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堀込泰行 1st Album『One』Special Interview

堀込泰行

1st Album『One』Special Interview

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堀込泰行が初のオリジナル・ソロ・アルバム『One』をリリースした。キリンジ時代には馬の骨としてソロ活動をし、キリンジ脱退後は堀込泰行として2014年秋にファースト・シングル「ブランニューソング」を発表。その後、ライブやイベントで新曲を披露してきた彼だが、今年4月のカヴァー・アルバム『Choice by 堀込泰行』を経て、ようやく大きな作品を完結させた。「いまやりたい音楽を作った」という今作は、彼特有のメロウ感と彼好みのバンド・アンサンブルを聴かせつつ、言葉、サウンドの面において新しい試みにもチャレンジしたバラエティーに富む内容。重い腰を上げ、いよいよ本格的に始動した屈指のメロディーメイカーでありサウンドクリエイターの“今”を訊いてみた。



新しい気分を形にしたかった

──キリンジ脱退から3年あまり。あのあと早々からソロ・ライブを始めて、新曲を演奏していたにもかかわらず、アルバムのリリースまでは時間がかかりましたね?

新しくソロでやっていくにあたって、どんな感じで音楽をやっていくか、ということに答えが出ないという状態が続いていました。新曲の頭数だけはあったんですけどね。

──その方向性とは?

単純に言うと、もっと歌手っぽい要素も入れたらいいんじゃないかということですね。新しく再デビューするわけだから、イメチェンまでは行かなくとも、そういう方向性もありかなと思ったりしたんですけど、頭ではわかっていてもなかなかイメージができなくて。

──極端に言えば、ハンドマイクで歌うヴォーカリストみたいな?

冗談でそういうことを言う人もいました。確かにそういう意見が出るのもわかるんですけど、でも僕はサウンド作りまで関わって自分の表現が完成するタイプだと思っているので、曲だけ書いてアレンジは人任せにするようなシンガー・ソングライターになるのは難しいなと。そういう部分への悩みがあって、リリースに向かってすぐに動いていく感じではなかったんです。とはいえ、イベントにちょこちょこ出たり、そのたびに新曲を1曲こさえて披露したり、人に曲を提供したり、CMの曲を書いたり、ゲスト・ヴォーカルで参加したり、いろいろやっていたんですが、僕はツイッターとかやっていないし、そういう発信源がないから、ファンの人からしたら、あまり動いていない印象が強かったんじゃないかなと。

──何度も打ち合わせをして、いろいろ仕事をしていたにもかかわらず、ご自身ではこの3年間を(アルバム資料のなかで)“自堕落的な生活”だったと仰っていますが(笑)。

実際に自堕落でした(苦笑)。毎日夕方になったらひとりで飲みに行くという生活の繰り返しでしたから。

──高田渡的な……(笑)。

そう言われても仕方がないくらい時期がありました。よく体を壊さなかったなと……。でも、音楽は毎日聴いていたので、音楽自体が嫌いになったわけではなかったんですけど。

カヴァー・アルバム
『Choice by 堀込泰行』
(Billboard Records)

──そういう意味で4月に出したカヴァー・アルバムは、今回のソロ・アルバムへのリハビリというか、助走みたいな感じでしたか。

レコーディングの勘を取り戻す、いいきっかけにはなりましたし、自分はサウンドで遊ぶことが好きなんだという気持ちの確認ができました。有名な曲は、結構めちゃくちゃなことをやってもその曲になって、それは楽しい経験でしたね。

──そのカヴァー・アルバムが今作を作るうえで活かされたことはありますか。

カヴァー・アルバムはキーボードの伊藤隆博さんと2人で作ったんですが、かなり偏ったアレンジでやったんです。オルガンとギターとリズムボックスを基本に、ベースはオルガンの足ベースでやってもらって、というような。そこで伊藤さんと一緒にものを作ることを経験したから、今回のアルバムを作るときに弦や管のアレンジを伊藤さんにお願いしようと思ったんです。そういう発想が生まれたというのはありますね。

──今回のアルバムの歌詞は“ニュー”や“旅に出よう”といった、ポジティブな感情が伝わってくる言葉が印象的です。新たにソロ活動を始める意気込みが表れている気がするのですが。

1枚目のアルバムだったから、新しい気分を形にしたかったということで、そういう言葉を多く“使ってしまった”という感じですかね。自分でコントロールしたというよりは、素直に作ったので、ボキャブラリー的にかぶってしまう表現が多くなった。

──全体的にポップで明るい曲調が多い気がします。

出てくるものがわりと明るいものが多かったですね。それはどういうわけかわからないんですけど。



みんなが聴いて楽しい音楽にしたい

──そういえば、名義を本名にしたのはどういう理由からですか。

キリンジと馬の骨は自分の中でセットになっていたものなんです。キリンジは将来有望な子どもや青年という意味があって、馬の骨は取るに足らないものという意味がありました。どこの馬の骨という言い方もありますけど。そのふたつは対になっているものとして考えていたんです。だからキリンジを辞めたあと、馬の骨を名乗る必要もとくにないだろうと思って。あとは気分を変えると言う意味で本名にしました。

──本名にする覚悟とか勇気はいりましたか。

それは特になかったですね。いまはポップな歌ものをやっていますけど、今後実験的なものをやるときはまた馬の骨の名義を復活させてもいいのかなと思っていますし。

──たとえば、世にある“バンドを脱退したアーティストのソロ第1弾アルバム”みたいなものは意識しましたか? 今回のアルバムに「Wah Wah Wah」という曲がありますので、そのつながりで言えば、ビートルズを辞めたジョージ・ハリスンの『All Things Must Pass』とかいろいろありますが。

