カジヒデキ 元祖渋谷系アーティスト、カジ君が語る本当の自分、そして渋谷系音楽「「甘い恋人」は根岸君になりきって書きました」

■インタビュー:竹部吉晃 ■制作:Astrograph

カジ ヒデキ's PLAYLIST 「僕の中の根岸くんとクラウザーさん」

映画「デトロイト・メタル・シティ」のテーマ曲の1つ、根岸宗一君の「甘い恋人」や「ラズベリー・キッス」、そしてテトラポット・メロン・ティーの「サリー・マイ・ラブ」など数曲を書かせて頂きました。そして出演まで!と言う事で、映画公開を祝して、僕の中のポップ・サイド=ネオ・アコースティックと、ダーク・サイド=ゴシックな曲をセレクトしました。両方とも僕のルーツであり、今聴いてもとてもフレッシュに響くものばかりだと思うので、この機会に「明も暗も」両方好きになってみませんか?
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 「DMC」の原作はもちろん、映画にも出てくる根岸君の後輩、佐治秀紀の名前のモチーフになったのがカジヒデキ。90年代渋谷系を牽引したヒットメイカーであり、現在も自身の活動はもちろん、CM音楽や他人のプロデュースなど多岐にわたる活躍を続けている。そんなカジ君が今回、「DMC」のストーリー上、とても重要なナンバー、根岸君が歌う「甘い恋人」の作曲を担当。セルフカバーをするように作ったという制作話はもちろん、根岸君に共感する、自らの二面性についても語ってもらった。これを読めば、映画「DMC」が数倍楽しく見られるはず。

根岸君の二面性に共感し、原作を何度も読み返し、根岸君に成りきって「甘い恋人」を作りました。

--映画ご覧になって、どんな感想をもたれましたか。

 原作の中の過激な描写や放送禁止用語などは「DMC」の面白さの大きな部分を占めているので(笑)、映画でどのくらいそれが出せるんだろうと思いましたが、それもしっかり出しつつ、物凄くエイターテインメント性の強い完成度の高い映画に仕上げられていて、本当に見事だと思いました!感動させてくれる山場も随所にあったりして、僕は2度泣いてしまいました(照笑)。ただのハチャメチャなロック映画ではないですよね。ただ、実は自分の出演シーンが頭の方にあるって聞いていたので、前半はもう気が気ではありませんでしたよ…。

--以前から「DMC」の存在は知っていたんですか。

 2年くらい前、たぶんコミックの1巻が発売されたころだと思いますが、アルバム「NEW PRETTY」のリリース記念のサイン会のときに、ファンの人が「カジ君、出ていますよ」って、コミックを持ってきてくれたんです(笑)。あぁ、佐治秀紀くんのことを言っているんだなと、読んですぐ思いましたが、根岸君というキャラクターも、自分にも思い当たるふしがずいぶんあるなあって思いましたね。ストーリー中の話題として渋谷系が出てくるところも、興味深かったです。なんとなくですが、『69/96』の頃のコーネリアスを思い出しましたね。

--やはり自身の中に二面性はあると思いますか。

 自分は中学校や高校の頃は、もっとダークな音楽、パンクやゴシックが好きだったんです。ヘビーメタルが好きだった時期も少しだけあります(笑)。アルカトラスのライブにも行きましたね(笑)。でも、19歳くらいのときに、一気に方向転換して、ネオアコやギター・ポップに深くはまるようになったんです。根岸君とクラウザーさんの立場とは違うけど、何か根岸君に共感するものはありますね。

カジ ヒデキ--その頃聴いていた、ダークなものは、まだ自分の中に残っていますか。

 特にここ数年は再びゴスなムードが再炎していて、昔聴いたレコードを引っぱりだしたりしていますね。ポップ志向が強くなった時期には、あえてゴスからの影響を避けてもいましたが、時間の経過の中で様々なジャンルの音楽を吸収してみると、そういうものが自分の中で一番大切な部分にあることを改めて感じるし(笑)、特に「NEW PRETTY」というアルバムは、UKなサウンドのアルバムにしたいっていうコンセプトがあったので、ゴスな曲も入れてしまいました。

--カジ君がダークな音楽とはあまり想像できませんね。

 18、19歳くらいのときは、美しく化粧して黒く派手な衣装を着て、美意識に心酔したゴス・バンドをやっていたんですけど、きれいごとだけじゃすまされない現実的な部分が見えてくると、ものすごくそれが虚構っぽく感じはじめて、突然冷めてしまったんです。それで、以前から少し興味があったアズテック・カメラやスミスのようなUKのネオアコ、ギター・ポップのバンドにズボッとはまると、こっちは青空が一杯でね! 一気に方向転換していきました(笑)。でも、後々思えばゴス、パンク、ネオアコと言われたジャンルは、全部ニュー・ウェイヴというかパンクの流れなわけで、10代の頃は、ダークだとかポップと言うだけで、まったく違って思えたりするんですよね。

