個々のルーツを咀嚼、主張しながらROCK’A’TRENCH流としか表現できないようなオリジナリティを、いよいよ強固に、さらにシャープなものにした全13曲。5人になったバンドの可能性を探った前作から2年2ヶ月。じっくりと時間をかけ、セカンドアルバム『Bohemia』が完成した。柔軟だがストイックを極めたミュージシャンシップ、繊細さとタフさを併せ持ったメッセージは散漫にも傲慢にもなることなく、バンドが充実期に差し掛かったことを如実に伺わせる。
フロントマン・山森大輔に再び会う。落ち着いた語り口はそのままに、作品に対する大きな自信と充足感を得た彼の表情は、とても清々しかった。
-- ニューアルバム『Bohemia』が完成しました。これ、胸を張って自信作と言えるんじゃないですか。
そうですね。いいものができました。
-- だいぶ長い時間をかけてレコーディングされたと思うんですが、出来上がった今の率直な思いを聞かせてください。
そうですね。長いことやってきたプロジェクトがようやく終わった、しかもその出来がとても満足のいくものだったので、ホッとしましたし、嬉しさがこみあげてますよね。
-- セカンドの方向性を決めて取りかかったのではなく、シングルを積み重ねていく上でアルバムとしてまとまったということなんでしょうか。
そうですね。シングルだけで5曲あって、その時点でだいぶ風景が見えてきた感じはありました。それ以外に、いい曲、強い曲、これはどうしても入れたいという曲がいくつかあったので、それらのバランスを取るために、最後に何曲か書き上げていきました。明確なアルバムコンセプトみたいなものが最初からあったわけではないんですけど、結果、タイトルにとてもしっくりくる言葉が見つかって、全部にうまく説明がつく、いい背骨ができたなって感じがしますね。
-- 前作同様、自分たちのルーツを極めつつ、アイデアを練り込みつつ、さらには統一感のある作品になりましたね。
そのいちばん大きな理由は、前作にはメンバー5人が揃っていない頃に録っていた曲もあったってことですよね。ノリも違えば音色も違うし、さらには打ち込みで作った曲もあったので、そういった意味では、ちょっとデコボコした印象はあったと思います。今回はどの曲もこの5人で、しかもアンサンブルもあまり入念にしない、凝り過ぎない、基本的には5人で成立するように作ったので、そこで統一感が出たんじゃないですかね。
-- それでも相変わらず1曲1曲、完成までにはかなりの時間をかけられているんですよね。
そうですね。その時のベストを突き詰めるという姿勢は変わってないです。どんなに時間がかかっても、どんなに忙しくても、どんなに眠くても(笑)、そこは譲らないですよね。
-- 全員が完璧に近い形で納得するまで、というのはバンドとしてあるべき姿だと思うのですが、そこまでの気持ちに向かわせるものって何なんでしょうか。
それがバンドの個性と直結することにもなるし、いいモノを作りたいっていう音楽への情熱もあるし、いいモノを作らないと成功しないとも思っているし。人に届く可能性を僅かでも減らすわけにはいかない。だから曲作り、レコーディングに関しては、かなりストイックになりますね。普段の生活はかなりいい加減な、たとえばオータケ(ハヤト)くんとかね(笑)、かなりいい加減なんだけれども、音楽に関してはどこまでも、やり過ぎるほどやるし。それは5人ともそうですね。音楽のことになると頑張っちゃう、頑張れちゃうんですよ。
-- いいモノを作るための近道はない、ということでしょうか。
そうですね。このバンドはそういうバンドですね。僕ら、学生時代の同級生同士とかではないし、それぞれの何もかもを知り尽くしてるわけではないし、昔からのやり方というのがないんですよ。だから勢い一発で曲が完成、っていうタイプじゃないんですよね。各々生きてきた道も違うし、触れてきた音楽も違うから、アイデアもふんだんに出てくる。それが何通りかあれば、それを全部やってみる。それを全部聴き比べて、録音もしてみる。その繰り返しなんですよね。そうやって積み上げていくのが僕らにはいちばん合っているんだと思います。途中で諦めたり、近道を探っていくことを考えることもなく、単純にそれしかないと思ってましたから(笑)。実際にそうやってきたことで、バンドがどんどんいい感じになってきましたよね。今回の制作でも終盤に近づくにつれて、よりスムーズに、しっくりくるようになってきていたし。
-- 少し遡りますが、5人になった当初はSKA SKA CLUBの山森&畠山に、新たに3人が加わってROCK'A'TRENCH結成という印象だったんですね。
ああ、周りからはそう思われてたかもしれないですねえ。
