ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2010年11月号・ROUND TABLE - P.02

--ところで、お二人が出会うきっかけは何だったんでしょう。

 

福田:僕が北川くんを知ったのは、FMでChappieのアルバム『NEW CHAPPIE』(99年10月発売)に入ってる「Everyday」(99年)という曲を聴いて、気に入ってすぐにタワレコに買いに行ったのが最初です。ちょうどその頃、『ちょびっツ』(02年)のオープニングを誰にしようかと考えていた頃で、「everyday」みたいな曲だったら最高なのにと思って、彼らの事務所に電話したんです。

 

北川:それが2001年。その当時ってまだアニメが今みたいにサブカル的な認識や位置付けが明確でなくて、どっちかというと風当たりが強かった時期なので、正直、アニメのオープニングをやるやらないってところで迷ったんです。で、その末に思い付いたのが、自分が歌わずに誰かヴォーカリストを立てて歌ってもらえばいいんじゃない? ってことで。どうせなら女の子に歌ってもらうのがいいやって話で、featuring Ninoになったんですよ。

 

--それが「Let Me Be With You」(02年4月発売)で、以降、FlyingDogから作品が発表されるようになるわけですが、周囲の反応はいかがでしたか。

 

北川:今振り返ると、声をかけてもらうタイミングはあそこしかなかったと思います。でも、当時は〈最近、アニメやってんでしょ?〉みたいなことをよく言われましたね。というのも、同じ頃にやっていたほかの人たちは、メジャーとの契約が切れたあと、インディーでアルバムを出して、下北でライヴをやったりしていたので。僕らの周りって、インディーからスタートして、皆、一旦はメジャーに上がったんですよ。だからその当時はお互いに〈そっちのレコード会社どうなの?〉なんて話をよくしていたんです。でも、アルバム一枚出したところで契約が切れたり、活動そのものを辞めたりする人がいて、活動の場やスタイルが微妙な時期だったんですね。
そんななかでのアニメ仕事だったんですけど、周囲はアニメに対しては決してウェルカムではなかったです。でも、その後ぐらいかな? 風向きが変わったような気がするんですよ。『ちょびっツ』は劇伴が高浪(敬太郎)さんが担当されて、すごくしっかりした音でクオリティも高かったし、僕が書いた曲もジャストでハマってたと思うし。そういう一定のクオリティの楽曲を作って示すことで〈アニメでしょ〉なんて言わせない、という気持ちがありました。FlyingDogでやってるものって、どこかが違うというクオリティで出していかないと、その後に繋がっていかないと思いましたし。
当初はよく判らなかったんですけど、FlyingDogが出してる作品を聴くと、それこそ菅野(よう子)さんの作品とか、高いクオリティを求められるのは当然として、ひとつの約束事さえ守っていれば、それ以外はある程度お任せというか、何でも好きに出来るところがあるんです。

 

--そこで重要なのが、プロデューサー、レコーディング・ディレクターとの関係だと思うんですが、それがなかなか浮き上がってこないところがあります。ここではそのあたりをお聞きします。まずは福田さん、お二人の関係についてお話していただけますか。

 

福田:僕、この仕事を続けていく上で最も重要なのは「安定感」だと思っているんです。「安定感」、その反対が「ブレる」ってことですけど。これはコンポーザーでもアーティストでもそうなんですけど、この人に頼めばこういうものが出来上がってくるというのがはっきりしていることがすごく重要で、北川くんの場合、彼に頼めばこうなるというのが、ある程度は見えるんですね。こう発注すればこんな感じのが上がって来るというのが明確にイメージ出来る。つまり、ブレがないんです。ところが前と同じ発注の仕方をしているのに、前はこういう曲を作って来たけど、次はこちらの意図していることと全然違う曲を作ってくるって人がすごく多いんですよ。そういった意味で北川くんとはとても仕事がしやすい。特に最近はより安定していますね。

 

--信頼関係が築かれている、と。北川さんはいかがですか。

 

北川:でも僕、最初は言われてもいないことばっかりやってたんですよ。『ちょびっツ』の主題歌の時も「Everyday」みたいな曲って言われたのに、全然違う曲書いて持っていったんです。

 

福田:全然違うけど間違ってはいないんですよ。もちろんこちらも「Everyday」と同じ曲が上がってくるとは思ってないわけですから。実際、最初に聴かせてもらったデモでは理想の曲が上がってきたんです。で、〈これを膨らませて、いいアレンジでレコーディングしましょう〉って話したにもかかわらず、レコーディングの前日に彼が持ってきたのが、全然違うアレンジで、なんと2ステップアレンジになってたんです(笑)。
でも、さすがにそれじゃ困る訳ですよ。アニメってすごく前の段階で絵を作り始めているので、リズムパターンが全然違うものになってたら使い物にならないんです。でも彼は〈このアレンジで明日からレコーディングしますよ〉なんて言ってて。そこで〈ちょっと待った!〉って止めて、直してもらいました。

 

--北川さんは、なんでまたそんな暴挙に出たんですか。

 

北川:2ステップがやりたかったから(笑)。あと、その頃はまだ約束事をよく知らなかったんです。それまでは、マスタリング直前に思い付いたことをその場で試していたので、それこそマスタリング当日の朝に思い付いたことをそのまま取り入れたりしてましたから。

 

福田:最近でこそプロっぽくなってきましたけど、それまでは大学の音楽愛好会の人たちがやってるような自由なところがあって。やんちゃな感じというかね。

 

