MUSICSHELFトップ>特集・連載>中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン) インタビュー

特集 中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン) 日々の想いを歌に紡いで—— 中川敬、初のソロ・アルバム

■インタビュー/文:村尾泰郎 ■製作:Astrograph 掲載日:2011.8.23

ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が、初めてのソロ・アルバム『街頭筋の着地しないブルース』をリリースした。カヴァーを中心に新曲も交えつつ、その時々に歌いたい歌をレコーディングする。いってみれば、日記のようなアルバムを作っている時に起こったのが東北大震災だった。日本が混乱に陥るなかで、中川は被災地に物資を届けながら、レコーディングを続行して完成にこぎつける。この半年間に感じた中川の想いが詰まった本作は、「歌」という宿命を背負った男のドキュメントだ。

--初めてのソロ・アルバムになりますが、制作のきっかけは?

 俺は実際のところ、ニューエスト・モデルとか、メスカリン・ドライヴとか、ソウル・フラワー・ユニオンとか、いわゆるバンドっていう形態でしか音楽をやってきてなくて。そういう自分の新たなアウトプットに対する好奇心もあってんね。なおかつ、自分の住んでる街にあるプライベート・スタジオで普段、作業をしてんねんけど、背伸びせずにそこにある楽器だけを使って、竿(ギター)だけで一人でやってみたいっていう好奇心も数年前からあって。それで、ソウル・フラワー・ユニオンの最新作『キャンプ・パンゲア』のレコーディングが終わった時、普段やったら一ヶ月くらい休むんやけど、そのまま休まずソロ・アルバムのレコーディングになだれ込んでみたんよね。それが去年の11月くらいかな。

--とくにアルバムの方向性とかは決めずに?

 なかった。カヴァーであろうと、セルフ・カヴァーであろうと、新曲であろうと、その日の気分で録っていこうと。それで、11月、最初に録ったのがチューリップの<しっぽの丸い小犬>のカヴァー。

--その曲を選んだ理由は?

 小学生の頃、もともと百恵ちゃんが大好きな歌謡曲少年で、いわゆるフォーク・ロック的なものに入るきっかけがチューリップやってんね。その後、ビートルズの赤盤、青盤に出会ってロック方面に足を踏み入れるんやけど。

--つまり、自分のルーツからレコーディングをスタートしたわけですね。

 まあ、そんな感じ。このアルバムはいわゆる弾き語りじゃなくて、けっこう構築して作られたアコースティック・アルバムやねんけど、だいたい1曲を数日で終わらせていく。ある程度ベーシックな録音が終わったら、「さあ、次は何を録ろうかな?」って感じで進めてた。そうすることで、日常の気分みたいなものをアルバムに落とし込もうと思ってね。ソウル・フラワー・ユニオンとかニューエスト・モデルとの違いを出せるとしたら、まさにそこやと思ってね。バンドでやる時みたいに、最初に「この十数曲を録ります」ってリハーサルをやるのとはまったく逆で、とにかく思いつきで録っていく。そうすることで、例えば制作期間が半年であれば、その半年の中川敬の気分が落とし込まれるものが、できあがるんじゃないかと思って。

--そのさなかに東北大震災がおこるわけですね。

 そう。まさに"着地しないブルース"を抱えることになってしまったわけやね。このタイトルは実は、震災前からあったタイトルやねんけど。

--震災前にレコーディングされてたんですか?

 11月頃から、言葉だけは先にあって。このタイトルで曲を書くかもしれんし、アルバム・タイトルになるかもしれんな、みたいな感じ。で、2月にたまたま"街道筋の着地しないブルース"って言葉がはまるメロディーができたから、それを曲にしてレコーディングして。そんなこんなで10曲ぐらいのベーシックが上がった頃に地震がきた。

--震災が起こった事で、レコーディングを続けるべきかどうか悩まれました?

 いやいや、続けるのは続けるよね、アルバムは絶対6月に出すつもりで作業をやってたし。でもやっぱり、3月11日から3月31日まではまったく作業してなかったな。物理的にも出来なくなったし。とりあえず4月頭からまた続きをやろうって感じやったね。毎日毎日、被災地と連絡取り合って、ソウル・フラワー震災基金を立ち上げて。それに『闇鍋音楽祭』の五本のライヴもあったしね。でも、とにかく原発の刻一刻を争うような状況の変化が気になってしょうがないようなところもあって、毎日、電話とネットばっかりやったな。

--それで震災後に初めて録ったのが、アルタンのカヴァー<風来恋歌>ですね。

 3.11が起こる前に、原曲に忠実な日本語詞を考えて、コード進行も決めてた。で、4月に入って、まずこの曲から着手しようかなって感じで歌詞を見直して、…実のところ、だいぶ書き換えたね。その頃はまだ被災地には入ってなかったけど、被災地に入ってるボランティアの連中と毎日電話で話してて、現地の凄惨な状況がずっと頭の中にあって…。そんななかで、自分の脳裡に浮かんでくる被災地の光景みたいなものが、だんだん歌詞のなかに落とし込まれていくような感じの変化があったね。それでこの曲は、普遍的な人間の邂逅と別離を歌うテーマに移っていった。

--阪神大震災の時に作られた<満月の夕>のセルフ・カヴァーが収録されていますが、これは東北大震災に関連してのことなんですか?

