ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2011年1月号-坂本真綾-P.02

--作家の方と歌詞の解釈に関する衝突はなかったですか。

 

それはなかったです。むしろ皆さん、私が書くものについてはお任せ頂いた感じですね。で、歌詞に関して言えば、ありがたいことに桜井秀俊さんが、私が今まで歌ってきた曲の詞をとても評価して下さって、今回、自分が書くことを頑なに拒否されたんですよ。ずっと〈真綾さんが書いたほうがいい!〉って言って下さって。でも〈今回は男性に書いてもらうというのが私にとってもチャレンジなので〉ってお願いしたら、〈じゃあ書くけど、やりとりしながら一緒に完成させたい〉って言って下さったので、桜井さんとは何度もディスカッションしながら作りました。

 

--カヴァーの「DOWN TOWN」を除くと、今回3人の男性アーティストが新たに詞を提供されたことになります。桜井さん以外のおふたりはいかがでしたか。

 

スキマスイッチの常田さんとスネオヘアーさんには、多少私の意見を伝えたくらいで、お任せしたあとはスムーズに上げて頂きました。今回はお任せすると決めた以上、あまり口出しせずにある程度の距離感をもって取り組んだんです。でも、一曲ご一緒するとお互いに判ることがあるので、また何かご一緒したいですね。
私自身の作詞に関して言えば、言ってることは15年前とそんなに変わっていないと思うんです。ただ、今回書いても書いても今までと同じようなものしか出来なくて苦しんだところがあります。悩みに悩んで、ある時〈まだ書いてない部分があるはずだ〉と考えた時に、言いたいことや気持ちは変わってないんだけど、これまではそれをきれいに洗って並べてたというか、人に見せようと思って書いてるものだったってことに気付いたんです。だから今回は格好つけず、敢えてまとめない、結論を出さないままでもいいんじゃないかと思って書きました。必ずしも夢が叶うとも恋がうまくいくとも限らないという現実のことを言葉にして、しかもそれに絶望するんじゃなくて、そういう世の中なんだから、そのなかで何を目標にして何を見て何を美しいと思って生きているのかということを、リアルな感じで描きたかったんです。
『かぜよみ』で描いた世界って、実は私の思う理想郷だったんですね。でもそれは嘘じゃないんです。あの作品は、世の中の美しいところだけを抽出したアルバムになっていて、それはあの時点で完成していたので、今回はもう少し地上というか、土の手触りが感じられるよう試してみたかったんです。

 

--本作中、特に思い入れが深い曲となるとどの曲になりますか。

 

思い入れは全部一緒なんですけど、「トピア」が好きですね。もちろん「秘密」も。いや、選べないです(笑)。「ムーンライト」も大好きな作家とアレンジャーということで気に入ってますし。「トピア」を書かれた矢吹香那さんは私より若い方なんですが、名だたるアーティストさんたちが並んでいる中に、こういった新人の若い作家さんもいるっていうのも、このアルバムの面白いところだなと思ってるんですよね。ぜひまた機会があれば彼女ともご一緒したいです。

 

--アルバムを制作していくなかで、どの段階で全体像が見えましたか。

 

「秘密」が一番最後に出来た曲なんですけど、あの曲が出来た時に〈あ、大丈夫だ〉と思いました。「秘密」のミックスが終わった翌日がアルバムのマスタリングだったんですよ。それまでいくつもの曲を並行して作っていて、それぞれ納得しながら完成させてるんですが、全体でどうなっているのかは、正直マスタリングの時に全ての曲を並べて聴くまでスタッフの誰にも判っていなかったのかも知れない。

 

--本作での出会いをきっかけに、冨田ラボのベスト・アルバム『冨田恵一 WORKS BEST ~ beautiful songs to remember ~』に収録される新曲「エイプリルフール」に参加されたんですね。

 

そうなんです。普段私が歌っているものとは歌詞の世界観も違うし、曲の雰囲気も違ってとても新鮮でした。でも、このアルバムで一曲録り終わって、冨田さんが私の声を理解して下さった感じがして、すごく馴染んでる気がします。すごくいい曲なんですよ。

 

--冨田さんはどんな方でしたか。

 

お会いする前は、恐い方だったらどうしようなんて思っていたんですけど、こちらが緊張しないように気を遣って下さったのか、最初からものすごく饒舌に世間話をして頂きました(笑)。録り方や歌のチョイスなんかを見ていて、私のほうが勝手に〈相性がいいな〉と感じてますね。

