ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2010年5月号・TV AGE - P.01

TV AGEシリーズでは、様々な作曲家の作品をCD化してきたが、今回取り上げたのは、アニメやドラマ、映画音楽の大家、渡辺岳夫。没後20数年経った現在も、その楽曲は様々なアーティストによってカヴァーされ、聴き手を魅了している。
今回発売されるのは、彼がアニメ・特撮の分野に提供した主題歌を集めた[アニメ・特撮編]とドラマ・映画など実写作品に提供した主題歌・劇音楽による[ドラマ編]の2タイトル。いずれもキングレコードからの発売である。また、その副読本として、関係者の証言やフィルモグラフィー、ディスコグラフィーなどを掲載した単行本『渡辺岳夫の肖像』も6月18日にブルース・インターアクションズのP-Vine Booksから発売される。これら3アイテム、是非とも併せてお楽しみ頂きたい。

 

 

アニメ・特撮編 『渡辺岳夫の世界[アニメ・特撮編]』は、作曲家・渡辺岳夫が生前に残した膨大な作品のなかから、アニメや特撮など子ども番組のために書かれた主題曲を厳選して編んだ作品集である。

渡辺が生涯に手掛けたテレビドラマ、アニメ番組は、現在判明しているだけで526作品。その内訳はドラマ482作品、アニメ44作品で、1960年に初めてドラマ音楽に着手してから、この世を去った89年までの29年で割り出すと、年間平均18作品を手掛けた計算となる。また、それら以外にも映画や舞台にコマーシャル、イベント、企業歌、校歌などを多数手掛けており、その仕事量たるや超人的だ。つまり、本作収録曲は、渡辺が手掛けた仕事全体から見れば、ほんのわずか、いわば氷山の一角に過ぎない。

渡辺はこれまで“アニメ音楽の巨匠”と捉えられ、その文脈で語られる機会が多かったが、実際は多くのドラマの音楽を書いており、その比率はドラマ91.7%、対するアニメはわずか8.3%でしかない。それでも様々な媒体で「思い出のアニメ主題歌ベスト10」のような企画を実施すると、必ずや複数の渡辺作品がランクインするのだから驚きだ。

キャッチーなメロディと大胆なアレンジ、そして自らが指導にあたって、その魅力を最大限に引き出したヴォーカリストの伸びやかな歌唱。どれが欠けても成立しない絶妙なバランスで視聴者の目と耳を釘付けにした名曲の数々。もはやアニメソングのスタンダードになった感のある『キューティーハニー』(73年)や、名作の誉れ高い『アルプスの少女ハイジ』(74年)、スポ根ものの定番『巨人の星』(68年)、国内外で人気の少女アニメの決定版『キャンディ・キャンディ』(76年)、そして今やロボットアニメの代表格となった『機動戦士ガンダム』(79年)まで、現代へと連なるアニメ、アニメソングブームを牽引した作品ばかり。いずれも渡辺の代表作であると同時に各アニメジャンルの代表作でもある点は注目に値するだろう。

なお、本作にはボーナスディスク的な位置付けで、代表作のオープニング映像を収録したDVDを同梱した。渡辺岳夫の音楽がいかに映像と一体化し、その魅力を倍加させたかを知るよすがとなれば幸いである。

 

ドラマ編 一方、『渡辺岳夫の世界[ドラマ編]』は、テレビドラマのために書かれた主題曲を中心に、そのヴァリエーションとなる劇音楽や挿入歌、さらに舞台音楽を厳選して編んだ作品集。

渡辺が手掛けた数あるドラマ音楽は、作品ごとに実に様々な趣向が凝らされており、そのサウンドからは、彼が常に飽くなき追求を続けた音楽家だったことが判る。

なお、収録曲の大半はこれが初音盤化となるもので、既発音源も一部を除き、実際に番組本編で使用された素材から選ばれている。今回素材として使用したのは、渡辺のスタジオ倉庫に眠っていたオープンリールのテープで、倉庫には実に1,000本近いテープが残されていた。いずれも渡辺自身が資料として保管していた素材だが、今や制作会社にも存在しない貴重なものが多く、没後20年を経た今もこれだけ大量の素材が保管されていたのは奇跡に近い。無論、なかには著しい経年劣化によって再生不可なものもあるが、およそ一年をかけたデジタル化作業で、全体の半数以上が、録音時の瑞々しい演奏を伝えるクオリティを保っていることが判った。

