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特集 上原ひろみ Akiko Yano × Hiromi 『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』

特集 上原ひろみ

Akiko Yano × Hiromi
『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』

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日本を代表するジャズ・ピアニスト、上原ひろみが、敬愛する先輩、矢野顕子と初めて出会ったのは2004年のこと。意気投合した二人は公私にわたる交流を重ね、2011年に共演ライヴ盤『Get Together -LIVE IN TOKYO-』を発表して話題を呼んだ。それから5年後の2016年9月15日。矢野のデビュー40周年の一環として、東京・Bunkamuraオーチャードホールで行われた共演コンサートが行われた。二人のオリジナル曲に加えて、童謡、ジャズ、R&Bなど、ジャンルを越えて縦横無尽に演奏した白熱のセッションは会場をおおいに湧かせたが、その模様を収録したライヴ・アルバム『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』がリリースされる。ピアノとラーメンをこよなく愛する女たちは、いかにしてこの素晴らしい演奏を成し遂げたか。上原ひろみに話を訊いた。

7回のチャイム、わかってくれました?

ーー今回のライヴのレパートリーは、矢野さんとどんな風に決めていったんですか。

矢野さんの曲に関しては、〈私、矢野さんのこの曲やりたい〉とか〈矢野さんがこの曲を歌うのを聴きたい〉とか、そういう感じで私の希望を伝えました。

ーーアレンジは前作に続いて上原さんが担当されていますね。

このプロジェクトに関しては、基本そういうスタイルになっているんです。そのやり方が二人ともしっくりきていて。2台のピアノが活きるように、2台のピアノがオーケストラみたいに広がりを持つように編曲しました。

ーーライヴのオープニングは、矢野さんの「東京は夜の7時」ですが、これは上原さんのお気に入りの曲だったんですか。

大好きな曲なんです。歌詞もすごく良くて、<行ったことのない場所 会ったことのない人たち 手を伸ばしてごらん ほら、届いた>っていう歌詞とか、自分がツアー生活を送るようになって、これまで以上に響くようになったんです。

ーーツアーでいろんな街をまわりますもんね。

いろんな都市でライヴをする度に<行ったことのない場所 会ったことのない人たち 手を伸ばしてごらん ほら、届いた>ていう感覚があって、この曲に出て来る街へ行ける度にすごく嬉しかったんです。まだ行ってないのは、アンカレッジとカイロだけ(笑)。あと、今回、曲をやるにあたって曲のことを調べたら、発表されたのが1979年で、私と同い年だったんです。それにも運命を感じてしまって。

ーーライヴのオープニングにぴったりですね。場所は東京、開演は夜の7時。曲のイントロで、時を打つ鐘のように鍵盤が7回鳴り響く。

7回のチャイム、わかってくれました? <いま7時だよ>って言いたくてやったんですけど、まわりでそのことを言ってくれる人がいなくて、しょんぼりしてたんですよ、<伝わりづらかったかなあ>って。

ーー洒落た演出だと思いました。

良かった! そう言って頂いてアレンジャーとして報われました(笑)。コンサートが幕を開けるワクワク感を感じて欲しかったんです。

ーーワクワクしました(笑)。続く「おちゃらかプリンツ」と童謡とジャズを繋げた曲ですが、こういう曲は、どんな風に発想していくんですか。

前作では「あんたがたどこさ」と「アフロ・ブルー」を掛け合わせた「あんたがたアフロ」という曲をやっているんですけど、マイナーキーとわらべ歌って、モード進行のジャズスタンダードと合うんですよね。それで(ウェイン・ショーターの)「フットプリンツ」とわらべ歌を掛け合わせたら面白いんじゃないかと思って、いろいろ探してみたら「おちゃらかほい」が合ってるんじゃないかと。<せっせっせーの、よいよいよい>というところがいいリフになってると思ったんです。それでやってみたら、しっくりきて。

ーーライヴでは即興でやったそうですね。

「あんたがたアフロ」もそうだったんですけど。どう始まるかも決まってないんです。決まっているのは、<せっせっせーの、よいよいよい>で終わるっていうことだけで、気分が乗ったところで「フットプリンツ」に行くことになっていたんです。矢野さんが「おちゃらかほい」を何回言うかもわからないし、なかなか<買ったよ>って言わない時もあるんですよ(笑)。

ーーほんとに歌遊びをしているみたいですね(笑)。上原さんは子供の頃、〈おちゃらかほい〉やってました?

やってたと思います。確か最後にじゃんけんするんですよね。〈はないちもんめ〉もやったなあ。男性はあまりしませんでした?

