戸惑いや悲しみなど、震災以降の素直な感情を綴った「大切な贈り物」という新曲を"ap bank fes"で歌ってから3ヵ月。My Little Loverのニューシングルが到着した。ドラマ主題歌として書き下ろされた表題の「ひこうき雲」をはじめ、カップリングを含む全3曲にakkoが込めたのは「生きていること、生かされているということ」を今一度しっかり感じ取ろうという強い思い。一時期は心のバランスが崩れそうなほどひどく落ち込んでいたという彼女が、「今、悲しみやせつなさは歌いたくないんです」とにっこり微笑む──そこに至るまでの心の変遷とは、いったいどんなものだったのだろう。
-- 今回の「ひこうき雲」は、震災以降はじめてのシングルですが、「何を歌うか」というようなところはいかがでしたか?
私もしばらくは何を歌ったらいいのか本当に迷宮に入りましたし、それまでデモとして書いていた、いわゆる夢とか希望とか愛っていうものが全部ウソに聞こえたりもして、すごく苦しかったんですね。でもそんな中、夏の"ap bank fes"の時に、素直な気持ちを乗せた歌が1曲できたんです。
-- 「大切な贈り物」ですよね。
そうです。それでようやく気持ちが整理整頓できたというか、音楽とちゃんと向き合える状態になれて。なので、今回はドラマの主題歌ということも踏まえつつ、あとはやっぱり、震災後に何を歌っていくかということも意識しながら、夏前よりは冷静な気持ちで作れましたね。
-- 「震災後に何を歌っていくか」というところを、もうちょっと伺ってもいいですか?
やっぱり「命」という部分だと思います。人間のことだけじゃなく、地球上に住んでいるすべての生命をひっくるめて。生きている、生かされているということを、もっと感じなくちゃいけないと思うんですよ。今回のシングルにはカバーも含めて3曲入ってるんですけど、3曲とも命にまつわる作品になってます。
-- そうですね。まず表題曲の「ひこうき雲」は、保険金という、いわゆる生々しい「命」をテーマにした「ラストマネー ~愛の値段~」というドラマの主題歌なわけですが、今回は久しぶりに小林武史さんが詞曲を書き下ろされてますよね。どんなふうに生まれたんですか?
台本は私も読んでいて、保険金をめぐる、すごくドロッとした人間の裏の部分がいっぱい出てくるんですけど、根底には深い愛情があったりするステキな人間ドラマだなと思ったんですね。と同時に、やはり中心になっているのは「人が亡くなる」という命にまつわる深いものだったので、今の私が描きたいテーマと近いとも感じて。それで、(小林さんは)事務所の社長でもあるので、具体的な歌詞の内容も含めて相談に乗ってもらったんです。で、いろいろ話し合っているうちに彼のほうがどんどん思いついて、作ってくれたんですよ。
-- 飛行機雲を入口にした全体のイメージは、小林さんのほうから?
いえ、飛行機雲というキーワードを提案したのは私なんです。飛行機雲って、ちょっとこう、希望に満ちた感じもするけど、必ず消えてなくなるものじゃないですか。そう思った時に、生きていると大変な時も幸せな時もあるけれど、どちらもいつかは必ず消えてなくなるなあ・・・って。そして、なくなってから次にどう立ち上がるか、どう歩いていくかが大事なんじゃないかと思ったんです。
-- こんな状況下だから、なおさら。
そうですね。生き抜くためには・・・って。そんなイメージに、飛行機雲がぴったりと重なる気がして。
-- れは気象予報士さんからの受け売りなんですけど、飛行機雲って秋のものだそうですね。
えーっ、そうなんですか?
-- まわりに寒気があるから、ああいうシューッとした雲が長く残るんだそうです。春や夏だと、ああはならないそうで。その、寒気がある、まわりが冷やっとしている感じも、この曲の「枯れるまで泣いたほうがいい」とか「嘘のない世界はひとつもない」という、凛とした、潔い佇まいに合う気がして。
あ~~~いいこと聞きました。次からのインタビューで使っちゃおう(笑)。
-- あははは。で、そんな潔い詞の世界を、どんな気持ちで歌にしていったんですか?