そこは意識していないですね。意識していたらもっとバンド感の薄い音楽になっていた気がするんです。今回は、いまやりたい音楽を自然に作ってしまったという感じなんですね。馬の骨でやっていた等身大の音楽も好きなんですが、管楽器を入れたり、弦の音を増やして、作品に広がりを持たせたいというのはありました。それも、みんなが聴いて楽しい音楽にしたいという気持ちからで。

──このアルバムは曲順によってアルバムの印象がずいぶん違って聞こえる作品だと思うのですが。

曲順は直前に決まりました。作り終えてみて、曲順が決めにくいアルバムだなって心配していたんですが、スタッフのアイデアが元になっているこの曲順で聴かせてもらったら、意外にもいい感じだったので、これはいいなと。

──その1曲目は、ポジティブな気持ちがポップなメロディーとアレンジで表現された「New Day」です。歌詞の意味とサウンド的なことで言うと、どちらの理由で1曲目に置かれたのでしょうか。

サウンドで驚かせるという意味でのインパクトを狙ったんだと思います。こういうシティーポップというかAORな感じのサウンドはしばらくやっていなかったので、新鮮ではありますよね。

──ファンとして、驚きと安心の両方がある曲ですよね。

今回のアルバムに収録されている曲は、ライブやイベントでやっていた曲が多かったので、アルバムのレコーディングに入るにあたって、自分にとっての新曲を増やしたいと言う気持ちがあって、この曲はレコーディングのぎりぎりに書いたんです。

──AORな雰囲気がたまりません。

AORっぽい曲を作りたいと思ってもすぐに作れるものでもなく、そこは難しいところなんですけど、今回はAORっぽい曲が欲しいと思っていてたところに偶然できたんです。収録することができてホントによかったです。

──初期キリンジを思い出すところもありますよね。

この曲はギターで作ったので、最初はギター1本の素朴なデモでした。完成したアレンジではギターの音は全然入っていないんですが。

──2曲目「Shiny」は、1曲目のAORな感じから一転、70年代シンガー・ソングライターの名曲的な雰囲気がありますね。

最初はイントロの部分がギターだったんですけど、友人の矢野博康くんが「ピアノにしたらいいんじゃない?」と言ってくれたので、僕が弾いたギターのフレーズをそのまま伊藤さんがピアノで弾いてくれたんです。

──美しいイントロは、ニッキー・ホプキンスか原田真二かという感じで、もし、これが1曲目だったら70年代初頭のシンガー・ソングライターの名盤然とした印象を与えたと思います。

ニッキー・ホプキンスは少し意識しましたね。

──収録曲数、トータル分数もアナログ時代のアルバムのようで、聴くにちょうどいいですよね。

今までは曲を詰め込み過ぎて、完成度が低くなってしまうと言うのが僕のソロの課題だったんです。あきらめが利かないといいますか……。曲数を欲張らず、アルバム全体の完成度を考えたほうがいいんだなというのは、今までの経験で感じていたことなので、10曲くらいのボリュームがちょうどいいんでしょうね。

──『One』というタイトルはどういう理由でつけられたのでしょうか。

最初は『First』というタイトルを考えていたんですけど、いまひとつインパクトに欠けていると思って。キリンジを辞めて“ひとり”になったし、1枚目ということで『One』が良いんじゃないかなと、わりと単純な理由ですね。あとは『One』には“物”とか“人”という意味もあるから、良いのかなと。

──1枚目にしかつけられないタイトルですもんね。そういえば、新生KIRINJIの最初のアルバムは『11』でしたね。

それは偶然です(笑)。

──そこはファンの人が想像を膨らませそうですね。今挙げた曲はAORだったり、シンガー・ソングライター的な作風ですが、ほかはバンド・サウンドが特徴的ですよね。エルヴィス・コステロとアトラクションズみたいなことができればいいなと思っていたそうですが。

といってもベスト・アルバムくらいしか持っていないんですけど、アトラクションズの、いい具合に無駄のないソリッドなサウンドがカッコイイなと思っていて、ちょっと参考にしてはみたんですけど、やはり、エルヴィス・コステロとは全然声質が違うのでそうはならなかったですけどね。それはそれでいいやと思って。エルヴィス・コステロは、バンドマンでもあるし、シンガーに徹したアルバムも出しているし、そういう感じはいいなと思ったんです。

──そう言われると、コステロはアトラクションズのとき、ソロのとき、ほかとのコラボのときで全然音楽性が違いますよね。コステロを意識したと言ってもそのままではないし、38スペシャルやジャーニーなどの80年代商業ロックを参考にしたという「さよならテディベア」も、言われないとわからないですよね。ああいう音楽も泰行さんを通るとこういう上品な音になるということがわかります。

「さよならテディベア」は曲調自体がいい感じのダサさをもっているから、サウンドは少し控えめにした方がカッコいいと思ったんです。ミックスやマスタリングの加減で商業的なアメリカン・ロックの音にならないように気を付けました。以前から、独特の緩さみたいなところに影響を受けていたNRBQやイギリスのパブロックのバンドとかぐらいの落ち着き方や地味さ、逆に言えば派手さにしたほうがカッコよくなる気がしたんです。

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