ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2011年8月号-P.01

  吉俣作品の魅力を語る際、誰もがその筆頭に挙げるのが、美しく優雅な旋律と巧みなアレンジ、そして多彩なサウンドだろう。あの手この手で聴く者を魅了するその楽曲は、そっと涙腺を刺激し、時おり現実の厳しさを忘れさせる癒しの効果すら内包している。
  今回ご紹介するのは2008年放送の『篤姫』に続き、NHK大河ドラマには二度目の登板となる『江~姫たちの戦国~』(2月発売)、そして今春公開され、好評につきロングラン上映が続く映画『阪急電車 片道15分の奇跡』(4月発売)、そして最新作となる映画『ロック わんこの島』(7月発売)のオリジナルサウンドトラック盤。順に時代劇、ベストセラー小説の映画化、実話を基にした劇場用オリジナルである。

 

--まずは異例の早さで二度目の登板となった大河ドラマ『江』について伺います。依頼後、引き受けるのに逡巡されたというお話ですが。

 

  一ヶ月くらい悩みましたね。だって『篤姫』(08年)で2007年から2008年にかけて一年間苦労して、その翌年に頼まれたんですよ。「またあの怒濤の一年を過ごすのか…」と考えると、多分無理だなと感じたんです。大河って曲数も多くて、本当に大変なんですから。

 

--引き受けるにあたっての決め手は何だったんですか。

 

  周囲の「やったほうがいいんじゃない?」っていうアドバイスとプロデューサーと脚本家が『篤姫』と同じ方々だったということですね。せっかく二人が指名して下さったのに、僕一人が断ったとしたら、せっかくのチームなのに、そこから逃げた感じになるじゃないですか。実際、かなりの葛藤があって、「やる」って言ったり「あ、やっぱり駄目」って言ったり、モヤモヤした一ヶ月を過ごして、で、ある瞬間に開き直って「やってみるか」って思ったんです。

 

--お茶の間を席巻した前作『篤姫』は、まさに国民的番組で、作品の知名度だけでなく、音楽的にもより幅広いファンを獲得するきっかけになったと思います。実際、サントラ盤も異例の売り上げを記録しました。そうした意味でも楽曲制作にあたっては、相当なプレッシャーがあったと思います。

 

  おそらく『江』で一番プレッシャーを感じてるのは脚本の田渕(久美子)さんなんじゃないかなって思うんです。何しろ『篤姫』と同じ"姫もの"で、片やあれだけ世間を騒がせる大ヒットになったわけですから。だから僕よりも田渕さんとプロデューサーの屋敷さんのほうが相当な覚悟があったと思うんです。同じチームが手がけているだけで、まったく別の作品なのにも関わらず、どうしても前作が比較の対象にされてしまうじゃないですか。

 

--それは後ろ向きな考えという訳でなく、現実的な捉え方としてですよね。

 

  そう。だから前作はフロックだと思って、今回は平常心で臨めばいいのかなと開き直れたんです。それこそ曲を聴いた人のなかには「前のほうが良かった」とか「前のと似てる」とかいろんなことを言う人がいるんです。世間って辛辣だから(笑)。でも、それに対しては嫌味でなく「そうですか。でも、どっちも僕が書いた曲ですからね」と堂々と言えるぐらい開き直れました。「だって吉俣良に頼んでるんだから。全く違うものを望んでいるなら僕に頼んでこないでしょう」くらいの気持ちです。やっぱりどこかに『篤姫』の匂いがすると言われてもそれはしょうがないことだなと思います。開き直った瞬間にそうした第三者の意見も真っ向から受け止められるようになりましたね。

 

--では今回、特に何か変わったことをしようとは考えなかったんですか。

 

  考えなかったですね。ただ『篤姫』の時に和楽器を使うのをやめようと思ってそうしたんですけど、今回は何でも使ってみようと思いました。二胡やアコーディオンも使ってますし。自分のなかで変に枠組みを作ってその制約のなかで取り組むのをやめようと思ったんです。何やってもいいかな? と。周りも「何やってもいいです」って言ってくれたので自由にやらせて貰いました。

 

--部分的に吉俣さんが以前手掛けられた韓国ドラマ『イルジメ』(08年)のサントラと似た印象を受けました。

 