 

--この先また新しい展開があるといいですね。ところで、本作のアートワークについて何か逸話があれば教えて下さい。

 

様々なジャンルの色んなアーティストの方が集まってくれたことから、〈乗り合いバス〉のイメージが浮かんだんです。たくさんの人を乗せたバスが長距離をかけて目的地に向かうイメージと、乗っては降りての変化がこのアルバムに合ってるような気がして。バスっていわゆる高速の移動手段ではないので、道中ちゃんと景色が見渡せて、色んな町を巡りながら大地をゴロゴロ行く感じがして好きなんです。

 

--昨今、ソフトが売れないと喧伝されていますが、そうした一連の流れについてはどう感じていますか。

 

私自身CDを買わないで音楽を聴くという発想がないので〈そんなことがあっていいの?〉って感じがします。データだと一発で消去出来ちゃうので、それでさよらならなんて悲しいですし。いつしかそれが普通になっちゃう日が来るのかも知れないですけど、なんか淋しいですよね。こうやってジャケットを作っていく過程でも、紙から何からひとつひとつ丁寧に考えて作っているので、発売されたアルバムは、常に手で触れて感じて欲しいと思っています。もちろん曲そのものをたくさんの方に聴いて欲しいという気持ちがありますけど、それ以上に〈持っていたいと思えるアルバム〉であって欲しいです。

 

--そんななか「DOWN TOWN」のアナログ盤が発売されますね。

 

私は年齢的にアナログ盤世代ではないんですけど、アナログ盤が発売されるという話を頂いて単純に嬉しかったし、カヴァーっていうのがDJの方々の興味を引くんだってことを今回初めて知りました。過去の曲をカヴァーすることについては、ヴォーカリストとして難しい点もありましたけど、発売した時の反応がいつもと違ったところであったのが驚きでした。しかもそれが大きなものだったので、それこそ山下達郎さんのファンのような、これまで私の曲を聴いてくれていたのとは違う世代の方だったりしたので、カヴァーをやるとこうした広がりがあるんだと気付きましたね。意外な展開でした。

 

--「DOWN TOWN」のカヴァーから本作までの流れが、80年代のいわゆるシティ・ポップスの延長といった印象があるんですが、そのあたり何か戦略的なものがあったのでしょうか。

 

カヴァーはカヴァーで新しいことに挑戦するという企画のひとつで、あれはシングルと言いながらも、3曲入りのアルバムのつもりで作りましたから、それはそれで私のなかで一度完結しているんです。そういった意味では「DOWN TOWN」をアルバムに入れるかどうかも悩んだんです。あれを3曲入りのアルバムと考えれば、入れなくてもいいんじゃないかと思ったんですよね。でも、入れる方向で考えてみたらそれはそれでどこかが繋がった気がします。

 

--一連の15周年企画のそれぞれが、この先色んな方面に波及していきそうですね。

 

『かぜよみ』を作り終えた時に〈あー、やり遂げた!〉っていう充実した満足感を覚えたんです。それこそ、その時点で満足したから終了っていうことでも良かったのに、〈それでもまだ新しい作品を作ることの意味って何だろう?〉って考えたんです。あれこれ思い巡らせたんですけど、結局、私には何か新しいことをするという選択肢以外は考えられませんでした。だから今回こうして恐れず新しいところに飛び込んで良かったと実感しているんです。でも、飛び込んだからには、この先ちゃんとどこかに辿り着くまで続けなければいけないと思っているので、終わった瞬間にもう次のことを考えています。もう色々と次に向かって話し始めてるんですよ。

 

--では、最後にライヴへの意気込みを聞かせて下さい。

 

実はアルバム収録曲を中心にしたレコ発ライヴというのが初めてで、しかも長いツアーというのも初めてなんです。こうやって15年やってきてもまだ〈はじめて〉があるっていうのは幸せなことですし、そこから得られるものはまだまだあるという気持ちで、私自身今から楽しみにしています。

 

 

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【音楽職人トピックス】



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2012年3月17日(土)18:30~20:30
『生誕80周年記念集中講座:
ミシェル・ルグランその活動の軌跡[2]』

第2回は「シェルブールの雨傘」を中心に貴重なデモや関連楽曲を映像と共に紹介。

池袋コミュニティ・カレッジ
(豊島区南池袋 1-28-1
西武池袋本店別館 8・9階)

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また、お電話でのお問い合わせは、03-5949-5486まで。
濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

詳しいプロフィールはコチラ


濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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