--ゴシックの要素をもった自分がポップ・アーティストとして出て行くことに、違和感はありませんでしたか。

 根岸君みたいに、やりたくないことを強要されていたわけではなかったので、それは全くないです(爆笑)。それに僕はポップ・アーティストになりたいと思っていたんだから!思えば19歳の頃、ゴシックやポジティブ・パンクをやっていた時はまだビジュアル系ブームの前だったし、「これでは絶対売れない」って思いましたね。そんなに大きな上昇志向があったわけではないけど、やっぱり大勢のお客さんにライブに来てほしいとは思っていたし、どんなジャンルでもポップな存在でありたかったんです。たぶんネオアコやギター・ポップにはまったのは、判りやすくポップだったからでしょうね。でも、当時のゴス友達が「ミニスカート」の僕を知った時は、ビックリしたでしょうね(笑)。

--当時のライブでのカジ君はかなりアクティブでパフォーマンス的にはパンクな感じでしたよね。

 今だから話せますけど、ファンに対して怒りをぶつけたこともありました(笑)。今思うと、非常に申し訳ないことをしたと反省しているのですが、それはかなりクラウザーさん的だったと思いますね(笑)。

--先ほど言われたように、ニュー・ウェイヴの中には、いろいろな音楽要素があったわけですけど、渋谷系も同じだったと思うんです。でも、「DMC」では、根岸君が思う「渋谷系=可愛くてポップ」という、かなり表面的なイメージで描かれていますよね。そして、それを象徴する曲「甘い恋人」をカジ君が書かれたと。

 「渋谷系=可愛くてポップ」という解釈はちょっと? だったりしますが、実際僕の歌詞もそう言う側面を持っているし(「あぁ僕のマスカット・エンジェル~」ですからね)、『LIFE』の頃の小沢君の歌い方もかなりいっちゃっていた気もします(笑)。王子様でしたからね!「可愛くてポップ」は渋谷系の要素としては小さいと思うんだけど、フォローアーにはそういう人が多いことを考えると、決して間違った解釈ではないんでしょうね(笑)。それで根岸君の「甘い恋人」は、スウェディッシュ・ポップや僕の「ミニスカート」の頃の曲を意識しながら書き始めましたが、原作の中では気持ち悪い呼ばわりをされるような曲でもありますよね。だからその解釈は悩みましたね。プロデューサーの北原さんと、かなり詰めて話をしました。そう、僕が原作の中で特に好きなシーンは、根岸君が、代官山のカフェで「甘い恋人」を歌うところで、「甘い、甘い、甘い」って歌うけど、全然受けなくて、「みんなも一緒に歌ってね」なんて言っていると「お遊戯事は外でやってくれる」とダメ出しされてしまう(笑)。あのフレーズはとても大事なので、特に悩みましたし、北原さんの絶妙なアドバイスなども頂いて完成した曲なんです。

--プロのライターとしてカジ君が書いた曲が、映画の中でダメ出しされるという、非常に微妙なシーンですよね。

 でもあくまでも根岸宗一君の曲ですからね(笑)。だから、僕的には全然気にならないんです。で、そのシーンは撮影も見に行かせていただいて。そうしたら、北原さんが「気を悪くしないでくださいね」って声を掛けて下さって (笑)。

「ノー・ミュージック、ノー・ドリーム」と言うテーマを核に持って来たところが、本当に素晴らしいと思いました

--これまでも数多く、楽曲提供されてきたと思いますが、今回のようなケースは、やはり難しかったのですか。

 歌詞が先にあるケースが、今まであまりなかったので、難しいと思っていたのですが、やってみたらこれが意外と歌詞先行のほうがいいかもなんて思うほど、向いていると思いました。もちろん、取っ掛かりはすんなりではなかったですし、「ミニスカート」の頃の曲を書こうと思いながらも、いざ書こうとすると案外難しくて(笑)。結果的には「ラ・ブーム」や「ささやかだけど、役にたつこと」、あとショコラさんに書いた「ブルーでハッピーがいい」辺りの、一番自分の好きなコード進行の曲を作ったという感じです。

--昔を思い出した感じですか。

 かなり(笑)。でも、根岸君はあくまでもアマチュアという設定だし、あまり気が利いたことはしちゃいけないなと思いながら書きました。そこがかなりポイントで、アマチュアっぽく、且つ全国公開の劇場映画の中の曲としての完成度も必要ではないかと。ただ、根岸君ってクラウザーさんになったときは、ものすごいギタリストなわけですよね(笑)。それにカーディガンズも好きなわけだし、メジャーセブンスとかナインスとか使うのもありだな、と。とにかく原作のそのシーンを何度も読み返し、根岸君に成りきって作曲しました。

--確かに、クラウザーさんの方が素の根岸君じゃないかって思えてくるときもありますよね。そして根岸君はカジ君なんではないかと思います(笑)。映画出演はいかがでしたか。

 映画に関わることになって、その現場を見させていただくだけでも感動的だったのに、出演までさせていただき、本当に貴重な経験をさせていただきました。特に演技をする必要はなかったので、ただただ、とても楽しかったです。目の前で松山君とローサさんの演技を見ることができたんですから! スタッフの方々もすごく気を使って下さってね。

--でも、あの設定だと、カジ君は学生ということですよね(笑)。

 そうなんですよね~(笑)。いったい幾つサバをよんでいるんでしょう(笑)?

