ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2011年1月号-坂本真綾-P.01


2年振り、待望のフルアルバムは、初顔合わせとなる個性派作家やサウンド・プロデューサーとの異色コラボが実現した意欲作! 新たな魅力を放つ坂本真綾が語るアルバム制作秘話

--発売後、瞬く間にチャートの1位を記録した最新作『You can't catch me』。完成後の心境はいかがですか。

 

このアルバムは一年くらいかけて作っていたので〈やっと出た!〉って感じですね。

 

--昨年3月から続く「15周年記念企画」の第6弾ということですが、作家陣のクレジットに目をやると、実に多彩な顔ぶれです。

 

15周年だから今までのまとめを、ということではなくて、16年目以降、自身はもちろんのこと、聴いて下さる方にも今後の展開を楽しみにしてもらえるアルバムにしたかったので、攻めの姿勢でいきたかったというところがあります。だからこそ、今回は敢えて初めての方にお願いしたんです。でも、そうした冒険って、本当にやってみなければ判らないところがあるんですよね。長年活動すればするほどそうした新しい試みに対して臆病になりますから、そこを敢えて飛び込んでみました。
今回これだけ色んな方とご一緒したことで、どうしてもそれがトピックとなってそういう話をする機会が多いんですけど、その曲を誰が書いたかのクレジットを見ず、何の前情報も先入観もなしに曲を聴いた人がどう感じたのか、どの曲がどんなふうに聴こえたのかが気になります。

 

--前作『かぜよみ』(09年1月発売)の続編というアイディアはなかったのですか。

 

なかったですね。前作の仕上がりには満足していたので、ああいったアルバムはあれ一枚でいいというか、それを大切に聴いて欲しいという気持ちがあるんです。それにうまくいったことほど、次も同じように真似ようとすると裏目に出るものだと思うんですよね。長期公演の舞台に出ているときも実感したんですけど、毎日同じ台詞、同じ衣装で同じ役を演じていても、その日によって自分自身から生まれるものは少しずつ違うんです。時間の流れに逆らって、昨日の自分に近づこうとすることは不自然なこと。『かぜよみ』からはずいぶん時間が経ってますから、〈今の私が作るものはきっと別のものなはずだ〉という確信もありました。

 

--楽曲提供されたアーティストの方の個性と対峙することについてはいかがでしたか。

 

『かぜよみ』までの経験で、自信とまではいかないんですけど、何か自分らしさみたいなものを感じたあとでしたし、去年はカヴァーもやって、シンガーとして色んな楽曲に取り組むことを経験したので、プレッシャーというよりも、単純に自分が好きなアーティストの方々をお迎えしてアルバムを作っていくことが楽しみでした。

 

--作家の人選にあたって最初に浮かんだのはどなたでしたか。

 

キリンジの堀込(高樹)さんとスネオヘアーさん。あとはスキマスイッチの常田(真太郎)さんですね。キリンジさんやスネオヘアーさんは十代の頃から好きで聴いていたので、思い入れが強くて長年にわたる憧れがあったんです。それに対してスキマスイッチさんは、最近聴くようになったアーティストです。最初にベストアルバムを聴いて、そのあとオリジナルを聴くようになったんですけど、これは私のほうから一方的に〈あ、なんかスキマスイッチさんがやってる音楽は、何となく自分に通じる共通点が多い〉って気がしたんです。サウンドに弦が多く使われていたり、バラードやミディアム・スローの曲が多くて、言葉を大事にされているところとか。何より歌詞が好きなんですよ。だからいつか接点が出来れば嬉しいなと思っていたんです。

 

--憧れだったキリンジの掘込高樹さんはいかがでしたか?

 

堀込さんに〈お願いしたいのは、バラードです。といっても壮大なものではなくてミニマムな感じのバラードで…〉って話したのを憶えています。それこそアルバムを作り始めた当初、もう一年以上前ですけど〈今度のアルバムについて私が持っているイメージって“図書館”みたいな感じなんですよね〉って話したんです。〈天井高くまで本がズラッと並んでいるように、色んな本が本棚に詰まってる感じなんです〉って話して出来上がったのがあの曲(「ムーンライト(または“きみが眠るための音楽”」)なんです。

 

--「みずうみ」を書かれた、かの香織さんと「stand up, girls!」を書かれた鈴木祥子さんとはこれまでもご一緒されていますね。

 

ええ。でも、かのさんとは今回がまだ2曲目なんです。これまでライヴに来て下さったり、ほかにもお会いする機会があったので、何度もご一緒した気がしていたんですけど。前回(「雨が降る」)は別の方にアレンジをお願いしていたので、今回はアレンジでもかのさんとご一緒してみたいと思いました。
祥子さんには常に書いて頂きたいんですけど、この曲は今回のアルバムのなかで具体的に〈こういう曲が欲しい〉という明確なビジョンがあったので、それを実現して下さる方として祥子さんにお願いしました。

 

--皆さんへの発注はどのようにされたんですか。

 

今回はそれぞれの方に一曲ごとにお願いしているので、全体のバランスが見えているのは私だけだったんです。この人にはバラード、この人にはアッパーなものを…って振り分けて、全体のバランスを見ながらオーダーしました。デモが上がってきたものから〈あ、なるほど。こうきたか〉なんて言いながら、そこで微調整して作っていった感じですね。
そんななか、柴田淳さんが書かれた「秘密」だけは、元々ご自身のために書かれた曲だったんですけど、デモを聴かせて頂いて〈この曲、私歌いたい!〉って手を挙げて歌わせてもらいました。ほかの方は全員、直接会って私がどんな人かを知ってもらってから書いてもらいました。まず打ち合せをして、デモを上げて頂いて。で、また打ち合せをして、アレンジして打ち合せして…みたいなその繰り返しです。
皆さん、それぞれが一曲入魂なので、その曲にかける力がすごくて、全曲、シングルを作ってるような感じでしたね。

