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上原ひろみ Special Interview

簡単には諦めない。
ひたすら前へ、前へ──

上原ひろみ

Special Interview

簡単には諦めない。
ひたすら前へ、前へ──

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上原ひろみの新作『ALIVE』がリリースされた。アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップスとのトリオ・プロジェクトによる3作目であり、昨年から今年への年末年始の東京公演で初披露された新曲&プレイにさらに磨きをかけ、収録された作品であることは、すでに様々なアナウンスによってご存じの人も多いと思う。その聴き応えは文字どおり、トリオ作品3枚のなかで最高、最上。共演を重ねるごとに増してきた3人の一体感がこれまで以上のライブ感を生み出し、圧倒的な熱量を伴って私たちの心を、いや、心のみならず身体をも震わせる。本文中にも書いたが、9分を超えるタイトル曲を初めて聴いた時、そのあまりの熱量やアグレッシブさに筆者は「これが上原ひろみの“ALIVE=生きる”なのか!」と声をあげそうになったほどだった。今回のインタビューでは彼女にとっての“生きる”に迫ることで、新作により近づくことを試みた。すでにアルバムを聴いた人も、これからの人も、ぜひご一読ください。
 
ーー新作のお話の前に、公式サイトに3月25日付けで書いてらしたシアトル空港での出来事について、ちょこっと聞かせてください。その日の夜にあるメキシコでの公演に向かわなくてはならないのに、航空会社がアンソニーのベースを頑として機内に持ち込ませてくれず、時間は刻々と過ぎていく・・・と、かなりスリリングな状況だったようですが、ああいうことは結構あるんですか?
 
あのレベルの大きなトラブルは年に1回くらいです。忘れた頃にやってきますね(苦笑)。
 
ーー過ぎたこととは知りつつも、ドキドキしながら読みました。どうなるの!?と。
 
あまりにひどい目に遭ったので、記憶に留めておこうと思って書いたんです。のどもと過ぎれば忘れちゃうので(笑)。
 
ーーあの文章はフェイスブックやツイッターでたくさんシェアされていたんですが、みんなトラブルの大きさに驚いたというよりは、ひろみさんの体当たり感みたいなところに心を動かされていたように思うんです。ライブではもちろん、ライブ以外の場面でも、ひろみさんから伝わってくるものは非常にフィジカルというか。
 
自分ではそういう自覚はないんですよね。
 
ーー「アスリートっぽい」と言われることもありますよね。アスリートへの親近感はありますか?
 
アスリートの本を読むと、同じようなことを考えている人が多いなぁと思うことはあります。たとえば自分自身の職業に対する気持ちだったり、いろいろなことへの向き合い方が似てるなと。ひとつのことをずっと続けるとか、練習でも試合でも決して諦めないとか。
 
ーーたしかに。さらに、ひろみさんはインタビューでよく「突破する」というような身体感覚の伴う言葉を使うことが多いですよね。これも「アスリートっぽい」と言われる理由のひとつかなと思うんです。先日はテレビ番組で、ピアノの練習によって指の筋肉が発達して・・・というお話もしてましたよね。
 
結局、メディアから伝わるイメージというのも大きいと思うんです。筋肉はピアニストなら誰でもあるし、楽器を弾いているミュージシャンで筋肉のない人はいないと思うので、その話を訊かれたことがあるかで大きく違ってきますよね。「筋肉を見せてください」ってなかなか言われないですし(笑)。あと私の場合はデビューの時に「座右の銘はなんですか?」と訊かれて「努力、根性、気合いです」と言ったのが「巨人の星」みたいなイメージで受け取られ、それが現在に至るというのもあると思います。
 
ーーサッカーや柔道などのスポーツ用語もよく飛び出しますね。
 
“パス回し”とかですよね。
 
ーーです。「一本決める」とか。
 
「即興演奏というのはどういうものですか?」と訊かれるんですね。たしかに、やったことがないとわかりにくい。「毎日違う演奏をして、毎日いろんな自分に出会いたい」とか「毎日新しい冒険がしたい」みたいな、すごくアーティスティックな言い方もありますけど、やっぱり「もう少しわかりやすく説明してもらえますか」となる。それで、うちの両親のように音楽をやったことのない人や、おじいちゃんおばあちゃん世代にもわかってもらうにはどう言えばいいだろう?と考えた時に、たとえば「毎日みんなでゴールを決めたい」とか「どのタイミングで絶妙なスルーパスをするか」みたいな話をすると、やっぱりわかりやすいんですよね。私がスポーツ観戦が好きというのもあるんですけど、スポーツはオリンピックという国民的なイベントもあるし、生放送でよく目にするものだし、共通言語的な部分が大きいと思うんですね。それでスポーツに譬えているところはあります。あとは料理だとか。
 
ーー料理も、もの作りでありライブでもあり。
 
そうです。だからだいたい「アスリートで食いしん坊」というイメージになってしまいます。食いしん坊は間違いないんですけど(笑)。どういうことであれ、それが私の音楽を聴いてくださったりライブに来てくださるきっかけになるのであればいいと思ってます。

ーーわかりました。アスリートっぽさ、みたいなことは以前からうかがってみたかったんですが、先ほどお伝えしたフィジカル感・・・音楽的に言うと“ライブ感”にも似た身体的なものを新作からこれまで以上に感じたのもあって、ちょっと長めにお訊きしました。ではそろそろ本日の本題、新作『ALIVE』のお話に移りましょう。1曲目のタイトル曲を初めて聴いたのは3月5日の試聴コンベンションの時だったんですが、息をもつかせぬ展開や曲に込められた熱量に圧倒されたんです。これがひろみさんの“生きる”なのか!と。アルバムのタイトル『ALIVE』には“生きる”と“a live=ひとつのライブ”というふたつの意味が込められているそうですが、“生きる”というテーマが湧いてきた背景はどういうものだったんですか?
 