--代表曲「ラ・ブーム」が使われるシーンがとても印象的ですが。

 完成直前に、「ラ・ブーム」が冒頭で使われますよって聞いていて、それだけに余計に試写で見たときは気が気じゃなかったですね(笑)。

--映画の影響で渋谷系やスウェディッシュ・ポップに脚光が当たることについては、いかがですか。

カジ ヒデキ きっとこの映画を見る10代や20代の人は、渋谷系なんて音楽のジャンルなんて知らないと思うので、そう言う意味では面白い機会だと思うし、これを機に渋谷系やスウェディシュ・ポップなどに興味をもってくれたらいいですね。当時そう呼ばれていた人たちの多くは、今もさらに面白い音楽を作っているし、今でもスウェーデンからは面白いバンドやアーティストが続々と現れています。今でも僕はそんなファンのひとりだし、時々DJをしていて、UKやスウェーデンの音楽などを回しているので、遊びに来てほしいです。僕が好きなものは、ポップ性の高い良い物ばかりなので、きっと気に入ってくれるはずです!

--渋谷系を知らない世代の人にこそ映画を見て、音楽を聴いてもらいたいですね。

 ちょうど今イギリスでは、20歳位やティーンの子たちがエイティーズにはまっていて、特に日本でネオアコと言われていたようなバンドを、オシャレなインディ・キッズが聴いていて、そこから面白いものが出てきています。日本でも同じようなことが起こってもおかしくないなって思いますね。

--レコーディングは実際にスウェーデンまで行かれたそうですね。

 「甘い恋人」はスウェーデンのタンバリン・スタジオでレコーディングしました。「サリー・マイ・ラブ」は、ある程度スウェーデンでやって、ミックスは日本でした。これは根岸君へのご褒美とでも言いますか(笑)。

--やはり、根岸君はカジ君みたいですね。根岸君が劇中で言っていた「ノー・ミュージック、ノー・ドリーム」に共感しますか。

 共感しますね! ライブの時にアンケートを配ると、よく「元気をもらいました!」みたいな言葉がお客さんから返って来て、やっぱりそういうのを見ると音楽って素晴らしいなぁと本当に思うんです。それに自分が誰かのライブに行っても、やっぱりそこで刺激をもらったり、夢や希望をもらったりする。もちろん映画や小説などからももらえると思うけど、音楽はよりダイレクトな感じがするんです。この映画は原作の中から「ノー・ミュージック、ノー・ドリーム」と言うテーマを核に持って来たところが、本当に素晴らしいと思いました。だからこそ感動出来るんです!そして例えば映画の中でも、渋谷系、デスメタル、ヒップホップ、パンク、いろんなジャンルが出てきて、実際今の世の中ジャンルの洪水ですよね。でも何か心に感じる曲は、どんなジャンルの物でもたくさんの人に、もしくはたとえ少人数でも壁を飛び越えて響く物だと思うんです。試写の時「SATSUGAI」を作ったVAMPSのK.A.Zさんにお会いしたんですけど、お互いジャンルが違っても、何か感じ合える物があれば共感しあえるし、何か出来るかもしれない!やっぱり「ノー・ミュージック、ノー・ドリーム」だなって(笑)。

--最後に、先ほど、映画を見て泣いたとおっしゃいましたが、それはどのシーンだったんですか。

 まだ映画をご覧になっていない方に、あんまり言っちゃうとつまらないと思うのでぼかしますが、相川さんが絡んだ中盤のシーンと、根岸くんのお母さんが絡んだ後半のシーンです。とにかく面白い映画なので、沢山の方に見ていただきたいです。母親は偉大です(笑)!

カジ ヒデキ プロフィール

カジ ヒデキ

カジ ヒデキ

97年1月のデビュー・アルバム“ミニ・スカート”より、昨年10月 “タウンズ・アンド・ストリーツ”まで、10枚のオリジナル・アルバムをリリース。また楽曲提供、プロデュースや継続的に多くのCMソングを手掛ける。この春、スペインのSIESTA RECORDSから“Hideki Spaghetti”名義で新作リリースや、7月からスタートするイベント“BLUE BOYS CLUB”の主宰、そしてこの夏公開の映画「デトロイト・メタル・シティ」への楽曲提供、出演など精力的に活動中。秋には映画「デトロイト・メタル・シティ」主題歌“甘い恋人”も収録した11枚目のオリジナル・アルバムも予定。


カジ ヒデキ’s PLAYLIST: 「僕の中の根岸くんとクラウザーさん」
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