 

--それにしても各者の個性が明確に表れていますね。手加減なしというか、直球でドンとぶつかってきているようなそんな印象を受けました。しかもそれに対して怯むことなく立ち向かって、それがうまく溶け合っているような気がします。

 

「キミノセイ」なんて、そのままスネオさんが歌ってもいいっていうくらいのサウンドと歌詞なんですけど、それがとても面白くて。自分で声に出して歌ってみるまでどういう融合を見せるか全く判らなくて、でも歌ったらすごく良いフィット感でびっくりしました。

 

--アルバムを構成するにあたって、曲順は迷われましたか?

 

迷いました。一曲目の「eternal return」と最後の「トピア」はすぐに決まったんですけど、その間の曲はすごく迷いました。スタッフ全員で会議しましたね。ちなみに「eternal return」を書いて下さった末光(篤)さんは、皆さん「Butterfly」の印象が強いみたいですけど、私にとってはガンガンとピアノを弾いてるイメージで。ですから、最初からそういう曲のイメージでお願いしました。

 

--10曲目の「ムーンライト(または“きみが眠るための音楽”)」から「手紙」、そして「トピア」に繋がる流れが心地良いですね。深夜に聴くとより味わい深いです。

 

ありがとうございます。でも、バラード3曲並べるのにはとても勇気がいりました。一番迷ったのが「美しい人」の入れどころと、その最後の3曲。〈バラードを続けて入れちゃっていいのかな?〉というところです。「美しい人」がどう考えてもこのアルバムに馴染まないのを判っていたので(笑)。でも、「美しい人」がこのアルバムに入ってなきゃいけないという気持ちに迷いはなかったんです。ただ、どこに入れても違和感が出ることも判ってました。なので、前半に個性の強い曲をドン、ドン、ドン! と持ってきて、私のなかでは「キミノセイ」からが〈…というわけで、色々ありましたけど、ここからが本番です!〉みたいな、そんなところがあります。とにかくアルバムの前半で色んなタイプの曲を出しちゃって、〈あとはじっくり聴いて下さい〉って感じですね。
正直、今回のアルバムはトータルな流れとかストーリーとかテーマとか、そういうのは全く意識せずに作りました。曲順にしても、あくまで私なりの曲順であって、あとは聴く側の好みの問題というか、言い換えればどんな並びになっても大丈夫っていう自信があるんです。実際、曲調がバラバラでもいいと思ったし、アルバム全体を見渡した時、色んなパターンがあって散漫だと思われても構わない。もしこれが“迷走”だと言われても、ここからまた次の目的地へ向かうための新しい旅を始めたところなんだから〈何が悪い?〉と(笑)。それくらいの気持ちで臨んだんです。
とはいえ、それでも未知なる不安はありましたけど。とにかく作ってる最中は一生懸命やるだけですから、どういう受け止め方をされるかはあとの話というか、これから聴いて下さった方の反応を聞くのが楽しみなんです。

 

--多彩な作家陣という意味では『夕凪LOOP』(05年10月発売)と似たところがりますね。

 

確かに自分でも『夕凪LOOP』の時と作り方が少し似てるなと思うこともありました。だけど、あの時と決定的に違うと感じているところもあって。何しろあの時から『かぜよみ』まで数年間かけて得たものは大きいですから。それに今また開拓して新しい種を蒔いたら、またここから育てられるという喜びがあるんです。

 

--作り手が複数であることの長所と短所について伺えますか。

 

色々あるんですけど、良いところは何より〈私自身が鍛えられる〉ってことですね。こういう経験はなかなか出来ないし、曲をお願いするにあたっては、相手に私を理解してもらわないといけないので、一から説明することになるんです。しかも説明するうち、もっと知って欲しいという気持ちになりますから、そうやって話すことで自分を見つめ直すいい機会になりました。こうした初めての出会いやたくさんの人と出会うということは、初心に戻るようなところがあります。
あと、これは短所ではないけれど、ひとつ大変だったのが、エンジニアが毎回違うという点でした。私にとっては、作家やアレンジャーが違うことよりもエンジニアが違うことのほうが大きかったです。エンジニアの捉え方ひとつで曲の世界そのものが違って聴こえちゃうんだということを実感しました。

 

--では、エンジニアとはかなりディスカッションされたんですね。

 

はい。私の声の解釈が違うと思えばその度に説明していくんですけど、その作業が一番大変でした。私自身が指揮者で、全体を見渡せているのは私ひとりしかいないので、ここはこうしてこうなって、というのを常に確認しなきゃいけないのが大変でしたね。でもこうやって出来上がってみると、ヴォーカリストとしての坂本真綾がどうなのかってことを、アルバムを作りながら問われ続けてきた気がして、このタイミングでこのスタイルで作って良かったと思います。それこそ15周年の今だからこそ。

 

 

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【音楽職人トピックス】



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2012年3月17日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[2]』

第2回は「シェルブールの雨傘」を中心に貴重なデモや関連楽曲を映像と共に紹介。

池袋コミュニティ・カレッジ
(豊島区南池袋 1-28-1
西武池袋本店別館 8・9階)

●受講お申し込みに関する詳細は、 池袋コミュニティ・カレッジHPをご覧ください。
また、お電話でのお問い合わせは、03-5949-5486まで。
濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

詳しいプロフィールはコチラ


濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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