MR.BIGのボーカルであり、ソロとしても活躍するシンガー、エリック・マーティンが日本のファンに贈る名曲カバーシリーズ『VOCALIST』 。2008年にスタートし、女性アーティストの名曲をカバーしたパート1、パート2に続き、クリスマスの名曲をカバーした『MR.VOCALIST X'MAS』がリリースされ、これまでに通算20万枚のセールスを記録するヒットとなった。そして、今年11月3日にパート3となる『MR.VOCALIST3』をリリースした。今作はパート1に続いて邦楽女性アーティストのカバー集となっているが、今回でエリック・マーティンの女性アーティストのカバーシリーズは最終作となり、一方で80年代のトップアイドルとして活躍したデビー・ギブソンが『MS.VOCALIST』としてこのシリーズに参加した。今回プロモーション来日した2人に作品について、さらには日本での活動について語ってもらった。
先ずはご存知エリック・マーティン。MR.BIGもオリジナルメンバーで再結成を果たしニューアルバムリリースというホットなニュースもある中、11月に来日イベントを開催。念願だった坂本冬美との共演を果たすなど、まさにこれまでの集大成となるステージを披露した。そんな現在の彼の復活劇はこの『VOCALIST』シリーズへの参加を抜きに語ることはできない。記念すべきイベントの翌日、マーティンを訪ねた。
-- 昨日のライブは坂本冬美さんとのサプライズ共演もあって盛り上がりましたね。楽しかったです。
昨日初めて坂本冬美さんとお会いして、一緒のステージで共演させてもらったんだけど、歌はもちろん素晴らしかったし、美しくて人柄も素敵で!本当に感激だったよ。
-- 「また君に恋してる」は今回の『MR.VOCALIST3』を作る大きなきっかけとなった曲だとおっしゃっていましたよね。
そうなんだ。去年12月にファンから坂本冬美さんのカバーアルバム『LOVE SONGS』をプレゼントしてもらって、聴いた瞬間、60年代70年代の映画音楽を彷彿とさせるようなノスタルジックな世界観に引き込まれてしまったんだ。それで、この曲をカバーさせて欲しいとリクエストさせてもらったんだよ。オリジナルのビリーバンバンさんのフォーキーなアレンジも好きだけど、坂本冬美さんのソウルフルな歌にホレてしまったので、僕もR&Bテイストを入れながらカバーさせてもらったんだ。今回この曲をカバーさせてもらったことは僕にとって本当に嬉しい事なんだ。
--ではその『MR.VOCALIST3』ですが、その他の曲はどのように選んでいったのでしょう
『MR.VOCALIST 1』は80年代の日本の女性アーティストの楽曲が中心で、『MR.VOCALIST 2』では洋楽の女性アーティストのカバーにチャレンジしたんだ。それから昨年クリスマスアルバム『MR.VOCALIST X'MAS』を出して3枚のアルバムを作ってきたわけなんだけど、今回の『MR.VOCALIST 3』では、パート1に続いてまた日本の女性アーティストの楽曲カバーにチャレンジしようと思ったんだ。収録されている楽曲はファンによる投票を行って決めたんだけど、「また君に恋してる」みたいに最初からカバーしたいって思っていた曲もいくつかあってね。
-- それはどの曲なんですか
「三日月」と「CHANGE」だよ。昔、マイケルボルトンとの友情のしるしに80年代にリリースした僕のソロアルバムで彼の曲を1曲カバーさせてもらったんだ。今回も同じように絢香さん、そして福原美穂さんと去年温めた友情から彼女たちの曲をカバーさせてもらうことができて本当にうれしかった。絢香さんはとてもかわいらしい女性で、福原美穂さんは去年リリースした『MR.VOCALIST X'MAS』でジョン・レノンの曲を2人で歌ったんだけど、一緒にいてすごく楽しかったよ。
あとKaoru Amaneさんの「タイヨウのうた」。この曲もすごく気に入ってて、ポール・ギルバートから「もしかしてエリックが書いたの? 絶対君が書きそうな曲だよね」って言ってくれたんだけど、実際、本当にこういう曲をかけたらいいなって思うくらい、非常に気に入っている曲なんだ。
--まさに「CHANGE」、「タイヨウのうた」はエリックさんの持ち歌のような、非常にソウルフルでパワフルなロックなナンバーになりましたよね。
そのとおりだね。この「タイヨウのうた」と「CHANGE」に関しては自分のロック、ファンク、ソウルのルーツが詰まった曲だと思うよ。より自分らしくカバーできたかなってね!
