ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2010年3月号・フランシス・レイ - P.01

フランス映画界を代表する作曲家のひとり、フランシス・レイが、数多い自作のなかから代表曲を中心に選曲、新たなアレンジを施して新作をレコーディングした。
レイが自身の名を冠した楽団名義のオリジナル・アルバムは、これまで1968年に制作した「MORE LOVE THEME」以下、「PLAYS FRANCIS LAI」(70年)、「MADE IN FRANCE 」(72年)、「LAST TANGO IN PARIS」(73年)、「SES PLUS BELLES MUSIQUES DE FILMS」(76年)、「INEDITS」(82年)の6作あり、本作はそれらに続く7作目。実に26年振りのオリジナル・アルバムとなる。しかも本作は、キングレコードからの依頼を受けて制作されたということで、まさに日本のファンに向けた作品集といえるだろう。
レコーディングはフランスはパリで昨年11月に行なわれ、アレンジは新鋭ダミアン・ロシェ、そしてヴォーカルには、リザ・ミカエルとファブリス・ディファルコを迎えられている。アルバムのタイトル曲となった「白い恋人たち」で、レイ自身が久し振りにアコーディオンを弾いているのも本作の目玉のひとつだ。
一時は半ば隠遁生活に近い状態だったレイだが、近年はオセールで開催された映画祭に招かれて、およそ1時間の記念コンサートで元気な姿を見せ、その後間もなく、とある日本の企業のためにパリで小さなコンサートを開いたりと、その人柄と同じく謙虚な姿勢で今も音楽と向き合っている。ちなみに、前述の2つのコンサートでは、かつて彼の右腕として多くの作品でアレンジを手掛けていたクリスチャン・ゴベールと絶妙のコラボレーションを披露して健在振りを示していた。
ロマンティシズムに溢れ、気品あるフランスの香りを漂わせた本作は、そんなマイペースな彼と同じく、優雅で贅沢なひとときを演出する最高のイージーリスニング・アルバムに仕上がっている。

 

フランシス・レイは、本名フランシス=アルベール・レイ。イタリア系の造園業を営む両親のもと、1932年4月26日にフランスリビエラ地方の首都ニースに生まれた。従兄弟からアコーディオンの手解きを受けたのち、16歳で地元のキャバレー主催による音楽祭に参加し、ほかにカジノの楽団で演奏するなどして生計を立てていたという。やがてジャズの洗礼を受け、その影響で即興演奏に親しみ、次第に作曲に目覚めたそうだ。かつて彼は作曲について、このように述べている。
“即興は、ある意味で作曲と同じ作業だ。心の赴くままに音を出しているうちに、指の下からどんどんアイディアが湧いてくる。それらを次にも弾けるように、忘れてしまわないうちに書き留めている作業が自然と作曲に繋がっていったんだ”

 

男と女 その後、彼の音楽家としての道は急展開を見せる。パリに出た彼は、詩人ベルナール・ディメと知己を得て曲作りを開始。そして、エディット・ピアフと出会い、彼女のアコーディオン奏者に大抜擢。1965年には友人のピエール・バルーの仲介で、若き映画監督クロード・ルルーシュの映画『男と女』(66年)の音楽を担当している。同作がカンヌでグランプリを受賞したことで、レイは一躍フランス映画音楽界のスターとなり、そのほかの音楽ジャンルでも引く手あまたの売れっ子になった。
当時、彼は自作について次のように述べている。
“私が目指すのは、音楽を聴いてすぐに映像が浮かぶこと。そして、ジャズであろうとシンフォニーであろうと、アレンジしやすいメロディであること”

ある愛の詩 レイはクロード・ルルーシュ監督のほぼ全ての作品で音楽を手掛けているほか、ルネ・クレマンのような映画界の大御所やアンリ・ヴェルヌイユやクロード・ジディなど、映画界の様々な監督と組んで作品を発表しており、アーサー・ヒラー監督の『ある愛の詩』(66年)の主題歌は、アカデミー作曲賞に輝き、デビッド・ハミルトン監督作品『ビリティス』(77年)の主題曲も世界的なヒットを記録している。近年は韓流ドラマで彼の作品が使われたことからアジアの諸国で人気が再燃しており、徐々に再評価の気運が高まっているようだ。

 

