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特集 真心ブラザーズ 真心流 70's~80's 歌謡曲の楽しみ方 ~女性歌手編~

特集 真心ブラザーズ

真心流 70's~80's 歌謡曲の楽しみ方 ~女性歌手編~

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《プレイバック2015》
真心ブラザーズ ライブ・ツアー『PACK TO THE FUTURE』

取材:大畑幸子

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東京・渋谷CLUB QUATTROを皮切りに、全国7ヵ所を廻った真心ブラザーズの【ライブ・ツアー『PACK TO THE FUTURE』】が11月21日(土)大阪・梅田CLUB QUATTROにて無事に終了した。
そんなニュースを耳にして真っ先に思い浮かんだのは、今ツアーの幕開けを飾った渋谷CLUB QUATTROのライブだった。あの日のライブの光景を思い浮かべると、無条件でニンマリと微笑んでしまう。今もなお強烈なインパクトを放ちながら、連撮されたステージの一コマ一コマがスライドショーのように脳裏に映し出されていく。それはまるでお気に入りのおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかな愉しさだったし、そこにはその場にいなければ決して味わえない、ステージと観客の至福の応酬と共感が溢れていた。だからあの夜を思い出せば出すほど、最大限の賛辞しか浮かばないのだ。それだけあの日の格別なライブがいかにオーディエンスにとって楽しかったかということなのだが、それはステージを飾った真心ブラザーズ本人たちもきっと同様で、彼らにとっても気持ちよく爆裂できたのではないだろうか。だからこそ、その後の同ツアーが各地で大盛況を博したというのも頷けるわけで、要するにこの初日がすべての源流となるわけだ。そこで今だからこそ、あえて初日公演を振り返ってみたいと思う。

10月9日、東京・渋谷CLUB QUATTRO。開演15分前に会場に飛び込むと、すでに場内は熱気に包まれていた。その時に心地よく耳に響いてきたのは、会場を席巻するBGM。松本伊代の「センチメンタル・ジャーニー」(81年)、南野陽子の「話しかけたかった」(87年)、ビューティー・ペアの「かけめぐる青春」(76年)、菊池桃子の「もう逢えないかもしれない」(85年)といった懐かしい歌謡曲が次から次へと流れてくる。今回のツアーは、真心ブラザーズが自身初となるカヴァー・アルバム『PACK TO THE FUTURE』を携えてのツアーで、本作で70年代~80年代の女性アイドルのヒット曲をカヴァーしているわけだから、それもそのはずと納得。そんな演出に否応なしにこちらのテンションも上がってくる。
そして今回のカヴァー作では、YO-KINGの切望によって桜井秀俊によるスライド・ギターが多用されている。それをライブでどう再現するのか、個人的にはそれも楽しみのひとつだった。そんなことを考えながら今や遅しと彼らの登場を待っていると、まるでオーディエンスの今の気持ちを代弁するかのように<♪逢いたくて 逢いたくて 逢いたくて あなたに すぐに~>なんていう原田知世の「早春物語」(85年)の歌が流れてくる。そんなふうに心が煽られるその時、ジャストなタイミングで暗転となり、開演時刻ちょうどの19時、ついにメンバーがステージに登場した。

もちろんステージを彩るのは、YO-KINGと桜井秀俊の真心ブラザーズに加え、カヴァー作のレコーディングメンバーでもあったLow Down Roulettes(ベースに岡部晴彦、ドラムに伊藤大地)の4人。オープニング・ナンバーは、真心のオリジナル曲「BABY BABY BABY」だった。この選曲には思わずニヤっとさせられた。というのは、この曲の持つソウルフルなパワーに心を躍らされたのはもちろんだし、ステージにいる4人が実に楽しそうであったというのもあるのだが、私が何より反応したのはこの曲のサビの歌詞だった。
<♪だからBABY BABY BABY 君に会いに行くよ 今すぐBABY BABY BABY 君を抱きしめに行くよ~>。
これって、さっき開演直前にBGMでかかった原田知世の「早春物語」の<♪逢いたくて~>の歌詞と呼応しているじゃないか、と。彼らがそこまで考えたかどうかはわからないし、スタッフのお膳立てかもしれないし、深読みだと言われるかもしれないが、私としてはこの粋な計らいがライブの幕開けに大きな華を添えてくれたように感じたのだった。

