたのは高校生の頃なんですけど、当時からいつかこの曲をカヴァーしたいと思っていたんです。ただ、僕はミュージシャンでもないので、僕がカヴァーすることは出来ないじゃないですか。だから、〈この曲をカヴァーするために音楽ディレクターになった〉と言ってもいいぐらいなんです。

 

--え?(笑)。

 

いや、本当に。南佳孝というアーティストとピチカート・ファイヴの『カップルズ』というアルバムが僕を音楽ディレクターにしたと言ってもいいんですよ。その2つは僕に相当大きな影響を与えているんです。だから、20年間ぐらいずっとこの曲をカヴァ−するんだったらどんな人がいいのかをずっと考え続けてきたんです。

 

--なるほど。そこまでですか。

 

この曲で描かれている女性って、親の目を盗んでそれでも電話したくなっちゃう女の子、そんな印象だったんですよ。だから、まだ大人になりきれていない女の子で、それでもしっとりした味が出せる歌い手がいないかと探し続けていたんです。で、清浦と出会った時に〈あっ、この子だったらいけるかも!〉と思ったんですよね。ですから、かなり早い段階で、彼女にこの曲をカヴァーさせるってことは僕のなかでは決まっていました。実際、2年前ぐらいに〈アルバムを出す時にはこの曲を入れるから聴いて覚えておいて〉って話してたんですよ。ここでこの曲(「Midnight Love Call」)をやらないと、今度いつ出来るのか判らないということもあって。だからアルバムのなかで一曲選べと言われれば僕は迷わずこの曲です(笑)。日本って曲を歌い継いでいくことってあまりしないじゃないですか。海外だと何10年も前の曲を次の世代にバトンタッチしていくっていう感覚がありますけど、日本にはそれがないですよね。それは絶対にいけないことだと思うんです。そういった意味でも、僕としてはもっとカヴァー曲に積極的に取り組みたいんです。

 

--では、最後に福田さんがディレクターの立場から見たアーティスト・清浦夏実の魅力とは何でしょう。

 

清浦夏実って良くも悪くも〈色がない〉というのがアーティストとしての特長だと思うんです。今回アルバムタイトルを『十九色』としたのも、そこから繋がってるんですけれども。で、この色がないアーティストにどれだけ色んなことをやらせられるかというところが課題であって、普通は〈このアーティストはこれが得意なので、その方向性で突っ走ろう〉ってことになるんですけど、彼女に関しては何でもそつなく歌えちゃうというか。

 

--しかも洋楽を聴かないという話でしたから、それが天性のものなんでしょうね。

 

そうなんです。洋楽のアーティストって歌がうまい人なんてごまんといるわけですよ。でも、そんな人たちをお手本にしなくてもあれだけ表現出来てるわけですからね。無自覚であれだけ歌えるってことは、今後、歌のうまい人の音楽を聴いて、それに触発されて吸収していったらすごいシンガーになるだろうし、その時に彼女が本当に進むべき方向性が見えてくるんじゃないかと思います。今後が楽しみなアーティストです。

 

 

 

 

【音楽職人トピックス】



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池袋コミュニティ・カレッジ
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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

詳しいプロフィールはコチラ


濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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