-- 『MR.VOCALIST』シリーズはMR.BIGのバンドサウンドとは違って、シンガーソングライター、エリック・マーティンが毎回どのようなアプローチで、歌い上げるのかがすごく楽しみなんです。楽曲を動物に例えると、エリックさんはその動物たちをあやつる人みたいな感じで。毎回どうやってその動物たちとコミュニケーションを取っているのか、すごく興味があります。
面白い質問だね。自分の場合はまず歌詞を見て、そこから想像して感情を表現していく方なんだけど、日本の楽曲ってすごく詩的で感動を覚えるんだけど、そこから特にこういう風に歌おうとか意識的にやってはいないんだ。自然にこういったボーカルになるんだよね。MR.BIGの時も自然に出てくるんだけど、メンバーがアグレッシブだし、メンバーが書く詞もこういった作品とは違うから、どうしても激しい歌声になってしまうんだけど、J-POPを歌うことによって、曲間のスペースを大切にしたり、バラードや静かな曲を自然に歌うことにチャレンジしてみたり、色々とアプローチしながら、こういう歌い方になったんだと思うよ。僕はボーカリストとしてカメレオン風だと思っているんだ。やっぱり25年以上シンガーソングライターとしてやっているから、あらゆる楽曲に対応できるというのはあるかな。だからどんな楽曲でもどんなタイプの動物もうまく乗りこなせるのさ(笑)
-- 今回カバーするのが大変だった曲ってありますか
「地上の星」が一番大変だったね。歌詞を受け取ったときに世界観を想像する段階で、いったいどんなことを表現しているんだろうって、すごく考えたんだ。楽曲もユニークでラテン的なドラムが入っていたり、とても不思議な世界観を感じたんだ。日本のスタッフにこの曲はどんなことを歌っているのかと尋ねたら40~60代のサラリーマン、ビジネスマンを応援する曲なんだって教えてくれて。それを聞いて中島みゆきさんのPVを観たら戦士のようにアグレッシブに歌っていて、やっとわかったんだ。でもすごく日本人オリジナルの世界観だなって思って興味深かったね。歌ってみてドライブ感があって気に入ったよ。
--「涙そうそう」は沖縄の伝統的なメロディーですが歌ってみていかがでしたか
とてもメロディーが気に入っているんだ。沖縄の曲って最初から教えてもらっていたんだけど、僕はこの曲を聴いたとき京都の古い町だとか川で鯉が泳いでいたりとかそんな画を思い浮かべたんだよ。とても美しい曲だよね。
--『MR.VOCALIST』第一弾から2年以上経過しましたが、最初の頃と比べてJ-POPに対する印象に変化はありましたか?
