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特集:エンターテイナーと音楽

松下奈緒 ピアノが紡ぐ、女優の素顔

■インタビュー/文:村尾泰郎 ■コーディング:Astrograph 掲載日:2009.1.30

女優、そして、ミュージシャンという二つの顔を持つ松下奈緒。3歳からピアノをはじめて音楽大学を卒業した彼女にとって、音楽は女優以上に自分を表現するうえで欠かせないものなのかもしれない。そんな彼女が3作目となる新作を完成させた。『pf』=〈ピアノフォルテ〉というタイトル通り、ピアノという楽器にフォーカスした本作は、全曲が彼女のオリジナル。曲ごとに様々なスタイルを披露してくれる。「ピアノと自分との関係について突き詰めて考えた」という本作は、彼女のミュージシャンとしてのネクスト・ステージを告げる極めつけの一枚だ。

--今回のアルバムは全曲オリジナルですね。女優業が忙しいなかで、曲作りは大変ではなかったですか?

松下奈緒 これまで2枚のアルバムを作ってきたんですが、どんどん良いものになって欲しいと思ってて。だから前作は歌に挑戦したんですが、今度は絶対それとは違うことをやらなきゃいけない、という思いが自分の中にあったんです。じゃあ、一番苦労して大変なことをするのが今の自分にはいいのかなと。いろんな人に曲を書いてもらったりしているなかでヒントもたくさんもらったし、それを活かすためにも今回は全部オリジナルでいこうと決めてました。

--あえて自分に試練を課すみたいな。

そうですね。オリジナルで、さらにクオリティーが高いものを目指したいと思っていたので、作ってはボツにして作ってはボツにして。なかなか最後の終止線が引けなかったというか、書きながら作っていくということが多かったですね。

--曲ごとにいろんなスタイルに挑戦されてますよね。

どこかが似てたり、雰囲気が被るものは絶対入れたくなかったんです。収録曲の1つ1つがちゃんと性格を持ってて、アルバムに入れる意味があるものにしたかった。だから雰囲気が違うものや、同じ楽器の編成でも、違うスタイルの曲をたくさん集めたかったんです。

松下奈緒--例えば、7曲目「Ceu Azul」はボサノヴァですね。

ボサノヴァを書きたいっていう気持ちは、アルバムを作る前から漠然とあったんです。でも、どうやって進めていったらいいのかまったくわからなくて。最初にあらゆるボサノヴァを聴いてみて、そのなかで好きな人を決めて、それを真似しながらだんだん自分のものにしていきました。そんなふうに、今までかじったことがないジャンルに初めて触れることが多かったですね。

--ボサノヴァのほかにも、タンゴやケルトっぽい曲もあって、ワールド・ミュージック的な要素も感じさせますね。

旋律がケルトっぽかったり、楽器が(クラシックとは)違ってたり。そういうちょっとしたエッセンスが欲しいな、というのがあったんです。これまでいろんな音楽を聴いてきたなかで、自分の身体に染みついたものが出せればいいなと。だから、ノンジャンルなアルバムになったと思います。

--SONY「VAIO」のCMタイアップ曲「f」では、初めて多重録音に挑戦されたとか。

音を重ねて膨らませていくことで、すごい広がった感じが出たり、硬い感じの音になったり。思いがけないものが出来てくるので、いろんな発見がありましたね。やりだすとハマってしまって(笑)。

--逆に「Memories」は即興で作られたそうですね。

アルバムの曲が出揃った時、全体を通して聴いてみると、ギュッと凝縮され過ぎてる気がしたんです。箸休めになる曲がほしいな、と思ったので、「じゃあ、なんかやってみようか」とか言って現場で作った曲です。可愛くなるようにグロッケンシュピールを使ったりしているんですけど、これまでグロッケンで録音したことがないので、全然ピアノとのタイミングが合ってないんですよ(笑)。でも、息抜きとして録ったので、ユルいほうがいいかと思って。

松下奈緒

--作曲面ではどんなところにこだわりましたか?

ちょうど20年ぐらいピアノをやってきたんですが、ピアノとちゃんと向き合って、(ピアノとの関係を)突き詰めたことってないことに気付いたんです。だから、ピアノという楽器で表現するなかで、まわりの楽器とピアノをどのように組み合わせていったらいいのか、ということを考えながら曲を作っていくように心掛けましたね。

--3歳の頃からピアノを弾かれてるんですよね。

もともとうちの母親がやってたのもあって、ずっと家にピアノがあったんです。で、最初は無理矢理習わされて、全然自分の意志ではなかったんですよ。その頃、私はバレエがやりたかったんです。でも音楽はすごく好きで。そもそも両親が音楽好きだったこともあって、ちっちゃい頃からいろんな音楽が家のなかで鳴ってたんですよ。アース・ウィンド&ファイアとかYMOとか、洋楽邦楽問わず、いろんな音楽が流れてました。私はそれを聴いて、歌ったり踊ったりという子供だったので、自然とピアノによじ上って弾いてました。

--20年間ピアノを弾いてきて、ピアノとの向き合い方も変わってきました?

そうですね。昔はピアノを見るのもヤダなと思ってた時もありました(笑)。好きなことなんだけど、あんまり目標が見えないなかでやっていたというのもあって。でも今は「誰のためにやってるの?」となった時に、自分のためというのもあるけど、それを聴いてくれる人がいる、というのが大きいですね。誰かに伝えるために弾いたり作ったりする。もちろん、それが伝わる伝わらないは別にしても、そういう気持ちでやっているということがまず違いますね。

--ちなみに女優業でちょっと悩んだりしたときに、ピアノを弾くと気持ちが落ち着いたりすることってあるんですか?

それはまったくないです。それがあったら、逆にもう音楽のほうへ行っちゃうんじゃないかなと思うんですよね。音楽は音楽で、やっているうちに自分を追い込んでいってしまうんので。

松下奈緒--その状況で女優とミュージシャンを両立させるのは大変ですね。

2倍、追い込まれますからね(笑)。でも多分、追い込まれるのが好きなんですよ。そこでもがいているというか、解決できなくてもそこで自分なりに試行錯誤するということが。そんななかで、2つやっているからこそ考えることもあるし、気付くこともある。そういう意味では、自分のなかでバランスはとれていると思います。

--新作のツアーが4月にあるそうですが、ライヴには慣れました?

いや~、やっぱり緊張しますよ。でもライヴの最初と最後で、自分の気持ちが変わっていくのがわかって面白いですね。最初はすごいアウェイな感じがするんですよ。すっごい緊張するし、考えてきたことが、ちゃんと出せるのかっていう不安があるから。それが演奏しているうちに、「聴けー!」っていうぐらいの勢いに変わっていくんです。また、それに対してお客さんが反応してくれるのも面白いんですよね。

--ピアノを弾く時の集中の仕方というのは、やはり役を演じている時とは違うものなんですか?

そうですね。ピアノを弾いてる時って演じてないですから、ほんと素のまんまで舞台に立ってる。だから、ある意味怖いんですよね。セリフがあるわけじゃないし、枠柄があるわけじゃないし、なにもカモフラージュするものがない。松下奈緒として立っているので、そういう意味では嘘がつけないですよね。

--最後にミュージシャンとして、今後やってみたいことは何かありますか?

ちゃんとピアノのことを考えだしたのはこのアルバムからなので、まずはしっかりとライヴができるようになりたいですね。やっぱり演奏している姿を生で見てもらえるというのは、ライヴでしか成り立たないことだし、ライヴを通じてピアノと私をセットで見てもらいたいと思います。