ビリティス しかし、そんな世間での盛り上がりを尻目に、彼は現在も窓外にエッフェル塔を臨むパリの自宅のスタジオで、あくまでマイペースで、アコーディオンの音色が響くキーボードを弾きながら、シンプルかつ覚えやすい、人々に愛される美しいメロディを作り続けているのだ。

 

昨秋、筆者がフランシス・レイの自宅を訪問した際に携えたのが、彼がダークダックスのために書き下ろした楽曲「愛のメルヘン」を収録したCD『ダークダックス大全』。同曲はクリスチャン・ゴベールがアレンジを手掛けたもので、曲の冒頭にはレイと奥方によるフランス語の愛の語らいがフィーチャーされている。
彼はCDを受け取るや、すぐさまパッケージを開封してその場でCDを再生、フルコーラスを聴き終えたあと、感無量といった面持ちで「このジャケットに写っているのはここだよ、ここ。この部屋だ」と辺りを見渡し、「彼らのことはよく覚えてるよ」と懐かしそうに語り始めた。打ち合せの様子やスタジオで簡単な歌唱指導をしたこと。「流れ者」のカヴァーを日本語でレコーディングした際の奇妙な印象等々…。
親日家だが大の飛行機嫌いの彼のこと、「日本は大好きだけど、飛行機だけは勘弁だね」ということで、 72年以降のフランシス・レイ・グランド・オーケストラのコンサートに彼は不在だが、いずれ機会があればまた日本に行きたいとのこと。
なお彼はここ数ヶ月の間、自身の監修による映画音楽集成の企画に着手しており、近く決定版となる作品集が編まれる予定だ。

 

【関連作品のご紹介】

『うたかたの恋/個人教授/太陽のならず者 オリジナル・サウンドトラック』

レイが手掛けた映画三作の音楽を網羅した作品集。流麗に奏でられるオーケストラ・サウンドから弾けるビートに軽快なボッサ、さらには女声コーラスに彩られたラウンジ・ナンバーまで、レイの多面性が楽しめる異色盤。ブックレットには、フランシス・レイによる最新コメント「日本盤に寄せて」を掲載。

 

『ダークダックス大全』
DarkDucks Broadcast Tracks '55-'82

ジャズにシャンソン、ボサ・ノヴァ、ソフトロック…。ロシア民謡や山の歌とは異なるダークダックスのもうひとつの顔がここにある。コマソン、主題歌から小唄に万博ソングまで。膨大な録音素材から厳選した楽曲を2枚のディスクに集約。なんと57曲中44曲が未音盤化、未CD化曲という貴重音源が満載!!フランシス・レイによるダークダックスへの書き下ろし曲「愛のメルヘン」収録。

 

 

【音楽職人トピックス】



濱田高志による
<マンスリー公開講座>のお知らせ。


TV AGEシリーズ監修・濱田高志が、2010年1月より、池袋コミュニティ・カレッジに於いてマンスリー公開講座を開催しています。
詳しくは、こちら

<公開講座>
『ヒットメーカーが語る作品誕生秘話』

テレビ・映画音楽からアニソン、歌謡曲にCMソングまで、職業作家が様々な分野で発表した作品を、作家自身の証言と共に検証する特別講座。テーマに沿ったゲストを交え、名曲誕生の瞬間に迫ります。
【講師:濱田高志】

2012年1月28日(土)18:30~20:30
『孤高の作曲家・平岡精二』
作編曲家にしてヴィブラフォン奏者の平岡精二の活動を網羅的に辿る特別講座。未CD化曲を中心に自作自演、提供曲、映画音楽などをたっぷり紹介します。

2012年2月25日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[1[』

2012年に生誕80周年を迎える作曲家ミシェル・ルグランの活動をジャズ、映画音楽、提供曲など全てのジャンルを網羅しながら時系列に沿って辿る集中講座(全5回)。第1回はデビューから60年代初頭までの活動を振り返ります。

2012年3月17日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[2]』

第2回は「シェルブールの雨傘」を中心に貴重なデモや関連楽曲を映像と共に紹介。

池袋コミュニティ・カレッジ
(豊島区南池袋 1-28-1
西武池袋本店別館 8・9階)

●受講お申し込みに関する詳細は、 池袋コミュニティ・カレッジHPをご覧ください。
また、お電話でのお問い合わせは、03-5949-5486まで。
濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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