彼らからの?熱”を直に感じた観客の熱さに応えるように、1曲目のソウルフルな流れを壊さず、次なる曲はカヴァー作からディスコ・サウンドで甦った「横浜いれぶん」(木之内みどり/76年)。桜井のスライド・ギターは適度な泥臭さがあって光っていたし、楽曲のライブ・アレンジがアルバムよりもさらに強力になっているように感じた。
この重心の低いサウンドから一転して桜井のエッジの効いたギターが炸裂。3曲目は「ゆ・れ・て湘南」(石川秀美/82年)だ。真心2人の80’s感がいい感じで表現されていたわけだが、なんといってもYO-KINGの躍動感ある歌声がサウンドにフィットしていた。そしてマジで笑えて楽しかったのは、<♪My Little Girl~>と歌った時のYO-KINGの右手の小指の決め振り。自分たちが楽しみながら、ノリノリ(表現が古い!?)な雰囲気がストレートに伝わってくる。Low Down Roulettesの2人との親密な信頼関係を伴った息の合った演奏も絶好調だ。

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会場を巻き込んでの興奮度がアップした「ゆ・れ・て湘南」が終わるとこの日、最初のMC。「ありがとう。今日はこんな感じです!」とYO-KING。桜井はYO-KINGの振りに対して、「どうしても武藤(敬司)になる」とプロレス好きのYO-KINGになぞらえてコメントし、会場の笑いを誘う。この最初のMCはまだまだ序の口。これを嚆矢としてそれ以降のMCが爆笑の渦と化していくこととなる。このブロックのMCではほかにLow Down Roulettesの岡部晴彦と伊藤大地を紹介し、さらには次に歌う4曲目の「赤い風船」(浅田美代子/73年)についてYO-KINGは、自分が思う70年代の原風景だというような話を吐露した。YO-KINGはハンドマイクをエレキ・ギター(ES-335)に持ち替え、桜井のラップスチール・ギターも心地よく響きながら、真心らしいロックな香りを忍ばせた「赤い風船」を聴かせた。この歌の世界観とYO-KINGの歌声が絶妙に溶け合っていて印象的だった。

そして彼らのオリジナル曲の「ハロー」を披露後、2回目のMC。「デビュー1~2年の時からカヴァーしていた」という「木綿のハンカチーフ」(太田裕美/75年)を新バージョンと称して演奏。エンディングは本当にドラマチック。YO-KINGのギターソロも楽しめた。そして7曲目は「グッド・バイ・マイ・ラブ」(アン・ルイス/74年)。レゲエのリズムを含ませた、そこに集う音の気持ちよさ。ベースとドラムのタイム感といい、桜井の謳うギターといい、歌詞からにじみ出てくる切なさと相まったYO-KINGの歌声といい、どれをとっても素晴らしい。

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そして本日三度目のMCは、「カヴァー曲ばっかり」とこのツアーの主軸である?カヴァー”についていきなり言及。桜井は高校時代にHR/HM好きだった話を、そしてYO-KINGは、「小学校4年からフォークギターを弾いて、吉田拓郎が好きで聴いてはコピーし、聴いてはコピーしていた」という想い出話を披露。そして吉田拓郎をより知っていく中で、今作でカヴァーした「風になりたい」(川村ゆうこ/76年)と巡り合った話と、この曲を歌ったシンガー・川村ゆうこの説明をして、同曲を歌った。YO-KINGが再びES-335を持って静かに歌い出す。彼の歌声からこの曲へのリスペクトが素直に伝わってくる。その歌声に桜井のスチール・ギターも優しく寄り添い、楽曲に豊潤な色彩をもたらしていた。

