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Feel the Music vol.113

「今」を感じる、自分を生きる。 - 一青窈

■インタビュー/文:河野アミ ■コーディング:Astrograph 掲載日:2009.11.4

 人と人とを繋ぐ深い共感にあふれた〈うた〉を歌っていきたいと願う一青窈が、〈新歌謡(進化窈)〉をテーマに掲げたシングル三部作から、早くも第二弾が到着! 10月にリリースされた「ユア メディスン~私があなたの薬になってあげる」に続くのは、〈幸せとは何か〉を問う、彼女の新たな代表曲となりそうな名曲「うんと幸せ」だ。誰もが生涯に幾度となくぶち当たる〈幸せとは何か〉という問い。その答を、彼女は「生きること」と言う。幸せとは辿り着くものでも叶えるものでもなく、様々な感情にふちどられた〈今〉の大切さに気づきながら生きていく、その日々こそが〈幸せ〉なのだと──。自ら〈進化〉を宣言するなどアーティストとしての節目を迎えた彼女が、心の淵にまで降りたって綴ったこの〈うた〉を、ぜひ心の奥深くで響かせてみてほしい。

--シングル三部作のテーマは〈新歌謡(進化窈)〉ですよね。これまでにも「江戸ポルカ」や「茶番劇」をはじめ歌謡曲への愛着を見せてきた一青さんが、いま改めて〈歌謡〉をテーマに掲げたのは、なぜですか?

 私にとってはやっぱり阿久悠先生が亡くなったことが大きくて、「歌謡曲の在り方って何だったんだろう?」というものを改めて考えたんですね。というのも、友だちとバーに飲みに行った時なんかに、まわりの人が歌うのって、最近のJ-POPではなくだいたい昔の歌謡曲なんですよ。

--たしかに昔のヒット歌謡には息が長いものが多いですよね。20代の人も百恵ちゃんを歌えたり。

 そうそう。昔の歌謡曲って、エロティシズムや退廃的なものも含め、人間のいろんな感情がもっと許されている世界だったと思うんですね。人間の瑣末な感情に降りていくというか。

--今のJ-POPよりも自由で、猥雑なものも多かったですね。そこに大人は共感し、子供はドキドキするという。

 そしてサウンド的にもジャズ風味の歌謡だとかラテンっぽいものだとか、いろんなものが混ざり合っていて、結果的に、おじいちゃんも子供も口ずさめるものが多かった。歌っていうのは、そうやって人間のいろんな感情に触れながら聴く人を繋いでいくことが大切なんじゃないかと、改めて思ったんです。

--それが一青さんのやりたい音楽の形だなと。

 そうですね。私が純粋にかっこいいと憧れる世界が、歌謡曲というものに詰まっているなって。なので〈新歌謡〉というテーマには、この先も関わり続けていくだろうと思います。

一青窈

--では〈進化窈〉という言葉に込めた思いは、どんなものだったんですか?

 これまで私が書いてきたものは、亡き人…父と母への思いが色濃かったんですけど、その思いに踏ん切りをつけよう、今回で最後の手紙にしようというのを、きちんと表明したかったんです。それは、横尾忠則さんや寺山修司さんがやっていた活動に感化されたってところもあって……。

--横尾さんの「画家宣言」や「デザイン廃業宣言」などですね。

 そうです。もちろん作品で(宣言を)わかってもらうのでもいいんですけど、まずは公に(進化と)言ってしまうことで、後戻りできない自分を作るというのも大事だなあと思って。

--それを最初に大々的に実行したのが、8月中旬の新聞広告でしたよね。〈さようなら、一青窈〉というコピーは、ものすごいインパクトでした。

 あれは今までの自分を否定するものでも、「もらい泣き」や「ハナミズキ」をいいと言ってくれる人に別れを告げるものでもなく、前に進みます、という意志表明だったんですよね。

--自分への宣言。

 まったくそうです。

--その意志を作品としてハッキリと表現したのが、歌詞が新聞広告にもちりばめられていた今回のシングル「うんと幸せ」なんですね。たしか、今年6月に行われた武部聡志さん&小林武史さんとのアコースティック・ツアーの時が初披露で、曲はお二人の合作でしたよね?

 そうです。このライヴでしか聴けないスペシャルな曲があると嬉しいなあ~と2人に相談して、まずは武部さんが1ブロック、続いて小林さんが1ブロック…という感じで作っていただいたんですけど、あっという間にできあがってました(笑)。

--バレエ音楽の「ボレロ」をサウンド・モチーフにしたのは?