 いや、これは1月に録ってて。阪神淡路大震災から16年目の1月。

--そうなんですか。でも、震災直後にYouTubeでミックス前の音源をアップされていましたね。

 あれは3月14日やったね。ツィッターのタイムラインに、<満月の夕>のURLを貼られたものがまわってきて、何が貼られているんやろ、と思って入ってみたら、15年前くらいにオレらがTVに出演してこの曲をやった時の映像で、そこに既に、今回被災した人のコメントが載っててね。岩手の人やったけど、「これを聴いて泣くことができました。ありがとう」とかね。オレはその頃、今の段階では自分には何もできないな、音楽が必要になるのは、もっと後やろなって思ってて。でも、そういうコメントを見て、制作途中やったけど、聴きたい人がいるのであればと思い、アップした。被災地はネット環境も悲惨やったし、どの程度、被災した人がこれを聴いたかわからんけど。

--その後、被災地に支援に行かれるわけですが、新作に収録されている<日高見>は、被災地から帰ってくる時に生まれた曲だとか。

 4月に初めて被災地に物資を持って行った帰りやね。石巻の保育園から画用紙が沢山欲しいっていう話があったから、大阪で画用紙をいっぱい買って車に乗せて持って行ったんよ。きっと(支援活動は)長期戦になるやろから、まずは現地に入っている仲間を訪ねて人脈を作ったり、被災地で起こっていることを自分の心のなかに落とし込もうと思ってね。その帰り、一緒に行った仲間と東京で別れて、関西までひとりで車に乗って帰って。被災地で見たことの衝撃で、混濁した気分のまま車を走らせてたんやけど、頭のなかでずっとこのメロディーが鳴ってたから、「帰ったらこれをインストとして録ろう」と。

--インストといえば、アルバムの最後に<男はつらいよのテーマ>がインストでカヴァーされていますね。

 うちの4歳のチビが『男はつらいよ』が好きで(笑)。たまたま震災前に、1作目から15作目までを続けて観てて、この曲、カヴァーしよかな、と思っててんけど、歌詞がアルバムの雰囲気に合わへんから却下してて。でも、4月になってインストがもう少しほしいな、と思った時に、『男はつらいよ』に映り込んでる東北の風景と、被災地の仲間と電話でやりとりしている時にオレの脳裡に浮かんでくる東北の風景がリンクしてんね。東北で農業や漁業をやっている人々の、貧しいながらも人間の尊厳を感じさせる笑顔。そこに失恋の痛みをすっかり忘れて笑っている寅がいる風景。その頃には「そろそろ、俺は避難所に歌いに行くんやろな」と思い始めてたし、「避難所のおじいちゃん、おばあちゃんも『男はつらいよ』好きなんやろなあ。俺、きっと歌うんやろな」って。そういうわけで、あまり深く考えずにカヴァーした。

--実際に被災地で歌ったんですか?

 そう。歌ありヴァージョンでね。やっぱり盛り上がったよ、この曲。

--そうやって、日々の気持ちを落とし込んだアルバムが完成したわけですが、完成したアルバムを聴かれてみていかがでした?

 正直、ここまで客観性がないアルバムは初めてやね。ニューエスト・モデルにしてもソウル・フラワー・ユニオンにしても、人と一緒に作ってるから、製作期間中、そこには会話がある。他者の意見とかが、知らないうちに自分のなかに入ってきてるから。でも、今回はひたすら1人で作ってたから客観性がないんよね。だから、アルバムを聴いてくれたみんなが気に入ってくれてて、ちょっとホッとしてるよ(笑)。

--ファンとしては続編も楽しみですね。

 そうやね、続けたいね、このシリーズ。このアルバムを作るのに、カヴァーやセルフ・カヴァーの候補曲を100曲くらいリストアップしたんやけど、ガキの頃に影響を受けた曲とか、もっとカヴァーしてみたいし。

ソウル・フラワー・ユニオン

--そういえば、9月にはソウル・フラワー・ユニオンのキューン時代のアルバムが、WEB限定で『SOUL FLOWER BOX 1993-1999』として紙ジャケでボックス化されるそうですね。久し振りにまとめて聴かれてみていかがでした?

 いや、なかなかすごいバンドやと思ったね(笑)。リマスターでまた一歩前進してるし、あとDisc-6は貴重。トリビュート・アルバムに参加した曲とか、課外活動的なレア音源をまとめた盤で、これらの音源は普通に集めるのも大変やと思うから。

--各アルバムにボートラもついてて、ヴォリュームたっぷりの6枚組ですね。

 ビートルズやストーンズに並ぶというか、日本のロック史において、相当重要なボックスちゃうかな(笑)。いや、これは真顔で断言させてもらうわ。