「風になりたい」を披露後の4回目のMCで、桜井は自身のスライド・ギターに対して「(弾いている姿が)座っているから地味」と発言。その発言と同様のことを本サイトのインタビューでも話していたけれど、なかなかどうしてその姿には実に職人的な匂いが漂ってて、見ていてグッときたのは確かだ。ここでのYO-KINGは再び?吉田拓郎”というワードを口にした。2001年に吉田拓郎の「流星」をカヴァーし、自分たちでもこの曲のようないい曲を作りたいと挑戦して出来たのが「流れ星」だったという。「タイトルに「れ」が入っただけ(笑)」と次に歌う「流れ星」のことを説明し、オリジナルの世界観を堂々とオーディエンスの胸に焼き付けた。

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この曲のあとにカヴァー作から「風の谷のナウシカ」(安田成美/84年)と「メイン・テーマ」(薬師丸ひろ子/84年)を披露したのだが、確かこの曲たちの前後辺りでYO-KINGがこのライブの中で最も印象的なMCを発したのだった。それは「27年のキャリアで今が一番、歌が上手い!」というもの。このMCで会場内もグッと熱気を帯びる。考えてみれば、細野晴臣が作った「風の谷のナウシカ」の難しさは最たるものだと思うので、それを上手くクリアした自分自身をYO-KINGは褒めたいくらいの気持ちだったのかもしれない(←勝手な憶測ですが)。そしてそのあとYO-KINGはこう続けた。「これもひとえに僕のおかげ。でも俺7割、お客さん3割」。その言葉を受けて桜井は「俺が1ミリも入っていない」とぼやく。この辺りから彼らの軽妙なトークが炸裂していく。

桜井はそんなYO-KINGを「時代の表現者。YO-KINGの歌がここまで来たか」と彼を讃えた。その桜井は桜井で今回のライブについて「疲れます。そう言うと語弊があるけど、好きな曲ばかりだし、曲を作った作家陣たちも尊敬しているので、その人たちに届けと言わんばかりの魂でやっている」と語る。そんな桜井のMCに茶々を入れるYO-KING。それに対して「いつもこうやって邪魔される。弾き語りの時の方がMCがスムーズ。話を振られたから応えると無視する」などと、YO-KINGに苦情(!?)を言いつつも、いつもながらのノリで応酬。YO-KINGは桜井に対して、普段の会話や飲み会などの会話のアウトプット量が溜まりに溜まっているので、その反動で(桜井の)ブログが長いと独自の視点で分析していたところもウケた。

このライブの主軸はカヴァーがひとつのテーマということで、続いて演奏したのは「愛のオーラ」と「サンライズbaby」。「愛のオーラ」はPUFFYに、「サンライズbaby」はSPARKS GO GOに提供した楽曲のセルフ・カヴァーだ。「サンライズbaby」は桜井がポップに弾けながらヴォーカルを取った。桜井は「お気づきでしょうが、僕はこのカヴァー・アルバムで1曲も歌ってません」と言いつつ、次に自らがヴォーカルを取る「春一番」(キャンディーズ/76年)を「(『ザ・ベストテン』の)スポットライト的な曲になぞらえて披露した。疾走感溢れたサウンドに乗って会場を盛り上げる。2番からは歌っている桜井に「秀ちゃん!」と掛け合いを入れる観客や♪もうすぐ春ですね ちょっと気取ってみませんか~ のフレーズに合わせて振りをつけて踊る観客も出現。これには桜井も思わず「嬉しいです!」と感激していた。この時のYO-KINGはコーラスとレスポールを弾いて盛り上げに貢献していた。