-- それが先ほど言われた1stのデコボコ感、2+3という辺りからきているのでしょうか。
ああ、そうです。そうだと思いますね。
-- ROCK'A'TRENCHの曲は主に山森さん、オータケさんという二人のソングライターの手によるものですが、山森さんは自宅でデモを録るときに、アレンジまでほぼ考えてしまうタイプですか。
そうですね。まさしく1曲目の「Are Ya Ready」なんかは、たまたまそこに“Drum Roll”っていうボタンがあってですね(笑)、それが面白くてバーッと1小節書いたっていう。それをハヤトくんが気に入ってそのままやろうってことで。
-- 逆に『ドラムロールはないだろう』ということになれば、そこは話し合いでナシにするのも可、なわけですか。
あ、もうそれはまったく。デモを作る時に『ここはすごくこだわりがある』ってところもあるし、たとえばハヤトくんが『ガンズ(・アンド・ローゼズ)の【You Could Be Mine】みたいにしたい』と言いだして、それがカッコよければ、変えるのは全然オッケーだったり。たとえば『これはアコギじゃなくてエレキにしようよ』っていう意見があっても『いや、この曲はアコギでザクザクやるところがいいから、そこは変えたくない』みたいな。そうやってみんなで作っていくという感じですね。
-- なるほど。磨いたり削ったり、柔軟な耳をもつ一方で、譲れない部分は貫いたりしながら、ですね。そうすることが山森さんの考えるいいモノ、ROCK’A’TRENCHのやるべきことに繋がると。
僕が、ではなく、僕ら、ですよね。世の中にはあらゆるタイプのカッコいい音楽があるけど、僕らは過剰なくらいにアイデアを詰め込んで、練って、実践して作り上げていくっていう、そっちのタイプだと思います。
-- たとえばマニアな人たちに自分たちの音楽を分析されるのは嫌いではない。
あ、それはもう「イエイ!」って感じですよね(笑)。「惜しい!」とかね。「まさしくその通りです!」とかね。大歓迎ですよ。
-- その一方でドラマ主題歌やCMソングを歌っている人たちとしてROCK’A’TRENCHを認識した、好きになった、ROCK’A’TRENCHからレゲエを聴き始めた、みたいな人もいるでしょうし。
どんな人にもまずは『いい曲だな』って思ってもらいたいし、もう一度プレイボタンを押してもらえるような音楽を作りたいし。『いい歌詞だな、いい言葉だな』と思ってもらいたいし。どんなところからでも僕らの音楽に興味をもってもらえるのは嬉しいし、楽しんでくれればいいんですよ。それだけでも、もちろんいいし、そこから興味をもってウィキペディアでボブ・マーリーを調べてもらえるんだったら、それはもう最高ですよね。
-- 山森さんが考えるROCK’A’TRENCHが目指すバンド像に近づいている実感はありますか。
そうですね。僕自身、レゲエに影響は受けてますけど、最初に自分の中に入ってきて、今でもいちばん好きなのはロックだったりするし、ルーツ色もロック色も含めていろんな要素が入っていても『全部ROCK‘A’TRENCHだよね』って言ってもらえるようなバンドですかね。さらにはメッセージも一貫してる、歌に個性もある・・・挙げたらキリないですけど(笑)。
-- 今、言われたことの大きな第一歩になったのが今回のアルバムだと思うんですよ。その上で今回は山森さんにのみお話を聞けるということで伺いますが、以前に比べてメッセージがより具体的になってきたというか、広い範囲だけでなくピンポイントに刺さるものも多くなっていると感じたんですが。
そうですね。アルバムは僕個人だけの投影ではないし、私的なものではないんですけど、メッセージの伝え方、僕の歌詞の書き方に関していえば、より伝わりやすくしたいなという気持ちはすごく強いですね。
-- 『今、自分がこれを歌わなくては』という気持ちに駆られている、という印象もあります。
ああ、それはありますね、確かにね。バンドで曲を書いて、それをメジャーで発表できるということは、なかなか稀有なことだし貴重な経験でもありますし。だからこそ、そこでためらったり、言葉を濁す気にはなれないですよ。せっかくデカイ拡声器を持ってるんだから、言いたいことは言いたいですよね。
-- ああ、素晴らしいですね。詞のモチベーションとなったものはどんなことでしたか。
それはいろいろですね。曲の作り方にもよりますけど、ギターで遊んでる時にテーマが浮かんで、コード進行を考えながらあれこれやっている、そのキュンとした感じから音楽賛歌を歌いたいなと思ったり。そういうモチベーションもあれば、テレビのドキュメンタリー番組やニュースを見るうちに、モヤモヤとした感情が沸いてきて、それが歌になったり。