ただ、残念ながら作品によっては複数に分けて録音されたうちの数回分しかテープが存在せず、番組のオープニングを飾ったヴァージョンとは異なる別アレンジ、別テイクのみが残されたものもある。さらには権利関係が複雑で、今回は収録を見送った作品も多い。なかでも代表作『大奥』(68年)や、渾身の作といわれる『ながい坂』(69年)の収録が叶わなかったのは残念でならない。しかしながら、渡辺作品のアーカイブ化はまだ始まったばかり。これを機にさらなる発掘・音盤化の実現を期待したい。

 

【プロフィール】

渡辺岳夫(わたなべたけお)
1933年4月16日、東京都練馬区生まれ。
作曲家。
5人兄妹の長男として生まれ、兄妹それぞれが演出家、歌手、演奏家、陶芸家という芸術一家の中で育った。武蔵大学経済学部在学中より、作曲家である父・渡辺浦人に師事しながら音楽を学び、やがて自身の作風を確立。
60年代よりテレビが家庭に普及するなか、週に10本以上のレギュラーを持つほどの売れっ子作曲家として、テレビドラマやアニメーションの分野で数多くの作品を生み出す。とりわけ毎週ゴールデンタイムに放送されるアニメーションの主題歌にヒット曲が多く、「巨人の星」「アタックNo.1」などのスポ根アニメ、「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」「あらいぐまラスカル」などの世界名作アニメ、「魔女っ子メグちゃん」「キャンディ・キャンディ」などの少女アニメなどは世代を越えて愛される名曲揃い。手掛けた作品は多彩で、近年のリバイバルブームの中では「機動戦士ガンダム」「天才バカボン」「キューティーハニー」などが様々なアレンジでカヴァーされ人気を得ている。
渡辺岳夫の音楽は映像と一体化して人々の心に深く刻み込まれ、いつしかその独特なコード進行やメロディラインを指して“岳夫節”と呼ばれるようになった。
1989年6月2日に癌のため56歳で急逝。
日本のアニメーションが海外進出する中、そのメロディは放送を通して国内外で広く親しまれ、数多くの賞を受賞するとともに、世代を超えて今も多くの人々に受け継がれている。

 

 

【音楽職人トピックス】



濱田高志による
<マンスリー公開講座>のお知らせ。


TV AGEシリーズ監修・濱田高志が、2010年1月より、池袋コミュニティ・カレッジに於いてマンスリー公開講座を開催しています。
詳しくは、こちら

<公開講座>
『ヒットメーカーが語る作品誕生秘話』

テレビ・映画音楽からアニソン、歌謡曲にCMソングまで、職業作家が様々な分野で発表した作品を、作家自身の証言と共に検証する特別講座。テーマに沿ったゲストを交え、名曲誕生の瞬間に迫ります。
【講師:濱田高志】

2012年1月28日(土)18:30~20:30
『孤高の作曲家・平岡精二』
作編曲家にしてヴィブラフォン奏者の平岡精二の活動を網羅的に辿る特別講座。未CD化曲を中心に自作自演、提供曲、映画音楽などをたっぷり紹介します。

2012年2月25日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[1[』

2012年に生誕80周年を迎える作曲家ミシェル・ルグランの活動をジャズ、映画音楽、提供曲など全てのジャンルを網羅しながら時系列に沿って辿る集中講座(全5回)。第1回はデビューから60年代初頭までの活動を振り返ります。

2012年3月17日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[2]』

第2回は「シェルブールの雨傘」を中心に貴重なデモや関連楽曲を映像と共に紹介。

池袋コミュニティ・カレッジ
(豊島区南池袋 1-28-1
西武池袋本店別館 8・9階)

●受講お申し込みに関する詳細は、 池袋コミュニティ・カレッジHPをご覧ください。
また、お電話でのお問い合わせは、03-5949-5486まで。
濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

詳しいプロフィールはコチラ


濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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