ARTISAN de la MUSIQUE

ARTISAN de la MUSIQUE 2011年8月号-P.02

--それにしてもこの作品、サントラ盤を離れた一枚のアルバムとしても楽しめるものですね。

 

  同じ曲のヴァリエーションがいくつも入ってるし、曲数も少ないから定価も安いんですよ(笑)。買った人が「これ同じ曲ばっかじゃん。買って損した!」って思われるとやだなってこともあって。

 

--いや、そんなことないですよ。まるで反対の感想を持ちました。それこそ同じ曲のヴァリエーションだけで構成されているサントラ盤なんてごまんとありますし、極端な話、たった一曲であれ素晴しい曲があればそれで充分に元は取れたと感じます。しかもこのアルバムに関していえば、ヴァリエーションを含め構成も確かで何度でも繰り返し聴ける作品に仕上がっていると思います。

 

  そう言って頂けると嬉しいです。実を言うとこの映画、全国で順次公開されてかなりヒットしたんですよ。特に地元の関西では大ヒットしたんですね。だけど僕にしてみればこれまで作ったサントラのなかで一番自分自身自信が持てなかったんです。試写会でも不安で、試写中は周囲の反応をおそるおそる見渡したくらい。あと、限られた時間のなかで制作したというのも不安の要因ではあったんですけど。だけど、今回この作品に関わったことで判ったのは、音楽って意外と自分が考えているのとは違う動きをするんだなってことなんです。今後自分が映画音楽を手掛ける時のいい経験になりました。というのは、僕はこれまで全曲違うメロディのほうがいいんだ、ぐらいに思ってるところがあって、「これもいい曲」「あれもいい曲」って称えられたい気持ちでいましたから、頑張って沢山曲を書いてたんですけど、そうじゃなくていいんだと気付くいい機会になりました。でも、考えてみればエンニオ・モリコーネだって同じ曲のヴァリエーションで押し通す映画音楽沢山やってますしね(笑)。今後はヴァリエーションを想定しながら書くこともありなんだなと。この映画って思いきり悲しいわけでも思いきり嬉しいわけでもなく、本当にただただ日常のささやかな出来事を描いた作品なんです。震災直後だったからかも知れないけど、世の中は今こうした何気ない日常というのを欲してるのかも知れませんね。

 

--このサントラも映画音楽という枠を越えてもっと広く聴かれていい作品だと思いました。で、最後が最新作となる『ロック わんこの島』ですね。

 

  監督の中江さんは、基本的に僕の音楽を好きだと公言して下さっているだけに、一番安心して組める監督かも知れませんね。僕のほうも映像(え)の想像もつくし、それこそカメラを動かすスピードやタイミングもイメージ出来る。全てを観なくてもなんとなく「こんな仕上がりになるんだろうなあ」と想像するのと実際に仕上がったのを見るとあまり誤差がなくて安心なんです。『Dr.コトー診療所』(03年)や『薔薇のない花屋』(08年)の時もそうでしたけど、彼の撮るものについては、空気感や匂いまでも感じることが出来るんですよね。
  実はこの作品を制作中に東日本大震災があったので、僕のなかで一回気持ちが途切れたんですよ。2000年に大噴火した三宅島の物語なので、世の中が自粛モードのなかで、この映画が上映出来るのかどうか、あの時は想像も出来なかった。

 

--確かにそうですね。

 

  実際はこの作品って、人々を勇気づける映画なんですけどね。

 

--とはいえ作業が再開するわけですが、その時の状況はいかがでしたか。

 

  曲を書くにあたって、気分転換に4、5日、鹿児島に帰ったりもしました。その時に書いたのがメインテーマなんです。

 

--3.11の話が出ましたが、それ以降、音楽と向き合う気持ちに変化はありましたか。

 

  音楽と向き合うこと自体に変化はないんですけど、今まで欲しかったものとか望んでいたことを欲しなくなった。価値観の変化なのかどうか判らないですが、生きてるだけで幸せだってことを素直に思えるようになりました。あの震災を見た時に今自分たちが普通に生きていることがこんなにすごいことなんだと実感するようになったんです。今まで普通だったことが普通じゃなくなったことで無欲になりましたね。