  確かに自分でもどこか『イルジメ』を意識したところはあったかも知れないですね。今回は打ち合せの段階で戦国が入ると聞いていたので、戦いのテーマなんかは、男性の戦いというよりは、女性の戦いをちょっとリズミカルに聴かせようとしたところがあります。『篤姫』ではそれがなかったので、その点は決定的な違いですね。ただ案の定、田渕さんらしく戦いのシーンはそれほど出てこないですけど。最初はすごく沢山出て来る予定だったんです。

 

--ところで『篤姫』もそうですが、曲名が"粋"で面白いですよね。色んな深読みをさせる魅力的なものが多いです。

 

  これは僕の友人の三代目魚武濱田成夫氏が付けてくれたんです。全部に意味があって、彼自身、なぜこうした字をあてたのかということはちゃんとすべてに意味があるんですよ。僕のホームページにファンの方から質問が届いて、『江』の最後に収録した曲「詩る。」という曲名はどうして「詩」があてられているのかと問い合わせがあって、その時彼が、ものすごく丁寧に回答を返信してくれたんです。僕が読んでも「ああ、なるほど。そうだったのか!」というくらい綿密に理由付けがなされてるんですよね。ちなみに「詩る。」は姫が物事を知る時に「詩(うた)」のように知ったり感じたりすることからつけたんですが、彼にかかるとそのさらに裏に隠された逸話が出て来るんです。これには驚きですよ。(編集注:吉俣良Official Website内FAQ「『詩る。』について」参照)

 

--つまり、突っ込めば魚武氏が全曲答えて下さるということですね。

 

  ええ。ですから『江』のサントラ盤の曲名で何か気になるものがあれば、僕のホームページ宛に是非問い合わせてみて下さい。

 

--では、ファンの方は是非とも問い合わせて頂きたいですね。

 

  彼は全部きっちり答えてくれますから(笑)。

 

--『江』については現在再びレコーディング中ということですが、そちらも、サントラ盤として9月に発売されるんですよね? ということは、そこでもまた魚武氏が曲名をつけられる、と。

 

  これに関しては曲選びも彼と一緒にやってるんです。実のところその時は僕よりも彼のほうが主導権を握ってる面もあります。本来は僕と彼の意見が合致した曲が収録されるんですけど、仮に僕が選んでない曲を彼が気に入ったとしたら、そこで戦いが始まるんです。戦いというか説得というか。その曲に対する想いを語りながら僕を納得させちゃうんですよね。何しろ選曲会議に6時間はかかりますから。

 

--続編CDにも期待ですね。では、『阪急電車 片道15分の奇跡』について。これは吉俣節炸裂というか、吉俣さんならではの、王道の美しいメロディが際立つ作品ですね。何の迷いもなく作られたような印象を受けましたが。

 

  この映画では監督が一曲だけ異常なまでに気に入ってくださった曲があって、それが劇中で何度も何度もかかるんですよ。実際はほかにも色んなパターンの曲を書いて渡してるんですけど。だから試写で観た時に「えっ!? こんなにも同じ曲を何度もかけていいの?」って焦ったくらいです。だって本当に何回もかかるんですよ。

 

--作曲家冥利に尽きる話じゃないですか。

 

  それは嬉しいですよ。そんなにもこの曲を愛してくれてるんだと思うと。でも、その喜びと同時に「これ、大丈夫なの? お客さんは、あ、また同じ曲かかってるよ」って感じるんじゃないの? もしくは「吉俣は手抜きしてほかの曲書いてないんじゃないの? 書けなかったんじゃない?」と思われないかと正直心配になったりもしました。でも、それは監督のご意向で「これでいいんです」と言っていただいて。だから周りで映画を観た人の反応がすごく気になったんですけど、みんな口を揃えて「いやあ、あの映画すごく良かったですよ」って言うものだから。「でもあれ、同じ曲ばかりかかって気になったでしょ」って、その都度質問しちゃいましたね。だけど、良かったって言ってくれる人がプロの音効さんだったりしたので、余計にびっくりして。だって、自分で恥ずかしくなっちゃうんですよ、あまりに何度もかかるから。そしたら「いや、全然気にならなかったですよ」って答が返ってきてちょっと安心したんですよね。

 

--曲の依頼はどんなふうでしたか?

 

  基本お任せで、「吉俣さんが感じたものをそのまま表現して頂ければ結構です」と言われました。この映画、僕が音楽を担当させて貰ったドラマ『がんばっていきまっしょい』(05年)と同じプロデューサーと監督が手がけていて、その時の音楽をとても気に入って下さったそうで。だからもう本当にお任せということだったんです。ある意味で一番難しいオーダーでもあるんですけど。

 

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【音楽職人トピックス】



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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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