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場内のボルテージが一気に上がったところでこの日の最大の見せ場(!?)がやってきた。ここで歌ったのが「黄砂に吹かれて」(工藤静香/89年)。今回のカヴァー作の候補に挙がっていたそうなのだが、YO-KINGが「あまりにも歌えなかった」とかであえなく落選してしまったいわくつきの曲。YO-KINGは「これは無理。だけど、天才だから仕上げてきている」と言って、このステージであえて披露するという勇気あるチャレンジも見せたのだった。「俺の悪口は言わないで」と言いつつ、歌詞カードを見ながらいざ歌ってみたはいいのだが、何と言って表現していいのか…もうそれはそれは物凄いグタグタぶりで抱腹絶倒の面白さだったのである。もちろん会場も爆笑。ミュージシャンの演奏中にあんなにも会場が笑いでざわついていた光景を私は未だかつて見た記憶がない。そんな大バクチに出た当のYO-KINGは演奏後、「サンキュー!ありがとう!」と、してやったり感の余裕ぶり。そんな彼に何だか不思議な爽快感を感じたのだった。それは等身大の今の自分をさらし出してしまう大らかな開放感と遊び心とシャレを彼から感じたからかもしれない。桜井は「思った以上のざわめき」と一言。そして「黄砂に巻き込まれた」とも(笑)。こんなご愛嬌もライブならでは。

自分でも「強烈だった」と言いつつも、そんなことはお構いなしに「これはちゃんと歌うぞー!」とYO-KING。16曲目はブラック・ミュージックテイスト100%のポップな「ENDLESS SUMMER NUDE」。この曲もセルフ・カヴァー曲で、山下智久が「SUMMER NUDE’13」と題してカヴァーしている。この曲きっかけで怒濤の後半へなだれこんでいく。物凄い求心力で観客をグイグイと自分たちの世界へと引き込んでいき、「どかーん」でポジティブに爆裂。そして本編ラストを飾った「紺色」で会場内を最高の高揚感で埋め尽くした。
アンコールは2曲。ステージに再び登場した桜井がニット帽とTシャツを着こんで、ツアーグッズのプロモーション。そして1曲目は、大瀧詠一へのオマージュとさらに奥深くフィル・スペクターへのリスペクトが惜しみなく注がれている「風立ちぬ」(松田聖子/81年)。正確無比でいながらもグルーヴィーな岡部のベースと伊藤のドラムに桜井のギターの絡んだ3リズムのロック感が心地よい。

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歌い終わるとYO-KINGが「今回、真心のツアーは二本立てをもくろんでいる」と話し、5thアルバム『KING OF ROCK』リリース20周年を記念してアルバムの曲順通りに再現する【ライブ・ツアー『MORE KING OF ROCK 20th』】を同時期に行なうことを告知した(尚このツアーは12月12日沖縄・桜坂セントラルまで続いた)。桜井はこの日のライブを振り返って「楽しくやれた。末永くよろしく!」と締めくくった。
続いて歌ったポップなドライブ感に貫かれた真心のオリジナル・ナンバー「空にまいあがれ」が本日のラスト・ナンバー。この曲の<♪君に会えてよかったよ 僕らお互いすごいのさ 僕は僕を続けるよ 明日からも~>のフレーズは、まさにこの夜に集まったオーディエンスに対する彼らからの温かいメッセージのような気がした。
「ありがとう」――彼らがこの一言を残し、この夜のライブは終了した。

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以上が【ライブ・ツアー『PACK TO THE FUTURE』】の初日のステージ上における真心ブラザーズだ。どこを取っても楽しく、どこを取っても面白い発見に繋がっていく。真心から放たれる溢れんばかりのポジティヴィティが理屈抜きで音楽を楽しませるパワーなんだと改めて思う。だが、ここで終わらないのが彼らの素晴らしいところ。なんとこの日一番の強烈だったあのシーンを思い出させるかのように、客出しのBGMが工藤静香の「黄砂に吹かれて」だったのだ。この申し合わせたような粋でシャレの効いた取り計らいに、フロアにいたオーディエンスも大受け。笑いながら、手拍子を取りながらの大合唱。こういう遊び心がスタッフまで徹底しているのは本当に素晴らしい。ライブ時間、約2時間。まさに音楽の黄砂に吹かれまくりながらの大円団の中、初日の夜が幕を閉じた。
これだから心あるミュージシャンのライブはホントに楽しい。(大畑幸子)

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