ーー男子はあまりしませんでしたね。だから、わらべ歌とジャズが繋がるのが、子供の頃に歌遊びをしていた女性らしいところかも、と思ったんです。「真赤なサンシャイン」は美空ひばりさんの「真赤な太陽」とビル・ウィザース「エイント・ノー・サンシャイン」の〈太陽繋がり〉ですね。

もともと「真赤な太陽」を6拍子でアレンジしてたんですけど。ある時、「エイント・ノー・サンシャイン」を聴いていて<I Know, I Know>というところが3拍子みたいに聴こえて、<あ、これは8分の6(拍子)になるな>と思ったんです。しかも、<“サンシャイン”だ!>みたいな(笑)。それで、一休さんのとんちみたいな、<ポクポク、チーン!>みたいな感じで思いついたんです(笑)。

ーー〈ひらめいた!〉と(笑)。そんな風に、思いもよらない曲が繋がっていくのは音楽の醍醐味ですね。

そうですね。両方、恋の歌というか、惚れたはれたの曲で。

ーーそれだけにくっつけたかった?

はい(笑)。

ーー後半で演奏される「ホームタウン・ブギウギ」は、東京とNYという二人の拠点をくっつけた曲ですね。

これは、最初に矢野さんが歌う「東京ブギウギ」を聴きたいなっていうのが自分のなかにあって、それで提案したんです。そしたら<メドレーみたいにしようか?>っていう話になって、矢野さんから<“ニューヨーク、ニューヨーク”どうかな?>ってアイデアが出てきたのでやってみたんです。

ーー確かに〈東京ブギウギ〉は矢野さんに合いそうですね。「真赤なサンシャイン」に続く「飛ばしていくよ」は、上原さんの超絶技巧の演奏に吹っ飛ばされそうになりました。

これはかなり矢野さんの原曲のヴァージョンに忠実に作ったんですけど、原曲がテクノのトラックみたいな曲なんです。かなりアルペジエイター(アルペジオを自動的に作って演奏するシンセサイザーの機能)を使っていて、それを人力で演奏してみようと思ったんです。

ーーテクノのビートを人力ドラムでやったりすることがありますが、アルペジエイターに生ピアノで対抗するっていう無謀な試みはあまりないのでは。

アルペジエイターに、機械に負けないぞ!と思って頑張りました。

ーー演奏が終わった後、観客がどよめいてましたね。

<人間、勝利!>みたいな(笑)。

ーー「ドリーマー」「こいのうた」は上原さんの作曲ですが、「ドリーマー」は上原さんのインスト曲に矢野さんが歌詞をつけて歌っています。これはどういった経緯で?

二人で話をしていた時に、<ひろみちゃんが発表した曲に、私が歌詞を付けて歌ってみたい>って矢野さんが言ってくださって。<じゃあ、好きな曲を選んで教えて>って言ってたら、「ドリーマー」だったんです。

ーー矢野さんが書いた歌詞を見てどんな印象を持ちました?

自分が「ドリーマー」を書いた時の心象風景と近いものが書かれていた嬉しかったですね。私は曲については何も言ってなかったのに、曲を通じて伝わったんだって。

ーーリスペクトしているミュージシャンだけになおさら嬉しいですね。「こいのうた」は作詞も上原さんが手掛けています。

これはもともとインストで書いていた曲なんです。基本、曲は全部インストで書くんですけど、歌詞が付く、付かないに関わらず、言葉でイメージワードみたいなものをかなり書いてるんですね。それで、時々どんどん言葉が溢れて、歌詞までたどり着く曲があって。この曲は歌詞ができたので、<こういう曲があるんだけど>ってい矢野さんに言ったら、<じゃあ、やろう>ってことになったんです。

ーーライヴでは矢野さんはピアノを弾かずに、ステージのセンターに立って歌われたそうですね。それは上原さんのアレンジだったんですか。

はい。この曲で聴こえるピアノは一台でいいかなって思ったんです。

ーー矢野さんの歌声にしみじみ聴き入ってしまいますよね。上原さんにとって、矢野さんの歌声の魅力はどんなところでしょう。

自由自在なところですね。とても柔軟性があって、瞬発力があり、即興性があって、遊び心溢れている。

ーーそれって、矢野さんのピアノの演奏と同じですね。

(矢野さんの歌は)ピアノの延長線上にあると思います。

ーーでは、ピアニストとして矢野さんと上原さんを比べた時、共通するところ、あるいは正反対のところってありますか。

ピアノのスタイルっていうのは全然違うと思うんですけど、音楽に求めているものは通じ合うものがあると思いますね。

ーーそれはどんなところ?

予定調和ではなく、その日にしか生まれないものを求めたいという気持ちが、すごく共感できるんです。そこが一緒なので。やっていて化学反応があるんじゃないかと思いますね。

ーーその化学反応が共演する喜びなんですね。

そうですね。毎回どこに連れて行かれるのか、お互いわからなくて。でも、二人で<行く!>って決めた方向に対しては、どちら迷いがない。サプライズに対してウェルカムな気持ちというのが、やっていていちばん楽しいところです。

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