 

--震災以降しばらくの間、僕は自発的に音楽を聴けなくなった時期がありました。その時、音楽の力に頼るには限界があると感じたんですが。

 

  昔インタビューで「音楽は人を救えるか」というテーマで質問を受けたことがあって、僕はその時「救えない」って答えたんです。ヨーロッパにおける戦争だとか世界の悲惨な状況を目にして、そんな単純に「救える!」なんて言えないなって思いました。戦地でピアノ演奏を聴いて人々が救われたとかいう話もあるけど、それよりはまずメシだと。音楽はそのまた次の話で、本当に切羽詰まった状況では音楽は役に立たないと思ったんです。ただ、ある程度の物資が行き渡って、日常的な生活に戻った時にこそ必要なのが、藝術とかアートだと思うんですね。だからいきなり「音楽で人を救える」なんてことは口が裂けても言えないですよ。現に3.11の状況を見ると、やっぱり音楽は無力だなっと感じざるを得なかった。だけどこれから先は必要になるタイミングが巡って来ると思います。一年経ち、二年経ちするなかで人々の心が穏やかになる助けになれるんじゃないか。そういった意味での音楽は力を持つし、必要だと感じます。

 

--『ロック わんこの島』に話を戻しましょう。アルバム全体の仕上がりについてはいかがですか。

 

  今回は編成も豪華で、自分でも結構気に入ってますよ。珍しく6分近い組曲みたいなのも入ってますし。『江』も『阪急電車』もそれぞれに思い入れがあるんですけど、苦しいなかで作ったこの作品を無事リリースすることができて良かったです。

 

--監督からの細かな注文はありましたか。

 

  珍しく色々ありましたね。だけど『阪急電車』をやったあとだから、結構ヴァージョン違いとかも平気で挑戦しています。前なら抵抗感があって、ヴァリエーションを作るよりはいっぱい曲を書いたと思うんですけど。『阪急電車』と出会えたお陰でこれまでとは少し取り組み方が変わった面があるかも知れないですね。もっといえば『江』に取り組んだ時の開き直りがこの三作に共通して何かしら影響を与えたと思いますし、まだこの先にもっと何かあるんだ、何か出来るかも知れないという気持ちにさせてくれた気がしますね。

 

--この先に控えている仕事で何か新たな挑戦はありますか。

 

  11月にニューヨークのオフオフブロードウェイで舞台をやることになったんです。小さな劇場(こや)なんですけど、そこに踏み込もうと思ったのも、『江』以降の意識の変化によるものなんです。現地で活動する日本人と一緒に舞台をやることで、何かこれまでとは違った感覚を持てたらいいなと思ったんです。生で劇の伴奏をするのは初めての経験なので、模索しながら何か今後の手掛かりをうまく掴めればいいですね。それと今やってみたいのはアニメの音楽ですかね。これまでやってこなかったので、真剣に取り組んでみたいです。あと前々から言ってますけど、やっぱり海外進出に興味があります。海外映画の音楽は是非とも手掛けてみたい。一番組んでみたいのはキム・ギドク監督。この夢は何としても実現させたいですね。

 

[2011年7月 (株)ポニーキャニオンにて取材]

 

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【音楽職人トピックス】



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『生誕80周年記念集中講座:
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濱田高志(ハマダ タカユキ)
音楽ライター兼アンソロジスト。これまで国内外で企画・監修したCDは300タイトルを数える。現在は「イージーリスニング・ステーション」(USEN)の選曲や「エキスポ・ジェネレーション」、「濱田高志のトレジャー・ミュージック」(STAR digio)のパーソナリティを担当。ミシェル・ルグランからの信頼も厚く、世界初の公認本「ミシェル・ルグラン風のささやき」(音楽之友社)を執筆したほか、「コカ・コーラCMソング データブック」(ジェネオン)「Love Sounds Style読本」など編・著作多数。2007年、ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ『フル・サークル』をコーディネイト。

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濱田高志ロングインタビュー
(2007年2月掲載)

濱田高志 監修・選曲・解説
「TV AGE」シリーズ公式HP


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