北川:「なんで駄目なの?」って聞くと、福田さんが「駄目なものは駄目なの!」みたいな。いわゆる普通の大人なら「いや、それじゃ困るんですよ」とか言う流れになるじゃないですか。でも福田さんとの会話だと「何だよ!」みたいな喧嘩腰で。いや、さすがに殴り合いこそしませんけど、仕事の現場でそうしたやりとりがあることが可笑しくって、たまにそこが面白いなと思ってます。

 

--北川さんが最近よく聴いているのはどんな音楽ですか。

 

北川:玉置浩二です。

 

福田:いや、それは置いといて。

 

北川:なんで玉置浩二の話題を広げちゃいけないんですか(笑)。

 

--では、こちらから伺いますけど、玉置浩二のどこに惹かれるんですか。

 

北川:昔レコファンで買ったCDを部屋に積んであって、そのなかに玉置浩二のアルバムがあったんですけど、それを何年か振りに聴いたら凄かったんですよ。若い頃は濃いものが好きじゃなくて〈ネオアコじゃなきゃ〉とか〈インディーじゃなきゃ〉とか言ってたんですけど、実は最近はそういうのはあまり聴きたくなくて、どんどん濃いものが好きになってきてるんです。例えば井上陽水の声ってすごいな、とか。そんなタイミングでジャストで入ってきたのが玉置浩二なんです。そのアルバムはたまに聞き返したりしてます。それが三年くらい前なんですけど、それ以降は何度となくその波がきて、波がくる度に玉置浩二のライヴDVDを買ってますね。多分、5、6枚は持ってるんじゃないかな。

 

--では、歌謡曲全般はどうですか。

 

北川:好きですけど、作曲家で研究するようなディープなファンというよりは、普通に聴いてる感じですね。ただ、松田聖子の曲で、あれは誰それが書いた曲で誰のアレンジだった、なんて話をするのは好きですけど。

 

--では、最近は洋楽よりも邦楽を中心に聴いている、と。

 

北川:去年から今年にかけてはサントラばっかり聴いてたんですけど、ここしばらくは歌もの、特に日本語の歌を聴きたくなって。今まであまり熱心に聴いてこなかったこともあって、再発見じゃないですけど、そればっかり聴いてますね。今はグッと興味を持って聴いています。

 

--次に楽曲提供に関して伺います。先頃発売された中島愛の「メロディ」。こちらは詞・曲ともに手掛けられた作品ですね。

 

北川:「メロディ」は彼女に初めて書いた曲なんです。この曲は歌い方もアレンジもハマったなと思いました。『それ町』のレコーディングと並行してやってたんですけど、メンバーもサントラと同じで、すごくうまくいったと思います。曲自体、自分の思い出も詰まっていて、ハッピーな感じになったんじゃないかな。久々にベースが弾けて楽しかったです。

 

--来年1月に発売される坂本真綾のアルバムにも楽曲提供されているとか。これまで「Get No satisfaction!」、「マジックナンバー」と2曲書かれていますね。

 

北川:最初に書いた「Get No satisfaction!」は、速くてせつなくてという感じの曲ですね。提出したあとに〈やっぱりもう一回書きます〉と言って書き直したんです。

 

福田:北川くんの場合、それまでの彼女の作品を聴いてるから、このメロディを書くと彼女の歌が乗った時にああなってこうなって、というのが判るんですね。

 

北川:研究の成果が表れたっていうか(笑)。で、次の「マジックナンバー」は、最初に提出した曲が福田さんに〈まあまあだね〉って言われたので改めて書き直した曲です。最初のは弦とかが入ってミュージカルっぽい曲で、僕としては自信作だったんですけど、福田さんがそんな反応だったので、カチーン! ときて(笑)。〈…判りました〉って感じで気持ちを抑えてギリギリまで粘って書いた思い出がありますね。

 

--そのあたり福田さん、いかがですか。

 

福田:「マジックナンバー」というのは坂本真綾にとって二十代最後のシングルってことと、『こばと』ってアニメの主題歌だったこともあって、最も若々しい坂本真綾ってのがテーマだったんですよ。そういった点からも、最初に出て来た曲はちょっと違ってた(笑)。

 

--そして続く3作目、今回はどんな感じの曲になりましたか。

 

北川:しんみりした曲です(笑)。これまでの2曲とも発注に対してベストな曲を書けたと思うし、真綾ちゃんの歌詞も歌もすごいなと思ってるんですけど、前回までがアッパーな感じの曲だったので、今回はちょっと違ったパターンで書いてみたいなというのがあって。

 

--今回、福田さんからはどのように発注されたんでしょう。

 

福田:アルバムに収録される12曲の最後に頼んだんですけど、ほかの11曲が割と濃い人たちに頼んでるので、全体を俯瞰した時、結構お腹いっぱいな感じがして、彼には〈ほかにこういう人たちが書いてるから〉と伝えて、〈残り1曲、アルバムのバランスを考えるとどういう曲を書けばいいかは判るでしょ? ちょっと考えてみて〉みたいな発注でしたね。

 

北川:その答がこれです(笑)。編成の小さいせつない感じの曲がいいかなと思って。

 

--とてもいい曲ですね。今日のお話を聞いていると、どうも北川さんは、作家指向な気がするんですけど、そのあたりいかがですか。

 

北川:ええ、作家指向です。人に曲を書くのは好きですね。

 

--今後はROUND TABLEとしてだけでなく、作家としての活動にも期待しています。

 

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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

詳しいプロフィールはコチラ


濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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