潔く言い切りながらも、その先にある光を見ようという、希望に満ちた曲だと思うんですね。今回は久しぶりに他人が書いた歌詞ということもあったし、私はとにかく客観的にというか、詞の世界を俯瞰で捉えながら、言葉がきちんと伝わるように語る感じで歌っていったんです。歌うというより、語り部のようなイメージで。
-- PVでの、こぼれんばかりの笑顔が印象的ですよね。
今回は絶対に寂しい顔をしないと決めていて。うちの子供には「ママ、笑い過ぎじゃない?」って言われたんですけど、「そこは狙いなんだよ」と説明しました(笑)。
-- そしてカップリングには、もうひとつの「ひこうき雲」。これは松任谷由実さんのカバーですね。
うちのスタッフのアイディアなんですけど、私も大好きな曲だし、ユーミンのことも大尊敬しているので、嬉しいアイディアだなあと思ってやらせてもらいました。
-- この曲、死を歌ったものと言われていますよね。夭逝した友人のことを歌っていると。
そうですよね。私もユーミンのヴォーカルを聞くと、死に近い歌詞だなと感じるんですよ。聴いていると泣けてくるし。でも、今回カバーさせてもらうにあたっては、絶対に「生」のほうに気持ちを向けて歌いたくて。だからユーミンのオリジナルの歌は一切聴かず、キーもずいぶん上げて、優しさとか力強さとかの「生きる」方向のイメージで歌いました。今回は3曲とも命にまつわるものと言いましたけど、悲しいとかせつないという要素も一切ナシにしたかったんです。楽しげだったり優しい感じだったり、力強さみたいなものがあふれているシングルにしたくて、そういう統一したイメージを持って作っていきましたね。
-- そういう意味では、もう1曲のカップリング「リトル・プリンス」のなかに「切ない気持ちはここに仕舞うから」というフレーズも出てきますね。この曲、「星の王子さま」がモチーフだと思いますが、どんな思いでお書きになったんですか?
震災の後、すごく落ち込んでいる時に、サンテグジュペリの「星の王子さま」を読み返したんですね。そうしたら心に引っ掛かる言葉にあふれていて、自分自身がどんどん癒えていくのを感じたんです。
-- 癒えていく。
そう。星の王子さまって、とにかくピュアで、意地悪そうな者と出会ってもすべてを受け入れていくでしょう? 私もそうありたいと心がけて生きてきたはずなのに、震災以降は自分のなかのバランスが崩れそうになったし、社会と同じように自分もだんだん歪んでいくのを感じたんです。その歪みを星の王子さまが取り除いてくれたというか。ただただ「一緒にいたいんだよ」っていう裏表のない思いだとかが、今こそ一番大切なものだと切実に思うんですよね。星の王子様が今の地球を見たらどう思うだろう?とか、いろいろなことを想像しながら書いたものなんです。
-- そして、歌のシメは「明日への光を見つけるよ」と、あくまで前向きに。
そう。悲しさやせつなさは一切出さないって決めていたから。
-- ちょっと曖昧な質問になっちゃうんですが、震災以降しばらく落ち込んでいたakkoさんが今のように前向きになれたのは、やっぱり「星の王子さま」に癒されたり、"ap bank fes"で歌った「大切な贈り物」で気持ちを昇華できたことが大きいんですか?
そうですね・・・・実は8月に、岩手に歌いに行ってきたんですね。被災したエリアの、野田村というところで、友人がそこにいることもあって歌いに行ったんです。そこで実際に被災した方たちとお会いしたことが、たぶん大きかったと思います。みなさんが一生懸命にがんばられているのを目の当たりにして、被災していない私たちはもっとしっかりしなきゃと思ったんですよね。
-- そのライブには、ミュージシャン仲間と?
というより、My Little Loverとして。ショーとしてちゃんと楽しんでもらおうと思っていたので、ミュージシャンやスタッフにも連絡して。総勢で10人くらいだったかな。向こうでは公民館の一室をお借りできたので、スタッフが飾り付けとかもしてくれて。ステージ、かなり可愛かったですよ。一番前にカーペットを敷いて、子供が座る場所にしたりとか、すごくアットホームな感じ。で、みなさん、こういうふうに楽しむ機会って、なかなかないじゃないですか。だから「何を着ていく?」みたいなところからモチベーションが上がったりもしたらしくて、「すごく楽しかった」と言ってくださいましたね。
-- 大変な現実を忘れられるひとときだったんですね。
だと思います。生きるためには、そういうふうに気持ちが高揚する何かがすごく大事なんだというのを思い知らされましたね。
-- 被災された方が置かれている状況は本当に千差万別で、まだまだ光が見えない人もたくさんいると思うんです。それでもこうやってお話を伺っていると、衣食住以外は二の次だった頃から少し時が進んで、音楽の、ミュージシャンの出番が回ってきたんだなというのを感じますね。
被災地で実際にライブをやって、私には音楽ぐらいしかできることがないということも再確認しました。だから、今できることを一生懸命やろうというのが、私の今の答えです。一生懸命に楽しくやろうと。いい空気を連鎖させるためには、まず自分が笑っていなきゃいけないとも強く思うし。
-- 12月の"acoakko Live"も、テーマはそのあたりですか?
そうですね。今年はみなさん、いろいろな思いを胸にいらっしゃると思うんですけど、いい空気だけを感じてほしいので、せつなさや悲しみは出しません。せつないバラードですら、ものすごく前向きに歌ってやる!と思ってますから(笑)。
<インタビュー・文 / 河野アミ>