 「ボレロにしよう」というのは、わりと最初から3人とも言ってましたね。ライヴの最高潮のところで演りたかったので、胸が高鳴るような、あの〈タンタカタタン、タンタカタタン…〉っていう感じがいいよねって。

--あのリズムの高揚感は独特ですよね。で、ライヴで聴いた時はもちろん、なにより心を揺さぶられるのが、〈幸せとは何か〉を問う一青さんの詞なんです。どんなふうに生まれたんですか?

 実は、詞はしばらく書けなかったんです。書ける精神状態じゃなかったというか。

--ライヴのMCで、鬱っぽい時期があったと言ってましたね。

 そうですね。周りに期待されているものをたたき出せない、でも妥協するのもつらいっていうのはアーティストみなさんが抱えてるものだと思うんですけど、「もらい泣き」や「ハナミズキ」に続くものをと考えた時に、プレッシャーもあって、何を書いていいのかわからなくなったんです。ちょうどその頃に知人の娘さんが自ら命を絶ってしまったりもして、本当にいろんなことを考えてしまって。負のスパイラルにはまったというか。で、気持ちが低いところに行くほど、幸せって何だろう? 私は幸せじゃないんだろうか? みたいなことも考えてしまったんです。

--そうだったんですか…。

 でも、できるだけ人とコミュニケーションをとるようにしたり、とりあえず「幸せだな」と感じるものを、何でもいいからあれこれ並べたりしていったんですね。そのうちに、ああ、たぶんどんな人も幸せなんだな…と思えてきて。そして、人は幸せになるために生きるんじゃなく、幸せを見つけていくことが生きることなのかも、って思ったんですよね。

--歌の最後の部分、〈同じ土に還るまでのすべて それを幸せという〉のところですね。

 そうです。もう、どん底のなかで見つけた詞ですね。

--「幸せとは何か?の答を見つけた!」という喜びのなかで生まれたものではなく。

 いやいや、もう1人の自分に「立ち上がれ! 扉を開けろ!」と言われながら…でしたね。書き上がっても、武部さんと小林さんに「これでいいのでしょうか?」って訊ねたくらい不安でしたから(苦笑)。でも歌入れをした時に、いい曲だなあと思えて、ライヴで歌った時に「ああ、伝わるものができた」って実感できたんですよね。

--たぶん、葛藤も曲にちゃんと刻まれているからこそ…なんでしょうね。「これが幸せというものなんだと、私は信じて生きていく」という一青さんの必死さが伝わってくるから、グッとくるんだと思います。

 ああ…そうだといいです。私にとっては聴いてくれた人が心を動かしてくれることが重要だし、音楽が手に入れやすくなった今の時代だからこそ、ちゃんといいものを作っていかないと、とも思うんですよ。だから最近は「自分は何に心を動かしているんだろう?」っていうのも今まで以上に考えるようになって、「こんな自分はイヤだな」とか「私ってずるいな」っていうのも結構多いんですけど(苦笑)、そういう感情からも目を背けないでいようと思うんですよね。

--その「キレイごとだけじゃない感じ」は、C/Wに収められた「ウラ・ハラ」のほうに強く出てますね。曲調は一青さんがお好きなディスコ歌謡で。

 好きですね~(笑)。マイナーなんだけれども、ちょっと踊れるテンポで雄叫んでる感じが。別にダンスをうまく踊るとかではなく、踊ることで友だちと一緒に笑うっていうのが好きなんですよね。

--それから前シングルに引き続き、今回も初回盤にラジオ・ドラマ風のポエトリー・リーディング「prologue2」が入りましたね。そこで見聞きするものは仮想現実のようでありながら、主人公が感じている感情だけは妙に生々しいという、不思議な世界。

 「prologue」(のシリーズ)は私が思う〈新歌謡〉の世界…つまり、いろんな人の感情がごちゃっと集まった架空の世界を描いてるんですけど、実はそれこそが、自分たちが実際に生きている世界だと思うんです。今はメールやネット越しで感情も見えづらくなっているけれど、自分のなかにはもっといろんな感情があるわけだし、ないがしろにしないで、ちゃんと見てあげようよって。

--感情をまさぐることでしか気づけないことって、たくさんありますもんね。それこそ〈幸せとは〉の答は、ネットの上にはないわけだし。

 だから、私も以前は想い出を切り取って書くことが多かったんですけど、今は「自分は今、何を感じているのか」をすごく大切にしたいと思っていて。

--そのリアルな感情が曲となり、聴き手を共感という糸で繋いでいく──。これぞ一青さんが目指す新歌謡、ですよね?

 そうですね。もっといろんな感情に触れたいし、たった今の感情に正直でいたい。そして、そういう歌を歌っていきたいですね。最近はブログなどで、そのアーティストが毎日どんなふうに生活しているのかまで容易にわかるけれども、音を聴いた時に、その人のことを知らなくても「いいね」と言ってくれるもの……そういうものを作っていきたいと思ってます。