曲を書いている中で、人生にまつわる感情というか、いろんな情景が浮かんできたんですね。そういう生きていくなかで出会う、ぶちあたる感情みたいなものをテーマにした曲が一つひとつできていったので、それを一つのコンセプトとして作りました。
 
ーー生きるというテーマは年齢に関係なく持ちうるものだと思うんですが、それをコンセプトに作品をとなると、10~20代でというよりはもっと年齢を重ねて、様々な経験や感情が蓄積されてきてからかなという気がするんです。今、ひろみさんの中でこういう作品が生まれた理由みたいなものを、言葉にすることはできますか?
 
そうですね・・・私はこれを34歳で作ったことになるんですが、34年間の人生で自分が積み重ねてきたものが自然発生した、ということだと思います。なにがいつ出てくるかのタイミングは人によっても違うと思うので、私のタイミングはここだった、ということですね。
 
ーーでは個々の曲についても訊かせてください。1曲目が「ALIVE」。これは当初7拍子だったのをサイモンが「もっと難しくしよう」と1拍抜いて、16分の27七拍子になったそうですね。やはり難しいですか?
 
慣れるまではすごく難しかったですね。私にとっては初めての拍子なので、自分の中でそれを理解して吸収して、ちゃんとグルーヴするようになるまでは時間がかかりました。今はもちろん、とても気持ちいいですよ。
 
ーー2曲目の「WANDERER」は、日本語だと“さまよう”や“冒険者”など、いくつかのイメージが浮かびます。ひろみさんはどんなイメージを?
 
人間が戸惑ったり右往左往したりしながらも進んでいく、漂いながら人生は進んでいくという。
 
ーー冒険というよりは・・・。
 
迷い、ですね。
 
ーーロマンチックというとヘンですが、どこか甘い痛みのようなものを感じながら聴いてたんです。
 
ああ・・・もしかしたら「どっちに行ったらいいのかわからない」という切ない気持ちを、そう感じ取られたのかもしれないですね。
 
ーー3曲目は「DREAMER」。夢見る人。夢といっても、ふわふわとしたものではないような。
 
夢というのは叶わない可能性もある、夢で終わることもある。そういう意味合いはあります。
 
ーーひろみさんにとっての夢というのは、現実的なものですか?
 
いえ、現実的なことは“目標”なので、もっと抽象的なものが夢だと思ってます。

ーー今の夢は?
 
うーん、「夢はあります」としか言えないです(笑)。基本的には、目標というものをどう叶えていくかをずっと考えて生きていて、キャリアでのことは、私にとってはすべて夢ではなく目標なんです。職業的なことでいうと、子どもの頃からずーっとピアニストになりたかったので、これも夢ではなく目標でした。夢というのはもっとぼんやりしたものですね。
 
ーー音楽家としてどうこうではなく、たとえば「こういう私でありたい」とか?
 
そうですね。そういうものだと思います。
 
ーーそして4曲目、まだ見ぬ自分に出会うために模索を続ける「SEEKER」があって、5曲目の「PLAYER」でガラッと雰囲気が変わります。PLAYは“遊ぶ”でもあり“演奏する”でもありますね。
 
演奏でとことん遊ぶには、よく学びよく遊べなので。とことんプレイするには結構な下準備が必要なんです。
 
ーー本気で遊ぶには。
 
そう、本気で遊ぶには。そういう意味も込めての”PLAYER”です。
 
ーーひろみさんにとっては学びも遊びも一体なんですね。いわゆる“オンとオフ”の“オフ=遊び”というイメージではなさそう。
 
もちろんそういうイメージで受け取ってもらってもいいんですよ。基本的に、「こういうふうに聴くべき」というのはないというか。「自分は平日はすごく働いていて、週末こそが『PLAYER』なんだ!」と捉えてくれてまったく構わないし、インストの素晴らしさってそこだと思うんですよ。タイトルと音からいろいろなことを連想しながら自分の人生と重ね合わせる・・・受け取る側にすごく自由があると思うんですね。もちろん私の場合、“PLAY”という言葉やイメージには演奏という意味も含まれますけど、聴いてくださる人には、どういうふうに受け取っていただいても構わないんです。
 
ーー実のところ私も時々、野暮な質問をしているなと思わないでもないんです。ただ同時に、作者の意図や思いを知ることで曲に対するイメージが広がることもあるなぁと感じていて。というのも以前『プレイス・トゥ・ビー』のインタビューをさせていただいた際、ひろみさんから1曲1曲に投影されているイメージをうかがったことで、曲がより生き生きと感じられるようになったんです。世界が広がったというか、「そういう心象風景だからここでこんなふうに展開するのか!」と納得感が強まったりもして。なので、野暮と思いながらもつい楽曲解説をお願いしてしまうという・・・。
 
いえいえ、いろいろな聴き方がありますよね。だから間違いというのはないし、全部が正解ですという、それだけお伝えしたくて。
 
ーーはい、もうそこはもう本当にそう思います。ということでコマを進めて6曲目の「WARRIOR」ですが、この“戦い”には、内面的な戦いの色を強く感じました。
 
そうですね。自分との戦いです。というより、私は自分以外とは誰とも戦っていないので。
 

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