2008年に初めてJ-POPをカバーしたことによって、シンガーとして、ボーカリストとして、すごく幅が広がったと感じているんだ。なぜかというと女性シンガーってすごくスタミナがあって、ブレスコントロールも上手くて、一つの音符を伸ばす力があるんだよね。自分はロックを歌っていて、吐き出すように歌うので、こういった全く違うタイプの女性の曲をカバーすることで、すごく成長できたと思っているんだ。男性でも女性の歌をカバーできるんだって自信がついたよ。女性が書いた歌詞なんだけど、男性の視点に書き換えて、自分らしい解釈で歌うことができたと思っているよ。女性の思う事って男性と共通する部分もあるし、僕が歌うことで女性のリスナーも「わかるよ!その気持ち」って共感してくれるかもしれないし。
あとJ-POPに関してすごく面白いのは世界中どこを探してもJ-POPみたいな音楽ってないんだよね。というのはアメリカの音楽ってロックとかR&Bとかジャンルに分かれていて、J-POPはソウルもあればロックもあってフォークもあっていろんなジャンルのテイストが一つの曲の中に融合して複合体として存在しているんだよ。だからとても面白いっていう事を発見したんだ。
-- J-POPのカバー曲を聴いた海外のファンの感想って興味があるのですが。
海外のファンの意見は僕が書いた曲だと勘違いするくらい気に入ってくれていて、まさか日本の楽曲だとは思わなかったみたいだよ。実際、海外ではJ-POPを聴いている人って少なし、あくまで僕の感性で歌っているから、僕がカバーした曲を聴いたら、やっぱり僕の歌だと思う人はもちろん多いはずだよね。だからその質問の答えは僕が歌うことでJ-POPじゃなくてE-POP(ERICの解釈するJ-POP)になるという答えの方があっているかもしれないかもね。
-- 89年からMR.BIGを通じて日本のファンに愛され、メンバーも皆日本が大好きで、以降日本とのつながりはすごく大きかったと思いますが、エリックさんは更にこの『VOCALIST』シリーズに携わった事で、この2年間、J-POPを通じてこれまで以上に日本について考える時間が増えたんじゃないかなって思うのですがいかがですか。
ここ数年で新たに発見した事なんだけど、音楽に関していうと、日本人は歌詞をじっくり読んでストーリーラインを楽しんでいるんだよね。これは海外のファンにはあまり見られないところで、実際、日本の楽曲はとてもクリエイティブで変化を続けていて想像豊かなところが面白いんだよね。日本のリスナーもロックだけじゃなくてあらゆるジャンルを聴いてるよね。今、僕は50歳なんだけどMR.BIGのファンは30代~40代、そして『MR.VOCALIST』のファンはそれよりもっと若いんだよね。このシリーズを通じて新しい若いファンと知り合えたことは自分にとって宝物なんです。あと日本人は1回ファンになったら、ずっとファンでいてくれるんだよね。すごく嬉しい事だし本当に感謝しているよ。
文化の面で素晴らしいと思ったのは日本って互いを気遣ったり、アメリカと違ってハーモニー(和)を大事にするところ。会社でも他の社員に対して気配りを忘れなかったり、そういったところがすごくいいよなって思ったよ。
-- 最初に 『MR.VOCALIST』が発表されたとき、エリック・マーティンが日本をターゲットにそれもJ-POPのカバーアルバムを出すなんて本当に驚いたんです。それがトータルで4作も続くなんて。エリックさんにとっても『MR.VOCALIST』は大きなターニングポイントになったんじゃないですか。
もちろん! 僕にとってJ-POPは秘めた情熱というか、すごくノスタルジックで自分の両親が聴いていたようなスタンダード曲に近い雰囲気があるんだ。そういった静かなソウルミュージックみたいなものを昔からカバーしてみたいってずっと思っていたので実現して本当に嬉しかったよ。
MR.BIGの曲で「To Be With You」が1位になったのは日本が最初だったんだ。やっぱり日本人の心の琴線に触れたのは「To Be With You」みたいなPOPなナンバーだったんだ。僕のこういう素質に気付いてくれて、プロジェクトを立ち上げてくれたスタッフにも感謝しているよ。
-- 日本で活躍してくれたことはすごく僕たちにとっても嬉しかったです。でもエアロスミスやAC/DC、VAN HALENといった大先輩が、かなりマイペースな活動になってきた今、エリックさん、そしてMR.BIGがやっぱりメインストリームで元気に活躍して欲しいと願うファンもいます。
(笑)。僕たちもそれを望んでいるよ。MR.BIGもアルバムをリリースするしね。でも今の自分にも非常に満足しているんだ。ロックと『MR.VOCALIST』を両立できるとは夢にも思わなかったので、実際リスナーのみんなに受け入れてくれたことにとても感動したんだ。そして僕は『オルターイーゴ(もう一人の自分)』を確立することができたんだよ!!
今回で女性アーティストのカバーは最後になるんだけど、本当に楽しくてね、非常にやりやすかった部分もあるし、これで終わってしまうのかと思うとちょっと寂しいね。(スタッフに向けて)また1からはじめてもいいかな?(笑)
<インタビュー/文:MUSICSHELF編集部 福嶋 剛>



